サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
モブを救助してから1週間後。
「遊びに行くぞ、お前ら!」
「えっ!?」「なっなんですか」
俺は、夏目とモブに対して、腕を組みながらも、堂々と宣言した。
「いきなり、どうしたんだよ、太郎」
夏目は、その言葉に対しての返答としては、眉を寄せながらも呟く。
モブは首を傾げる。
「その、一つ質問良いですか」
「なんだ?」
「遊ぶって、どんな遊びですか」
「・・・」
モブの言葉に対して、俺は腕を組みながら、空を見上げる。
そうして、一分程度黙った後。
「考えてない!」
「考えてないのかよ!?」
俺の言葉を聞いた瞬間、夏目は思わず叫んだ。
「考えなくてどうするんだよ!」
夏目が叫んだ。珍しく声が大きい。普段は控えめな人間なのに、企画力のなさに限界が来たらしい。
「いや、遊びに行くって言うのは浮かんだ。何をするかまでは浮かばなかった」
「順番が逆だろ」
「王は大局を見るんだ。細かい予定は家臣が組むものだろ」
「僕は家臣じゃないし、影山くんも違うよ」
「じゃあ三人で決めるか」
「それがいいです」
モブが小さく頷く。
俺はポケットから携帯を取り出した。メモを開く。指で打ち始める。
「待ち合わせは午前十時。駅前。移動は徒歩。商店街を北から南へ回ってゲームセンターで昼前まで遊ぶ。昼は商店街の定食屋。午後は——」
「太郎、そこまで決めなくても大丈夫だよ」
夏目が遠慮がちに割って入る。
「でも予定がないと迷うだろ」
「迷うのも楽しいところあるんじゃないかな」
「楽しいか?」
「楽しいです」
モブが言った。静かに。だが確信を持って。
「…わかった。予定は午前十時に駅前だけにする。残りは現地で決める」
「それでいいです」
モブが画面を覗き込む。打ち込んだ予定を一つずつ目で追っている。
「午前十時。駅前。徒歩。商店街。了解しました」
「そこまで確認しなくていい」
* * *
翌日。駅前に集合した。
夏目は五分早く来ていた。モブは三十分早く来ていた。俺は時間通りに来た。
「早すぎだろお前ら」
「帰りのバスの時間が合わなくて。一本前のに乗りました」
「座れたからいいけど」
「座れました」
モブが真顔で答える。冗談じゃない。本当に座れただけで満足している。
商店街へ歩いた。
三並び。俺が真ん中。夏目が左。モブが右。
「何からやる」
「太郎の好きなものでいいよ」
「いや、夏目のお前の好きなものでいい」
「僕は何でもいいから」
「何でもいいって言うのが一番困る」
「じゃあ太郎、食べたいものある?」
夏目が柔らかく聞いた。
「肉」
「肉」
「肉だな」
即答した。朝から肉が食べたい。王は肉を食う。
「じゃあお肉のお店探そうか」
「その前にゲームセンター寄っていいですか」
モブが言った。目が微妙に輝いている。
「ゲームか。やるか」
「やってもいいです。やりたいです」
「やりたいんだな」
「はい。あまりやったことないんですけど」
「初心者か」
「初心者です」
ゲームセンターに入った。
三人大きな音の中へ入る。電子音がうるさい。格闘ゲームのボタン連打。UFOキャッチャーの音楽。太鼓のドラムロール。
「何やる」
「これ」
モブが指差した。シューティングゲームだ。二人乗り。
「二人用か。じゃあ俺とモブでやる。夏目は見ててくれ」
「いいよ。応援する」
モブと並んで座った。百円を入れる。スタート。
敵が出てくる。弾幕。俺は避ける。避ける。避ける。
一機落ちた。
二機落ちた。
三機落ちた。
「難しいな」
「難しいです」
モブも落ちていた。だがモブの方が長く持っていた。
「影山、お前うまいな」
「パターンが見えます。あの敵は左から来るから右で待てばいいです」
「パターン…」
次は夏目と交代した。夏目はレースゲームを選んだ。一周回って最下位だった。
「夏目、お前運転へたか」
「ゲームの運転と実際の運転は違うから」
「ゲームでもへただと実際もへそうだろ」
「ひどいよ」
笑いが出た。三人で笑った。予定通りに進んでいない。だがそれが良かった。
* * *
昼は定食屋で肉を食った。
三人で焼肉定食を頼んだ。肉が来る。焼く。食う。
「うまい」
「うまいですね」
「おいしいね」
三人とも肉にかぶりついた。会話が少ない。食うのに集中している。
食った。腹が満足だ。
店を出て商店街を歩いた。
「午後はどうする」
「もう少しぶらぶらしていいですか」
「ぶらぶらか」
「のんびり歩くのも悪くないよ」
三人で歩いた。商店街の端まで出る。人通りが減る。住宅街の境目。静かだ。
夏目が足を止めた。
「太郎」
「何だ」
「今、気配が消えた」
夏目の声が低い。穏やかさが消えている。
「消えたって何が」
「妖怪たちがいなくなった。さっきまで三体ほどついてきた。この辺りにはいつもいる。でも今いない」
俺は周囲を見た。
確かに気配が薄い。いつもなら商店街の端に小さな妖怪の気配がある。だが今はない。
「前から消えたのか」
「さっきの角を曲がってから。気づいた時にはいなかった」
モブが二人の会話を聞いている。顔が強張っている。
「気配が消えたって、何かいるってことですか」
「わからない。でも妖怪たちが逃げたなら何かが来たんだ」
「夏目、一人で行くなよ。俺たちも来る」
夏目は一瞬ためらった。いつもなら一人で行く。だが今日は迷った。
「うん。ありがとう。一緒に行こう」
三人で歩いた。商店街の裏へ。人通りが減る。路地が狭くなる。
人気の少ない場所。
そこにいた。
女だ。
路地の奥。退路を塞ぐように立っている。
鍛えられた体。獣の耳が頭の両側に立っている。尾が後ろに垂れている。右目に眼帯。左目が琥珀色。鋭い。
大剣を持っている。身の丈ほどある。刃渡りが長い。片手で持っている。
俺は止まった。二人も止まった。
「お前、誰だ」
女は答えなかった。琥珀色の瞳が俺を捉えている。だが表情がない。殺気もない。だが確かに敵意がある。
「太郎、この人から気配が」
夏目が小声で言った。
「わかってる。妖怪じゃない」
「妖怪じゃないなら何ですか」
モブが後ろに下がりながら聞いた。
「わからない。だが来るぞ」
女が動いた。
速い。大剣を持っているのに速い。三歩で距離が詰まる。
斬撃が来た。
横薙ぎ。大剣が空気を裂く音がする。風圧が顔にかかる。
俺は下がった。ゼロの力を右腕に集める。間に合った。だが間に合ったのはゼロの力のおかげだ。人間の反射神経では間に合わない。
二太刀目。縦。上から下。俺は右へ転がる。地面に肩を打つ。コンクリートが削れる音が後ろで響く。
「太郎!」
夏目が叫ぶ。
「下がれ!二人とも下がれ!」
俺は立ち上がりながら叫んだ。女の三太刀目が来る。右から。俺は右腕で受ける。ゼロの力と大剣がぶつかる。衝撃が腕から肩へ走る。重い。刀じゃなくて鉄塊を振ってるみたいだ。
押し返す。だが女は力で押していない。技術で押している。刀の角度が俺の力を逃がしている。まともに受けたのに力が伝わらない。
(剣技が違う)
「退路は」
夏目が叫ぶ。
「右の路地が開いてる。でもあの人の右側を抜けないと」
「無理だ。正面が塞がれてる」
四太刀目。突き。俺は体をひねって避ける。剣先が制服を掠める。裂ける音。熱い。
モブが動いた。
動いていないはずのモブが動いた。モブの周囲の空気が変わる。路地の端にあったダンボール箱が浮いた。
「影山、使うな!」
「でも」
「俺が言った時にだけ使え。今はまだ」
ダンボール箱が落ちた。モブの力が止まった。だが女の動きが一瞬止まった。箱が浮いた瞬間を見たのだ。確認したのだ。
「…超能力か。想定外だ」
女が初めて口を開いた。短い。低い。必要な言葉だけを選ぶ話し方。
「お前、名前は」
俺が聞いた。
女は剣を止めた。一瞬だけ。琥珀色の瞳が俺を捉えた。
「ギレーヌ」
「ギレーヌ?」
まるで聞いた事のない名前に対して、俺が疑問に思っている間にも、彼女は既にその手に持つ刀をゆっくりと構えていた。
同時に、既にその一撃が迫っていた。
「っ!」
咄嗟に俺はモブと夏目を手で後ろに吹き飛ばしながらも、瞬時に下がる。
正直、ゼロの戦闘能力がなければ、避ける事すらできない。
「ほぅ」
ギレーヌは、それを見ると、目を細くする。
「なるほど、確かにただの人間ではないようだな」
次回の王は
-
妖怪王
-
機械王
-
怪獣王
-
幻想王