サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
中枢が動いた。
防御陣を張り直している。黒紫色の光が何層にも重なって人型の周囲を包む。さっき十一枚の刃で剥がしたはずの壁が、また生まれている。
「再生した」
「でも供給は止まってます。長くは持ちません」
スレッタの声が念話で届く。Aの体を通した声。だが確信がある。
「あと何秒持つ」
「三十秒。いえ、二十秒です」
「足りるか」
「足ります」
即答だ。変身したばかりの旧友が、もう戦場の時間を読んでいる。
俺はゼロの体で中枢の上方を押さえた。ゼロスラッガーを両手に構える。中枢が上へ逃げようとすれば即座に叩き落とす位置だ。
「スレッタ。配置は任せる」
「はい」
Aが両腕を広げた。
十一基のビットステイヴがAの周囲から散開する。円陣を解き、中枢を包囲する立体配置へ移る。三基が上空。四基が左右。二基が下方。二基がAの側面。
中枢は包囲の隙間を探している。黒紫色の光が揺れる。右へ。左へ。上へ。だがどこにも隙間がない。十一基が角度を変えながら動いている。スレッタが包囲の穴を塞いでいる。
「一基目」
Aが言った。
上空の一基が光り始める。赤と銀の光。ビットの表面から光が溢れ、Aの方角へ流れる。光の帯だ。一筋の光がビットからAへ伸びる。
「二基目」
左右の一基が光る。二本目の光の帯。
「三基目。四基目」
連続してビットが光る。光の帯が増えていく。Aの体へ流れ込む。カラータイマーとウルトラスターが明滅を速める。光を受け取るたびに輝きが強くなる。
中枢が反応した。
まずいと悟ったのだろう。防御陣の一部を解き、攻撃に回す。黒紫色の光弾が三発。Aの方角へ。
俺は動いた。
ゼロスラッガーで一発目を斬る。二発目を体で受ける。熱い。だが砕ける。三発目を避けながらAの前に出る。
「集中しろ。防御は俺が持つ」
「はい」
五基目。六基目。七基目。
光の帯が七本になった。Aの体が赤く輝いている。カラータイマーの青とウルトラスターの蒼が交互に明滅し、受け取った光を体内で一つにまとめている。
中枢が本格的に暴れ始めた。
防御陣を全部解いた。残った力を全部攻撃に回す。黒紫色の光柱が四方へ放たれる。逃げ道を作るためだ。
「逃がすか」
俺はゼロツインシュートの構えを解いた。両腕を広げて光柱を受け止める。ゼロの体が軋む。腕が痺れる。だが退かない。
一本目の光柱が消える。二本目が消える。三本目が来る。俺は両腕で受け止める。足元が地面にめり込む。
「太郎さん!」
「続けろ! まだだ!」
八基目。九基目。十基目。
光の帯が十本になった。Aの体全体が光に包まれている。赤と銀の巨人が光そのものになりかけている。
中枢が最後の力を振り絞った。
黒紫色の光が膨れ上がる。自爆覚悟だ。周囲へ撒き散らせば町に被害が出る。
「スレッタ! 早くしろ!」
「十一基目!」
最後の一基が光った。
十一本目の光の帯がAへ流れ込む。
瞬間。
Aの体から光が弾けた。
十一基のビットステイヴが中枢の周囲で静止する。各端末から伸びた光の帯がAへ集まり、Aの中で一つになる。
カラータイマーとウルトラスターが同時に最大出力で輝く。
「スペースQ!」
スレッタの叫びだ。
Aの両腕が前に突き出される。手のひらから光が放たれる。
光の奔流。
赤と銀と青が混ざった巨大な光線。十一基のビットから受け取った力が一つになった決め技。光線はまっすぐ中枢へ向かう。
中枢が防御陣を張り直そうとする。黒紫色の壁が一枚。二枚。三枚。
スペースQが壁を貫く。
一枚目を砕く。二枚目を溶かす。三枚目を粉々にする。
中枢本体に直撃した。
黒紫色の人型が光に飲み込まれる。輪郭が崩れる。手足が消える。胴体が消える。最後に頭部が崩れて——何も残らなかった。
光が中枢を貫いて空の彼方へ抜ける。
消滅。
音もなく、人工魔術炉の中枢は消えた。
* * *
スペースQの光が収まる。
Aの腕が下りる。カラータイマーの明滅がゆっくりになる。ウルトラスターの輝きも落ち着く。
十一基のビットステイヴがAの周囲へ戻ってくる。一基ずつ。ゆっくりと。スレッタの元へ帰る。
「全部戻りました」
スレッタの声が念話で届く。震えている。だが恐怖じゃない。安堵だ。
「エアリアルが。全部」
十一基がAの周囲で旋回している。いつもの光景だ。スレッタのビットがスレッタの周りを飛んでいる。
空を見上げた。
青い空。雲が流れている。太陽の光が戻っている。さっきまで暗かったのが嘘みたいだ。
地上から音が聞こえる。
歓声じゃない。安堵のざわめきだ。住民たちの声。避難誘導していたあんなとソラの声も混じっている。
「太郎!」
絶花の声。念話だ。
「地脈の逆流が完了しました。ガイアの光全部戻りました。町の揺れも収まってます」
「あんな、そっちは」
「住民避難完了。全員無事」
「ソラ」
「妖怪たちも安全です! 全員無事です!」
四人の声が念話に重なる。
全員生きてる。町も守れた。
俺は隣を見た。
Aが立っている。赤と銀の巨人。胸のカラータイマーが静かに明滅している。周囲に十一基のビットステイヴ。
「スレッタ」
「はい」
「よくやった」
短く言った。それだけだ。
Aが俺を見た。黄白色の両眼。スレッタの意思がそこにある。
「ありがとうございます」
Aが頷いた。
* * *
変身を解く。
光の中で体が縮んでいく。巨人の感覚から人間の感覚へ戻る。地面に足がつく。土と草の匂い。風の冷たさ。
スレッタも変身を解いた。
隣に立っている。泥だらけの服。だが顔色はいい。手袋を外して、素手でビットを撫でている。
「エアリアル」
スレッタが呼びかけた。ビットが応える。一基だけじゃない。十一基全部だ。スレッタの周囲で旋回している。
「戻ってきてくれた」
スレッタの目が潤んでいる。だが泣かない。笑っている。
俺はスレッタを見た。
女王の駒を受け取ったばかりの旧友だ。一年前はただのクラスメイトだった。今は俺の家臣で、十一基の盾を使う光の戦士だ。
「スレッタ」
「はい」
「行くぞ。みんな待ってる」
「はい!」
スレッタが振り返った。ビットがついてくる。十一基全部。
俺たちは歩き出した。
崩れた道路を越えて傾いた塀を回って、町の方へ。
朝の光の中に、四人の姿が見えた。
絶花とまほが地割れの方から走ってくる。あんなとソラが住民の中から手を振っている。
全員無事だ。
長い戦いだった。
だが終わった。
俺は空を見上げた。
青い空。雲一つない。
今日はよく晴れている。
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