サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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盾の少女 Part10

揺れが止まった町は静かだった。

 

いつもなら聞こえる車の音もない。住民が避難してまだ戻っていないからだ。代わりに鳥の声が多い。人がいなくなった町を鳥が取り戻したみたいだ。

 

道路の亀裂に応急修理のテープが貼られている。俺たちが戦っている間に誰かが仮止めしたのだろう。傾いた電柱にロープが張られている。手際がいい。町の人が自分たちで守った跡だ。

 

絶花が地割れの方角から走ってきた。

 

「太郎。地脈の状態、完全に戻りました。ガイアの光も地中へ還っています」

 

「揺れは」

 

「収まっています。あと一時間もすれば自然に修復が始まる程度です」

 

絶花は息を整えながら報告する。天聖を腰に戻して、泥のついたスカートの裾を払っている。

 

あんなとソラが住民の避難方向から歩いてくる。

 

「避難完了。全員無事。けが人なし」

 

あんなが手を挙げた。珍しく真面目な報告だ。

 

「妖怪たちも全員無事です! 避難ポイントから戻り始めてます」

 

ソラが後ろから元気な声を出す。青い髪が風に揺れている。

 

六人が揃った。

 

*  *  *

 

まほが地面に地図を広げた。

 

泥で描いた見取り図。さっきの戦闘で使ったやつだ。だが今日はさらに書き足されている。まほの指が地図の上を走る。

 

「ここがゾグ撃破の地点です。ガイアの光が地脈へ流入したのはこの位置」

 

指が一点を叩く。町の南側。ゾグを倒した場所だ。

 

「光は地脈に沿って北へ流れました。ここを経由して、ここへ」

 

指が線をなぞる。南から北へ。地脈の経路だ。

 

「魔術炉が光を吸い上げていた経路はこの五本。全てこの一点へ集まっていました」

 

町外れの地下施設。俺たちが入った坑道の場所だ。

 

「戦闘後に回復した範囲はここからここまで。地脈の流れは正常に戻っています」

 

まほが地図の上に手を置いた。

 

「ですが、一点だけ不明な点があります」

 

「何だ」

 

「ガイアの光が地脈へ流入した時点で、既に魔術炉の制御術式が稼働していました。ゾグ撃破から魔術炉の起動まで、十分もかかっていません」

 

「つまり」

 

「ゾグを倒す前に、魔術炉の準備が整っていた。ガイアの光が流れ込むのを待っていた」

 

俺は黙った。

 

ゾグとの戦闘は予期せぬものではなかった。だが魔術炉の準備がゾグ以前から進んでいたとすれば、敵は俺たちの戦いを前提に動いていたことになる。

 

「スレッタ」

 

俺が呼ぶと、スレッタが体を固くした。ビットが周囲で静止する。

 

「お前がビットを奪われた経緯。話してくれ」

 

スレッタは一瞬目を伏せてから、顔を上げた。

 

「地下で負傷した研究員に会いました。地脈を調べに来たと言って。身分証を見せて。怪我をしていて。私が応急処置をして。それでビットの解析を頼まれて」

 

「条件は」

 

「直接触れないこと。一基だけ。異常があれば切る。三つの条件を出しました」

 

「条件は守られたか」

 

「守られました。その場では。でも一基だけ後から戻ってきた時に、冷たくなっていて」

 

スレッタの声が途切れた。だが無理に続けた。

 

「あの人が、一基に制御術式を仕込んだんだと思います。私が許可した一基だけ。それが他の十基と合体した時に、術式が共有された」

 

「そうか」

 

俺は責めなかった。責める必要がなかった。

 

「お前の判断が悪かったとは言わない。条件を出した。直接触らせなかった。慎重だった。だが相手はそれを計算に入れていた」

 

スレッタが俺を見た。青緑の瞳が揺れている。

 

「計算に入れていた」

 

「研究員を装って、怪我をして、身分証を見せて。お前が出す条件を予期して、その条件の中で術式を仕込める方法を選んだ。相手はお前の慎重さを知っていた」

 

「私の性格を知っていたんですか」

 

「お前と俺が同級生だということを知っていた。お前が怪我人を見捨てない性格だということを知っていた。お前が条件を出すほど慎重だということを知っていた」

 

スレッタの指が白くなった。ビットを握る手に力が入っている。

 

「つまり相手は俺たちの周辺を調べていた。少なくともお前のことを。ビットの構造も。地脈の流れも」

 

「それだと、いつから」

 

「そこがわからない。ゾグ以前かもしれない。もっと前かもしれない。八坂に聞く必要がある」

 

俺は懐の通信端末を取り出した。八坂との回線を開く。

 

「八坂。報告する」

 

『聞いている。地上の戦闘から地下の施設まで、概要は把握している。補足してくれ』

 

八坂の声が端末から漏れる。落ち着いた声だ。

 

「人工魔術炉を破壊した。ガイアの光は地脈へ還った。町の被害は軽微。住民と妖怪の避難は完了。全員無事だ」

 

『わかった。不明点は』

 

「三つある。一つ、魔術炉がガイアの光を待ち受けていた構造だった。ゾグ撃破より前に準備が完成していた可能性が高い」

 

『そうだろうな。地脈の流入経路を逆算すれば、炉の起動タイミングはゾグ戦の数時間前になる』

 

「二つ、スレッタの神器に制御術式を仕込んだ人物がいる。研究員を装っていた。身分証は偽物だった。ビットの構造と地脈の流れを知っていた」

 

『人物の特定は今後の課題だ。身分証の偽造元を追跡できる』

 

「三つ、制御中枢が黒紫色の駒を持っていた。王国の駒と同じ形状だが色が違う」

 

沈黙があった。三秒。

 

『……黒紫色の駒。それは記録に残しておけ。後で確認する』

 

八坂の声が少し低くなった。

 

「それと、スレッタ・マーキュリーが俺の家臣になった。女王の駒を受け取っている」

 

『知っている。女王の契約反応はこちらでも感知した』

 

「いつから知ってた」

 

『今朝だ。契約が成立した瞬間に』

 

「そうか」

 

『太郎。引き続き調査が必要な事項を整理する。一、魔術炉の準備経路と期間。二、研究員を装った人物の特定。三、黒紫色の駒の来源。四、ガイアの光が地脈へ流入した際の異常の有無。以上四点を次までに確認しろ』

 

「わかった」

 

『それとスレッタ・マーキュリーの件だが』

 

八坂が少し間を置いた。

 

『彼女の所属については俺からも確認を取る。お前の家臣である以上、俺との連絡役としての立場も整理する必要がある』

 

「まほの時と同じか」

 

『同じだ。西住まほの件も正式に処理しておけ。彼女の駒は戦車。スレッタの駒は女王。二つの駒が同じ盤上にある意味を、お前が把握しておく必要がある』

 

「わかってる」

 

『では頼んだぞ』

 

通信が切れた。

 

俺は端末を懐にしまった。

 

*  *  *

 

風が吹いた。

 

町の上空に雲が流れている。さっきまでの不自然な暗さは消えている。普通の昼だ。

 

俺は五人を見た。

 

絶花が地図を片付けている。あんなが端末を操作している。ソラが井戸のそばで水を飲んでいる。まほが弓の手入れをしている。

 

スレッタが俺の横に立っている。十一基のビットが周囲で静かに動いている。

 

「スレッタ」

 

「はい」

 

「改めて紹介する。スレッタ・マーキュリー。俺の元同級生で、今は俺の家臣だ。女王の駒を受け取った」

 

五人がスレッタを見た。

 

「わたしは、自分の意思で太郎さんの家臣になりました。女王の駒を、自分で選んで受け取りました」

 

スレッタの声が少し震えた。だが途切れない。

 

「エアリアルを取り戻せたのは、皆さんが力を貸してくれたからです。一人では取り戻せませんでした。だから、これからも皆さんと一緒に進みたいです」

 

スレッタが頭を下げた。深く。丁寧に。

 

十一基のビットがスレッタの周囲で一斉に動いた。頭を下げるスレッタを囲むように。まるで一緒に礼をしているみたいに。

 

「よろしくお願いします」

 

絶花が最初に頷いた。

 

「宮本絶花です。同じ家臣です。よろしくお願いします」

 

「明智あんな。あんなでいいよ。バイク見せてね」

 

「ソラ・ハレワタールです! ヒーローの仲間ですね!」

 

「西住まほです。戦車です。よろしく」

 

四人の声が重なった。

 

スレッタが顔を上げた。青緑の瞳が潤んでいる。だが笑っている。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

六人だ。

 

王が一人。家臣が五人。

 

絶花とまほとあんなとソラとスレッタ。十一基のビットと一本の弓と一振りの刀と六つのルーンと一挺の弓。

 

俺は空を見上げた。

 

青い空。白い雲。太陽が高い。

 

魔術炉の準備経路には未解明の点がある。研究員の正体も不明だ。黒紫色の駒の意味もわからない。

 

だが今日は終わりだ。

 

「帰るぞ。腹が減った」

 

俺の言葉に六つの声が返った。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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