サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
倉庫は町の南へ五キロ離れた廃道の脇にあった。
鉄筋コンクリートの箱。窓がない。入り口は鉄扉一枚。周囲に街灯がない。月も出ていない。闇の中に四角い影が浮んでいるだけだ。
五人で来た。絶花、まほ、あんな、ソラ。夏目は妖怪たちを連れて別の経路から回っている。
「太郎。正面の扉は私が開ける」
まほが弓を構えた。左手だけ。右肩の包帯はまだ白い。だの引ける。
「頼む。俺と絶花が中へ入ったらあんなとソラは外の監視を頼む」
「了解」
「わかったよ」
あんなとソラが倉庫の両翼へ散る。術式の感知と退路の確保だ。
「行くぞ」
まほの矢が放たれた。
矢は鉄扉に当たる前に光に変わった。衝撃波。ドガンという音が夜に響く。鉄扉が内側へ弾け飛ぶ。蝶番が砕ける。
俺と絶花が飛び込んだ。
倉庫の中は広かった。天井が高い。コンクリートの壁。照明は上の蛍光灯が数本。だの半分が点いていない。暗い。
通路があった。左右に分かれる。左は搬入口。右は奥の部屋へ続く廊下。
「右だ」
俺が走る。絶花が続く。
廊下は狭い。壁にパイプが走っている。足元はコンクリート。冷たい空気。
十メートル進んだところで敵が出た。
二人。黒いスーツ。校門でモブを連れ去ったやつらだ。
「来たか」
手前にいた男が手を上げた。黒紫色の光が放たれる。俺は右腕で防ぐ。ゼロの力を展開する。光が弾ける。
「絶花!奥へ!」
「はい!」
絶花が俺の横をすり抜けた。天聖を抜いている。金色の粒子が廊下に散る。
「止めろ」
奥の男が動いた。絶花の進路を塞ぐ。
だの俺が前に出た。
ゼロスラッガーを両手に構える。男の術式を斬り払う。黒紫色の光が砕ける。
「絶花、行け!」
「太郎!」
「俺はこいつらを止める。お前がモブを見つけろ」
絶花は一瞬迷った。だの頷いて走った。奥の男を天聖で払いながら突破する。男が吹き飛ぶ。絶花が廊下の奥へ消える。
俺は二人の男と向き合った。
「お前らの目的は何だ」
「目的は一つだ。あの子供の力を測ること」
手前の男が答えた。声が冷静だ。
「測る」
「あの子供が持つ潛在能力は計り知れない。我々はそれを記録している。兵器としても魔力源としても利用可能だ」
「モブは道具じゃない」
「感情で語るな。これは研究だ」
「研究だと」
俺はゼロスラッガーを振った。男の足元を斬る。コンクリートが割れる。男が跳んで退く。
「研究なら被験者の同意が必要だろ。お前らは拉致した」
「同意は不要だ。あの子供は自分の力を理解していない。理解していない人間に選択権はない」
「ふざけるな」
俺は飛び込んだ。ゼロスラッガーで男の術式を斬り払う。もう一人の男が横から攻撃を入れる。黒紫色の光弾。俺は体をひねって避ける。肩を掠める。熱い。だの止まらない。
「太郎さん!奥の部屋を見つけました!」
絶花の念話が届く。
「モブは」
『います。拘束されてます。でも』
絶花の声が途切れた。
『何か起きてます。部屋の中が揺れてます』
俺は男を蹴り飛ばした。ゼロの力で体を強化している。駒の力で速度と衝撃は出せる。男が壁へ叩きつけられる。
もう一人の男が俺の背後から術式を放つ。避ける間がない。背中に衝撃。痛い。だの倒れない。
「太郎さん!」
夏目の声が聞こえた。外からだ。倉庫の壁の向こうから。
「夏目、中に入ったか」
『はい。妖怪たちが別の入り口を見つけました。搬入口から入ってます』
「モブの部屋へ向かえ」
『向かってます。でも』
夏目の声が途切れた。
『揺れが激しいです。廊下の壁が震えてます』
俺は廊下の奥へ走った。男たちを無視して。追ってきても構わない。モブの方が先だ。
廊下の奥。扉があった。鉄の扉。だが歪んでいる。内側から押されている。
「絶花」
「ここです」
絶花が扉の前に立っていた。天聖を構えている。だの斬っていない。中の様子を見ている。
「何が起きてる」
「見てください」
絶花が扉を開けた。
部屋は十畘ほどだった。コンクリートの壁。天井の蛍光灯。だの蛍光灯が点滅している。明滅している。一定じゃない。速い。
部屋の中央に椅子があった。モブが座っている。手足を拘束具で固定されている。金属のバンドが腕と脚を押さえている。
モブの周囲で物が浮いていた。
机が浮いている。観測装置と思われる機器が床から五センチ浮いている。椅子の脚が地面から離れかけている。
モブの顔が見えた。
目が開いている。だの焦点が合っていない。何かを見ている。だのこの部屋にあるものを見ていない。
「僕が」
モブの声が震えていた。
「僕がやってるんです。僕の力で。また誰かを」
「影山」
俺が声をかけた。
モブは反応しなかった。聞こえていない。自分の中の恐怖に閉じこもっている。
「僕の力で誰かを傷つける。また。また」
「影山!聞こえるか!」
俺の声が届かない。モブの意識が遠い。
拘束具が軋んだ。金属が悲鳴を上げる音。バンドが歪んでいる。モブの力が拘束具を押している。
観測装置が浮き上がった。一メートル。天井に近づく。
蛍光灯が割れた。パリン。一本。二本。ガラスの破片が降る。
「太郎さん壁が」
絶花が壁を見た。
コンクリートの壁に亀裂が走っている。天井から床へ。幅が広がっている。
「まずい。このままじゃ倉庫ごと崩れる」
俺はモブに近づいた。だの近づけない。モブの周囲の空気が重い。見えない壁みたいに俺を押し返す。
「影山」
声をかける。届かない。
「影山茂夫」
名前を呼ぶ。
「モブ」
呼び名で呼ぶ。
モブの目が動いた。微かだ。だの動いた。
「誰か」
「俺だ。太郎だ」
「たろう…さん」
「ああ。俺だ。聞こえるか」
「唯我さん。僕、僕」
「わかってる。お前がやってるんじゃない。お前の力が勝手に動いてるだけだ」
「でも僕の力です。僕の中にある力が」
「なら止められる。お前の力だろ。お前のものだろ」
「止められない。怖くて。怖くて止められない」
モブの声が震えた。拘束具がまた軋んだ。机が天井にぶつかりそうだ。
「影山くん」
絶花の声が加わった。
「私も怖いことあるよ。自分の剣が人を斬るのが怖い時もある。でも使える。怖くても使える」
「宮本さん」
「怖いのは当たり前。怖いのにやるのが強さだよ」
モブの目が絶花を向いた。桃色の瞳と青緑の瞳が合う。
「太郎さん!聞こえますか!」
夏目の声が廊下から届いた。
「夏目」
「搬入口から中に入りました。モブの部屋の外にいます。壁越しに声が届きそうです」
「頼む」
「影山くん。僕の名前は夏目貴志です。まだ会ったことないけど」
夏目の声が壁越しに響いた。モブの目が扉の方を向く。
「僕は妖怪と話をする人間です。妖怪も怖いんだよ。人間に怯えてる。でも話せばわかる。怖いものと話せばわかる。君の力もそうだ。怖いけど君の力なら話せるはずだ」
「夏目…さん」
「君の力は君の敵じゃない。君の味方だ。怖いけど味方なんだ」
モブの目が動いた。三人の声を追っている。俺。絶花。夏目。三つの方向から。
浮いていた机が下がった。十センチ。二十センチ。
観測装置が下がった。
拘束具の軋みが小さくなった。
壁の亀裂が広がる速度が遅くなった。
止まっていない。だの遅くなった。
「影山。お前は一人じゃない。俺たちがいる。お前の力が暴走しても俺たちが止める。だから怖がるな」
「唯我さん」
「お前は俺の友人だ。友人を怖がらせて放置する王はいない」
「王」
「ああ。俺は王になる男だ。お前は俺の友人だ。だから守る。理由はそれだけだ」
モブの目から涙が落ちた。
だの力は止まらなかった。机がまた浮き上がる。だの前より低い。天井には届かない。
「止められないんです。でも」
「でも」
「皆さんの声は聞こえます。聞こえるから。少しだけ」
少しだけ。
モブの手が握りしめられた。拘束具の中で。握りしめた。
浮いていたものが落ちた。
机が床に落ちた。観測装置が落ちた。音が響く。だの壊れない。
蛍光灯の明滅が遅くなった。
「落ち着いてきたか」
絶花が天聖を納めた。剣をしまう。戦う必要がなくなった。
「まだ完全じゃない。だの」
俺はモブの拘束具を見た。バンドが歪んでいる。だの外れてはいない。
「影山。この拘束具を外すぞ」
「はい。でも僕の力で」
「お前が怖がらなきゃ暴走しない。今は怖がってるか」
「怖いです。でも」
「でも」
「皆さんがいるから。少しだけ。怖くないです」
俺は拘束具に手をかけた。ゼロの力で金属を切断する。バンドが砕ける。右腕。左腕。右脚。左脚。
モブが立ち上がった。ふらついている。だの立っている。
「大丈夫か」
「はい。大丈夫です。たぶん」
「たぶんでいい」
俺はモブの肩を掴んだ。支える。
「太郎さん!廊下の敵が動いてます」
まほの念話が届く。
「外からもう一人来た。援軍か」
「人数は」
『三人。中にいた二人と外から一人』
「わかった。絶花、モブを頼む」
「太郎」
「俺が敵を止める。お前がモブを連れて出ろ」
「でも」
「行け。早く」
絶花がモブの手を取った。
「影山くん。行こう」
「はい」
二人が部屋を出る。廊下を走る。搬入口の方角へ。夏目が向こう側で待っているはずだ。
俺は廊下に立った。
三人の男が並んでいた。スーツ。無表情。手から黒紫色の光。
「被験者を逃がすな」
「被験者じゃない。あいつは俺の友人だ」
俺はゼロスラッガーを構えた。
「友人を返してもらう」
夜がまだ長い。だの終わりは近い。
次回の王は
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幻想王