サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
爆発音がした。
ドォン、という音ではなく。もっと乾いた、空気を叩き割るような音だった。耳が痛い。鼓膜がビリビリと震えている。窓ガラスが揺れた。リビングのシャンデリアがカタカタと鳴る。
「今の」
モブが立ち上がった。椅子がガタンと鳴る。
「外です」
ソラが玄関から声を上げた。警戒を続けていた彼女の耳が、音の方向を正確に捉えている。
「町の南東。空き地の方角です」
「行くぞ」
俺は立ち上がった。腰に王の駒を確認する。杖は手元にある。変身は必要か。まだわからない。だが音の大きさは異常だった。
ギレーヌも立ち上がった。あんなの黒シャツとショートパンツのままだ。だが文句を言っている暇はない。
「ギレーヌ。お前は家に残れ」
「…わかった。だが危険なら呼べ」
「ああ」
絶花も立ち上がった。顔色はまだ悪い。だが止めてもついてくるだろう。
「絶花。お前も」
「行きます」
「…わかった。無理するなよ」
* * *
現場までは走って五分だった。
煙が見えた。土埃が立っている。空き地の方向だ。人通りは少ない場所だが、完全に无人ではない。住宅街の端にある空き地。昔は更地だったが今は雑草が生えた広い空地になっている。
空き地の中心に、煙の柱が立っていた。
周囲を見る。負傷者はいない。近くの塀にひびが入っている。民家の窓ガラスに亀裂。だが割れてはいない。被害は軽微だ。だがあと数十メートルずれていたら塀ごと吹き飛んでいた。
「すごい威力ですね」
ソラが塀のひび割れに手を当てた。指先が震えている。だが恐怖じゃない。感嘆だ。
「人間の魔法でこの規模は珍しいです」
「人間の、か」
俺は呟いた。人間じゃない魔法使いなら知っている。だがこの町で爆発音を立てるような魔法使いは心当たりがない。
空き地の中心に誰かが立っていた。
煙の中に人影。小さい。小柄だ。だが立ち姿は倒れていない。むしろ堂々としている。胸を張っている。杖を地面に突き立てて、まるで勝利者のみたいに立っている。
俺たちは近づいた。
煙が晴れる。
少女だった。
黒髪に赤みが差している。肩くらいまでの長さで、風に揺れている。右目を眼帯で覆っている。左目は赤い。鮮やかな紅だ。黒を基調とした衣装に赤い縁取りのマント。大きなつばの帽子を被っている。帽子も衣装も、どこか舞台役者みたいに装飾が多い。魔法使いだ。それも自分をどう見せるか心得ている。
帽子のつばの下から赤い目が俺たちを捉えた。
少女が動いた。杖を拾い直す。大きなつばの帽子を被り直す。マントを翻す。風がなくても翻っている。投げているんだ。自分で。
そして、立ち上がった。
「我が名はめぐみん!」
声が響いた。空き地に。煙の中に。俺たちの耳に。
「紅魔族の魔法使いなり! 爆裂魔法の使い手なり!」
言い切った。堂々と。何も恥じるところなく。むしろ誇らしげに。
俺は立ち止まった。絶花も。モブも夏目も。ソラもあんなも。
全員が立ち止まって、この小柄な少女を見ている。
「…紅魔族?」
モブが呟いた。聞いたことがある。異種族だ。人間に近いが人間ではない。赤い目と魔導の才能が特徴だ。だなりやすい種族でもある。大げさな言い回しと名前へのこだわりが特徴だと聞いたことがある。
「爆裂魔法、か」
俺は呟いた。爆裂魔法。聞いたことはある。攻撃魔法の中で最高クラスの威力を持つが、使用後は動けなくなるという欠点がある。一発勝負の魔法だ。
「お前がこの爆発を?」
「その通りです!!!」
めぐみんは杖を突き出した。胸を張る。マントが翻る。風はない。
「我が爆裂魔法は全魔法中最強の攻撃力を誇る! 先ほどの爆発は我が魔力のほんの一片なり!」
「ほんの一片でこの威力かよ」
俺は空き地を見た。地面に大きな跡が残っている。直径五メートルほどのクレーターだ。雑草が根こそぎ吹き飛んで、土が黒く焦げている。熱の残滓がまだ地面から立ち昇っている。
「すごいですね」
ソラが素直に言った。めぐみんは嬉しそうだ。帽子のつばの下の赤い目が光る。
「そうでしょ!そうでしょ!!!このっ誰にも負けない威力の爆裂魔法!」
「いや、褒めてない」
俺は言った。
「威力は認める。だがな」
俺は塀を指差した。ひび割れた塀。
「これを見ろ。爆発音が町まで響いた。民家の窓ガラスにひびが入る一歩手前だ」
めぐみんの表情が変わらない。まだ堂々としている。
「人がいない場所を選んだのですが、ここなら被害が出ないと判断しました」
「判断は間違ってない。だが不完全だ」
俺は言った。
「爆発音が町まで響いた。音だけでも人は集まる。お前がいた場所がたまたま空き地でよかった。だが半径がもう少し大きかったらあの塀は抜けていた」
めぐみんは反論しようとした。口を開きかける。だが止まった。俺の目を見ている。
「…場所は選んだ」
「選んだので、足りませんが」
「…足りない」
めぐみんは呟いた。顔が少し俯く。だがすぐに上げた。
「だが! 爆裂魔法の鍛錬は必要だ! 力を磨かねばこの名に恥じる!」
「磨くのはいい。だが場所を選べ。次はもっと離れた場所にしろ。山の中とか。人がいない場所だ」
「山…」
めぐみんは呟いた。そして、帽子を被り直した。
「山の中か。だが遠い」
「遠いからいいんだ。誰もいないから」
めぐみんは黙った。だが目はまだ諦めていない。俺はそれを見た。
この子はまたやる。俺の直感がそう告げている。
「太郎さん」
絶花が隣で言った。
「この子、また撃つよ」
「わかってる」
俺は頷いた。
めぐみんは空き地の中心に立ったまま、杖を握り直した。マントを翻した。帽子のつばの下の赤い目が、どこか遠くを見ている。
「爆裂魔法を披露できる場所を探している」
めぐみんが言った。静かに。だが声には熱がある。
「人がいない場所。音が届かない場所。私の魔法を全力で放てる場所を」
俺は絶花を見た。絶花は俺を見た。モブと夏目も顔を見合わせている。ソラは頭を抱えている。あんなは腕を組んだままだ。
だが。
あの目だ。
めぐみんの赤い目だ。探している。場所を。爆裂魔法を撃てる場所を。全力で。
諦めていない。
次も撃つ。
俺はため息をついた。今日の俺のため息の回数はもう数えていない。
「…まあいい。とりあえず、今日はもう撃つな」
「今日はもう撃った」
「そうだな。今日はもう撃った。だが次は場所を選べ。選んだ場所を俺たちに見せろ。いい場所か判断してやる」
めぐみんは俺を見た。赤い目が少し丸くなる。
「…いいのか」
「いい場所を見つければな。山奥とか。谷とか。使える場所があるか探してやる」
めぐみんの顔が変わった。赤い目が光る。帽子の下の口元が少し緩む。
「…紅魔族の魔法使いの頼みを、ただの人間が聞くとはな」
「聞いてない。町の安全のために場所を確保するだけだ」
「ふふ」
めぐみんは笑った。小さく。だが確かに笑った。
「我が名はめぐみん。覚えておけ」
「覚えた。太郎だ」
「太郎、か。次の爆裂魔法の場所を教えてくれ」
「まだ決めてない」
「決めてくれ」
「…考えとく」
めぐみんは頷いた。そして、杖を突き出した。
「次こそ、全力の爆裂魔法を見せてやる」
俺は絶花を見た。絶花は苦笑している。
「次も騒ぎになるよ」
「わかってる」
俺は呟いた。
今日の騒ぎはこれで終わらない。次がある。次も。
爆裂魔法を撃てる場所を探す小柄な魔法使いの話は、まだ始まったばかりだ。
眼前の敵に対して、俺はその手にあるギャバリオントリガーの銃口を向けると共にすぐに引き金を引いた。
ギャバリオントリガーからビームは真っすぐと奴に向かって、飛ぶ。
だが。
「なにっ?!」
俺は、その光景に驚きを隠せなかった。
ビームが奴に当たる前に、その身体が分離したと思え、二つへと別れた。
「何が起きているんだっと?!」
そう考えている間にも、俺はすぐにその斬撃を避ける。
「レオルドっ、何か分かるか?」
俺は、コスモギャバリオンで通信して、解析結果を聞く。
『おいおい、これはどうなっているんだ!?奴の身体が分子レベルで今でも増殖していやがる!?』
「はぁ!?つまり、あいつはナノマシンか何かなのか?!」
『いいや、あの覚醒憑依とかいう奴を使う前は、そんなのはなかったはずなのに』
「…さっきのエモルギアに似た奴の力か」
そう考えていると、分裂は未だに続く。
その中心にはさっきの拡声器。
「どうしたら良いっ」
だが、そんな焦りと共に見つめた先には。
「…あれは、試してやるか!」
それと共に、俺が向かった先は、奴が使っていたのとは別のエモルギアと似た奴を。
「使ってみるか!」
次回の王は
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