サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
ソラの青い瞳が、俺の唇をじっと見つめていた。
夜風が商店街のアーケードを抜け彼女のサイドテールを揺らす。さっきまであれほど鋭かった視線が、今は少しだけ緩んでいる。警戒が解けたのではない。何かを確かめるための注視だ。
「今の声は…あなたの声じゃない。あなたの中にいる戦士の声ですか?」
ソラがゆっくりと言った。声量は小さい。だが、耳の奥に残るほどはっきりとしている。
俺は頷いた。
「そうだ。俺の中にいる光の国の戦士。ウルトラマンゼロ。今のはそいつの声が俺の口を借りて出た。意図したわけじゃないが、隠すつもりもなかった」
ソラが小さく息を呑んだ。それから、何度か瞬きをして。
「そういうことですか…」
その言葉の中に、驚きと納得とそれから少しの寂しさが混じっているように俺は感じた。寂しさ、というのは違うか。突然の真実に追いつこうとする心のあえぎのようなものだ。
「ごめんなさい。わたし、急に詰め寄ってしまって」
ソラが深々と頭を下げた。サイドテールが前に滑り落ちて、街灯の光を受けて青く透ける。
「いや。お前の反応は当然だ。こっちこそ、怪しませるような説明の仕方をした」
「では、太郎さんたちはそのゼロさんと一緒にこの町の異変を追っていたんですね」
「ああ。それに、こいつは別にこの町の異変だけじゃなく俺と一緒に戦ってる」
「戦ってる…」
ソラが顔を上げた。彼女の目が、俺の左手首に向いている。ブレスレットに気づいているのかもしれない。いやさっきの戦闘で僅かに光ったのを見ていたか。
あんなが、俺の袖を小さく引いた。
「太郎くん」
振り返ると、あんなが胸元の駒を握りしめて俺の顔を見上げている。何かを言いたげに、何度も口を開きかけては閉じる。おそらく「もう隠さなくていいんだよ」とか「私でよければ説明しようか」とか、そういう気遣いを探しているのだろう。
「お前が気に病むことじゃない」
俺は先回りして言った。
すると、あんなはほっとしたように頷いて握っていた駒を胸に抱くようにして深く息を吐いた。
「良かった…」
それは、俺がちゃんと自分の言葉で説明できたことへの安堵のように聞こえた。
隣の絶花はというと、口元をわずかに緩めていた。
「そういうことです。太郎は、この町を守るためにずっと戦っています」
俺の説明を補足するように絶花が静かに言った。ソラに向けた言葉のはずなのに、どこか誇らしそうに俺を見ている。なんでお前が胸を張るんだ。いや家臣としての見栄なのかもしれない。
ソラは絶花の顔をじっと見て、頷いた。
「そうですか。絶花さんも、太郎さんと一緒に戦っていたんですね」
「ええ。家臣ですから」
「家臣…」
ソラが首を傾げた。だろうな。いきなり「家臣」と言われても混乱するだけだ。説明はあとだ。
その時、俺の口が再び動いた。
今度は俺の意志でだ。
「ソラ。お前が追っているのはゾグ。それだけは間違いない」
声が低い。俺の声帯を使ってゼロが語っている。だが、今度はさっきみたいに勢いで漏れた言葉ではなく意識して皆に聞かせている。
「ゾグは並の魔物とは桁違いの存在だ。かつて光の国でも警戒されていた。力の規模も、知能も、破壊の本質も今お前が戦った霧獣や霧魔なんかと比べるな」
ソラが息を呑む。背筋が伸びる。戦乙女の顔に戻っていた。
「違うコンテナの話だ。あれは、星を終わらせに来る類いのものだ」
「星を、終わらせに…」
ソラの唇がその言葉を反復した。信じられないといった顔をしている。だが、彼女は先ほど魔物を蹴散らした時のあの勇ましい目つきのままだ。
「お前、言ったな。自分は未熟でも前に進むと」
「はい」
「一人で挑むつもりなら止めろ。見習いのお前が単独で当たっていい相手じゃない」
ゼロの言葉が、夜の商店街に沁みるように響いた。
ソラは、しばらく黙っていた。
掌を見ている。拳を握っている。先ほど霧獣の核を砕いた小さな拳。その拳を胸の前に当て、彼女はゆっくりと顔を上げた。
「でも、正しいことを最後までやり抜くのがヒーローです」
彼女の声に、迷いはなかった。
「わたしは、ヒーローになりたいんです。シャララ隊長みたいに。助けを求める人がいるなら危険だからって逃げるわけにはいきません」
まっすぐだ。
あまりにもまっすぐでそのくせ無謀で、危なっかしくて。
(でも、真っ直ぐないい奴だな)
口に出す代わりに、俺は小さく笑った。
「分かった」
俺は言った。
「だったら、全員でやるんだ」
ソラが、パッと顔を輝かせた。
「え…!」
「一人で行かせるなんて面倒だろ。どうせ行くなら、俺も行く。こいつらも巻き込む。王として家臣を守れてヒーローが正義を貫けるようにする。その方が合理的だろ」
俺の言葉に、まずあんなが「うん!」と弾けるように頷いた。駒を握った手を高く上げて、ぴょこんと跳ねる。
「私もやる! 太郎くんと一緒にいたいもん!」
次に絶花が、静かに一歩前へ出た。
「家臣として、ご一緒します。何があってもお守りします」
そしてソラが。
胸の前で組んだ拳をほどき、俺に右手を差し出した。
「ありがとうございます、太郎さん! これからよろしくお願いします!」
その手を取る代わりに、俺は拳を軽く打ち合わせた。ソラが嬉しそうに目を細める。
夜風が、四人の間を抜けて商店街の奥へ消えていく。さっきまでの重い空気はもうない。
これで、俺たち四人は共通の敵を背負った。
ゾグの追跡はこれからだ。次の異変がいつ、どこで起きるかは分からない。
でも、一人じゃない。
「帰るぞ。今日はここまでだ。すでに体ボロボロだしな」
「あ、そうです! みなさんきちんと休んでください。戦いのあとは休息も勇気のうちです!」
「なんだそれ」
「勇気のうちです!」
力説するソラにあんなが笑い、絶花が微かに口元を綻ばせた。
四人の足音が、静かな商店街に重なっていった。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王