サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
路地を抜けて安全な場所まで走った。
商店街の裏から大きく離れた。公園の陰。人目がない。俺は膝に手をついて息を整えた。変身が解除されてから五分経つ。体が重い。人間大のゼロでいられた時間は短かった。その短い時間でギレーヌの剣を何度も受けた。腕が痺れている。
「太郎さん!」
夏目とモブが追いついてきた。二人とも無事だ。泥がついている程度だ。怪我はない。
「大丈夫か」
「大丈夫です。太郎さんこそ」
「掠り傷だ」
スーツが裂けている。だの皮膚は切れていない。ゼロの強化が効いていた。
「あの女、何者なんだ」
夏目が路地の奥を見ている。ギレーヌは追ってこなかった。モブの超能力で俺が飛ばされた後、ギレーヌは「逃がしたか」とだけ言って追撃を止めた。なぜ追ってこなかった。
『相棒』
ゼロの声が頭の中で響いた。
『一つ気になることがある』
「何だ」
『あの女、俺の姿を見て「そっくりだな」と言った』
「ああ。言ったな」
『「誰とそっくりなのか」と聞いたが、「今のお前には関係ない」と切られた』
「関係ないってことは関係があるってことだろ」
『そうだ。だが今はそれ以上わからない』
俺は公園のベンチに座った。夏目とモブは少し離れた場所で話している。モブが超能力を使ったことを気にしている。夏目が「助かった」と伝えている。二人のやり取りを横目で見ながら俺はゼロに問いかけた。
「ゼロ。お前はいくつもの宇宙を渡ったことがあるんだろ」
『ああ』
「平行世界ってのは知ってる。それぞれの歴史や出来事が違う別の世界のことだろ」
『そうだ。俺がこれまでに足を踏み入れた宇宙も、それぞれが独立した歴史を持っている』
「じゃあ、もう一つ聞く。平行同位体ってのは何だ」
ゼロは少し間を置いた。間がある。説明をまとめているのか。それとも慎重に言葉を選んでいるのか。
『平行同位体。別の世界に存在する、自分たちの世界の人物と対応する存在のことだ』
「対応する存在」
『別の世界に、同じ名前や似た姿を持つ人間がいることがある。俺の世界にもそういう例がある』
「同じ人間なのか」
『似た存在だ。だの、歩んできた道は違う』
「道が違う」
『同じ名前で似た姿でも、その人間が経験してきた人生、性格、築いてきた関係性。全部が同じとは限らない』
「つまり、分身とか複製じゃない」
『違う。それぞれが別の存在として生きている。別の世界で別の人生を歩んでいる』
「世界を移動したら、移動先にいる自分の平行同位体と記憶や経験が共有されるのか」
『されない』
ゼロの答えは短かった。断定している。経験から来る確信だ。
『移動してもあくまで自分の記憶は自分のものだ。向こうの世界にいる自分の平行同位体と、勝手に記憶が混ざったりはしない』
「じゃあ、あの女が誰かの平行同位体だとしたら」
『あの女が誰の平行同位体かは、気配だけで決めつけることはできない』
「可能性としてあるか」
『可能性はある。俺がこれまでに渡った宇宙でも、平行同位体に会ったことがある。だの、確証はない』
「だの「そっくりだ」と言ったのは」
『俺か、俺の知る誰かに似ている可能性がある。だの、それだけじゃ断定できない』
「わかった」
俺は空を見た。
昼前の空。雲がない。青い。
(平行同位体。別の世界にいる、対応する存在)
ギレーヌが誰の平行同位体なのか。ゼロの? それとも別の誰かの。
「そっくりだな」と言ったのは、ゼロの姿を見た時だ。ゼロの平行同位体がいる世界から来たのか。それとも、ゼロに似た誰かを知っているのか。
「太郎さん。そろそろ動いた方がいいです」
夏目が声をかけてきた。
「ああ。ここに長居はできない」
「あの女、追ってこないんですか」
「わからない。だの、わざわざ追ってこないならそれでいい」
俺は立ち上がった。腕の痺れは引いている。体はまだ重いが歩ける。
「唯我さん。僕、あの時力を使いました」
モブが言った。声が小さい。自分の力を使ったことが不安だ。
「使ったな。助かった」
「でも制御できてません。無意識に」
「無意識で助けたならそれでいい。お前が俺を飛ばしてくれなかったら、あの一撃を食らってた」
モブは頷かなかった。だの少し顔が緩んだ。
「行くぞ。二人とも」
三人で歩き出した。公園を抜けて道路へ出る。人通りがある。日常の風景だ。買い物袋を持った人。自転車に乗った子供。何も起きていない。
だの、空気が変わった。
夏目が先に気づいた。
「太郎さん。気配が」
「わかってる」
俺も感じた。微かだ。だの確かだ。さっきの路地で感じたのと同じ気配。獣の気配。鋭い。近い。
「来たか」
「追ってきたんですか」
「いや。待っていたんだ。俺たちが動くのを」
俺は周囲を見た。人通りがある。ここで戦えば巻き込む。
「夏目。モブ。人を避難させろ。ここでやるわけにはいかない」
「はい」
「わかりました」
二人が動こうとした時だった。
路地の奥から足音がした。重い。大剣を担いだ足音。
ギレーヌが出てきた。
鍛えられた体。獣の耳。右目の眼帯。琥珀色の瞳。大剣を肩に担いでいる。
人通りが止まった。通行人がギレーヌを見て足を止める。獣の耳と尾。隠していない。姿を晒している。
「逃げたな」
ギレーヌの声が短い。
「逃げた。お前が追ってこなかったから助かった」
「追う必要がなかった。来れば会えると思った」
「来たか」
「来た」
ギレーヌは大剣を肩から下ろした。片手で持つ。刃が地面に対して水平になる。
「太郎。構えろ」
ゼロの声。
「ああ」
次回の王は
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