サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
今作のギャバン・キング編の太郎達のコラボを予定しています。
こちらの作品もよろしく御願いします。
ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター―
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ダークロプスゼロが爆散した光が晴れた後、俺は真っ先に絶花の方を探した。
いた。
境内の隅で、天聖を構えたままギレーヌと向き合っている。二人の間合いは三歩。互いに動かない。息だけが白く漏れている。絶花の肩が上下に揺れている。かなり消耗している。だが目はまだ死んでいない。あの目は、まだ闘えると言っている。
ギレーヌもまた疲れている。呼吸は静かだが、剣先が微かに震えている。俺はその震えを見て、ああ、この人も人間なんだと思った。当たり前のことだ。でも、あの剣術を見ていると忘れそうになる。
「太郎さん」
ソラが隣に立った。軽装鎧の肩が煤で汚れている。
「あれ、止められませんか」
「止める必要があるか」
「……いえ」
ソラはそれ以上言わなかった。わかっている。あれは決闘だ。誰かが倒れるまで終わらない。俺が口を挟めば絶花の誇りを汚すことになる。
モブと夏目も巨人のまま見ている。変身を解くタイミングを失っているようだ。だが今はそれでいい。
絶花が動いた。
左足を半歩前へ。天聖を中段に構える。二天一流。太刀と小太刀の二刀流。絶花は天聖一本でそれをやっている。もう一本は使わない。使えない。天聖は二本で一振りの剣だ。だから絶花は片手で天聖を操り、もう片方の手は添えるだけ。それでも二天一流の型を崩さない。
ギレーヌが動いた。
踏み込みが速い。絶花の左肩へ向けて剣を振り下ろす。袈裟斬り。単純な一撃。だが速い。速すぎる。絶花は受けた。天聖の腹で受け流す。火花。金属音。絶花の体が半歩下がる。
「甘い」
ギレーヌが言う。絶花は答えない。答えながら剣を返す。今度は絶花が打ち込む。上段から。ギレーヌは横へずれて避ける。絶花の剣が空を切る。だが絶花は止まらない。空振りを利用して体を回す。遠心力で剣を横薙ぎに変える。ギレーヌは後ろへ跳ぶ。剣先がギレーヌの胸元をかすめる。布が裂ける音。
「……今のは」
ギレーヌが呟いた。絶花は構え直す。呼吸を整えている。目が据わっている。あれはもう絶花の目じゃない。剣士の目だ。
「今のは当たったつもりだった」
絶花が言う。声は冷静だ。ギレーヌは微かに笑う。
「そう。当たっていた。だが浅い」
「次は深くする」
「やってみなさい」
また間合いが詰まる。三歩。二歩。一歩。
ギレーヌが先に動いた。今度は速さが違う。踏み込みと同時に三連撃。左から右へ。上から下へ。そして突き。絶花は二撃を避け三撃目を天聖で受ける。突きの衝撃が絶花の腕を伝って体を震わせる。だが絶花は剣を離さない。
「もらった」
ギレーヌが言った。受け止めた天聖の上からさらに押し込む。力比べ。絶花の足が地面を削る。後退する。だが完全には押し込まれない。絶花が体を横へ流した。剣が空を切る。ギレーヌが体勢を崩す。一瞬。ほんの一瞬。絶花はその一瞬を見逃さなかった。
絶花が跳んだ。
「奥義」
声が境内に響く。静かな声だ。だが空気が変わった。俺の肌が粟立つ。何かが来る。そう思った瞬間、絶花の体が低く沈む。
「三番」
天聖が下段に構えられる。重心が限界まで落ちる。
「落花狼藉」
絶花が動いた。
三連撃。いや、四連撃か。目で追えない。天聖が残像を残す。斬撃が空を裂く。ギレーヌは受ける。一撃。二撃。三撃。四撃目でギレーヌの剣が上へ弾かれる。
「ッ」
ギレーヌが息を呑む音が聞こえた。弾かれた剣が宙に舞う。絶花が最後の一撃を振り下ろそうとする。
だが。
ギレーヌは剣を手放さなかった。
弾かれながらも指に引っかかっている。そのまま体を回す。剣が弧を描く。上から下へ。絶花の一撃とギレーヌの一撃が同時に放たれた。
俺には見えなかった。
気づいた時には二人がすれ違っていた。背中合わせ。絶花は天聖を振り切った姿勢のまま。ギレーヌは剣を真っ直ぐ立てたまま。
ギレーヌの剣から光が溢れている。太刀の形をした光。両手で剣先をぶれないように固定して、全ての闘気を一振りに込めた斬撃。あれがギレーヌの必殺。
絶花の天聖も光っている。だがそれは天聖自身の輝きじゃない。絶花の闘気が刀身にまとわりついている。奥義を放ち切った後の残光。
静かだった。
風の音だけが聞こえる。杉の葉が鳴る。誰も動かない。
ギレーヌが膝をついた。
ゆっくりと。片膝から両膝へ。剣を地面に突き立てて体を支えている。呼吸が乱れている。背中が大きく上下する。
「……強い」
ギレーヌが言った。声は掠れている。絶花は答えない。
絶花が倒れた。
糸が切れるように。天聖が手から離れて地面に落ちる。金属の音。絶花の体が崩れる。膝から。横へ。
「絶花!」
俺は走った。巨人のままじゃ入れない。変身を解く。光が弾ける。俺は人間の体で境内を走る。
絶花の体を抱き起こした。目は閉じている。呼吸はある。浅いが確かにある。血は出ていない。だが顔色が悪い。限界まで闘気を使ったんだ。
「絶花!聞こえるか!」
返事はない。
ギレーヌが膝をついたままこちらを見ている。剣を支えにしながら。
「死んではいない」
ギレーヌの声。
「あれだけの闘気を一振りに込めた。意識を手放すのは当然だ。だが命に別状はない」
俺は絶花を抱えたままギレーヌを見た。
「お前が言うか」
「言う。私は勝った。だが殺してはいない」
ギレーヌは立ち上がろうとした。膝が笑っている。だが立った。剣を鞘へ収める。その動作だけは乱れていない。
ギレーヌは俺たちを見ていた。
絶花を抱えた俺と、その俺の目を見ているギレーヌ。剣を鞘に収めた手がまだ震えている。だが目は静かだった。さっきまでの剣士の目じゃない。もう闘う気がない。
「…殺せない」
ギレーヌが呟いた。
声は小さかった。境内の風にさらわれるくらいの声量だ。だが俺の耳には確かに届いた。
「お前たち二人を、殺せない」
言いながらギレーヌは俺と絶花を交互に見た。俺の腕の中で絶花はまだ意識を取り戻していない。呼吸だけが胸を上下させている。
「理想の世界に行くために、あの時の二人を殺せない」
あの時の二人。
ギレーヌは何を言っているんだ。そう思った。だが同時にわかった。ギレーヌの中にある何かが、絶花と俺を見て動いたんだ。剣を振った手が止まった理由がそこにある。
ギレーヌは視線を落とした。地面に突き立てた剣の柄を見つめている。
俺は絶花を抱えたまま立ち上がった。膝が笑う。体が鉛みたいに重い。だが立ち上がった。
「行く場所はあるか」
聞いた。
俺の声は少し掠れていた。戦いの後だからだ。ギレーヌは顔を上げた。目が俺を捉える。
「…ない」
首を横に振る。ゆっくりと。その動作には迷いがなかった。あるのはただ事実を認める静けさだけだ。
行く場所がない。
そこに行くべき場所がない人間が目の前に立っている。剣を振る理由を失って、行き場も失って。
俺は絶花を背中に回した。おんぶみたいに。軽い。この体で俺とギレーヌを相手に戦っていたんだ。改めて凄いと思う。だが今はそれじゃない。
「なら」
俺はギレーヌに向き直った。
「俺の家臣になれ」
ギレーヌの目がわずかに見開かれた。さっきまでの静かな目に何かが差す。何かと聞かれれば答えに困る。だが俺にはわかる。あれは驚きだ。純粋な。
「…家臣だと」
「ああ。家臣だ。俺の下で剣を振れ。行く場所がないなら俺の隣に立て」
言いながら俺は思った。これでいいのか。多分いいんだ。絶花が眠っている背中が温かい。この温かい背中を守るために剣を振る理由があればそれでいい。
ギレーヌは何も言わなかった。
ただ俺を見ていた。
そして、剣を抜いた。
俺は身構えなかった。構える必要がなかった。ギレーヌは剣を鞘に置いた。地面に突き立ててあった鞘へ。カチンと音がする。
「…お前は変わっている」
ギレーヌが言った。
「剣で負かした人間の前に、剣を置く人間はいない」
「俺は剣で負かされたんじゃない。絶花が勝った。俺は関係ない」
「関係ある。お前がここにいた。お前があの巨人になった。お前がその光を持っている。だからあの子は勝てた」
ギレーヌの目が絶花に向けられた。柔らかい目だ。さっきまでの戦いの中にはなかった温度。
「…わかった」
ギレーヌが言った。
短い言葉だった。だがその二文字に何かが詰まっていた。俺には量れなかった。ただ、それが重い言葉だということだけはわかった。
「名乗れ」
俺は言った。
「改めて、名を言え」
ギレーヌは俺を見た。
そして、静かに頭を下げた。
「ギレーヌ。お前の家臣となる」
風が吹いた。杉の葉が鳴った。境内の光がまた少し変わった気がした。
背中の絶花が微かに動いた。起きるかもしれない。だがまだ起きない。もう少しこのままにしておこう。
俺はギレーヌの手を取った。細い手だ。だが剣を握っていた手だ。
次回の王は
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