サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「軽く捻ってやる」
俺はそう言ってから、後悔した。
口が勝手に動いた。ゼロの癖が出た。体がゼロでも中身は俺だ。 dignity とかそういう問題じゃない。かっこつけて負けたら笑いものだ。
だが今は言った以上やるしかない。
踏み込んだ。
右の拳を首元へ。ダークロプスゼロが受ける。左の蹴りを脇腹へ。受け流される。右肘を顔面へ。――当たった。
手応え。金属のそれじゃない。どこか肉に近い衝撃が返ってくる。だが効いている。もう一歩詰められる。
連打に切り替えた。ジャブ、ジャブ、ストレート。ゼロの体術がそのまま動く。速い。速すぎる。俺の意識が追いつく前に体が動く。ゼロと融合しているからこそできる無駄のない連撃。
ダークロプスゼロが後退する。
「効いてるか?」
『油断するな』
ゼロの声。鋭い。次の瞬間、理由を知った。
ダークロプスゼロの装甲が赤く発光した。
低い駆動音。ギーッという金属の唸り。装甲の継ぎ目から赤い光が溢れる。さっきまでの銀と青が、一瞬で朱に染まる。
拳が来た。
防いだ。腕を交差して受けた。だが衝撃が違いすぎる。さっきのダークロプスゼロと同じ質量の拳じゃない。まるで山が動いたみたいな圧が腕をへし折りに来る。
吹き飛んだ。
地面を削りながら十メートル。いや、もっとか。腕が震えている。感覚が薄い。骨にひびが入ったか。ゼロの体でも、これだけの衝撃を受ければ痛む。
『ストロングコロナ』
ゼロが呟く。
『俺の力を真似ている。膂力特化の形態だ。本物ならもっと重いが、模造でも十分に痛い』
「わかりやすい説明だな」
『だろう。だが次だ。来るぞ』
ダークロプスゼロが赤いまま突っ込んでくる。重い。踏み込み一つで地面が揺れる。俺は受ける側に回された。
右の拳を避ける。風圧だけで頬が裂けそうだ。左の体当たりを両腕で止める。足が地面を削る。樹がなぎ倒される音が後ろから聞こえた。
まずい。絶花たちの方へ押されている。
俺は体を捻って間合いを切った。ゼロスラッガー。頭頂の刃を外して投擲する。三発。回転する光刃がダークロプスゼロへ殺到する。
当たる。三発とも胴へ。
だが効いていない。赤い装甲が火花を散らすだけで、本体は微動だにしない。
「硬いな」
『切替えだ』
ゼロの声に被さって、駆動音が変わった。
赤が消える。青が走る。
装甲の継ぎ目から今度は青い光が溢れ出た。さっきまでの重厚な唸りが、高い金属音に変わる。ギーン、と耳の奥に刺さる音。
ダークロプスゼロが消えた。
いや、消えていない。動いた。速すぎて目が追えない。一瞬で左へ。一瞬で背後へ。
「ちっ」
振り返った。だがもう遅い。
光線が来た。連続射出。右から、左から、背後から。模造ルナミラクルの光学武器。軌道が俺の退路を全部塞いでいる。
一発目をかわせた。二発目を腕で弾いた。三発目が脇腹を掠めた。熱。焼けるような熱が肋骨の上を走る。
四発目は避けられなかった。
肩に直撃。光の粒子が散って体がよろめく。倒れかけた。踏みとどまった。だが次の光線がもう来ている。
回避。回避。回避。
反撃の隙がない。青い形態のダークロプスゼロは俺の死角に回り続ける。俺が振り向けばもうそこにいない。光線だけが俺の周囲を取り囲む。
『俺のデータだ』
ゼロが言った。声が震えている。怒りじゃない。悔しさだ。
『俺の過去の戦闘データを取り込んでいる。癖も、動きの傾向も、全部。だからタイプチェンジの能力まで模造できる』
「俺の戦い方を知ってるってことか」
『ああ。お前がどう動くか、ある程度予測できる。今の回避も、予測の上で撃ってる』
ならどうする。
俺は振り返った。ダークロプスゼロが青い光の中に立っている。同じ顔。同じ体。だが目は光らない。機械だ。俺の戦い方を知っている機械。
赤に切り替わった。また駆動音。光が変わる。突っ込んでくる。
受けた。止まらなかった。吹き飛ばされる。また地面を削る。今度は背中から落ちた。胸のカラータイマーが点滅を始める。
「まだだ」
立ち上がった。足が笑えるほど震えている。だが立っている。
ダークロプスゼロは赤いまま近づいてくる。遅い。速い。いつ切り替わるかわからない。俺の拳を知っている。俺の蹴りを知っている。俺の癖を知っている。
だから、まともにやり合えば勝てない。
だが俺は知っている。自分の癖を知っている人間は、自分の癖を壊せる。
壊そうとした。
右を振った。普段ならここで蹴りが来る。来ない。空振り。ダークロプスゼロの予測が一瞬ズレる。だが赤い形態は力が強い。空振りを気にせず拳を叩き込んでくる。
受ける。折れそうになる。腕が熱い。
切り替え。青。光線が来る。避ける。また避ける。当たる。
脇腹。熱。倒れる。立ち上がる。
「ゼロ」
『何だ』
「あいつ、切り替えのタイミングが読めるか」
『難しい。機械の判断だ。感情じゃない。ある一定の条件で切り替えているはずだが、今の戦闘中では――』
言葉が途切れた。赤い拳が来た。俺はかわせなかった。胸を殴られる。空気が漏れる音。カラータイマーの点滅が速くなった。
倒れかけた。踏みとどまった。
だがもう、前に出られない。
赤と青。二つの模造形態が交互に俺を追い詰める。俺は受けて、避けて、また受けて。
打つ手がない。
ダークロプスゼロが赤く光りながら、ゆっくりと拳を振り上げた。
俺は両腕を交叉させる。来い。
だがこれが最後の手じゃないはずだ。まだ何かある。まだ――
拳が降ってくる。
次回の王は
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