サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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目覚める念能力 Part8

倉庫は町の南へ五キロ離れた廃道の脇にあった。

 

鉄筋コンクリートの箱。窓がない。入り口は鉄扉一枚。周囲に街灯がない。月も出ていない。闇の中に四角い影が浮んでいるだけだ。

 

五人で来た。絶花、まほ、あんな、ソラ。夏目は妖怪たちを連れて別の経路から回っている。

 

「太郎。正面の扉は私が開ける」

 

まほが弓を構えた。左手だけ。右肩の包帯はまだ白い。だの引ける。

 

「頼む。俺と絶花が中へ入ったらあんなとソラは外の監視を頼む」

 

「了解」

 

「わかったよ」

 

あんなとソラが倉庫の両翼へ散る。術式の感知と退路の確保だ。

 

「行くぞ」

 

まほの矢が放たれた。

 

矢は鉄扉に当たる前に光に変わった。衝撃波。ドガンという音が夜に響く。鉄扉が内側へ弾け飛ぶ。蝶番が砕ける。

 

俺と絶花が飛び込んだ。

 

倉庫の中は広かった。天井が高い。コンクリートの壁。照明は上の蛍光灯が数本。だの半分が点いていない。暗い。

 

通路があった。左右に分かれる。左は搬入口。右は奥の部屋へ続く廊下。

 

「右だ」

 

俺が走る。絶花が続く。

 

廊下は狭い。壁にパイプが走っている。足元はコンクリート。冷たい空気。

 

十メートル進んだところで敵が出た。

 

二人。黒いスーツ。校門でモブを連れ去ったやつらだ。

 

「来たか」

 

手前にいた男が手を上げた。黒紫色の光が放たれる。俺は右腕で防ぐ。ゼロの力を展開する。光が弾ける。

 

「絶花!奥へ!」

 

「はい!」

 

絶花が俺の横をすり抜けた。天聖を抜いている。金色の粒子が廊下に散る。

 

「止めろ」

 

奥の男が動いた。絶花の進路を塞ぐ。

 

だの俺が前に出た。

 

ゼロスラッガーを両手に構える。男の術式を斬り払う。黒紫色の光が砕ける。

 

「絶花、行け!」

 

「太郎!」

 

「俺はこいつらを止める。お前がモブを見つけろ」

 

絶花は一瞬迷った。だの頷いて走った。奥の男を天聖で払いながら突破する。男が吹き飛ぶ。絶花が廊下の奥へ消える。

 

俺は二人の男と向き合った。

 

「お前らの目的は何だ」

 

「目的は一つだ。あの子供の力を測ること」

 

手前の男が答えた。声が冷静だ。

 

「測る」

 

「あの子供が持つ潛在能力は計り知れない。我々はそれを記録している。兵器としても魔力源としても利用可能だ」

 

「モブは道具じゃない」

 

「感情で語るな。これは研究だ」

 

「研究だと」

 

俺はゼロスラッガーを振った。男の足元を斬る。コンクリートが割れる。男が跳んで退く。

 

「研究なら被験者の同意が必要だろ。お前らは拉致した」

 

「同意は不要だ。あの子供は自分の力を理解していない。理解していない人間に選択権はない」

 

「ふざけるな」

 

俺は飛び込んだ。ゼロスラッガーで男の術式を斬り払う。もう一人の男が横から攻撃を入れる。黒紫色の光弾。俺は体をひねって避ける。肩を掠める。熱い。だの止まらない。

 

「太郎さん!奥の部屋を見つけました!」

 

絶花の念話が届く。

 

「モブは」

 

『います。拘束されてます。でも』

 

絶花の声が途切れた。

 

『何か起きてます。部屋の中が揺れてます』

 

俺は男を蹴り飛ばした。ゼロの力で体を強化している。駒の力で速度と衝撃は出せる。男が壁へ叩きつけられる。

 

もう一人の男が俺の背後から術式を放つ。避ける間がない。背中に衝撃。痛い。だの倒れない。

 

「太郎さん!」

 

夏目の声が聞こえた。外からだ。倉庫の壁の向こうから。

 

「夏目、中に入ったか」

 

『はい。妖怪たちが別の入り口を見つけました。搬入口から入ってます』

 

「モブの部屋へ向かえ」

 

『向かってます。でも』

 

夏目の声が途切れた。

 

『揺れが激しいです。廊下の壁が震えてます』

 

俺は廊下の奥へ走った。男たちを無視して。追ってきても構わない。モブの方が先だ。

 

廊下の奥。扉があった。鉄の扉。だが歪んでいる。内側から押されている。

 

「絶花」

 

「ここです」

 

絶花が扉の前に立っていた。天聖を構えている。だの斬っていない。中の様子を見ている。

 

「何が起きてる」

 

「見てください」

 

絶花が扉を開けた。

 

部屋は十畘ほどだった。コンクリートの壁。天井の蛍光灯。だの蛍光灯が点滅している。明滅している。一定じゃない。速い。

 

部屋の中央に椅子があった。モブが座っている。手足を拘束具で固定されている。金属のバンドが腕と脚を押さえている。

 

モブの周囲で物が浮いていた。

 

机が浮いている。観測装置と思われる機器が床から五センチ浮いている。椅子の脚が地面から離れかけている。

 

モブの顔が見えた。

 

目が開いている。だの焦点が合っていない。何かを見ている。だのこの部屋にあるものを見ていない。

 

「僕が」

 

モブの声が震えていた。

 

「僕がやってるんです。僕の力で。また誰かを」

 

「影山」

 

俺が声をかけた。

 

モブは反応しなかった。聞こえていない。自分の中の恐怖に閉じこもっている。

 

「僕の力で誰かを傷つける。また。また」

 

「影山!聞こえるか!」

 

俺の声が届かない。モブの意識が遠い。

 

拘束具が軋んだ。金属が悲鳴を上げる音。バンドが歪んでいる。モブの力が拘束具を押している。

 

観測装置が浮き上がった。一メートル。天井に近づく。

 

蛍光灯が割れた。パリン。一本。二本。ガラスの破片が降る。

 

「太郎さん壁が」

 

絶花が壁を見た。

 

コンクリートの壁に亀裂が走っている。天井から床へ。幅が広がっている。

 

「まずい。このままじゃ倉庫ごと崩れる」

 

俺はモブに近づいた。だの近づけない。モブの周囲の空気が重い。見えない壁みたいに俺を押し返す。

 

「影山」

 

声をかける。届かない。

 

「影山茂夫」

 

名前を呼ぶ。

 

「モブ」

 

呼び名で呼ぶ。

 

モブの目が動いた。微かだ。だの動いた。

 

「誰か」

 

「俺だ。太郎だ」

 

「たろう…さん」

 

「ああ。俺だ。聞こえるか」

 

「唯我さん。僕、僕」

 

「わかってる。お前がやってるんじゃない。お前の力が勝手に動いてるだけだ」

 

「でも僕の力です。僕の中にある力が」

 

「なら止められる。お前の力だろ。お前のものだろ」

 

「止められない。怖くて。怖くて止められない」

 

モブの声が震えた。拘束具がまた軋んだ。机が天井にぶつかりそうだ。

 

「影山くん」

 

絶花の声が加わった。

 

「私も怖いことあるよ。自分の剣が人を斬るのが怖い時もある。でも使える。怖くても使える」

 

「宮本さん」

 

「怖いのは当たり前。怖いのにやるのが強さだよ」

 

モブの目が絶花を向いた。桃色の瞳と青緑の瞳が合う。

 

「太郎さん!聞こえますか!」

 

夏目の声が廊下から届いた。

 

「夏目」

 

「搬入口から中に入りました。モブの部屋の外にいます。壁越しに声が届きそうです」

 

「頼む」

 

「影山くん。僕の名前は夏目貴志です。まだ会ったことないけど」

 

夏目の声が壁越しに響いた。モブの目が扉の方を向く。

 

「僕は妖怪と話をする人間です。妖怪も怖いんだよ。人間に怯えてる。でも話せばわかる。怖いものと話せばわかる。君の力もそうだ。怖いけど君の力なら話せるはずだ」

 

「夏目…さん」

 

「君の力は君の敵じゃない。君の味方だ。怖いけど味方なんだ」

 

モブの目が動いた。三人の声を追っている。俺。絶花。夏目。三つの方向から。

 

浮いていた机が下がった。十センチ。二十センチ。

 

観測装置が下がった。

 

拘束具の軋みが小さくなった。

 

壁の亀裂が広がる速度が遅くなった。

 

止まっていない。だの遅くなった。

 

「影山。お前は一人じゃない。俺たちがいる。お前の力が暴走しても俺たちが止める。だから怖がるな」

 

「唯我さん」

 

「お前は俺の友人だ。友人を怖がらせて放置する王はいない」

 

「王」

 

「ああ。俺は王になる男だ。お前は俺の友人だ。だから守る。理由はそれだけだ」

 

モブの目から涙が落ちた。

 

だの力は止まらなかった。机がまた浮き上がる。だの前より低い。天井には届かない。

 

「止められないんです。でも」

 

「でも」

 

「皆さんの声は聞こえます。聞こえるから。少しだけ」

 

少しだけ。

 

モブの手が握りしめられた。拘束具の中で。握りしめた。

 

浮いていたものが落ちた。

 

机が床に落ちた。観測装置が落ちた。音が響く。だの壊れない。

 

蛍光灯の明滅が遅くなった。

 

「落ち着いてきたか」

 

絶花が天聖を納めた。剣をしまう。戦う必要がなくなった。

 

「まだ完全じゃない。だの」

 

俺はモブの拘束具を見た。バンドが歪んでいる。だの外れてはいない。

 

「影山。この拘束具を外すぞ」

 

「はい。でも僕の力で」

 

「お前が怖がらなきゃ暴走しない。今は怖がってるか」

 

「怖いです。でも」

 

「でも」

 

「皆さんがいるから。少しだけ。怖くないです」

 

俺は拘束具に手をかけた。ゼロの力で金属を切断する。バンドが砕ける。右腕。左腕。右脚。左脚。

 

モブが立ち上がった。ふらついている。だの立っている。

 

「大丈夫か」

 

「はい。大丈夫です。たぶん」

 

「たぶんでいい」

 

俺はモブの肩を掴んだ。支える。

 

「太郎さん!廊下の敵が動いてます」

 

まほの念話が届く。

 

「外からもう一人来た。援軍か」

 

「人数は」

 

『三人。中にいた二人と外から一人』

 

「わかった。絶花、モブを頼む」

 

「太郎」

 

「俺が敵を止める。お前がモブを連れて出ろ」

 

「でも」

 

「行け。早く」

 

絶花がモブの手を取った。

 

「影山くん。行こう」

 

「はい」

 

二人が部屋を出る。廊下を走る。搬入口の方角へ。夏目が向こう側で待っているはずだ。

 

俺は廊下に立った。

 

三人の男が並んでいた。スーツ。無表情。手から黒紫色の光。

 

「被験者を逃がすな」

 

「被験者じゃない。あいつは俺の友人だ」

 

俺はゼロスラッガーを構えた。

 

「友人を返してもらう」

 

夜がまだ長い。だの終わりは近い。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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