サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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後悔と剣鬼 Part3

路地を抜けて安全な場所まで走った。

 

商店街の裏から大きく離れた。公園の陰。人目がない。俺は膝に手をついて息を整えた。変身が解除されてから五分経つ。体が重い。人間大のゼロでいられた時間は短かった。その短い時間でギレーヌの剣を何度も受けた。腕が痺れている。

 

「太郎さん!」

 

夏目とモブが追いついてきた。二人とも無事だ。泥がついている程度だ。怪我はない。

 

「大丈夫か」

 

「大丈夫です。太郎さんこそ」

 

「掠り傷だ」

 

スーツが裂けている。だの皮膚は切れていない。ゼロの強化が効いていた。

 

「あの女、何者なんだ」

 

夏目が路地の奥を見ている。ギレーヌは追ってこなかった。モブの超能力で俺が飛ばされた後、ギレーヌは「逃がしたか」とだけ言って追撃を止めた。なぜ追ってこなかった。

 

『相棒』

 

ゼロの声が頭の中で響いた。

 

『一つ気になることがある』

 

「何だ」

 

『あの女、俺の姿を見て「そっくりだな」と言った』

 

「ああ。言ったな」

 

『「誰とそっくりなのか」と聞いたが、「今のお前には関係ない」と切られた』

 

「関係ないってことは関係があるってことだろ」

 

『そうだ。だが今はそれ以上わからない』

 

俺は公園のベンチに座った。夏目とモブは少し離れた場所で話している。モブが超能力を使ったことを気にしている。夏目が「助かった」と伝えている。二人のやり取りを横目で見ながら俺はゼロに問いかけた。

 

「ゼロ。お前はいくつもの宇宙を渡ったことがあるんだろ」

 

『ああ』

 

「平行世界ってのは知ってる。それぞれの歴史や出来事が違う別の世界のことだろ」

 

『そうだ。俺がこれまでに足を踏み入れた宇宙も、それぞれが独立した歴史を持っている』

 

「じゃあ、もう一つ聞く。平行同位体ってのは何だ」

 

ゼロは少し間を置いた。間がある。説明をまとめているのか。それとも慎重に言葉を選んでいるのか。

 

『平行同位体。別の世界に存在する、自分たちの世界の人物と対応する存在のことだ』

 

「対応する存在」

 

『別の世界に、同じ名前や似た姿を持つ人間がいることがある。俺の世界にもそういう例がある』

 

「同じ人間なのか」

 

『似た存在だ。だの、歩んできた道は違う』

 

「道が違う」

 

『同じ名前で似た姿でも、その人間が経験してきた人生、性格、築いてきた関係性。全部が同じとは限らない』

 

「つまり、分身とか複製じゃない」

 

『違う。それぞれが別の存在として生きている。別の世界で別の人生を歩んでいる』

 

「世界を移動したら、移動先にいる自分の平行同位体と記憶や経験が共有されるのか」

 

『されない』

 

ゼロの答えは短かった。断定している。経験から来る確信だ。

 

『移動してもあくまで自分の記憶は自分のものだ。向こうの世界にいる自分の平行同位体と、勝手に記憶が混ざったりはしない』

 

「じゃあ、あの女が誰かの平行同位体だとしたら」

 

『あの女が誰の平行同位体かは、気配だけで決めつけることはできない』

 

「可能性としてあるか」

 

『可能性はある。俺がこれまでに渡った宇宙でも、平行同位体に会ったことがある。だの、確証はない』

 

「だの「そっくりだ」と言ったのは」

 

『俺か、俺の知る誰かに似ている可能性がある。だの、それだけじゃ断定できない』

 

「わかった」

 

俺は空を見た。

 

昼前の空。雲がない。青い。

 

(平行同位体。別の世界にいる、対応する存在)

 

ギレーヌが誰の平行同位体なのか。ゼロの? それとも別の誰かの。

 

「そっくりだな」と言ったのは、ゼロの姿を見た時だ。ゼロの平行同位体がいる世界から来たのか。それとも、ゼロに似た誰かを知っているのか。

 

「太郎さん。そろそろ動いた方がいいです」

 

夏目が声をかけてきた。

 

「ああ。ここに長居はできない」

 

「あの女、追ってこないんですか」

 

「わからない。だの、わざわざ追ってこないならそれでいい」

 

俺は立ち上がった。腕の痺れは引いている。体はまだ重いが歩ける。

 

「唯我さん。僕、あの時力を使いました」

 

モブが言った。声が小さい。自分の力を使ったことが不安だ。

 

「使ったな。助かった」

 

「でも制御できてません。無意識に」

 

「無意識で助けたならそれでいい。お前が俺を飛ばしてくれなかったら、あの一撃を食らってた」

 

モブは頷かなかった。だの少し顔が緩んだ。

 

「行くぞ。二人とも」

 

三人で歩き出した。公園を抜けて道路へ出る。人通りがある。日常の風景だ。買い物袋を持った人。自転車に乗った子供。何も起きていない。

 

だの、空気が変わった。

 

夏目が先に気づいた。

 

「太郎さん。気配が」

 

「わかってる」

 

俺も感じた。微かだ。だの確かだ。さっきの路地で感じたのと同じ気配。獣の気配。鋭い。近い。

 

「来たか」

 

「追ってきたんですか」

 

「いや。待っていたんだ。俺たちが動くのを」

 

俺は周囲を見た。人通りがある。ここで戦えば巻き込む。

 

「夏目。モブ。人を避難させろ。ここでやるわけにはいかない」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

二人が動こうとした時だった。

 

路地の奥から足音がした。重い。大剣を担いだ足音。

 

ギレーヌが出てきた。

 

鍛えられた体。獣の耳。右目の眼帯。琥珀色の瞳。大剣を肩に担いでいる。

 

人通りが止まった。通行人がギレーヌを見て足を止める。獣の耳と尾。隠していない。姿を晒している。

 

「逃げたな」

 

ギレーヌの声が短い。

 

「逃げた。お前が追ってこなかったから助かった」

 

「追う必要がなかった。来れば会えると思った」

 

「来たか」

 

「来た」

 

ギレーヌは大剣を肩から下ろした。片手で持つ。刃が地面に対して水平になる。

 

「太郎。構えろ」

 

ゼロの声。

 

「ああ」

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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