サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
絶花が吹き飛ばされた。
白い光の爆風が、青い巨体を弾丸のように空中へ弾き飛ばす。Zの身体がきしむ音がここまで聞こえてきそうだ。だが絶花は体勢を立て直した。空中で一回転して着地。痛みに顔をしかめてはいるが倒れない。さすがだ。剣士の根性は伊達じゃない。
「絶花! 大丈夫か!」
『大丈夫です…! ただ、すごい衝撃が…!』
念話が掠れている。ダメージはある。だが退くつもりはないらしい。
地上のあんなも震えていた。オーブの巨体が地響きで揺れている。ゾグの放った衝撃波が地上まで届いているのだ。あんなは必死に足を踏ん張り倒れるのを堪えていた。
「あんなも下がってろって言ったのに!」
『で、でも! 太郎くんが戦ってるのに私だけ逃げられないです!』
あんなの声が裏返っている。恐怖とそれ以上の使命感。兵士の駒のせいか。家臣としての自覚が芽生えているのか。どっちにしろ無茶だ。
だが、今はそれどころじゃない。
ゾグが再び動いた。翼の付け根から漏れた光が、傷口を塞ぐように渦巻いている。再生か。速い。絶花の渾身の一撃も、時間が経てば元通りになってしまう。
(くそっ、決定打が足りない)
俺はウルトライズアイを見た。
コスモレコードウォール。残りのカードがある。ガイア。ウルトラマンガイア。大地の力を持つ戦士。それが残っていた。
『相棒! ガイアだ! ガイアの力を使え!』
ゼロの声が脳内で弾けた。
ガイア。大地の力。
俺は迷わずガイアのコスモレコードをスキャンした。
『ガイア! ウルトライズ!』
システムボイスが響く。
だが反応が違った。
通常なら赤い玉が落ちてくるはずだ。だが今回は違う。ウルトライズアイ全体が、ガイアのカードが、激しく発光した。目が焼けるような赤。燃えるような赤。大地のマグマが吹き出すような灼熱の光だ。
「うわっ!」
手元が熱い。ブレスレットが皮膚を焼くほど熱い。だが離せない。光が俺の手から溢れ出し、空へ向かって噴き上がる。光の柱だ。夜空を真っ赤に染めるほどの光の奔流。
そして光が裂けた。
一本の光が二つに分かれた。
赤い光が左右に別れる。まるで意思を持っているかのように。一つの光は右へ。もう一つの光は左へ。
右の光が空中の絶花へ向かった。
左の光が地上のあんなへ向かった。
光が二人を包み込む。
「なんだこれ!」
俺の胸ポケット。そこに入れている王国の駒が熱くなっている。王の駒だ。あんなに渡した兵士の駒。絶花の中にある天聖の気配。全てが共鳴していた。
ガイアの力が、王国の駒の力を通して、二人に適した形態を選ぼうとしている。大地の力が増幅され、二人の特性に合わせて変換されているのだ。
絶花を包む光が青から赤へ変わっていく。青が赤に染まるのではない。青い海の底に赤い溶岩が流れ込むような混ざり方だ。
あんなを包む光が黒から赤へ変わっていく。夜に灯る篝火のような赤だ。
「二人とも! その光に身を任せろ!」
『太郎、これは…!』
『あつっ… なんか力が…入ってくる…!』
二人の声が重なった。
光が膨らむ。爆発寸前の太陽みたいに。二人の巨体が光の中で輪郭を失っていく。
まだ終わらない。変化はまだ途中だ。光が二人を鋳造している最中だ。王国の駒がガイアの力を鋳型にして、二人を新しい姿へ作り変えている。
俺はそれを見上げた。
ゾグも見上げている。白い顔が赤い光に照らされている。無表情だ。だがその静寂が逆に不気味だ。何も感じていないのか、それとも全てを見越しているのか。
(どっちにしてもやるしかない)
俺はゼロツインソードを握りしめた。
光の中で二人が変わっていく。大地の力を纏った新しい姿へ。
まだ完成じゃない。だが間もなくだ。
「二人とも! その力受け取れ!」
俺は叫んだ。祈りに近い叫びだ。
夜空に赤い光が二つ燃えている。
右の光が膨れ上がった。
空中に浮く絶花のZを包む赤い光が、さらに激しく脈動し始めたのだ。まるで心臓が鼓動しているように。光が収縮と膨張を繰り返すたびに、周囲の空気が震える。
そして光の中に何かが現れた。
人影だ。
三つの人影が、赤い光の中から浮き上がってきた。幻影だ。実体がない。半透明の輪郭。だが確かにそこにいる。コスモライズが呼び出した歴代戦士の残像が、ガイアの力を媒介に顕現したのだ。
一人目は赤と紫のボディ。胸部に プロテクター。スリムだが力強いライン。ウルトラマンティガ。光の巨人の原点。
二人目は青と赤のボディ。ティガに似たフォルムだが、より流線型。額のフラッシュサイクル。ウルトラマンダイナ。光を超える速さの戦士。
三人目は赤と銀のボディ。胸部にメタリックなプロテクター。大地の戦士。ウルトラマンガイア。今、俺がスキャンした力の本来の持ち主だ。
三人の幻影が、空中の絶花を取り囲むように浮かんでいる。
ティガが左手を前に出した。掌から光が溢れる。青白い光。変身の光だ。かつて人間が巨人に変わる時に使われた光と同じもの。その光が絶花の身体へ吸い込まれていく。
絶花のZのボディが震えた。青と銀の表面に、ティガの赤と紫のラインが走る。重なっている。ティガの力がZの上に重ねられているのだ。
次にダイナが動いた。右手を天にかざす。掌から金色の光が放たれる。光が絶花の頭上から降り注ぐ。シャワーのように全身を包む。
Zの額のビームランプが輝きを変えた。青から金へ。ダイナの光がフラッシュサイクルと共鳴している。
最後にガイアだ。
ガイアが両手を広げた。大地の力そのものを具現化するような動作。足元に魔法陣が展開した。赤と金の幾何学模様が空中に刻まれる。六芒星。その中心にガイアの紋章。
魔法陣が回転する。ゆっくりと。だが確実に。回転とともに赤い光が螺旋を描き、絶花の身体に巻き付いていく。
「絶花…!」
地上から見上げる俺の目に、その光景は神秘そのものに映った。
三人の幻影が同時に絶花の身体へ溶け込んだ。ティガの赤。ダイナの青。ガイアの大地の輝き。三色の光がZのボディを貫き、内部から発光する。
光が炸裂した。
ドォォン!!
衝撃波が俺の頬を打つ。空中で光の爆発が起きた。だが破壊的な爆発ではない。誕生の光だ。
煙が晴れた時、そこにいたのはZではなかった。
ボディの基本色が変わっている。青と銀だった表面が、深い銀と赤に変わっている。胸部のプロテクターが複雑な文様に覆われ、星雲のような模様が全身に走っている。額のクリスタルが紫に変色し、头部にはティガのような角ではなく、三つの戦士の力を象徴する装飾が浮かんでいる。
ウルトラマンゼット ガンマフューチャー。
三つの力を一つに宿した形態。
『Ultraman Z Gamma Future.』
システムボイスが静かに響いた。
(すげえ…)
声が出なかった。ただ見とれていた。変身の光が夜空に溶けていく残光が、絶花の新しいボディを幻想的に照らしている。
だが、俺が注目したのは姿じゃない。
構えだ。
ガンマフューチャーの姿になった絶花の構えが、変わっていなかった。重心が低い。刀を構える時の癖。間合いを測るような視線。Zの身体になっても、絶花は宮本武蔵の子孫だ。剣士の本能は変身しても消えない。
『太郎。力が…違います』
絶花の声が念話で届く。静かだ。だが excitement が混じっている。
「どうだ」
『身体が軽い。いや、軽いんじゃない。力の方向が違う。前は力任せに振っていたのが、今は流れるように動けそうです』
「剣士の技術とガンマフューチャーの力が合わさってるんだ。お前ならその力を使いこなせる」
絶花が頷いた。ガンマフューチャーのボディが赤い光を纏っている。
(一人完了。次はあんだ)
俺は地上の光を見た。左の光。あんなを包む赤い光が、今にも弾けようとしていた。
左の光が炸裂しようとしていた。
地上に立つあんなのオーブを包む赤い光が脈動する。ガイアの力だ。だがそれだけじゃない。今度は地面が震えた。
ドォォォン…
地鳴りだ。さっきまでのゾグの攻撃とは違う。もっと深い場所から響いてくる振動。マグマが脈打つような、大地そのものの鼓動だ。
アスファルトが割れた。
亀裂から光が漏れる。赤と黄。灼熱の赤と結晶の黄。その光が噴水のように噴き上がった。
「なんだ!?」
俺は思わず声を上げた。
地中から突き上げるようにして現れたのは、もう一つの幻影だった。
赤と黄のボディ。胸部にV字型のクリスタル。両腕に装着されたビクトリウム・セイバー。ウルトラマンビクトリー。地底の民ビクトリアンの戦士だ。
右からガイア。左からビクトリー。
二人の幻影が空中で交差した。
ガイアが大地を踏みしめるように腕を広げる。ビクトリーが剣を構えるように腕を振り上げる。二つの動作が重なりオーブの身体へ殺到した。
赤と黄の光がオーブを貫く。
「あんな!」
叫ぶ間もなかった。
ガイアの赤い光がオーブのボディを染め上げる。ビクトリーの黄色い光がその上から結晶のように凝固していく。
二つの力が左右から押し潰すようにオーブへ融合した。
光が爆ぜた。
ドガァァン!!
衝撃波が地面を這い俺のコスモライズの身体をも後退させる。すさまじいエネルギー量だ。
煙が晴れた時そこにいたのはオーブではなかった。
ボディカラーが変わっている。赤と黒だった表面が赤と黄のメタリックなカラーへと変貌している。全身にビクトリウムの結晶が隆起し鎧のように張り付いている。胸部にはV字型のクリスタルが埋め込まれ両腕には鋭利な結晶の剣が形成されている。
ウルトラマンオーブ フォトンビクトリウム。
大地と地底の力を纏った形態。
「えっ…えっと…これって…」
あんなの声が念話で届いた。相変わらず狼狽している。だがその声には力が宿っていた。
「すごい…力が湧いてくる…身体の中から熱くなって…!」
あんなが自分の手を見た。フォトンビクトリウムの手には結晶の剣がある。彼女はそれを握りしめた。
「私…やれるかな…」
「やれるさ。その力はお前の意志で動く」
俺は答えた。あんなは頷いた。不慣れな立ち方だ。剣の扱い方も素人丸出しだ。だがその目には覚悟がある。
ふと視線を感じた。
近くの瓦礫の陰。ソラだ。
彼女もまた変化していた。背中の魔力の翼が激しく揺れている。風に煽られているわけではない。地中から湧き上がったビクトリウムのエネルギーに反応しているのだ。
青白い翼に黄色い光の粒子が混じり輝きを増している。北欧神話の戦乙女と地底の鉱物のエネルギー。種族も次元も違うはずなのに共鳴している。彼女自身も驚いているのか自分の背中を振り返っていた。
(まあいい。今は理由を問いてる場合じゃない)
俺は正面を見た。
右にガンマフューチャーの絶花。左にフォトンビクトリウムのあんな。そして中央にコスモライズの俺。
三人揃った。
「行くぞ! ゾグを落とす!」
絶花が動いた。
いや正確には、絶花の指が動いた。
右手を天に掲げ親指と中指を弾いた。パチン。乾いた音が夜空に響く。その音は小さかった。だが空気が変わった。
ガンマイリュージョン。
ティガ、ダイナ、ガイア。三つの力を宿したガンマフューチャーの技だ。三体のエネルギー体を生出し自在に操る。絶花はそれを指一つで起動した。
空中に光が走る。
三つの光だ。赤紫。青赤。赤銀。三色の光がそれぞれ独立した形を持ち始めた。輪郭が浮かぶ。ティガの姿。ダイナの姿。ガイアの姿。三体の幻影が絶花の周囲に展開した。
(速い。迷いがない)
絶花は力任せに動いていない。ガンマイリュージョンを起動した瞬間、すでに三体の幻影へ指示を送っていた。彼女の剣士としての目がゾグを見極めている。再生する部位。飛行に必要な部位。それらを瞬時に判断し三体へ役割を割り振ったのだ。
「行け」
絶花が短く告げた。武人の声だ。平時の丁寧語ではない。戦場の言葉だ。
三体の幻影が同時に動いた。
ティガが正面から突っ込む。赤紫の巨体がゾグの正面へ飛び込む。両腕を広げゾグの右手を掴みにかかる。ゾグが反応する。手のひらを振り下ろそうとした。だがティガが先に掴んでいた。白い手首を赤紫の指が包み込む。
ガゴォン!
二つの巨体の力がぶつかり合う。ティガがゾグの右手を押さえ込む。ゾグは振り払おうとする。だがティガは離さない。光の巨人の原点。かつて無数の怪獣と戦った戦士の執念が込められている。
ティガがゾグの右手を封じた。
次いでダイナが動いた。左側から。速い。ダイナの最大の武器は速度だ。光を超える速さの戦士。赤と青の残像が夜空を切り裂く。
ダイナの標的は翼だ。
ゾグの背後に広がる白い翼。巨大な翼。あの翼が風を操り衝撃波を生み出す。飛行能力の源だ。ダイナはそこを狙った。
ダイナの両手が光る。光の刃だ。ソルジェント光線の変形。エネルギーを刃状に圧縮して放つ斬撃。それが翼の表面を薙ぐ。
ギインッ!
翼が裂けた。白い翼の表面に深い切れ込みが入る。白い光が傷口から漏れ出す。ゾグが振動を放つ。悲鳴に近い低周波。だがダイナは既に離脱している。一撃離脱。速さの戦士の戦い方だ。
(二つ封じた。あと一つ)
俺は空中で息を呑んだ。残るはガイアだ。ガイアの標的は翼の付け根。さっき絶花がゼットスラッガーで狙った場所。光が漏れていた部分。ゾグの動力源の一つだ。
ガイアが動いた。
正面からではなく下から。地面すれすれを滑空しゾグの背後へ回り込む。大地の戦士らしく地を這うような軌道だ。だが速い。ガイアの赤いボディが残像を引きながらゾグの背後へ到達する。
ガイアの両手が光る。フォトンストリームのエネルギーを拳に集束させている。大地の力を一点に凝縮した打撃だ。
「そこだ」
絶花が呟いた。指が動く。ガイアの幻影が絶花の意志に反応して加速する。
ガイアの拳が翼の付け根を捉えた。
ドォォン!!
爆発。赤い光が翼の付け根で炸裂する。さっき絶花がスラッガーで入れた傷口にガイアの拳が食い込む。傷口が広がり白い光が噴き出した。
翼の付け根が砕けた。
白い破片が夜空に散る。再生が始まらない。さっきまでの再生速度とは明らかに違う。傷口が塞がっていかないのだ。
(効いてる。再生追いついてない)
『相棒見ろ! 翼が!』
ゼロの声。
見た。ゾグの翼が垂れ下がっている。両翼の付け根が砕かれ翼が支えられなくなっている。巨大な白い翼が力なく折れ曲がりゾグの背中に張り付いている。
飛べない。
ゾグは飛行能力を失った。
「あんな! 上がれ! ゾグは飛べない! 今のうちに背後へ回れ!」
俺は叫んだ。あんながフォトンビクトリウムの身体で反応する。不慣れな動きだがオーブの身体能力がそれを補っている。地を蹴って跳び上がりゾグの背後へ回り込む。
絶花が空中で指を鳴らした。もう一度。パチン。
三体の幻影が戻ってくる。ティガ、ダイナ、ガイア。三色の光が絶花の周囲に集まりガンマフューチャーのボディに吸収される。
絶花は着地した。着地と言っても空中から地上へ降りたわけではない。空中で静止し、ゆっくりと高度を落とした。剣士の着地だ。音がない。衝撃がない。
「太郎。両腕と翼を封じました。飛行能力も奪いました」
絶花の声が念話で届く。静かだ。だが確信に満ちている。
「再生速度も落ちています。付け根の傷が塞がっていません」
「分かった。いい仕事だ」
俺は短く答えた。
(剣士の目だ。力任せじゃなく必要な部位だけを正確に狙った。無駄がない)
絶花は剣士だ。剣士は敵の構造を読む。関節。筋。急所。斬るべき場所と斬らなくていい場所を見極める。ガンマイリュージョンの三体を無差別にぶつけていたら再生で追いつかれていた。だが絶花は違った。両腕を封じ飛行を奪い再生の源を砕く。順序も完璧だ。
(さすが俺の家臣だ)
そう思った時にふと気になった。胸の奥でゼロが小さく笑った気がした。
(何笑ってんだよ)
『いや。相棒が家臣を褒めてるの聞いててな。王様みたいだなって』
(王になるって言ってんだから当たり前だろ)
『はっ。そうだったな』
俺はゾグを見上げた。
白い女神が膝をついている。両腕をティガに封じられ翼を砕かれ飛行能力を失った巨体が初めて地面へ降り立った。
ドォォン。
百メートル超えの巨体が地面に触れる衝撃で廃工場の残骸が跳ね上がる。だが倒れない。まだ立っている。
(まだだ。まだ終わってない)
ゾグの胸の奥で核が脈打っている。白い光が弱くなっているが消えていない。本体の核は無事だ。翼の付け根は動力源の一つに過ぎない。本体を砕かなければ終わらない。
「あんな! 今だ! 背後からやれ!」
「は、はい!」
あんなが動いた。フォトンビクトリウムの両手に結晶の剣が形成される。ビクトリウム・セイバー。地底の鉱物でできた刃だ。
あんながゾグの背後へ飛びつく。不慣れな動きだ。だが力はある。結晶の剣がゾグの背中を裂く。
ギインッ!
白い肌が裂ける。あんなの攻撃は粗い。剣士ではない。だがフォトンビクトリウムの力がそれを補っている。深い傷が入る。
「太郎くん! 傷が入ったよ!」
「よし。そこだ。核が見えるか!」
「えっと…見える! 白い球体が…!」
「それだ。それを砕け!」
「無理だよ太るくん! 硬くて!」
「太郎くんと言え!」
怒っている場合じゃないがツッコミは大事だ。
俺はゼロツインソードを構えた。あんなが背後から牽制している今がチャンスだ。ゾグの注意が後ろに向いている。
「絶花! 俺と同時に攻めるぞ!」
「はい!」
俺と絶花が同時に動いた。右から俺。左から絶花。二方向からの同時攻撃だ。
俺は正面から突っ込む。ゼロツインソードを振り上げる。ゾグの正面。胸の奥に核がある。あそこを狙う。
絶花は左から。ガンマフューチャーの拳にエネルギーを集束している。ゼスティウム光線の変形か。拳に光を纏わせた打撃だ。
「うおおぉぉっ!」
俺は叫びながら剣を振り下ろした。
ドガッ!!
ゼロツインソードがゾグの胸を裂く。白い肌が裂け光が漏れる。深い。だが核までは届かない。核の周囲の装甲が硬い。
同時に絶花の拳がゾグの左脇腹を打つ。
ドォォン!!
絶花の一撃でゾグの体勢が崩れる。左へ傾く。その隙に俺は剣を引き抜きもう一撃入れる。
ガシュッ!
二撃目。胸の傷口が広がる。白い光が激しく漏れ出した。核が見える。拳大の白い球体。脈動している。
「見えた!」
「太郎! 今です!」
逃げるかよ!
折れた翼を無理やり動かして、ゾグが空へ逃れようとしていた。砕かれたはずの付け根から無理やり光を絞り出し、白い巨体を浮上させようとしている。無理が祟って傷口から白い霧が噴き出しているが、それでも上がろうとしている。しぶとい。しぶとすぎる。
「逃がすか!」
俺はゼロツインソードを投擲した。二本の刃が回転しながらゾグの背中に突き刺さる。だがゾグは止まらない。背中から白い衝撃波を放ち、剣を弾き飛ばした。痛みを無視した強引な離脱だ。
(くそっ、届かない!)
俺は空を見上げた。あと少しでゾグは空の彼方へ消えてしまう。そうなれば二度と追いつけない。再生して再び現れるのを待つしかない。それは最悪だ。
その時だ。
「ま、待てぇぇぇっ!」
あんなの声が響いた。フォトンビクトリウムの巨体が地面を蹴った。いや、蹴ったというより地面に叩きつけられたような無茶な跳躍だ。オーブの身体に不慣れな彼女が、全身のバネを使って垂直に飛び上がったのだ。
あんなは空中でゾグの右脚にしがみついた。両手の結晶剣をスパイクのように脚に突き立て、猫のようにしがみついている。
「あんな!?」
「重い…! すごく重い…! でも!」
あんなが呻きながら、フォトンビクトリウムの力を引き出した。胸部のV字クリスタルが激しく発光する。大地の力だ。ガイアのマグマとビクトリーの地底エネルギーが、あんなの意志を介して具現化する。
地面が光った。
廃工場のアスファルトが割れ、そこから赤と黄の光の柱が噴き上がった。地脈そのものが光になったような激流だ。それが一本、また一本と立ち上がり、空へ逃げようとするゾグの巨体を絡め取っていく。
「落ちろぉぉっ!」
あんなが叫ぶと、光の柱がゾグの脚を捕らえた。赤い鎖のように、黄色い結晶の檻のように、光が物理的な重みとなってゾグを空から引き剥がす。
ズシィィィン!!
百メートル超えの巨体が、重力加速度を無視して地面に叩きつけられた。廃工場の残骸が更に粉々になるほどの衝撃。土煙が上がり、地面が陥没する。
ゾグが再び浮き上がろうとする。だが脚元の光がそれを許さない。地底から湧き出る力が、ゾグを大地へ縫い付けている。再浮上防止のアンカーだ。あんなの不器用だが力強い意志が、大地を操りゾグを拘束している。
「やった…! 動けないよ太郎くん!」
あんなが足元の光を必死に維持しながら叫んだ。汗はないが、巨体の肩で息をしているのが分かる。精神の消耗だ。あんなにしては上出来だ。いや、大活躍だ。
(助かった。これで逃げられない)
俺は安堵し、そして違和感に気付いた。
瓦礫の陰から、ソラがその光景を見上げていた。彼女の背中の魔力の翼が、あんなの放った地底の光に共鳴するように激しく揺れている。ただそれだけじゃない。
ソラの青い瞳に、一瞬だけ形が浮かんだのだ。
V字型の輝き。
胸元のV字クリスタルと同じ形の光が、彼女の瞳の奥で明滅した。まるで彼女の目そのものがクリスタルになったかのように。
「え…?」
ソラ自身も戸惑っている。自分の目を押さえ、何が起きたのか分からないといった顔で自分の手を見ている。彼女の瞳はもう青に戻っていた。だが、あれは見間違いじゃない。地底の光と彼女の力が、一瞬だけ重なったのだ。
(なんだありゃ? まあいい、今は考えるな)
謎は後だ。目の前に逃げ場のない敵がいる。
今だ。
絶花が両翼を砕き動きを封じた。あんなが地底の光で巨体を大地へ縫い付けた。ゾグは動けない。逃げられない。再生も追いついていない。
この一瞬を逃す手はない。
「絶花! あんな! そのまま維持しろ! トドメを刺す!」
『はい!』『がんばる!』
二人の声が重なる。いい家臣だ。命令に即答する。疑問も妥協もない。信頼されていると実感する。だが感慨に浸っている場合じゃない。
俺はウルトライズアイを操作した。
コスモレコードウォール。残りのレコード。さっきガイアを使った。残りは——ある。一枚。深紅のレコード。炎のような赤が刻まれたカードだ。今まで使わなかった最後の一枚。
『相棒。やるか』
ゼロの声が低い。覚悟の声だ。冗談が混じっていない。
「ああ。やる」
俺はブレスレット上の深紅のコスモレコードをスキャンした。
『ゼロ!ワイルドバースト!』
システムボイスが夜空を劈いた。
変化は一瞬だった。
コスモライズの赤と銀のボディが、爆発的に発光した。赤ではない。深紅だ。血のように濃くマグマのように熱い深紅の光が全身から噴き上げる。皮膚の下で光が沸騰しているような感覚。熱い。熱いなんてもんじゃない。細胞一つ一つが燃えている。
だが痛くない。力だ。
深紅の光が収束していく。ボディの表面が変わっていく。赤と銀だった配色が、深紅と黒へと塗り替えられていく。赤いラインが太くなり全身を覆う。銀の部分が消え、代わりに黒い装甲が浮き出る。胸部の星型カラータイマーが深紅に染まり激しく脈動する。
全身から闘気が噴き上がっていた。物理的な熱ではない。戦意そのものが可視化了ような、荒々しい波動。空気が震える。廃工場の残骸がガタガタと揺れる。瓦礫が浮き上がるほどの圧力だ。
ウルトラマンゼロ ワイルドバースト。
力が溢れる。止まらない。制御できない。いや制御する必要がない。この力は叩きつけるためのものだ。
「うおおおおおぉぉぉっ!!」
叫びが漏れた。身体が熱い。感情が熱い。ゼロの感情と俺の感情が混ざっている。怒りだ。仲間を傷つけられた怒り。町を壊された怒り。守れなかった者たちへの怒り。それらが一つの塊になって胸の奥から噴き上がってくる。
(これがワイルドバーストか)
『そうだ相棒。俺の力の根本だ。綺麗事じゃねえ。真っ直ぐに、力で、ぶち壊す』
ゼロの声も熱い。だが芯は冷えている。戦士の理性だ。感情を力に変えながら制御を失わない。それがワイルドバーストだ。
俺は両拳を握りしめた。
深紅のエネルギーが両拳へ集束していく。拳が光る。いや光を超えている。熱だ。純粋なエネルギーの塊が両拳に凝縮されていく。空間が歪む。拳の周囲の大気が蒸発していく。真空の球が両拳を包む。
ゾグが見える。
地上に縫い付けられた白い巨体。両翼は砕かれ背中は裂かれている。だがまだ消えていない。胸の奥で核が脈動している。白い球体。弱々しく光っている。再生しようとしている。あと数分あれば翼も核も元通りだ。
(数分もやらねえよ)
俺は前へ出た。一歩。地面が砕ける。二歩。衝撃波が走る。三歩。もう目の前にゾグがいる。
ゾグの胸の傷口が見える。さっきゼロツインソードで入れた傷だ。白い皮膚が裂け核が露出している。拳大の白い球体。直接見える。守るものも隠すものもない剥き出しの核だ。
「これで終わりだ」
俺は両拳を突き出した。
ハウザーゼロショット。
両拳に凝縮された深紅のエネルギーが一つの光弾となって放たれた。巨大だ。ゼロの身長を超えるほどの巨大なエネルギー弾。深紅と黄金の光が渦を巻きながらゾグの胸の傷口へ直進する。
ゾグが反応した。残った力で手のひらを向けた。白い光が掌に集束する。最後の反撃。破壊光線だ。だが遅い。間に合わない。翼を砕かれ腕を封じられ地上に縫い付けられた状態で、全力の反撃なんてできるわけがない。
ハウザーゼロショットがゾグの掌の光を呑み込んだ。
白い光と深紅の光が正面衝突する。だが一瞬だ。白い光が砕けた。深紅の弾丸が白い掌を貫通し胸の傷口へ飛び込む。
直撃。
ドォォォォォォン!!
爆発。
いや爆発という言葉じゃ足りない。崩壊だ。ゾグの胸の核に深紅のエネルギーが命中した瞬間白い球体が内側から砕けた。亀裂が走り光が漏れ核が膨張し——弾けた。
白い光が夜空を埋め尽くす。視界が白くなる。何も見えない。音も消えた。一瞬の静寂。
そして崩壊が始まった。
ゾグの巨体が内側から崩れていく。白い肌に亀裂が走る。足から脚へ脚から胴へ胴から胸へ。亀裂が走るたびに白い光が漏れ崩れていく。砂の城が崩れるように。いやもっと美しい。雪が溶けるように。白い粒子となって夜風に散っていく。
百メートル超えの巨体が、上から順に崩落していく。頭部が砕け肩が崩れ腕が落ちる。翼の残骸が光の粒子となって消える。胸の核があった場所から最後の光が漏れ消えた。
残ったのは何もない空だけだった。
白い粒子が夜空に舞っている。雪みたいだ。夏なのに雪が降っているみたいだ。粒子が光を失い闇に溶けていく。一つ、また一つ。星が消えるように。
静寂が戻った。
俺は両拳を下ろした。拳が熱い。まだエネルギーが残っている。だが放つべきものはもういない。
「終わった…か」
『ああ。終わった。ゾグは消えた』
ゼロの声が静かだった。安堵と疲労が混じっている。
俺は振り返った。絶花が空中にいた。ガンマフューチャーのボディが光を失い輪郭がぼやけ始めている。限界だ。あんなも地上で膝をついている。フォトンビクトリウムの結晶がひび割れ始めていた。
「二人とも。変身解除しろ。もう大丈夫だ」
『はい。…疲れました』
『へへ…私も限界…』
二人の光が弾けた。ガンマフューチャーとフォトンビクトリウムが同時に粒子となって崩れる。光の中から小さな人影が二つ現れた。絶花とあんだ。人間の姿に戻った二人が地面に着地した。絶花は膝をつきあんなはお尻から坐り込んでいる。
俺の身体も限界だった。ワイルドバーストの深紅が消えていく。ボディが光を失い輪郭がぼやける。変身が解除される。落下する。地上へ。
ドスン。
背中から落ちた。痛い。人間の身体に戻った瞬間の衝撃が全身に走る。空を見上げた。星が見える。白い粒子はもう消えていた。ただの夜空だ。静かで暗くて綺麗な夜空だ。
「太郎!」
絶花が駆け寄ってきた。
「太郎くん!」
あんなも。
俺は起き上がろうとした。だが腕に力が入らなかった。
「…面倒だな。ちょっと休ませろ」
そう言って俺は空を見上げた。星が数個。相変わらず数個だけ。だが今はその数個の星がやけに綺麗に見えた。
次回の王は
-
妖怪王
-
機械王
-
怪獣王
-
幻想王