サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
放課後の商店街を、俺たち三人は歩いていた。
隣には口数の少ない侍少女宮本絶花。その数歩後ろには、俺の袖を軽く摘む形でぴったりとついてくる明智あんな。彼女の胸にはあの小さな金色の光が今も宿っている。王の駒がもたらす僅かな繋がりの感覚。今のところは心地良い静けさだ。
「なあ絶花、次のテストいつだっけ」
「……来週です。太郎はいつも直前で焦るので、今日からでも勉強してください」
「はいはい」
「はいは一回にしてください」
最近はこういうやり取りが増えた。平和でいい。ババルウ星人の一件から数日。街は落ち着いていた。いや、表向きは。
学校の修理はまだ終わっていないが、授業は別棟で再開された。俺の無罪は証明されたしあんなも絶花も普段通りの距離感に戻っている。いや、あんなに関しては普段より近い。物理的に。
「今日の商店街、なんか静かじゃない?」
あんなが言った。
確かに、静かだ。夕方四時。いつもなら買い物客や学生で賑わう頃合いだが人の姿が少ない。シャッターの下りた店もある。天気は悪くないのに。違和感に気付いた瞬間、肌が僅かに粟立った。
『相棒……空気が変だ。海でも山でもねえ、もっと深い場所の匂いがする』
ゼロの声。表情を変えるな。気付いたことを表に出さず、目だけで周囲を観察する。電線の揺れが不自然だ。風は吹いていないのに。
「……太郎」
絶花も気付いたようだ。肩の力が入り、左手が自然と帯に伸びている。あいつは普段木刀すら持ち歩いていないが、何かあれば素手でも構えられる。昔からそうだ。いざという時に迷いがない。
その時だった。
「——っ」
喉の奥に張り付くような感覚。ざわりと空気が一変する。
「な、に、これ……!」
あんなが悲鳴を飲み込んだ。
十字路の方から現れた。霧だ。白ではなく薄紫の粒子を帯びた不自然な霧。蛇のように蠢きながら、商店街のアーケードを這うように広がっていく。
その霧の中から、それらは生まれた。
ぬぅ、と。
人の形をしている。が、輪郭がぶれている。二足歩行の黒い影頭部には歪な仮面。目玉が回り、まるで泥を吐き出す魚の口を貼り付けたような裂け目が蠢いている。指は四本逆関節。地面を掻き毟る音がアスファルトを引っ掻く。
一体、二体、三体……四体目が見えた時点で数えるのをやめた。全部が異形。全部が敵。
「下がってろ二人とも」
俺は左手首のブレスレットを隠しながら、二人の前に立った。
「太郎くん、まさか一人で……!」
「変身するつもりはない。まだだ。こんな往来で変身したら余計に目立つ」
『とはいえ、人間のままでどうにかできる数でもないぜ相棒。せめてどっちかが神器を使うか……』
「見る前から騒ぐな。まずは逃げ道の確保を優先する」
一刻の勝負だ。この距離では魔物の足の方が速い。なら時間を稼いで誰かが応援に来るのを待つか、それとも一旦脇道に逸れるか。
「あの……! あれっ!」
あんなが空を指差した。思わず、全員の視線が上を向く。
夕暮れの空。
その色を、さらに青く塗り替えるようにして一条の光が落ちてきた。
青だ。深い青。海より淡く空より深い。魔力の光が尾を引き、その中に確かな人の形がある。
「——え?」
絶花が息を呑んだ。
落下してくる。いや、墜ちてくる? 違う。彼女は自分の意思で敵の真っ只中に降下していた。
「お、おおおお……」
青い髪の少女が空中で小さく唸るように気合いを入れる。明るいサイドテールが、風を切り裂いて流れ星のように見えた。背中からは青白い魔力の翼。羽根が一枚一枚粒子になって散っては再生する。制服。あの子、駒王学園中等部の。
「……はっ!」
叫びと同時に、彼女は加速した。
狙いは先頭の魔物。体を弓なりに反らせ、右脚を突き出す。ただの蹴りじゃない。着地の衝撃と加速の勢いを一点に集中させた質量そのものを叩き込む一撃。
ドガァッッ!!
魔物の顔面が陥没し黒い体液と共に後方へ吹き飛んだ。アーケードの柱に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
「な、なんだ今の……!?」
俺は素直に声を漏らしていた。すごい、の一言だ。
彼女は怯まなかった。着地後すぐに次の獲物へ駆ける。一歩目から全力。二歩目で風を置き去りにし、三歩目で爪の一閃を紙一重で交わす。彼女の瞳は青く澄み迷いというものが一切ない。
「二体目!」
逆手の肘鉄が魔物の脇腹を叩く。次いでさらに跳び上がり、つむじ風めいた回転から放たれた蹴りが三体目の側頭部を正確に打ち抜いた。
空回る、などではなかった。見習いと本人は言っていたが身のこなしは歴戦のそれだ。
「正義を守るため、ヒーローの出番です!」
高らかに、彼女はそう宣言した。
日が傾き、アーケードの影が長く伸びる。霧が晴れる。地面に倒れた魔物たちが黒い霧となって消えていく。彼女が拳を握りしめたままこちらを振り返った。
夕焼けが青い髪に混ざって、一瞬だけ銀色に煌めいた。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか!」
走り寄ってくる。言葉が真っ直ぐでこちらが戸惑うほどだ。俺は思わず「ああ、平気だ」と答えていた。隣のあんなは「すごい、すごいよあの子!」と目を輝かせている。絶花だけがどこか考え込むように彼女の拳を見ていた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王