サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
アーマード・ダークネスを纏った偽ゼロが、重い足音と共に迫ってくる。
ズシン。ズシン。
一歩ごとに地面が陥没し、アスファルトが蜘蛛の巣状にひび割れていく。まるで歩く災害だ。歩く天災だ。そして俺はといえば、カラータイマーが点滅し始めた身体で立っているのがやっとという有り様。
(まずい。まずいまずいまずい)
思考がネガティブなループを始めている。いかん。こういう時は切り替えるのだ。
「…相棒、一つ試したいことがある」
俺はウルトライズアイを構えた。
『なんだ? 何か策でもあるのか?』
「策も何も、俺たちの切り札だ。コンボ技を使うぞ!」
ウルトライズアイのトリガーを操作し、コスモレコードウォールをスキャンする。
指先が震えた。いや、震えている場合じゃない。俺は左腕のブレスレットに記録されたコスモレコードを読み取る。レオの師匠と、その弟。二枚のコードを連続でスキャンした。
『レオ!テオ!ウルトライズ!』
システムボイスが夜空に響き渡った。
直後――空から二つの光が降ってきた。
赤い玉だ。
丸くて、鈍く光る、拳大ほどの赤い玉が二つ。流星のように屋上の空を切り裂いて落ちてきた。一つは俺の右肩に、もう一つは左肩に止まる。
(なんだこれは。こういう演出だったのか)
赤い玉が、パァンと音を立てて弾けた。
中から現れたのは――二体の巨人。
右手に、赤い獅子。
ウルトラマンレオ。俺の師匠だ。赤を基調とした引き締まったボディ。額には獅子の鬣を思わせる鋭い角。全身から滲み出る闘気だけで、空気が震えている。レオは無言で俺の隣に降り立った。地に足をついた瞬間、屋上が揺れた。
左手に、青い流星。
ウルトラマンテオ。青を基調としたボディ。レオよりすらりとした体つき。胸部のカラータイマーが――独特だ。Y字ともV字とも付かない形状で、よく見ると発光部の中に流れ星のような模様が刻まれている。夜空を切り裂く一筋の光のような、儚くも力強い意匠。
「師匠…!」
レオが俺を見た。言葉はない。だがその目は「遅ぇぞ」と言っていた。「もっと早く俺を呼べ」とも言っていた。あの目だ。修行時代に何度も見た、あの怖い目だ。
(いや、今は怖いどころじゃない。頼もしい)
テオはレオの背後に控えるように立っていた。静かな存在感だ。レオの弟というが、兄と比べて大人しい。だが、その身に纏う力は確かに兄に匹敵する。
「よし、行くぞ。お前らの力を俺に貸せ!」
俺は暗黒の騎士に向き直った。
「…増援か。だが所詮はコピーの力が呼び出した幻影に過ぎない」
偽ゼロがアーマード・ダークネスの兜の奥から嗤った。黒い鎧に覆われた体が、ゆっくりと構えを取る。
「幻影だと? テメェの同じにするな」
俺はレオとテオを左右に従え、一歩踏み出した。
「違うのはこっちは本物ってことだ!」
俺は地を蹴った。同時にレオも蹴る。テオはその後ろに控えたまま動かない。まだだ。まだテオの出番ではない。
俺とレオが同時に踏み込む。
左右から同時に。俺が右、レオが左。アーマード・ダークネスの正面を挟み撃ちにする形だ。
「レオキック!」
レオが叫んだ。
師匠の代名詞とも言える回し蹴り。赤い脚が暗闇を切り裂き、鎧の左肩を砕く。
ドガッ!!
硬い。だが、レオの蹴りは硬いだけの相手を砕くためにある。鎧の表面に蜘蛛の巣状のひびが入った。俺はその隙を見逃さない。右肩のひびに狙いを定め、ゼロスラッガーを念力で飛ばす。
ギインッ!!
スラッガーが鎧の継ぎ目に食い込む。浅い。だが確かに裂け目が入っている。俺はさらに間合いを詰め、右拳を突き出した。
「うおおぉぉっ!」
拳が鎧の胸当てに叩きつけられる。ドォン!重い衝撃。だが、前よりは手応えがあった。ひびが広がっている。レオの蹴りで入った亀裂が、俺の拳でさらに伸びていく。
「やれる! この鎧にも脆い部分がある!」
俺は興奮して叫んだ。レオが無言で追撃を入れる。レオパンチ。右の拳が鎧の腹部を叩く。更にレオチョップ。手刀が兜のひびに入り込み、鎧をこじ開ける。
ガキィッ!!
鎧の肩当てが割れて落ちた。黒い破片が地面に散らばる。偽ゼロがバランスを崩し、後退る。
「くっ…! この鎧をただのコピーとて舐めるな!」
偽ゼロが怒号と共に反撃に出た。黒い鎧から稲妻が走り、暗黒のエネルギーが拳头に集束する。その一撃を俺が受け止めようとした瞬間――
『相棒、右だ! レオと合わせろ!』
ゼロの叫び。俺は反射的にレオの方を見た。師匠が俺を見ている。目が合った。一瞬の交信。言葉は要らない。師弟の間で通じるものがある。
レオが先に動く。右回し蹴り。俺がそれに続く、左回し蹴り。二人の蹴りが同時に鎧の両肩を捉えた。鎧が砕ける。両肩の巨大な角がへし折れ、黒い破片が夜空に舞う。
「テオ! 今だ!」
レオが吼えた。
その声に応えて、後方に控えていたテオが動いた。
静かに、だが確かに。テオの体色が変化し始めたのだ。青を基調としていたボディが、徐々に赤みを帯びていく。青から赤へ。冷涼な青から灼熱の赤へ。まるで朝焼けが空を染めるように、テオの全身が橙色へと変わっていく。
(すげえ…体色が変わるのかよ!)
炎だ。
テオの全身から炎が噴き出している。物理的な炎ではない。エネルギー体としての炎だ。橙色の光が体表を舐め、夜空を焦がす。熱気で屋上のコンクリートが熱され、足元から陽炎が立ち昇る。
テオが拳を握った。
その拳に、炎が集束していく。橙色の光が圧縮され、球状に膨らみ、拳一つに凝縮されていく。周囲の空気が歪み、熱波が夜風を焼き尽くす。俺の目だって熱い。百メートル以上離れているのに、顔面に熱気が叩きつけられている。
「灼熱の拳を食らえぇっ!」
テオの声が初めて響いた。静かだった声が、炎に煽られて熱く弾けた。
テオが突進した。
一歩。たった一歩で間合いを詰める。橙色の拳がアーマード・ダークネスの胸板に叩きつけられた。
ドォォォォォォン!!
爆発した。
拳が鎧に触れた瞬間、橙色の炎が炸裂したのだ。鎧の胸当てが内側から膨れ上がり、ひびが全体に走る。今まで入った全ての亀裂が、テオの炎で一気に広がった。
「装甲が…砕ける…!」
偽ゼロが驚愕の声を上げた。鎧の胸板が剥離し、下の紫色の肌が露わになる。アーマード・ダークネスの防御が、テオの一撃で崩壊し始めた。
「叩くぞ、相棒!」
レオが叫んだ。俺を見た。目が合った。師匠の目だ。あの目だ。修行の時に何度も見た、燃えるような目。「俺についてこい」と言っている。
「ああ。行くぜ、師匠!」
俺とレオが同時に跳んだ。
屋上を蹴り、夜空へ。二つの影が並んで飛び上がる。俺の右脚に、レオの右脚に、テオの炎が走る。橙色の光が俺たちの脚を包み込み、灼熱のエネルギーが渦を巻く。
炎の飛び蹴りだ。
二人で、同時に、同じ高さで、同じ速度で。まるで鏡に映したように一致した軌道で、俺とレオの脚が振り下ろされた。
「「うおおおおおおおおおおっ!!」」
ドォォォォォォォォォン!!
炎を纏った二本の脚が、砕けた胸板の下の紫色の素体を直撃した。
夜が、明るくなった。
橙色の爆炎が夜空を切り裂き、屋上を照らす。アーマード・ダークネスの鎧が弾け飛び、黒い破片が流星のように夜空に散っていく。偽ゼロの叫び声が炎の中で歪み、途切れ、消えた。
紫色の巨体が、炎に包まれて倒れた。
地面に叩きつけられた衝撃で、屋上のコンクリートが波紋のように砕けていく。ドォン。重い音。最後の音だ。
炎が、収まっていく。
橙色の光が夜の空気に溶けていく。テオの体色も徐々に青に戻っていく。静かに、流星が夜空に消えるように。
俺とレオが屋上に着地した。
ドスン。重い着地。膝が震えている。俺もだ。全力の飛び蹴りだ。全身の骨が悲鳴を上げている。だが、勝った。
「はっ…やったか…」
俺は膝をついた。隣でレオも同じ姿勢になった。師匠も限界だったようだ。二人して肩で息をしている。情けないが、勝利のポーズを決める余裕はない。
テオが静かに歩み寄ってきた。青い体色に戻った弟子が、兄の隣に立つ。
「…終わったな」
俺は瓦礫の中で動かない紫色の巨体を見下ろした。
アーマード・ダークネスの残骸が、黒い破片となって散乱している。あの不気味な威圧感はもうない。ただのゴミだ。禍々しい鎧の破片は、夜風に吹かれてカラカラと音を立てている。
「…あーあ。師匠の炎で全部燃えてくれれば掃除楽だったのにな」
呟いた言葉に、レオが目を細めた。「甘えるな」と言っている。
(はい、すみません)
『相棒、ナイスだ。最高の戦いだったぜ』
ゼロの声が脳内で響く。温かい声だ。そして、ふと我に返った。
「あんな…!」
俺は屋上の扉を見た。いや、扉の跡だ。蹴破った枠が残っているだけだ。その奥に、人影があった。
あんなだ。
屋上の隅、フェンスの前で蹲っている。震えている。だが、無事だ。怪我はない。俺の目が届く限り、血も流れていない。
(よかった…)
心の底から安堵した。膝の力が抜けた。倒れそうになるのを、レオの肩に寄りかかって堪えた。師匠が「甘えるな」と言う目で俺を見たが、今度は無視した。今だけは寄りかからせてくれ。
「…帰ろう」
俺は呟いた。夜風が、汗を冷やしていく。星が綺麗だ。都会の光に霞んで数個しか見えないが、確かにそこにある。無数の星。その全てが、今夜は少し明るく見えた。
次回の王は
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