サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
グランドタイラントを倒した夜が、明ける前に俺たちは食事を取ることにした。
拠点の食堂——と呼ぶにはあまりに殺風景な、木のテーブルが三つ並んだだけの空間だ。だが戦いの後の空腹は場所以上の問題ではない。腹が減っては戦はできぬ、というかもう戦は終わったのだから腹を満たす権利くらいある。
「はい、これ」
絶花が取り皿を渡してくる。その手つきが妙に手慣れているのは、彼女が剣士である以前に一人の生活者だからだろう。不器用な奴が意外とこういうことは出来るのだ。
「お、さんきゅ。んじゃ、これもらうわ」
俺は鍋から雑炊をよそうとする。米と野菜と——何かの肉が入っている。細かいことは気にしない。温かいものが腹に入ればそれでいい。
「めぐみん、お前も座れよ」
「……はい」
めぐみんが、ちょこんとテーブルの端に腰を下ろす。魔力切れの影響はまだ残っているらしく、動きがふにふにしている。だがその目だけは元気だ。あの爆裂魔法の一撃が決まった高揚感がまだ残っているのだろう。
(まあ、あれだけ派手にやればな)
「で、王。あの一撃どうでした?私の爆裂魔法、やっぱり凄かったでしょう?」
来た。予想通り 来た。
「あー、まあ、凄かったよ。星の槍になった時は正直ビビった」
「ビビった?王が?私に?」
「違う。お前の魔法の威力にだ」
「……ふふ。それは当然です。私は紅魔族ですから」
めぐみんが胸を張る。魔力切れで顔色が白いのに、その得意げな表情だけは血色がいい。
「スパイラルバレードの回転が速くなった時、手元が震えました。正直。あれを外していたら俺たちが吹っ飛んでた」
『相棒、それは言い過ぎじゃないか?』
ゼロが脳内でツッコむ。だが実際そうだったのだから仕方ない。
「いや、ゼロも震えてたろ。あの光の量は」
『……否定はしない』
「ゼロさんも認めてるんですね!やっぱり私の魔法は——」
「はいはい、凄い凄い。飯食え」
俺はめぐみんの前に取り皿を置いた。絶花が既によそっておいた雑炊が乗っている。
「あ、ありがとうございます」
めぐみんが両手を合わせてから箸を取る。その動作が妙に丁寧で、戦場での爆裂魔法使いと同一人物とは思えない。
(……いや、紅魔族ってそういうもんか)
「絶花、お前も食え。今日はよくやった。剣で鞭を弾いてくれた時は助かった」
「……別に、やらなきゃいけなかっただけです」
絶花が箸を止めて小さく呟く。顔が少し赤い。褒められ慣れていないのだろう。
「素直じゃねえな」
「うるさいです」
* * *
雑炊が減っていく。温かいものが腹に広がり、それに比例して言葉が緩む。
「明日はどうする?拠点の修繕がいるな、あの戦いで壁が結構やられた」
「はい。それと、道具の補充も必要です。私の——」
「私の?」絶花が首を傾げる。
「私の、明日もここで皆と一緒に……」
めぐみんが言葉を止めた。箸を持つ手が空中で止まる。
(……あ)
俺は見た。めぐみんが自分の言葉に気づいた瞬間の、あちょっとした間。ここにいることが当たり前になっていた自分に気づいた顔。
だが俺は特に何も言わない。絶花も何も言わない。ただ自然に話を続ける。
「道具の補充か。めぐみん、お前は何が必要なんだ?」
「……え?あ、はい。魔力回復の薬と、あと……予備の杖があればいいんですけど」
「杖か。あとで探すか」
「はい」
会話が続く。めぐみんの箸が動き出す。食べ終わっても席を立とうとしない。空いた皿の前で頬杖をつきながら、俺たちの話を聞いている。
(居ついたな、こいつ)
そう感じたのは俺だけじゃないだろう。絶花もちらりとめぐみんを見て、何も言わずに自分の皿を下げた。
* * *
「——で、めぐみん」
「はい」
「前にも聞いたが、お前この王国に入る気あるのか。家臣として」
めぐみんが箸を置く。真っ直ぐに俺を見た。
「……王は、私を入れてくれるんですか」
「俺が入れる入れないじゃねえよ。お前が決めることだ」
「でも」
「でもじゃねえ。お前が選べ。ここで爆裂魔法を振るいたいか、それとも他所に行くか」
めぐみんの目が揺れた。自信家の目が——ほんの一瞬だけ、迷った。
「……私の爆裂魔法を、認めてくれる場所は」
「ここにある」
短く言った。それ以上の飾りはいらない。めぐみんの魔法がグランドタイラントを倒す一端を担った。それは事実であり誰にも否定できない。
「皆と一緒に戦って、皆と一緒に過ごす。そういう場所がここにある。そうだろ絶花」
「……え、私に振らないでください。でも、まあ、そうですね。ここにはそういう人がいます」
絶花らしい。肯定しているのに面倒くさそうに言う。だがその目はめぐみんを拒んでいない。
めぐみんが、ふっと笑った。
「……分かりました。改めて申し入れます、王。私めぐみんは、この王国の家臣として、全力を尽くします。爆裂魔法は、王と皆のために。そして——」
言葉が一瞬途切れた。
「——皆と一緒にいるために、使います」
(……素直じゃねえな、また)
だがその不器用な言い方に俺は何か納得した。こいつの爆裂魔法への執着は本物だ。だがそれと同じくらい——いや、それ以上にこいつはここでの居場所に執着しているのかもしれない。
「よし。じゃあこれを渡しておく」
俺は懐から駒を取り出した。僧侶の駒。白い石に刻まれた小さな法衣の紋。
「……これ」
「僧侶の駒だ。王国の駒として認めた証だ。受け取れ」
めぐみんが両手を出した。ずしりと重い石を乗せる。
「……有難う、ございます」
大仰な言葉だったが、めぐみんの声は震えていた。手の中の駒を握る指が白い。
「忘れるなよ。爆裂魔法を使う場所とタイミングは守れ。仲間と周囲の安全を確認してからだ。あと魔力切れたら運ばれる側だからな」
「……運ばれる側、ひどくないですかそれ」
「事実だろ。昨日もふにふにで運んだの俺だぞ」
「う……それは、その、仕方ないじゃないですか。魔力切れは」
「言い訳達者め」
めぐみんがむくれる。だがその手は駒を離さなかった。
「……王、一つだけ」
「ん?」
「明日のご予定ですが、朝から杖の補充に行きたいので、誰か付き合ってください」
「はいはい、分かったよ」
「あと昼は訓練です。爆裂魔法の精度を上げたいので場所を借りたいです」
「お前な、さっき魔力切れで動けないって言ってたのに」
「回復すれば問題ないです。それに王も鍛えないと」
「……絶花、お前この奴のことどう思う?」
「……仲間だと思います。問題なく」
絶花が淡々と言う。その声に迷いはない。
(まあ、そういうことだ)
俺は立ち上がり、食器を手に取った。
「ほら、めぐみん。食器持て。片付けるぞ」
「はい。すぐ」
めぐみんが弾かれたように立ち上がる——ふらついて、テーブルに手をついた。
「大丈夫か」
「大丈夫です、ちょっと立ちくらんだだけ……」
「魔力切れの常だな。ほら、つかまれ」
俺は手を差し出した。めぐみんがその手を借りて、よいしょと立ち上がる。
「王、優しいですね」
「うるせえ。転ばれたら面倒だからだ」
「ふふ。そういうことにしておきます」
めぐみんが食器を重ねて運び出す。その背中はふにふにだが、足取りはしっかりしている。
(まあ、明日もまた賑やかになりそうだ)
食卓が片付いていく。席が空になっていく。
だが——明日もまた、この席にめぐみんは座るだろう。文句を言いながら雑炊を食べて、自慢話をして、魔力切れてふにふにになる。
それでいい。それがこの王国の日常というものだ。
「王〜、明日は晴れるといいですね〜杖選びに行きたいんです〜」
「分かった分かった。起きたら行くよ」
「約束ですよ!」
夜が深まる。星屑がまだ空に残っている。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王