サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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盾の少女 Part7

俺は左腕を上げた。

 

ウルトライズブレスレットの光が脈打つ。赤と銀。ゼロの色だ。

 

「スレッタ」

 

光の中でスレッタが俺を見上げている。女王の駒を受け取ったばかりの右手が胸元に押し当てられている。駒の光が心臓のリズムに合わせて明滅している。

 

「力は渡す。どう使うかはお前が決めろ」

 

「はい」

 

「あとで怒られろ。今は戦え」

 

「はい」

 

短い。だが二度目の返事は一度目より強かった。

 

俺はウルトライズアイをブレスレットから外した。

 

右腕へ集まる光。体が熱くなる。変身のプロセスが始まる。

 

光が体を包む。巨大化する感覚。骨が伸びるわけじゃない。光が体を置き換えていく。人間の肉と骨が光の粒子になって再構築される。

 

ウルトラマンゼロ。

 

赤と銀の巨人が町の上空に現れた。

 

地上の家々が豆粒みたいに小さい。電線が糸のように見える。風が強い。上空の風は地上とは温度が違う。冷たい。だが体は熱い。ゼロの力が全身を巡っている。

 

目の前に人工魔術炉があった。

 

巨大な円環。十一基のビットステイヴが等間隔に並んでいる。各端末から黒紫色の術式が伸び中央へ集まっている。地脈から吸い上げられるガイアの青い光が柱となって立ち昇り魔術炉の中央へ流れ込んでいる。

 

不気味だ。

 

昨日の魔獣とは違う。あれは暴走だった。今度のは整然としている。誰かが設計した。誰かが意図的にこの場所でこの形を作った。ビットステイヴ一基一基に黒紫色の制御線が絡みつき端末の動きを操っている。

 

魔術炉が俺を感知した。

 

中央の光が膨れる。衝撃波。ドンという音ではなく空気そのものが壁になったみたいに押し寄せる。ゼロの体が後ろへ滑る。両足で耐える。地面に履がめり込む。

 

「太郎さん!」

 

下からスレッタの声が聞こえた。女王の駒の念話網経由だ。

 

「大丈夫か」

 

「大丈夫です。でもこれ」

 

「見えてる。衝撃波が定期的に来る。あれを食い止めながらビットを取り戻す」

 

「はい」

 

「俺が衝撃波と光弾を引き受ける。お前はビットへ集中しろ」

 

「でも唯我さんが」

 

「スレッタ」

 

俺は下を見た。スレッタが立っている。小さい。だが女王の駒の光が胸元で明滅している。

 

「お前は女王だ。俺の隣に立つ駒だ。指示を待つな。戦場を見てお前が決めろ」

 

スレッタが一瞬止まった。それから頷いた。

 

「わかりました」

 

俺はゼロコスモライズへ移行した。

 

ブレスレットからウルトラコスモレコードを展開する。光のディスクが空中へ浮かぶ。回転する。表面に刻まれた記録が光る。ウルトラマンたちの戦いの記録。その中にまだ読み込まれていない記録がある。

 

ウルトラマンA。

 

光のディスクが回転を速める。特定の記録をスキャンする。Aの文字が浮かぶ。赤と銀の光がディスクから溢れ出す。

 

読み込まれた光がスレッタへ向かう。

 

女王の駒が応答した。胸元の駒から黒と金の光が伸びディスクからの赤と銀の光と混ざる。二つの光がスレッタの体を包む。

 

スレッタの体が光り始めた。

 

*  *  *

 

光柱が立った。

 

地上から空へ。真っ直ぐに。雲を突き抜けるほど高い光の柱。赤と銀。女王の駒の黒と金がその中に混じって螺旋を描いている。

 

光柱の中で形が変わっていく。

 

まず頭部。銀色の輪郭が浮かぶ。高く伸びる鶏冠のような形状。頭部のラインが定まる。次に胸。赤い模様が左右対称に走る。力強さと均整が同居するような配色。そして胸の中央に青いカラータイマーが点灯する。プウンという低い音。脈動。光の巨人の心臓が動き始めた音だ。

 

最後に額。

 

ウルトラスターが強く点灯した。第二のエネルギー源。胸のカラータイマーとは違う光。額から放たれる光が十一基のビットステイヴの方角へ伸びる。

 

上空の十一基が反応した。

 

敵の制御下にある端末が一斉に揺れた。円環が乱れる。一瞬だけ。短い。だが確かに十一基全てが光柱の方角へ向き直った。まるで名前を呼ばれたみたいに。

 

光柱が弾けた。

 

赤と銀の巨人がそこにいた。

 

ウルトラマンA。

 

銀色の頭部。高く伸びた鶏冠。額のウルトラスターが蒼く輝いている。大きな楕円形の両眼が黄白色に発光している。胸の青いカラータイマーが一定のリズムで明滅する。全身に赤と銀の模様が左右均等に走っている。

 

スレッタの性別に合わせて形が変わるようなことはない。ウルトラマンA本来の姿だ。力強く均整の取れた光の巨人。

 

Aが地面に降り立った。

 

ズシン。

 

重い音。巨人の脚が地面を踏む。土煙が舞う。Aが立った場所は町と人工魔術炉の間。背中に町を庇い正面に魔術炉を捉える位置。

 

俺はAの隣へ降り立った。ゼロとA。二体の光の巨人が並んで立つ。

 

「スレッタ。聞こえるか」

 

「はい。聞こえます」

 

声が違う。巨人の体を通した声だ。だがスレッタだ。敬語が崩れていない。

 

「体はどうだ」

 

「…大きな、です。今までと全然違います。体が軽いような重いような」

 

「慣れるまで三分はかかる。だが三分待ってやる時間はない」

 

「はい」

 

Aが胸のカラータイマーへ手を当てた。次に額のウルトラスターへ。二つの光源を確認するみたいに。カラータイマーの青い光とウルトラスターの蒼い光が交互に明滅する。

 

Aが両腕を広げた。

 

カラータイマーとウルトラスターから光が溢れる。二つの光が混ざり合い十一方向へ分かれる。十一本の光の筋。それぞれが十一基のビットステイヴの方角へ伸びる。

 

「感じます」

 

スレッタの声が変わった。戸惑いが消えている。

 

「十一基全部の位置がわかります。今までこんなことなかったのに。一基一基の感じ方が違う。この子はこっちでこの子はあっちで」

 

「女王の力だ。十一基を同時に認識できる。お前が全体を見ろ」

 

「はい」

 

Aが光の筋を辿る。十一本の筋が各ビットステイヴへ届く。だが黒紫色の術式が壁になっている。光の筋が術式に触れると弾かれる。

 

「術式が邪魔をしてます。直接触れられない」

 

「切ればいい」

 

「でもビットに当たったら」

 

「お前の切断光線だ。術式だけを切る。ビットには当てるな」

 

Aが両腕を前に突き出した。手のひらが光る。

 

「バーチカルギロチン」

 

光の刃が formされた。だが一つじゃない。十一本の光の刃が同時に形を作る。Aの両手から放たれた光が十一方向へ分裂する。各ビットステイヴの周囲へ異なる角度から光の刃が届く。

 

「すごい…」

 

スレッタの声が震えた。だが恐怖じゃない。

 

「十一方向同時に。こんなことできるなんて」

 

魔術炉が反応した。衝撃波。ドン。空気が壁になる。光弾が三発。ゼロの方角へ。

 

俺は前に出た。

 

ゼロスラッガーを両手に構える。光弾を一刀ずつ斬り払う。衝撃波は両腕を組んで受け止める。ガガンという音。腕が痺れる。だが耐える。

 

「スレッタ。今だ」

 

「はい!」

 

Aが十一方向へ光の刃を放った。

 

バーチカルギロチンを細分化した光の刃。それぞれが異なる角度からビットステイヴへ近づく。刃は端末そのものには当たらない。黒紫色の制御線だけを狙う。

 

一基目。

 

光の刃が制御線をなぞる。黒紫色の線が切れた。パリン。ガラスが割れるような音。ビットがふっと自由になる。黒紫色の光が消え青い光が戻る。

 

「一基目。戻ってきてください」

 

スレッタが呼びかけた。命令じゃない。呼びかけだ。

 

一基のビットが円環から外れる。ゆっくりと。Aの方角へ向かう。Aの周囲へ戻る。浮遊する。スレッタの元へ帰ってきた。

 

二基目。光の刃が別の角度から制御線を切る。パリン。二基目が戻る。

 

三基目。四基目。

 

魔術炉が暴れ始めた。衝撃波の間隔が短くなる。光弾の数が増える。俺はゼロスラッガーで光弾を斬り続ける。衝撃波を腕で受け続ける。腕が痛い。だが下がらない。

 

五基目。六基目。

 

「戻ってきてください。一緒に町を守りましょう」

 

スレッタの声が十一基へ届いている。戻ってきたビットがAの周囲に並び始める。一基二基三基四基五基六基。並ぶたびにAの光が強くなる。戻ってきた端末がAの力と共鳴している。

 

七基目。八基目。

 

魔術炉が咆哮を上げた。機械的な音じゃない。うなり声みたいな。残りの三基が円環を維持しようとする。だが七基八基と抜けて円環が崩れ始めている。

 

九基目。十基目。

 

残り一基。

 

最後の一基。干渉された一基。一番深く制御術式が食い込んでいるやつだ。黒紫色の線が他の十基よりも太い。一本じゃない。三本の制御線が絡みついている。

 

「この子が一番深いです。三本ある」

 

「切れるか」

 

「切ります」

 

Aが両手を組んだ。十一方向からの光の刃が最後の一基へ集中する。十基のビットがAの周囲から放たれた光を増幅する。十一方向から交差する光刃。一点に収束する。

 

パリン。パリン。パリン。

 

三本の制御線が順番に切れた。三つの音が重なる。最後の一基が自由になる。

 

「戻ってきて。エアリアル」

 

スレッタの声が震えた。十一基目のビットがゆっくりとAの方角へ向かう。戻ってくる。十一基全部。Aの周囲に並ぶ。

 

「全部戻りました」

 

「よし。次だ。魔術炉を止める」

 

「はい」

 

Aが十一基のビットステイヴを人工魔術炉の周囲へ再配置した。円環を作る。だが今度は敵の円環じゃない。スレッタの円環だ。十一基が魔術炉を囲む。

 

「各ビットから切断光線を放ちます。魔法陣の接続点を同時に断ちます」

 

「やれ」

 

十一基のビットステイヴが一斉に光った。各端末から光の刃が放たれる。十一方向から。魔術炉の外側の術式へ。一層ずつ。外側から内側へ。

 

第一層。十一本の光刃が外殻の接続点を断つ。黒紫色の術式が砕ける。外殻が剥がれる。まるで玉ねぎの皮が剥がれるみたいに。

 

第二層。第三層。

 

魔術炉が暴れ始めた。衝撃波。光弾。俺が前に出て受け止める。ゼロスラッガーで光弾を斬る。衝撃波を腕で受ける。腕が痺れる。だがスレッタが後ろで集中している限り俺は下がらない。

 

第四層。第五層。

 

地脈へ流れていたガイアの青い光が変化した。吸い上げられていた光が止まった。逆流し始めた。下へ。町へ。地脈へ戻っていく。

 

「ガイアの光が戻っています」

 

まほの声が念話で届く。地上からだ。

 

「地脈の流れが正常化し始めました。吸い上げられていた分が逆流しています」

 

「あと少しだ」

 

第六層。第七層。

 

魔術炉の外殻がほぼ消滅した。残るは中央の核だけ。だがその核が膨れ始めた。中に溜まっていた力が制御を失っている。暴走だ。

 

「まずい。核が暴走してます」

 

あんなの声が念話に飛び込む。

 

「外殻が剥がれた分、制御されていた力が全部解放されてる。このままじゃ周囲へ撒き散らすよ」

 

「スレッタ。核を止められるか」

 

「やります。エアリアル」

 

スレッタが呼びかけた。十一基のビットステイヴが応える。十一基が一つに集まる。合体。巨大な盾。エスカッシャン。

 

十一基の端末が重なり合い一枚の巨大な盾を形成する。エスカッシャンが魔術炉の核の前に立つ。盾が光る。青い光。ガイアの光と同じ色。だが違う。スレッタの光だ。

 

暴走しかけた光がエスカッシャンへぶつかる。ドン。衝撃。Aの体が後ろへ滑る。だが倒れない。踏ん張る。

 

「受け止めてます。でも量が多い」

 

「持たせるか」

 

「はい。全部受け止めます」

 

エスカッシャンが暴走する光を飲み込んでいく。吸収している。ガイアの光を盾が吸収して町へ戻す。地脈へ。地下へ。光が還っていく。

 

魔術炉の核が小さくなる。力が抜けていく。やがて核が砕けた。パリン。最後の音。小さく。静かに。

 

人工魔術炉が消滅した。

 

空が戻った。暗くなっていた空に太陽の光が戻る。雲が流れる。青い空。昼の空。

 

十一基のビットステイヴがエスカッシャンから分離した。Aの周囲へ戻る。十一基全部。スレッタとの接続も完全に回復している。

 

「戻りました。全部」

 

スレッタの声が震えていた。だが今度は恐怖じゃない。

 

「エアリアルが。全部戻りました」

 

俺は隣のAを見た。

 

赤と銀の巨人。額のウルトラスターが蒼く輝いている。胸のカラータイマーが一定のリズムで明滅している。周囲に十一基のビットステイヴが浮遊している。

 

やったのか。

 

と思ったときだった。

 

魔術炉があった場所。砕けた核の残骸の中から。何かが浮き上がった。

 

小さい。人間大ほどの影。黒紫色の光。魔術炉の核の中に隠されていたもの。外殻が剥がれ核が砕けたことで初めて姿を現した。

 

制御中枢だ。

 

魔術炉の制御中枢。黒紫色の光を纏った人型の影。顔がない。輪郭だけ。だが確かにそこに何かがいる。

 

「太郎さん。あれは」

 

「見えてる」

 

俺とAが並んで立った。ゼロとA。二体の光の巨人。その前に浮かぶ黒紫色の影。

 

影が動いた。ゆっくりと。こっちへ向き直る。顔がない。だが俺を見ている。いや俺だけじゃない。Aも見ている。スレッタも見ている。

 

十一基のビットステイヴがAの周囲で展開した。戦闘配置。スレッタが無意識に動いている。ビットが盾になり刃になる。

 

俺もゼロスラッガーを構えた。

 

影が手を上げた。何かを握っている。小さい。手のひらに乗るほどの。

 

黒紫色の駒だった。

 

「…駒」

 

俺の目がそれを捉えた。黒紫色の駒。俺の王国の駒と同じ形。だが色が違う。黒と金じゃない。黒紫。禍々しい色。

 

影が駒を握り直した。そのまま後ろへ退いた。空間が歪む。影が空間の裂け目へ沈んでいく。

 

「逃げるか」

 

俺は追おうとした。だが足が止まった。地上から声が聞こえる。住民の声。避難誘導中のあんなとソラの声。まだ避難が終わっていない。

 

追うか。残るか。

 

「太郎さん」

 

スレッタの声。

 

「あれは後です。今は町を」

 

俺は止まった。Aが俺を見ていた。黄白色の両眼。スレッタの意思がそこにある。

 

「わかった」

 

俺はゼロスラッガーを納めた。

 

影が消えた。空間の裂け目が閉じる。後に残ったのは魔術炉の残骸と、町へ還り始めたガイアの光。

 

空は青かった。十一基のビットステイヴがAの周囲で光っていた。赤と銀の巨人と赤と銀の巨人。並んで空を見上げる。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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