サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「とにかく、ババルウ星人がなった可能性がある奴を探らないとな」
俺はノートに記したクラスメートの名簿を指先でトントンと叩きながら隣のあんなに問いかけた。教室の空気は重く濁っている。窓の外から差し込む午後の光だけが、この場に漂う陰鬱な空気を無理やり照らし出していた。
「田中くんは……うん、普通かな。胸がギュッとはならない」
あんなは少しだけ首を傾げ、目を閉じて「何か」を探るように数秒間沈黙した。彼女の眉が微かに動く。直感という名の見えない触覚が、クラスメート一人ひとりの輪郭を撫で回しているように見えた。
「なら除外だ。次! 鈴木は?」
「鈴木さんも普通」
「佐藤は? 高橋は? 伊藤は?」
「ちょっと待って! スマホのアプリみたいにポンポン押さないで! 私の直感が追いつかないよ!」
あんなが両手で自分の頭を抱え、机の上に突っ伏すようにして抗議した。その拍子に彼女のピンク色の髪がふわりと跳ね教室の硬い空気がほんの一瞬だけ柔らかくなった。
俺たちは教室の隅でまるで禁じられた遊びの計画を練る子供のように、クラスメートの名前をリストアップしあんなの「嫌な感じ」判定器でフィルタリングを続けていた。俺は王として嫌疑のかかる家臣たちを粛々と査察しているだけのつもりだ。だがあんなにとっては、この作業は「同級生を宇宙人扱いする」ことに他ならず、そのたびに彼女の良心が小さく痛んでいるのが横顔から伝わってきた。
「悪かった。だが急ぐんだ。奴はいつまた奇妙な事件を起こすか分からない」
「分かってるけど……はぁ、脳みそがサーバーダウンしそう」
あんなが大きく息を吐き、机に突っ伏した。彼女の背中が上下する。まるで呼吸そのものがこの教室の淀んだ空気に抗っているかのようだった。
だが捜査は順調だ。俺に近づいてくる人間、事件現場に居合わせた人間その両方をリストアップし、あんなの「嫌な感じ」判定器でフィルタリングしていく。結果候補はぐるりと一回り減った。残るは数名。
「よし、残ったのは山田と渡辺と……このクラスの委員長、小林だ」
俺はノートの名前を指差した。黒いインクで書かれた三つの名前が、夕暮れの光の中で浮かび上がる。
「山田くんは……微妙。渡辺くんも……うーん、なんか嫌な感じもするけど宇宙人って感じじゃないかな」
「じゃあ小林か」
「小林さんは……」
あんなが小林の方をチラリと見た。委員長は休み時間中も真面目にプリントを整理している。背筋が伸び表情は穏やかだ。まるで「優等生」の見本のような振る舞いだ。教室の中心で、彼女だけが時間の流れから切り離されたかのように静かに佇んでいる。
「小林さんは……分からない」
「は? 分からないとはどういうことだ」
「直感が霞むの。普通の人みたいだけど、奥の方に何かがいるような……でも捕まえられないような……」
あんなが自分の胸を押さえ、困惑した表情で呟いた。彼女の指先が微かに震えている。直感という名の網が小林という存在を捕まえようとして、しかし何かが網の目をすり抜けていく。そのもどかしさが彼女の声の端々から滲み出ていた。
『ババルウは擬態のプロだ』
ブレスレットからゼロの声が響いた。その声は教室の空気を微細に震わせ、俺の鼓膜ではなく魂に直接語りかけてくる。
『奴らは何千年も他の星の住人に化けて生きてきた。完全に擬態している時は、どんな感応能力でも見抜くのは難しい。お前の直感が霞むのは奴が「完全に」人間になりきっているからだ』
「完璧な偽物ってことか。厄介な野郎だ」
『そうだ。簡単に見破れるなら俺らも苦労しねぇよ。綻びが出るのは、奴が焦った時か感情が高ぶった時だ』
俺は腕を組んだ。
論理と直感の双方で行き詰まった。だが王はここで引き下がる男じゃない。
「なら手段は一つだ」
「え? どうするの?」
「直接ぶつかって剥がす」
「は?」
「奴の擬態が綻びるのは感情が高ぶった時だろ? なら煽ってやる。あるいは驚かしてやる。恐怖でも怒りでもなんでもいい。一瞬でも本性を漏れさせれば、あんな、お前の直感が反応するはずだ」
「ちょっと待って。それってまるで……」
「そうだ。洗って確認する」
「洗って……?」
「嫌な粘液が出ているなら洗って落とす。あるいは剥いで確認する。服に染み込んでるなら服を剥ぐ。要するに裸にして確認すれば全て解決だ」
俺は真顔で言った。論理的完璧さだ。証拠は隠せない場所にある。なら隠せない状態にすればいい。
「通報しますよ!?」
あんなが顔を真っ赤にして叫んだ。彼女の声が教室の隅に響き、数人のクラスメートがこちらを振り向く。俺は素知らぬ顔でノートを閉じた。
「なんでだ! これは捜査だぞ! 正義のために羞恥心を犠牲にするのは王の務めだ!」
「王ってそういう務めなの!? 警察に行くよ!」
「待て待て。比喩だ比喩。服を剥ぐのは最終手段だ。まずは精神的に追い詰めて、自ら皮を被っている服を脱がせる」
「それまだ問題あるから!」
あんなが俺の腕をガシッと掴んだ。力が強い。彼女の指が俺の二の腕に食い込み、その熱が服越しに伝わってくる。
「いい? もっとマシな方法があるはずでしょ? 例えば……壁際に追い詰めて『君の秘密は全部知ってるよ』って囁くとか!」
「それ犯罪予備だろ。むしろお前の方が通報されるぞ」
「うっ……!」
あんなが言葉に詰まる。俺たちの捜査方法は、どちらに転んでも社会の倫理観と衝突するようだ。
『まあやることは同じだ』
ゼロが割って入った。
『奴に近づき綻びを探す。方法が強引だろうが慎重だろうが、結果的に奴の皮を剥ぐことには変わりねぇ。ただ相棒嬢ちゃんがビビらない程度にやれよ』
「……分かった。王として配慮はしよう」
俺はため息をついた。裸にできないなら、精巧な皮を剥がすしかない。
「あんな、お前は俺が奴と接触した時その反応を見てくれ。直感が反応したら、それが合図だ」
「うん……それなら分かる。でもあまり無茶しないでね?」
「王が無茶をしないでどうする」
「するんかい!」
あんながツッコミを入れる。だがその表情は、もう笑っていた。捜査方針は決まった。直接接触。皮を剥がすための王の突撃だ。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王