サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
放課後のチャイムが鳴った時、俺はもう動いていた。
教室を出る。廊下を歩く。靴を履き替える。昇降口。ベンチの前。監視装置があった場所だ。今はない。だが敵がまた来るならここを通る。
「太郎」
絶花が隣にいた。天聖を腰に戻している。いつでも抜ける。
「モブは」
「まだ教室だよ。荷物をまとめてる」
「迎えに行くぞ」
俺たちは歩き出した。
昇降口から校舎へ戻る。廊下に生徒が少ない。部活に行ったやつらが多い。残っているのは数人。
モブの教室の前で止まった。
中を見た。
モブがいた。机に向かっている。荷物をまとめている。だが遅い。手が止まっている。動かない。
モブの周りで何かが揺れていた。
机の上の教科書。ページがめくれる。風はない。窓は閉まっている。だがページがめくれている。
モブの手が震えている。
昨日から続いている。モブの中の力が揺れている。感情が揺れるたびに周囲の物が動く。
「太郎」
絶花が小声で言った。
「周りに誰もいない」
「ああ。生徒は出た。モブだけだ」
「入れ替わる?」
「いや。ここで待つ。モブが出たら横につく」
俺は教室のドアの陰に立った。絶花が反対側に回る。モブは気づいていない。
モブが立ち上がった。荷物を持つ。鞄を背負う。
教室を出た。
廊下を歩く。俺と絶花が前後からつく。モブは気づいていない。自分の中の不安で精一杯だ。
昇降口。靴を履き替える。
外に出た。
夕方の校庭。日が傾いている。影が長い。人通りが減っている。
モブが校門に向かって歩き出した。
俺たちがつく。距離を五メートル。
校門を通過した。
ふいに「影山茂夫くんかな」
声がした。
校門の外。通学路の角。黒いワゴン車が停まっている。ワゴン車のそばに二人。男。スーツ。顔が見えない。夕日が逆光で隠している。
モブが止まった。
「はい。そうですけど」
「ちょっとお話があるんだ。先生から頼まれて」
「先生から」
「うん。進学のことでね。車まで来てくれるかな」
モブが躊躇した。一歩下がった。
俺も動いた。
「待て」
俺が前に出た。絶花が反対側から回る。
男が俺を見た。
「君は」
「俺はこいつの友人だ。先生からの話なら俺が聞く」
男の目が変わった。穏やかな顔から一瞬で計算する目になった。
「友人じゃないと聞いてるけどね」
「俺が友人だって言ってるんだ」
「そう。じゃあ君も一緒に来てもらおうかな」
男が手を上げた。
その手から光が放たれた。
術式だ。黒紫色。一週間前の魔術炉と同じ色。
光が俺の足元を薙いだ。避ける。だが足元の地面が揺らぐ。術式が地面を軟化させた。バランスを崩す。
「太郎!」
絶花が飛んだ。天聖を抜く。金色の粒子が散る。
だが二人目の男が絶花の前に立った。絶花の進路を塞ぐ。手から同じ黒紫色の光。
「邪魔しないで」
男の声が冷たい。
絶花が天聖を振る。光を斬る。パリン。砕ける。だが男は下がらない。もう一発。もう一発。連続で術式を放つ。絶花が斬り続ける。だの足が止まった。
「絶花!」
俺は地面から立ち上がった。足元の軟化が解けている。だが時間がかかった。三秒。その三秒で。
モブが叫んだ。
「やめて!」
声が響いた。
同時にモブの周囲の空気が変わった。
校門の鉄枠が鳴った。ガタガタと。通学路の空き缶が跳ねた。看板の紙がめくれた。ワゴン車のミラーが揺れた。
全部一斉に。
モブの感情が爆発した。恐怖が力を引き出した。
空き缶が浮いた。
地面から十センチ。浮いている。浮遊している。
モブの周囲の小石が浮いた。砂が舞った。
「何だこれ」
男が一歩下がった。だがすぐに体勢を直した。
「いい反応だ。予想以上だ」
男が手を上げた。黒紫色の光がモブを包む。拘束術式。モブの体が固まる。動けない。力が止まる。浮いた小石が落ちた。
「離せ!」
モブが叫んだ。だが体が動かない。拘束されている。
「取った」
男がモブの腕を掴んだ。もう一人の男が絶花との戦いを切り上げてワゴン車の後部ドアを開けた。
「絶花!そっち!」
俺が叫んだ。絶花が飛んだ。天聖で男を斬り払う。男が後ろへ吹き飛ぶ。だがその間にモブがワゴン車へ押し込まれた。
ドアが閉まった。
ワゴン車が動いた。
エンジン音が響く。タイヤが道路を噛む音。
「待て!」
俺が走った。ゼロの力を右腕へ集める。光の刃を形成する。ワゴン車の後輪を狙う。
だが。
目の前に何かが落ちた。
煙だ。白い煙が視界を塞ぐ。術式だ。陽動。
「くそっ!」
煙を斬り払う。ゼロの力で衝撃波を放つ。煙が晴れる。
だがワゴン車はもういない。
通学路の先。角を曲がって消えた。
「太郎!」
絶花が追ってきた。息が上がっている。
「追うぞ」
「うん」
俺たちは走った。
通学路を。角を曲がる。
ワゴン車のタイヤ痕が残っていた。急発進の跡。アスファルトに黒い線。
タイヤ痕を追う。
次の角。右へ。次の交差点。左へ。
タイヤ痕が途切れた。
「ここで消えた」
絶花がしゃがんで路面を見た。
「術式の痕跡がある。転移じゃない。光学迷彩か」
「見えなくしたのか」
「一定速度以上で走ると術式が起動して車体が見えなくなる。そんな仕組み」
「追跡が難しいな」
「でもタイヤ痕は残る。光学迷彩は視覚を消すだけで物理的な痕跡は消せない」
俺はタイヤ痕を見た。途切れた場所から先。微かだが痕跡が続いている。
「絶花。お前はタイヤ痕を追え。俺は夏目に連絡する」
「わかった」
絶花が走り出した。タイヤ痕を追って。
俺は念話を飛ばした。
「夏目」
『太郎さん』
『モブが連れ去られた。黒いワゴン車。二人組。黒紫色の術式を使う。通学路から南へ抜けた』
『南へ』
『ああ。敵は町の外へ向かってる。妖怪たちに頼めないか。目撃情報を集めてくれ』
『すぐに聞きます。待ってください』
念話が切れた。
俺は走り出した。絶花を追って。
* * *
通学路の南端。町の境界。
絶花が立っていた。タイヤ痕の終点だ。
「ここで完全に消えた」
「境界の外へ出た」
「はい。術式の効果範囲が町の中だけだとすれば、境界を出た時点で光学迷彩が切れる。でも切れた跡がない」
「切れても見えなかったのか」
「速度が速すぎた。境界を出た瞬間に既に遠い」
俺は境界を見た。
南側の道。田んぼの脇。さっき大きな妖怪が足跡を見せてくれた場所。
足跡がまだある。だがその上にタイヤ痕が重なっていた。
「敵はここを通った。前回も今回も」
「境界が侵入経路だ」
「ああ。南から入って南から出る。拠点は南側の外にある」
『太郎さん』
夏目の念話が届いた。
『情報が来ました』
「話せ」
『三つの目撃情報です。一つ目。通学路の南側で黒いワゴン車が走った。二つ目。町境の道で同じ車が速度を上げた。三つ目』
夏目の声が少し低くなった。
『三つ目。町の外、南へ五キロの地点で車が止まった。倉庫のような建物の前で。妖怪が見ています』
「五キロ」
『はい。そこから先は妖怪たちの土地ではない。追えませんでした』
「わかった。十分だ」
俺は絶花を見た。
「五キロ南。倉庫」
「行くの」
「今は行かない」
絶花が俺を見た。
「なぜ」
「敵はモブを生け捕りにした。殺すつもりなら今ここで殺してる。生け捕りなら時間がある。だの急げば敵も対処する」
「じゃあ何を待つの」
「仲間を集める。まほ、あんな、ソラ、スレッタ。全員だ」
俺は盤面を展開した。黒と金の升目。五つの光点。
「全員呼ぶ。救出作戦を組む」
絶花が頷った。天聖を腰に戻す。
「太郎。モブ大丈夫かな」
「大丈夫だ。あいつは強い。まだ気づいてないだけだ」
「強い」
「ああ。あの力が目覚めたら敵なんて怖くない。今はまだ制御できないだけだ」
俺は南の空を見た。
五キロ先。倉庫。モブがいる。
「待ってろ。今行く」
夜の空に星が出ていた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王