サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
地下施設の入口に愛車エアリアルが停まっていた。
キックスタンドを出したまま。ヘルメットがシートの上に置かれている。泥の付いたタイヤ痕がここまで続いていた。急いでいたのだろう。ブレーキの跡が短い。
スレッタが施設の入り口の前に立っていた。
まほが少し離れた場所にいる。二人の間に三歩分の距離。まほは壁に寄りかかり弓を膝に置いたまま。口を挟まない。見届けるためにそこにいる。
スレッタの背中が泥だらけだった。転んだのだろう。膝も汚れている。手袋を握り締めている。白かった手袋が泥と汗で灰色になっている。
空を見上げている。
町の上空で十一基のビットステイヴが円環状に並んでいる。黒紫色の術式が各端末から伸び中央の人工魔術炉へ集まっている。地脈から吸い上げられる青い光が空へ柱となって立っている。ガイアの残滓。昨日戦った力の残り香が全部あそこへ吸われている。
スレッタの視線はその光に釘付けだった。
俺はスレッタの横へ立った。
「スレッタ」
「唯我さん」
スレッタが振り返った。青緑の瞳が揺れている。まほと話した後だ。少しは落ち着いている。だがまだ握り締めた手袋が白い。
「何も言わずに消えやがって」
「すみません」
「謝れって言ってるんじゃない。なぜ一人で行こうとした」
スレッタが視線を下げた。
「自分で取り戻そうとしました。私があの人を信じたからエアリアルが奪われたから私が」
「やめたでしょう」
まほが静かに言った。壁に寄りかかったまま。
「スレッタさんは既に単独行動をやめました。太郎、そこだけ」
俺はまほを見た。まほは目を細めて頷いた。それ以上言わない。
俺はスレッタへ向き直った。
「神器を奪われた状態でお前が突っ込めば敵の狙い通りだ。お前がビットへ近づけば制御術式が起動するかもしれない。そうなれば町ごと吹き飛ぶ」
「でも」
「町の外まで下がれ。ここは俺達がやる」
スレッタの唇が動く。止まる。また動く。
「エアリアルを置いて逃げることはできません」
「逃げるじゃない。下がるんだ」
「同じです。あの子たちがあそこで操られているのに私だけ安全な場所にいるなんて」
スレッタの声が震えた。だが途切れない。
「町の異変にも自分で向き合いたいんです」
「それは責任を取りたいだけか」
俺の言葉にスレッタが固まった。
責任。自分が騙された。自分が解析を許した。だから自分で取り戻す。責任を取る。一人で。仲間を巻き込まない。自分だけが傷つけばいい。
まほと同じだ。
「違います」
スレッタが言った。声が少し大きくなった。
「責任は感じています。騙されたのは私の判断でした。それは消えません。でも」
スレッタが俺を見た。真っ直ぐに。
「唯我さん達と一緒に守りたいから残るんです。町もエアリアルも。一人で埋め合わせをするためじゃなくて皆で守るために」
スレッタの手袋を握る指が少し緩んだ。
「今度は一人で行きません。皆さんの力をわたしにも貸してください」
俺はスレッタを見た。
泥だらけの服。震える指。だが目は逸れていない。
一年の時と同じだ。あいつはいつも怖がっていた。でも一度決めたら退かなかった。危ないとわかっていても理由があれば前に出た。
俺は右の手をポケットへ入れた。
「スレッタ。一つ聞く」
「はい」
「お前は俺の家臣になったら今回で終わりじゃないぞ。今後も戦いに関わることになる。怪我もするかもしれない。命を落とすかもしれない」
「はい」
「それでもいいのか」
「はい。わかっています」
「よくわかってねえよ。お前はまだ何も見てない」
俺は手をポケットから出した。
掌を開く。
光が集まった。黒と金の升目が足元へ展開される。魔法陣。王国の駒。その中央で俺の掌の上に駒が浮かぶ。
女王。
王の隣に立つ駒。力・防御・速度・魔力を高水準で引き上げる万能型。だがそれだけじゃない。
「女王は命令を待つ駒じゃない。戦場全体を見て動く。王が間違えた判断をすれば止める立場だ。俺が愚かな命令を出したらお前が止めろ」
スレッタが俺の掌の上の駒を見ている。
「一度受け取れば今回だけの協力じゃ終わらない。今後も俺の家臣として戦え。お前が選べ」
スレッタの目が駒に落ちた。
女王の駒。黒と金の光を放っている。
「わたしで、いいんですか」
「それを決めるのは俺だ。受け取るか決めるのはお前だろ」
スレッタが空を見上げた。
十一基のビットステイヴ。奪われた盾。人工魔術炉。黒紫色の術式。ガイアの青い光。
その光の中で一基だけほんの少しだけ位置がずれているビットがあった。干渉された一基。スレッタが一番大切にしている一基。
スレッタが視線を下ろした。俺を見る。
「わたしは皆さんと一緒に進みたいです」
手が伸びた。
スレッタの手が俺の掌の上の駒へ触れる。
迷いがなかったわけじゃない。指先が一瞬止まった。だがその一瞬の後スレッタは自分の意思で手を伸ばした。誰に強要されたわけでもない。命令でもない。選択だ。
駒が光った。
スレッタの指に触れた瞬間黒と金の光が溢れた。駒が胸元へ吸い込まれる。光が全身を包む。
赤と銀。
暖かい光だ。ゼロの赤ともガイアの赤とも違う。もっと柔らかい。だが強い。スレッタの体が光の中で輪郭を変えていく。人間のシルエットが少し大きくなる。頭部に光の角のような形が浮かぶ。
上空で十一基のビットステイヴが一斉に動きを止めた。
円環が乱れる。人工魔術炉の回転が一瞬だけ揺らいだ。黒紫色の術式が点滅する。ガイアの青い光の中に別の光が応えた。
赤と銀の光。
人工魔術炉の中から。奥深くから。十一基のビットの核から。
スレッタの体を包む光と上空の光が一瞬だけ共鳴した。波長が合う。振動数が揃う。だが繋がりきらない。間に黒紫色の術式が壁になっている。
「何か応えてます」
スレッタが言った。光の中で声が少し違う。響きが深い。
「エアリアルの中に。あの光が」
俺は空を見た。
十一基のビットが再び動き出した。人工魔術炉の回転が復旧する。だが一瞬だけ確かに止まった。その一瞬に何かがあった。
新しい光の気配。
俺の盤面に六つ目の光点が加わった。スレッタの点。まほの時よりも淡い。だが確かに点灯している。
女王の駒が応答している。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王