サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

856 / 856
後悔と剣鬼 Part5

ギレーヌの踏み込みが見えた時には、もう遅かった。

 

絶花が横薙ぎに振った天聖を、ギレーヌは自分の剣の腹で受け流す。金属が擦れる音。火花が散る。だが弾かれたのは絶花のほうだ。体勢が半歩ぶん崩れる。

 

「甘い」

 

ギレーヌの声は低い。攻撃的な響きじゃない。作業みたいに淡々としている。

 

絶花は立て直してすぐ打ち込んだ。袈裟斬り。今度は上から。ギレーヌは半歩だけ横へずれて、その軌道の外に出る。まるで最初からそこへ来ると知っていたみたいに。

 

俺は離れた位置から見ている。王の駒は展開していない。今は家臣へ指示を出す場面じゃない。絶花が一人で向き合っている。

 

剣と剣がぶつかる。三度。四度。五度。

 

絶花の太刀筋は速い。速さだけなら、たぶん俺の知っている誰よりも。だがギレーヌは全部受けている。受けた上で、毎回わずかに絶花の重心をずらす。

 

「力じゃないんだな」

 

思わず呟いた。隣にいたソラが横目で俺を見る。

 

「ギレーヌ殿、受けながら相手の軸を殺しています」

 

「ああ。あれは剣術っていうより、相手の体の使い方を読んでる」

 

絶花が連撃に切り替えた。左右へ何度も打ち込む。ギレーヌは一歩も下がらない。剣を縦に横に返して、全ての刃を滑らせる。

 

絶花の呼吸が荒くなってきた。それでも手を止めない。止めないのは、止めたら負けるとわかっているからだ。

 

ギレーヌが小さく言った。

 

「悪くない」

 

絶花の目が鋭くなる。次の瞬間、彼女は今までにない踏み込みをした。体ごと前へ。剣先がギレーヌの喉元を狙う。

 

ギレーヌの表情が、ほんの少し動いた。

 

受けなかった。避けた。

 

そして反撃。

 

剣が下から跳ね上がる。絶花の天聖を弾き上げ、そのまま胴を狙う。絶花は体を捻って紙一重でかわす。だが着地が乱れた。膝が地面につく。

 

ギレーヌは追わなかった。剣を下ろして、絶花を見ている。

 

「あなた、剣を教わったことは」

 

「……独学です」

 

絶花が息を切らしながら答える。ギレーヌはしばらく黙っていた。

 

それから、ふっと笑った。

 

自然な笑みだった。さっきまでの戦いの緊張を解くような、静かなものだ。

 

「そう」

 

ギレーヌは剣を鞘へ収める。絶花はまだ膝をついたまま、彼女を見上げている。

 

「独学であれを振れるなら、才能がある」

 

「才能、ですか」

 

「そう。私の知っている誰かに、よく似た動きをする」

 

ギレーヌの目が、少しだけ遠くを見た。

 

絶花は立ち上がる。剣を構え直す。まだやるつもりだ。ギレーヌはそれを見て、また笑った。

 

「次は、もっと見せて」

 

俺はその光景を見ながら、思った。

 

あの笑みは、勝ち誇ったものじゃない。むしろ、何かを思い出して懐かしがっている顔だった。

 

名前は出なかった。ただギレーヌが絶花の中に誰かを見ていることだけは、俺にもわかった。

 

巨人が現れた。

 

山の向こうからではない。境内のすぐ裏手。杉の木をなぎ倒しながら、まるで最初からそこに立っていたみたいに、静かに姿を見せた。

 

銀色と赤。鋭い目。俺の知っている姿と同じ。

 

だが違う。

 

「ダークロプスゼロ」

 

ゼロの声が頭の中に直接響いた。いつもの軽い調子じゃない。硬い。

 

『俺をコピーしたロボットだ。見た目は同じでも中身は別物。戦い方も、動きも、全部データで作られてる』

 

「ロボット?」

 

『ああ。だが厄介だ。俺の技を全部知ってる。そして』

 

ダークロプスゼロが動いた。

 

巨大な腕が伸びる。その先にいるのは絶花じゃない。ギレーヌだ。

 

ギレーヌは剣を構えたが、巨人の手はそれを無視して彼女の体を掴もうとする。指が影を落とす。ギレーヌが跳ぼうとした瞬間、俺は叫んでいた。

 

「ギレーヌ!」

 

届かない。声が届く前に、ダークロプスゼロの指がギレーヌの周囲を取り囲む。

 

だが。

 

「邪魔するな」

 

ギレーヌの声だった。

 

低い。けれどはっきりと響く。ダークロプスゼロの動きが一瞬止まる。ギレーヌはその隙間を縫って跳び退いた。巨人の指が空を掴む。

 

ダークロプスゼロの頭が動く。ギレーヌを追う。もう一度手を伸ばす。

 

俺の体はまだ重かった。さっきまでの戦いで、体力はほとんど残っていない。指先が震えている。立っているだけで精一杯だ。

 

でも。

 

「ゼロ」

 

『ああ』

 

「行けるか」

 

『お前が行くんだろうが』

 

そうだ。俺が行く。

 

俺は右手を空へ掲げた。体の奥底から何かがせり上がってくる。疲労を押しのけて、熱みたいなものが背骨を駆け上がる。

 

光が境内を満たした。

 

「うおおおっ!」

 

変身した。

 

視点が変わる。地面が遠くなる。木々が足元へ縮む。俺は巨大な体で境内に立っていた。ウルトラマンゼロの体。銀色と赤。本物の。

 

ダークロプスゼロが俺を見る。同じ顔が二つ、向かい合う。気持ち悪い。鏡を見ているみたいだ。だが鏡の中の奴は、俺の動きを知っている。

 

知っていても。

 

俺は踏み込んだ。

 

疲労で遅い。でもまっすぐに。ダークロプスゼロが受けようとする。俺はそれを読んでいた。ゼロが教えてくれた。こいつは俺の癖を全部知っている。なら、癖を外せばいい。

 

俺は右足を振り上げた。ダークロプスゼロの予測は左へ来る動きだった。俺の蹴りは右から。予想の外。

 

足裏がダークロプスゼロの脇腹に当たる。重い手応え。金属の軋む音。巨人が数歩後退した。

 

「効いたな」

 

俺は呟いた。ゼロが笑う。

 

『上出来だ』

 

振り返る。絶花が地面に立っている。天聖を握ったまま、俺を見上げていた。小さな体。でも目はしっかりと俺を捉えている。

 

「絶花!」

 

声が届く。彼女が頷く。

 

「こっちは任せろ!」

 

俺はそう言った。ダークロプスゼロはまだ倒れていない。だがこいつは俺が相手をする。絶花には別のことを任せたい。この場に残る理由はない。

 

絶花が剣を構え直す。そして叫ぶ。

 

「うん!御願い!!」

 

その声を背に、俺は前へ出る。

 

ダークロプスゼロが体勢を立て直す。同じ顔。同じ色。だが中身は違う。ロボットだ。心がない。だから俺は負けない。

 

負ける理由がない。

 

疲れていても、絶花が無事なら。それだけで立っていられる。

 

俺は拳を握った。光が指の間から漏れる。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

個性、海賊。ヒーロー向きじゃないって?これ以上ない英雄の個性だろ!(作者:紡縁永遠)(原作:僕のヒーローアカデミア)

事の始まりは中国、軽慶市。『発光する赤児が産まれた』というニュースだった。▼ 以降各地で「超常」は発見され、いつしか「超常」は「日常」に、「架空(ゆめ)」は「現実」となった。世界総人口の約八割が何らかの「特異体質」である現在、個性を悪用する敵(ヴィラン)により混乱渦巻く世の中で、かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が、脚光を浴びていた。そう、「ヒーロー」と呼ば…


総合評価:1026/評価:6.12/連載:10話/更新日時:2026年09月21日(月) 00:00 小説情報

呪力は呪力でも呪力かよ!?(作者:パンツ男)(原作:僕のヒーローアカデミア)

事故に遭い、死亡した少年はヒロアカの世界に転生する。▼転生特典は────呪力。▼術式や縛り、黒閃……強力な力でこの世界を生きていくと意気込むも、何かがおかしい……え!?▼呪力(じゅりょく)じゃなくて呪力(しゅりょく)なの!?▼


総合評価:1000/評価:6.9/連載:39話/更新日時:2026年10月14日(水) 07:00 小説情報

ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ(作者:不知火新夜)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

夢は悪夢を、現実を超える。▼これは卵殻(ホワイトルーム)を破り、裏社会を暗躍するエージェントとして誕生(自由を手に)した少年、摂津清隆の成長の物語。


総合評価:68/評価:-.--/連載:16話/更新日時:2026年10月11日(日) 16:30 小説情報

機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re(作者:ボルメテウスさん)(原作:ガンダム)

死んだはずの男は、戦争が「勝者ごと」違う宇宙世紀に落ちていた。▼サイド6で目覚めたランガ・ロードは、存在しない英雄と、塗り替えられた戦史を知る。▼そして何より、失ったはずの幼馴染マチュが“ここでは”生きている事実に触れてしまう。▼この世界の平和は甘く、警備は脆く、裏側には難民と違法競技が根を張っていた。▼ランガは自分の異物性を隠しながら、封印されたペイルライ…


総合評価:586/評価:7.6/完結:123話/更新日時:2026年08月04日(火) 01:30 小説情報

個性「炎」(作者:ドゥルガー)(原作:僕のヒーローアカデミア)

何処にでもあるような個性で、何処にでも居るような少年が夢を追う物語。▼主人公の立ち絵です。▼【挿絵表示】▼


総合評価:526/評価:6.82/連載:30話/更新日時:2026年10月12日(月) 20:43 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>