サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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目覚める念動力 Part5

夏目が案内してくれた場所は町外れの鎮守の森だった。

 

古い社がある。鳥居の朱色は剥げかけている。苔が石段を覆っている。人の手が入っていない。だが気配はある。

 

俺が感じる前から絶花が気づいていた。天聖の柄に手を添えて歩幅を狭めている。俺の斜め後ろ。護衛の位置だ。

 

「太郎。十体以上」

 

「わかってる」

 

森の中から見ている。木の陰から。草の茂みから。社の裏から。視線が俺たちに集まっている。

 

警戒している。俺たちを。

 

「夏目」

 

「はい。皆さん、少し待ってください。僕が話します」

 

夏目が前に出た。俺と絶花の前へ。自分が盾になる位置だ。

 

「皆さん。この方は太郎さんと絶花さんです。先週、この町の事件を解決した人たちです」

 

森が揺れた。風じゃない。妖怪たちがざわめいた。

 

「人間だ」

 

声がした。低い。木の陰から。

 

「人間が来た」

 

「夏目様、なぜ人間を」

 

「帰れ」

 

声が重なる。怖がっている。怒っている。両方だ。

 

夏目は動かない。声を荒げない。待っている。

 

ざわめきが収まった。三十秒ほどで。

 

「話を聞いてください。お願いします」

 

夏目の声が柔らかい。命令じゃない。頼みだ。

 

沈黙。

 

「…聞こう」

 

声がした。社の裏から。先ほどの低い声とは別の声だ。落ち着いている。

 

社の裏から一歩出た。

 

大きな影だ。俺の背丈より高い。熊みたいな体格だが熊じゃない。顔は人間に近い。だが目が違う。金色の瞳が暗闇で光っている。毛むくじゃらの腕。太い指。

 

「私はこの森のまとめ役だ。名は要らぬ。夏目が連れてきたなら話くらいは聞く」

 

夏目が振り返った。俺に目配せをする。話せという合図だ。

 

俺は一歩前に出た。

 

「唯我太郎です。こっちは宮本絶花」

 

「人間の名など要らぬ。用件を言え」

 

言葉は粗い。だが敵意はない。警戒しているだけだ。

 

「この町で起きていることについて話がある。あんたたちも巻き込れてる」

 

「巻き込まれておる。佐吉もお松も三郎もいなくなった。お前たちの事件のせいか」

 

「かもしれない。し違うかもしれない。それを確かめに来た」

 

「確かめるだと」

 

「ああ。俺たちは事件を解決した。だが全てが終わったわけじゃない。まだ町に異変が残ってる。あんたたちの仲間がいなくなったのもその一部だ」

 

大きな妖怪が俺を見下ろした。金色の瞳が俺を射抜いている。

 

「お前たちは八坂の手下か」

 

「違う。八坂とは協力関係にあるが部下じゃない」

 

「八坂と組んでおるなら八坂の手下と同じだ」

 

「そういうあんたたちも八坂の領域の外側で暮らしてるんだろ。独立してるなら話くらい聞けるはずだ」

 

大きな妖怪が鼻を鳴らした。

 

「口が達者な人間だ」

 

「達者じゃない。ただ事実を話してるだけだ」

 

「…続けろ」

 

俺は略図を取り出した。地面に広げる。

 

「学校の周りに監視装置が仕掛けられてた。三日前に。町の外から来た誰かが設置した」

 

「町の外」

 

「ああ。町の南側から侵入した気配がある。あんたたちも感じてるはずだ」

 

大きな妖怪の目が変わった。

 

「感じておる。三日前の夜。南から入った気配。人間に似ているが違う」

 

「その気配が学校の周りで装置を仕掛けた。監視対象は中学二年の生徒だ。影山茂夫。モブと呼ばれてる」

 

「あの子供か」

 

「知ってるのか」

 

「学校の近くにおる。よく見かける。目立たない子供だ。何も問題はない子だ」

 

「その子が監視されてる。理由はまだわからない。だが敵はその子の潛在能力を利用しようとしてる」

 

「利用」

 

「兵器か魔力源か。具体的な目的は不明だ。だが監視してる事実は確実だ」

 

大きな妖怪が腕を組んだ。毛むくじゃらの腕が重なる。

 

「それでお前たちは何をしようとしておる」

 

「モブを守る。監視を続けてる敵の正体を突き止める。あんたたちの仲間の失踪も調べる」

 

「守ると言うが、お前たちの仲間でもない子供をなぜ」

 

「理由が必要か」

 

「必要だ。人間が人間のために動くには理由があるはずだ」

 

俺は少し考えた。

 

「放っておけば面倒になる。それだけだ」

 

「面倒」

 

「ああ。敵がモブの力を利用すればこの町がどうなるか。あんたたちの暮らしもどうなるか。全部面倒になる。だから止める」

 

大きな妖怪は俺の顔をじっと見た。五秒。十秒。

 

「嘘をついておらんな」

 

「嘘じゃない」

 

「嘘をついてはおらん。だが全部を言っておらん。面倒になるから守る。それはお前のやり方じゃない」

 

「何で俺のやり方がわかるんだ」

 

「目が笑っておらん。本当に面倒だと思っている人間はもっと面倒くさそうな顔をする。お前は面倒だと言いながら真剣だ」

 

俺は黙った。

 

「夏目」

 

大きな妖怪が夏目を見た。

 

「こいつらを信じられるか」

 

夏目は迷わなかった。

 

「はい。太郎さんたちは妖怪を傷つけません。先週も妖怪たちを助けました。僕が保証します」

 

「お前の保証は重い。だがお前一人の保証では足らぬかもしれん」

 

「でしたら皆さんに聞いてください。太郎さんたちと関わって危なかったことがあるかどうか」

 

森が静かになった。

 

数秒して小さな声がした。

 

「ない」

 

「助けてもらった」

 

「怖くない」

 

声が木の陰から草の茂みから社の裏から。それぞれが短く言った。

 

大きな妖怪は頷いた。

 

「わかった。夏目の保証と皆の言葉で信じる。ただし」

 

「ただし」

 

「我々はお前たちの仲間にはならん。八坂の領域にもお前たちの王国にも入らん。ここは我々の土地だ。我々のやり方で守る」

 

「求めてない。王国に入れとは言わない。ただ情報を共有してくれ。敵の動きを知りたい。あんたたちが見たものを教えてくれれば十分だ」

 

「情報共有か。それはできる」

 

大きな妖怪が手を伸ばした。太い指で地面の略図を指差した。

 

「南から入った気配。三日前の夜。我々はそれを追った。町の境界まで。境界で気配が止まった。そして学校の方角へ向かった」

 

「町の境界で止まった」

 

「一度戻ったのだ。何かを確認するように。それから学校の方角へ」

 

「境界に何かあったのか」

 

「跡があった。人間が立った跡。ただし」

 

「ただし」

 

「跡が二種類あった。片方は消えた。片方は残った。残った方は今もある」

 

「今もある」

 

「行けばわかる。町の境界。南側の道の脇」

 

俺は略図に書き足した。町の南側。境界の位置。

 

「もう一つ」

 

大きな妖怪が続けた。

 

「昨夜、気配が動いた。学校の方角から南へ。境界の方角へ。戻ったのかもしれん」

 

「戻った。つまり拠点が南側にある可能性がある」

 

「我々はそこまで追わん。境界より外は我々の土地ではない」

 

「わかった。そこから先は俺たちが調べる」

 

大きな妖怪が頷いた。

 

「夏目。お前が窓口になれ。我々が見たものをこいつらに伝えろ」

 

「はい」

 

「それと一つ」

 

大きな妖怪が俺を見た。

 

「あの子供。影山茂夫。あの子には何も言うな」

 

「言わない。俺たちもそう判断してる」

 

「そうか。ならよい」

 

大きな妖怪は社の裏へ戻っていった。背中が闇に消える。

 

森の中から視線が消えた。妖怪たちがそれぞれの場所へ戻っていく。ざわめきが遠ざかる。

 

「太郎さん」

 

夏目が言った。

 

「ありがとうございます。皆さんに無理をさせなかったこと」

 

「当然だ。俺たちの都合であんたたちを巻き込むつもりはない」

 

夏目は頷いた。安心した顔だ。

 

*  *  *

 

鎮守の森を出て町の南側へ向かった。

 

日が完全に沈んでいた。星が見える。街灯がまばらだ。この辺りは住宅地の端だ。人通りがない。

 

「太郎。境界の位置はここか」

 

絶花が略図を確認しながら歩く。

 

「ああ。この道の脇だ」

 

道の脇に草が生えている。田んぼとの境目。土の盛り土。

 

「あった」

 

絶花がしゃがんだ。草の陰に足跡がある。二種類。

 

一つは浅い。踵が沈んでいない。軽い足跡だ。だがもう一つは深い。しっかりと地面を踏んだ跡。

 

「二種類。大きな妖怪が言った通りだ」

 

「浅い方は消えかけてる。深い方は残ってる」

 

「深い方を見てくれ」

 

俺はしゃがんだ。絶花が天聖を取り出す。

 

「斬るか」

 

「いや。まず観察する」

 

足跡の形。サイズ。成人男性。靴の紋様が残っている。だが一つだけおかしい。

 

「絶花。この足跡、左右で深さが違う」

 

「左が深い。右が浅い」

 

「右足を引きずってるわけじゃない。左足で踏み出して右足を引き寄せてる。立ち止まった跡だ」

 

「立って何かを見てた」

 

「南から町を見てた」

 

俺は立ち上がった。足跡の方角を見る。

 

南から北へ。町の方角だ。

 

「ここに立って町を見てた。それから学校の方角へ向かった。三日前の夜に」

 

「もう一つの浅い足跡は」

 

「別の日だ。浅い。急いでた。戻ってきた時の跡かもしれない」

 

「昨夜戻ったという証言と一致する」

 

俺は略図に書き足した。境界の足跡。二種類。侵入方向と退避方向。

 

「太郎。これ」

 

絶花が足跡の近くの草を指差した。

 

草が折れている。だが自然に折れたんじゃない。何かが置かれて後で回収された跡だ。灌木の際の穴と同じ。

 

「ここにも装置があった」

 

「回収された。敵が気づかれたと思って回収したのか、それとも定期的に回収してるのか」

 

「定期的だと思う」

 

「なぜ」

 

「足跡が二種類ある。来て戻って来て戻った。往復してる。装置を設置して回収してまた設置してる」

 

「巡回監視か」

 

「そう。敵は一箇所に留まってない。町の中と外を往復してる。拠点は境界の外側」

 

「南側の外か。探す範囲が絞れた」

 

「あとまほの転移痕跡分析と合わせれば」

 

俺は空を見上げた。

 

星が多い。月がない。暗い夜だ。

 

「太郎」

 

「何だ」

 

「夏目さん、大丈夫かな」

 

「あいつなら大丈夫だ。妖怪たちがついてる」

 

「そうだね」

 

絶花が天聖を腰に戻した。

 

俺たちは歩き出した。境界から町の方角へ。

 

背後に森の気配が残っている。妖怪たちの気配。

 

独立した集団。八坂の領域の外側。夏目を窓口にした情報共有。

 

俺の王国には入らない。だが敵に対しては同じ方向を向いている。

 

それでいい。全部を味方にする必要はない。同じ方向を向いていれば。

 

「明日、まほの分析結果が出たら南側を探す」

 

「はい」

 

「モブの周辺の監視は夏目に頼んでる。今日の会談で妖怪たちも協力する」

 

「動いた方がいいね」

 

「まだだ。敵が動くのを待つ。こちらから動けば敵も警戒する」

 

「待つのか」

 

「待つのが一番面倒なんだよ」

 

絶花が少しだけ笑った。

 

「それ、本当に面倒だと思ってる顔だね」

 

「うるさい」

 

通学路を歩いた。家々の明かりが灯っている。

 

どこかで空き缶が転がる音がした気がした。だが振り返らなかった。

 

明日、南側を探す。

 

敵の拠点が見つかるかもしれない。

 

見つからないかもしれない。

 

だが必ず見つける。

 

それが俺のやり方だ。面倒だと言いながら、結局最後までやる。

 

それを大きな妖怪には見抜かれた。悔しいが否定できない。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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