サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
地鳴りが来た。
足元じゃない。地面の下だ。土の中を何かが走っているみたいな振動が、靴の裏から脛を伝って腰まで上がってくる。
「太郎さん」
ソラが声を上げる。軽装鎧の肩が揺れる。
「わかってる」
振動は強くなっている。さっきまでの穏やかな午後が嘘みたいだ。
空気が変わった。重い。呼吸が少し苦しい。まるで山の上にいるみたいに。いや違う。もっと質が悪い。空気そのものが何かを含んでいる。
「めぐみん」
「何だ」
めぐみんが杖を握り直した。赤い目が鋭くなる。
「撃つか」
「待て」
俺はめぐみんの肩を掴んだ。
「正体を確認するまで撃つな」
「だが地鳴りがしている。何か来るのだろう」
「来る。だが何が来るかまだわからない」
「ならば迎撃を」
「めぐみん」
俺はめぐみんの目を見た。
「お前が撃っていい相手じゃないかもしれない」
めぐみんの口が開きかける。だが閉じた。俺の目を見て何かを読んだのだろう。不満そうだが杖を下ろした。
「…わかった。だが来るなら撃つ」
「状況を見てからだ」
振動が止まった。
いや、止まったんじゃない。変わった。さっきまでの地鳴りが、別の音に切り替わった。
ドン。
一発。大きな心音みたいな音が地面の下から聞こえた。
ドン。
二発目。
ドン。
三発目。
規則的だ。だが心臓じゃない。心臓はこれほど大きくない。
「太郎」
絶花が隣に来た。天聖を握っている。顔色が悪い。まだ完全には回復していない。だが剣を握る手は震えていない。
「あれ」
絶花が空を指差した。
空に亀裂が走った。
音もなく。警告もなく。空が裂けた。
亀裂の中から光が漏れる。だが太陽の光じゃない。もっと冷たい、青白い光だ。亀裂が広がる。幅が十メートル、二十メートル、三十メートル。まだ広がっている。
「でかい」
モブが呟いた。
「亀裂がでかいんじゃない。中から出てくるものがでかいんだ」
夏目が言った。声が低い。
亀裂の奥から何かが見え始めた。
影だ。巨大な影。亀裂よりも大きい。亀裂を無理やり押し広げながら出てこようとしている。
最初に見えたのは角だった。
一本じゃない。二本。いや三本か。頭部から突き出した角が、空の亀裂を突き破って姿を現す。角の根本は太い。幹みたいだ。だが先端は鋭い。刃みたいに尖っている。
次に顔が見えた。
タイラント。
俺の脳裏にその名前が浮かんだ。ゼロの記憶の中にある怪獣。暴君怪獣タイラント。複数の怪獣の特徴を併せ持つ合成獣。だが目の前にいるのは、タイラントより大きい。角が太い。顔つきが荒い。皮膚の質感が違う。
『太郎』
ゼロの声が頭に響いた。
『あれは』
「知ってるか」
『タイラントだ。いや、タイラントを元にしている』
「元にしている」
『強化されている。俺の知っているタイラントじゃない。もっと上だ』
上半身が見え始めた。
人型だ。だが人間じゃない。怪獣の上半身が二本の腕を持って立っている。だが下半身がない。いや、まだ見えていないだけだ。
胴体が見えた。腹部に何かがある。器官だ。ベムスターの吸収器官を思わせる。だがベムスターのものより複雑で、模様が違う。腹の部分だけ皮膚の質感が変わっている。周囲との境界線がはっきりしている。まるで別の生き物の腹を縫い付けたみたいに。
腕が見えた。
右腕に刃がある。バラバの刃を思わせる。だがバラバのものより厚い。だが切っ先は鋭い。左腕にも何かがついている。武器の意匠だ。だが何の武器かわからない。見たことがない形だ。
「太郎。あれ」
めぐみんが声を上げた。声が震えている。めぐみんが声を震わせる。それだけで異常だ。
「見てる」
下半身が見え始めた。
四本脚だ。ケンタウロスみたいに、上半身は人型で下半身は獣の脚だ。だが四本の脚が全部違う。右前脚はレッドキングを思わせる太い脚。左前脚はゴモラを思わせる重量のある脚。右後脚はエレキングを思わせる細長い脚。左後脚はツインテールを思わせる鞭のような脚。
四本の脚の質感が全部違う。皮膚の色が違う。鱗の形が違う。筋肉の付き方が違う。だが四本とも同じ体に繋がっている。継ぎ目が見える。傷跡みたいな線が脚と胴体の境界を走っている。
尾が見えた。
長い。バキシムを思わせる棘が並んでいる。だが先端に花がある。アストロモンスを思わせる。花が咲いている。いや、開いている。だが花の色が普通じゃない。毒々しい赤だ。
全身が亀裂から出てきた。
空の亀裂が閉じる。音もなく。まるで最初から何もなかったみたいに。
だが目の前にいる。
いる。
巨大な怪獣が、町の外れに、四本脚で立っている。
高さは四十メートルを超えている。いや五十メートルに近いかもしれしい。ウルトラマンゼロの体でも見上げかなければならない。
『太郎』
ゼロの声が硬い。
『あれはタイラントだ。だがタイラントをさらに強化した存在だ。複数の怪獣の部位を融合させた。タイラントの上位種。あるいは』
「あるいは」
『進化系だ』
暴君怪獣グランドタイラント。
俺の中でその名前が浮かんだ。タイラントの進化形。暴君の先。
グランドタイラントが低く唸った。
声が地面を震わせる。耳じゃない。腹の中に響く音だ。肺が圧される。
一歩踏み出した。
右前脚が地面を叩く。ドン。さっきの心音みたいな音が、今度は地面から直接伝わってくる。土煙が舞い上がる。俺の足元の草が根こそぎなぎ倒される。
二歩目。左前脚。ドン。地面が揺れる。立っていられないくらいじゃない。だが確かに揺れている。
三歩目。右後脚。ドン。
四歩目。左後脚。ドン。
四本脚が別々に動いている。だが一つの体だ。一つの生き物だ。継ぎ目だらけの体が、それでも一つの巨大な暴君としてまとまっている。
尾が動いた。ゆっくりと。だが風圧だけで木がなぎ倒される。アストロモンスの花が揺れる。毒の匂いが風に乗って漂ってくる。
腕の刃が動いた。右腕のバラバの刃が光を反射する。鋭い。あれに切り裂かれたらウルトラマンゼロの体でも傷つく。
腹部の器官が動いた。ベムスターの器官が脈動している。吸っている。何を。空気か。魔力か。それとも地脈の力か。
「太郎」
めぐみんが呟いた。
「あれは、何だ」
「暴君怪獣グランドタイラント」
俺は答えた。ゼロの記憶が教えてくれた名前を。だが名前だけだ。正体はわからない。能力もわからない。弱点もわからない。
だがわかることが一つある。
でかい。でかすぎる。ウルトラマンゼロ一人で勝てる相手かどうかわからない。
グランドタイラントが咆哮した。
声が空を割る。鼓膜が痛い。口を開けて叫んでいる。だが声はただの咆哮じゃない。角が光っている。体中の継ぎ目が光っている。各部位の力が共鳴している音だ。
尾が地面に叩きつけられた。
ドン。
土煙が舞い上がる。地面が割れる。亀裂が走る。俺たちの方へ向かって。
「退避!」
俺は叫んだ。全員が跳ぶ。亀裂が俺たちが立っていた場所を走り抜ける。
土煙が晴れた。
俺は目を開けた。
グランドタイラントが立っていた。
四本脚で地を踏みしめ、二本腕で風を切り、一本の尾で大地を叩き割り、全身の継ぎ目から光を漏らしながら。
町の外れに、暴君がそびえ立っていた。
俺は立ち上がった。足が震えている。だが立った。
「やるか」
それと共に、俺は手にしたウルトライズアイを既に構えている。
次回の王は
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