サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
ギレーヌの踏み込みが見えた時には、もう遅かった。
絶花が横薙ぎに振った天聖を、ギレーヌは自分の剣の腹で受け流す。金属が擦れる音。火花が散る。だが弾かれたのは絶花のほうだ。体勢が半歩ぶん崩れる。
「甘い」
ギレーヌの声は低い。攻撃的な響きじゃない。作業みたいに淡々としている。
絶花は立て直してすぐ打ち込んだ。袈裟斬り。今度は上から。ギレーヌは半歩だけ横へずれて、その軌道の外に出る。まるで最初からそこへ来ると知っていたみたいに。
俺は離れた位置から見ている。王の駒は展開していない。今は家臣へ指示を出す場面じゃない。絶花が一人で向き合っている。
剣と剣がぶつかる。三度。四度。五度。
絶花の太刀筋は速い。速さだけなら、たぶん俺の知っている誰よりも。だがギレーヌは全部受けている。受けた上で、毎回わずかに絶花の重心をずらす。
「力じゃないんだな」
思わず呟いた。隣にいたソラが横目で俺を見る。
「ギレーヌ殿、受けながら相手の軸を殺しています」
「ああ。あれは剣術っていうより、相手の体の使い方を読んでる」
絶花が連撃に切り替えた。左右へ何度も打ち込む。ギレーヌは一歩も下がらない。剣を縦に横に返して、全ての刃を滑らせる。
絶花の呼吸が荒くなってきた。それでも手を止めない。止めないのは、止めたら負けるとわかっているからだ。
ギレーヌが小さく言った。
「悪くない」
絶花の目が鋭くなる。次の瞬間、彼女は今までにない踏み込みをした。体ごと前へ。剣先がギレーヌの喉元を狙う。
ギレーヌの表情が、ほんの少し動いた。
受けなかった。避けた。
そして反撃。
剣が下から跳ね上がる。絶花の天聖を弾き上げ、そのまま胴を狙う。絶花は体を捻って紙一重でかわす。だが着地が乱れた。膝が地面につく。
ギレーヌは追わなかった。剣を下ろして、絶花を見ている。
「あなた、剣を教わったことは」
「……独学です」
絶花が息を切らしながら答える。ギレーヌはしばらく黙っていた。
それから、ふっと笑った。
自然な笑みだった。さっきまでの戦いの緊張を解くような、静かなものだ。
「そう」
ギレーヌは剣を鞘へ収める。絶花はまだ膝をついたまま、彼女を見上げている。
「独学であれを振れるなら、才能がある」
「才能、ですか」
「そう。私の知っている誰かに、よく似た動きをする」
ギレーヌの目が、少しだけ遠くを見た。
絶花は立ち上がる。剣を構え直す。まだやるつもりだ。ギレーヌはそれを見て、また笑った。
「次は、もっと見せて」
俺はその光景を見ながら、思った。
あの笑みは、勝ち誇ったものじゃない。むしろ、何かを思い出して懐かしがっている顔だった。
名前は出なかった。ただギレーヌが絶花の中に誰かを見ていることだけは、俺にもわかった。
巨人が現れた。
山の向こうからではない。境内のすぐ裏手。杉の木をなぎ倒しながら、まるで最初からそこに立っていたみたいに、静かに姿を見せた。
銀色と赤。鋭い目。俺の知っている姿と同じ。
だが違う。
「ダークロプスゼロ」
ゼロの声が頭の中に直接響いた。いつもの軽い調子じゃない。硬い。
『俺をコピーしたロボットだ。見た目は同じでも中身は別物。戦い方も、動きも、全部データで作られてる』
「ロボット?」
『ああ。だが厄介だ。俺の技を全部知ってる。そして』
ダークロプスゼロが動いた。
巨大な腕が伸びる。その先にいるのは絶花じゃない。ギレーヌだ。
ギレーヌは剣を構えたが、巨人の手はそれを無視して彼女の体を掴もうとする。指が影を落とす。ギレーヌが跳ぼうとした瞬間、俺は叫んでいた。
「ギレーヌ!」
届かない。声が届く前に、ダークロプスゼロの指がギレーヌの周囲を取り囲む。
だが。
「邪魔するな」
ギレーヌの声だった。
低い。けれどはっきりと響く。ダークロプスゼロの動きが一瞬止まる。ギレーヌはその隙間を縫って跳び退いた。巨人の指が空を掴む。
ダークロプスゼロの頭が動く。ギレーヌを追う。もう一度手を伸ばす。
俺の体はまだ重かった。さっきまでの戦いで、体力はほとんど残っていない。指先が震えている。立っているだけで精一杯だ。
でも。
「ゼロ」
『ああ』
「行けるか」
『お前が行くんだろうが』
そうだ。俺が行く。
俺は右手を空へ掲げた。体の奥底から何かがせり上がってくる。疲労を押しのけて、熱みたいなものが背骨を駆け上がる。
光が境内を満たした。
「うおおおっ!」
変身した。
視点が変わる。地面が遠くなる。木々が足元へ縮む。俺は巨大な体で境内に立っていた。ウルトラマンゼロの体。銀色と赤。本物の。
ダークロプスゼロが俺を見る。同じ顔が二つ、向かい合う。気持ち悪い。鏡を見ているみたいだ。だが鏡の中の奴は、俺の動きを知っている。
知っていても。
俺は踏み込んだ。
疲労で遅い。でもまっすぐに。ダークロプスゼロが受けようとする。俺はそれを読んでいた。ゼロが教えてくれた。こいつは俺の癖を全部知っている。なら、癖を外せばいい。
俺は右足を振り上げた。ダークロプスゼロの予測は左へ来る動きだった。俺の蹴りは右から。予想の外。
足裏がダークロプスゼロの脇腹に当たる。重い手応え。金属の軋む音。巨人が数歩後退した。
「効いたな」
俺は呟いた。ゼロが笑う。
『上出来だ』
振り返る。絶花が地面に立っている。天聖を握ったまま、俺を見上げていた。小さな体。でも目はしっかりと俺を捉えている。
「絶花!」
声が届く。彼女が頷く。
「こっちは任せろ!」
俺はそう言った。ダークロプスゼロはまだ倒れていない。だがこいつは俺が相手をする。絶花には別のことを任せたい。この場に残る理由はない。
絶花が剣を構え直す。そして叫ぶ。
「うん!御願い!!」
その声を背に、俺は前へ出る。
ダークロプスゼロが体勢を立て直す。同じ顔。同じ色。だが中身は違う。ロボットだ。心がない。だから俺は負けない。
負ける理由がない。
疲れていても、絶花が無事なら。それだけで立っていられる。
俺は拳を握った。光が指の間から漏れる。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王