サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
町から離れた空き地に来た。
前回めぐみんが爆裂魔法を撃った場所から、さらに山側へ三キロ。舗装もされていない道を歩いて十五分。周囲には民家どころか農道もない。木がまばらに生えているだけで、空き地というより原っぱに近い。ここなら誰もいない。音も届かない。
「ここならいいだろ」
俺は言った。めぐみんは周囲を見回している。帽子のつばが動くたびに赤い縁取りが揺れる。
「なるほど。確かに人払いはされていないが、人がいない」
「だから言っただろ」
「うむ。評価してやろう」
上から目線だ。だが前回の爆発騒ぎの後だから、これくらいなら可愛いものだ。
絶花が周囲を歩いて確認している。モブは地面を蹴って固さを確かめている。夏目は少し離れた場所から見ている。ソラは原っぱの端で警戒中だ。あんなは車の中に残っている。ギレーヌは家に残している。戦闘にならないなら出番はない。
「これ以上離れると帰りが面倒だ。ここでいいか」
「うむ。ここでよかろう」
めぐみんは杖を握り直した。大きなつばの帽子を被り直す。マントを翻す。今日も風はない。自分で翻らせている。
「我が名はめぐみん! 紅魔族の魔法使いなり!」
前回と同じ名乗りだ。だが前回より少しだけ声が大きい。気合が入っている。
「本日は我が最高の魔法を披露する! その名も爆裂魔法!」
「知ってる」
「黙れ。これから説明するのだ」
めぐみんは杖を地面に突き立てた。
「爆裂魔法は全攻撃魔法の中で最高の威力を持つ! その一撃は城壁を砕き、巨人を倒し、伝説の竜さえも退ける!」
「巨人は?」
「倒せる」
「本当に?」
「倒せる」
自信満々だ。根拠は聞かない。聞いても意味がない。
「だがその代償として、我が魔力はすべて消え去る! 一発撃てば立てなくなる! だがそれでいい! 一発で十分だからだ!」
「そこまで言うなら見せてくれ」
「よかろう!」
めぐみんは杖を空へ掲げた。帽子のつばの下から赤い目が光る。
詠唱が始まった。
「黒よりの漆黒の王よ! 我が前に集い給え! 我が魔力を以て、我が敵を滅せよ!」
声が響く。原っぱの空気が変わる。風が吹き始めた。いや、風じゃない。魔力だ。空気中に漂う見えない何かが、めぐみんの杖へ集まってくる。俺の肌が粟立つ。
「我が名はめぐみん! 紅魔族の魔法使い! 我が魔力の全てをこの一撃に!」
杖の先に光が集まる。赤い光だ。小さな光がどんどん大きくなる。俺は思わず半歩下がった。絶花も下がっている。モブは口を開けたままだ。
「爆裂魔法!!」
めぐみんが杖を振り下ろした。
光が弾けた。
閃光が原っぱを包む。目が痛い。俺は腕で顔を覆った。遅れて轟音が来る。腹の底に響く音だ。地面が揺れた。立っていられないくらいじゃない。だが確かに揺れた。足の裏から衝撃が伝わってくる。
爆風が吹き抜けた。髪が逆立つ。マントが翻る。めぐみんのマントも。今度は自然に翻っている。
数秒後、光が晴れた。
原っぱの中心に大きなクレーターができていた。前回より広い。直径は十メートル近い。土が黒く焦げて、湯気が立っている。周囲の草が根こそぎ消えている。木が一本、根本から折れて倒れている。
「…すごい」
モブが呟いた。素直な感想だ。
「これが爆裂魔法」
夏目も言った。声が少し震えている。
ソラは無言でクレーターに近づいた。縁に立って中を覗いている。深さは二メートルほどある。
「太郎さん。これは確かに凄いです」
「ああ。認める」
俺はめぐみんを見た。
めぐみんは杖を突き立てたまま立っている。胸を張っている。帽子のつばの下の赤い目が誇らしげだ。
「どうだ! これが我が爆裂魔法!」
「威力は認める」
「うむ!」
「だが」
めぐみんは動かなかった。いや、動けなかった。杖に全体重を預けている。膝が笑っている。足が震えている。
「めぐみん?」
「なんだ」
「立てるか」
「立てる」
「立てないだろ」
「立てる」
一歩踏み出そうとした。杖から手を離そうとした。だが足に力が入らない。体が傾く。杖を掴み直す。
「…立てない」
「だろうな」
「だがこれは失敗ではない!」
めぐみんは叫んだ。声に力がある。だが体には力がない。
「魔力切れは爆裂魔法の代償だ! 一発撃てば動けなくなる! だがその代わりにこの威力! 一発で十分! 一発で敵を滅ぼせるからだ!」
「わかったから落ち着け」
「落ち着いている! 私は誇らしい!」
誇らしげに言いながら杖にしがみついている。格好はもう決まっていない。マントは土埃で汚れている。帽子がずれている。
絶花が俺の隣に来た。
「太郎。これ、毎回運ぶの?」
「そうなるな」
「毎回?」
「めぐみんが毎回撃つなら毎回だ」
絶花はため息をついた。俺もつきたい。だがつかない。ついたら負けな気がする。
「運搬役が必要だ」
めぐみんが言った。杖にしがみついたまま。声は堂々としている。体はふらふらだ。
「大魔法使いには運搬役が必要なのだ。爆裂魔法は最高の魔法だ。その代償として動けなくなるのは当然。ならば支える者がいるのも当然。そうであろう!」
「つまり俺たちが運べと」
「そうだ」
「自分で歩けないのか」
「歩けない。魔力切れだ。一発撃った。だから歩けない。これは自然の摂理だ」
「摂理って」
「そうだ。紅魔族の魔力は一発に全て注がれる。だから撃った後は動けない。これは誇りだ」
誇りなのか。動けないことが。めぐみんの目は本気だ。本気で誇っている。だから笑えない。笑ったら負けだ。
「ソラ。モブ。手伝え」
「はい」
ソラが歩いてきた。モブも来た。めぐみんは両腕を広げた。抱えろということらしい。
「お姫様抱っこか」
「運搬役だ」
「わかったよ」
ソラがめぐみんを抱え上げた。軽い。小柄だから当然だ。だが本人は堂々としている。抱えられているのに。
「うむ。良い眺めだ」
「何がだ」
「抱えられて見る空は格別だ」
「そうか」
「そうだ。大魔法使いの特権だ」
めぐみんはソラの腕の中で腕を組んだ。帽子を被り直した。マントを整えた。抱えられたまま。堂々と。
「次もここで撃つ」
「次もか」
「次もだ。今日は一発撃った。だが明日はまた撃てる。爆裂魔法は一日一発だ。だから明日また来る」
「毎日来るのか」
「当然だ。鍛錬は毎日必要だ」
俺は絶花を見た。絶花は遠い目をしている。
「太郎。これから毎日ここに来るの」
「そうみたいだ」
「毎回運ぶの」
「そうなる」
絶花は空を見上げた。ため息が大きい。
「絶花も運搬役やるか」
「遠慮します」
即答だった。
ソラがめぐみんを抱えたまま歩き出した。原っぱを抜けて、来た道を戻る。俺と絶花とモブと夏目が後ろからついていく。
めぐみんはソラの腕の中で鼻歌を歌っている。紅魔族の歌らしい。歌詞はわからないが、メロディは楽しげだ。
「太郎さん」
モブが隣を歩きながら言った。
「あの子、明日も来るんですかね」
「来る」
「また運ぶんですかね」
「運ぶ」
「…大変ですね」
「ああ」
俺は空を見た。雲が流れている。平和だ。爆裂魔法の跡地から離れれば平和だ。だが明日も明後日も爆裂魔法は撃たれる。俺たちは運搬役だ。大魔法使いの運搬役。誇らしいのかこれは。
「運搬役も重要な役目だ」
前を歩くソラの腕の中からめぐみんの声が聞こえた。俺の心を読んだみたいに。
「大魔法使いを支える者がいてこそ、最高の魔法が撃てる。そうであろう!」
「そうだな」
「うむ! わかってきたではないか太郎!」
「わかるも何も、お前を運んでるのはソラだ」
「運搬役の監督もまた運搬役の役目だ!」
「何を言ってるんだ」
めぐみんは答えなかった。また鼻歌を歌い始めた。ソラの腕の中、帽子のつばの下で赤い目が楽しげに細まっている。
家に着くまで一時間。めぐみんは一度も歩かなかった。
俺は思った。この子は毎日来る。毎日運ぶ。それはもう決まったことだ。変えられない。
だが。
悪くない。そう思っている自分がいる。
馬鹿な話だ。運搬役の話をしているのに。それでも悪くないと思っている。
明日も来るんだろうな。この原っぱに。爆裂魔法を撃ちに。俺たちはそれを運ぶために。
一日一発の大魔法。その代償はいつも俺たちの腕の中にある。
変わらず、こちらに迫る攻撃に対しての、俺の行動は明確だった。
「おい、太郎!どうするつもりだ!」
「未知には未知で対抗するしかないだろう!という事で投影!」
瞬時に俺は、ジライヤへと投影をすると共に、背中にある刀で迫り来る剣を次々と切り払っていく。
全ては、意思を持つように迫っているが、俺はそれらを切り払いながらも走る。
そうして、手を伸ばした場所には、望んだ物が確かにあった。
「よっと!」
投影の限界時間もあってか、そのままジライヤから元の状態へと戻りながらも、改めて見る。
「本当にエモルギアにそっくりだな」『まさか、それを使うつもりか!』
俺がこれから行う案、それはエモルギアそっくりのこれを使う事である。
実際に危険かもしれない。
『分かっているのか!お前がやろうとしているのはネガエモルギアを使う以上に危険な行為なんだぞ!』
「分かっているよ、けどな」
俺はそのまま、それをギャバリオン・トリガーに装填する。
『デンジャー』
ギャバリオン・トリガーから鳴り響く音声から、かなり危険なのが理解する。
けれどな、なぜだろうか。
「すっげぇ、ワクワクしている自分もいるんだよな」
俺はそのまま、引き金を引いた。
『エモショーナル・バースト』
鳴り響いた音声と共に、俺は驚きを隠せなかった。
「なんじゃこりゃ」
見つめた先、それは、俺の周囲にはなんと4つのギャバリオン・トリガーが宙を浮いている。
次回の王は
-
妖怪王
-
機械王
-
怪獣王
-
幻想王