サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「ゼロ、これネオメガスの残骸から回収した破片なんだけど」
俺は掌に乗せた小さな破片をゼロの方へ差し出した。
ネオメガス戦のあと、戦場の瓦礫の中から拾い上げたものだ。親指の爪ほどの大きさ。黒っぽい金属質の表面に微かな光沢がある。ただの合金の破片とも違う。どこか有機的な質感が引っかかっていた。
「なんか、こう……生きてるみたいな質感があるんだよな。これ」
そう言って指先で撫でようとした。
「止めとけ」
短い声だった。
俺の手が止まった。
いつもより硬い声だった。ゼロの声は元々低いが、今のは別種の響きがあった。警告というより、拒絶に近い。
「……触るな。その破片には触るな」
ゼロの複眼が、俺の掌の上の破片を凝視していた。その視線に宿った色を、俺は見たことがなかった。警戒。いや、警戒以上の何か。
「え?」
俺は掌を引っ込めようとして、そのまま動きを止めた。背骨に冷たいものが走ったからだ。
「太郎?」
絶花の声が横から飛んできた。
振り向くと、絶花とアンビーが数歩後ろに立っていた。二人の視線は、俺の止まった手に注がれている。
絶花は首を傾げていた。いつもの親しみやすさに、微かな不安が混じっている。
「どうしたの? なんかゼロが何か言ったの?」
「いや、その……」
俺はゼロを見た。ゼロはまだ破片から視線を外していなかった。
「アンビー、絶花。ちょっと待ってくれ」
俺はそう言って、二人を制した。
アンビーが小さく頷く。感情は見せない。ただ事実だけを受け取るような態度だ。
「分かったわ。無理はしないで」
アンビーの声は淡々としていた。けれどその目は、俺の手のひらの上の破片を一瞥して、すぐにゼロの方へ戻った。
「太郎、それ見せてくれる?」
絶花が一歩近づいてきた。
「ああごめん。ちょっと待って。ゼロが何か気づいたみたいで」
「気づいた、って?」
「まだ分からない。でも触るなって言われた」
俺はそう言いながら、ゼロに向き直った。
「ゼロ。これ、何なんだ? ただの破片じゃないのか?」
ゼロは一つ呼吸を置いた。
「ただの破片じゃねぇ。お前が言った通りだ。これは生きてる」
「生きてる?」
「ああ。宇宙に散った、あの物質と同じだ」
俺は眉をひそめた。
宇宙に散った物質。その言葉が、ネオメガス戦の記憶と結びついた。
ネオメガスが倒れた瞬間、空が裂けたような光景があった。爆散したネオメガスの体から、無数の粒子が撒き散らされた。その粒子は、宇宙空間へと流れていった。
あの時俺はただの爆発の余波だと思っていた。ネオメガスのエネルギーが散逸しただけだと。
「……あの時の、粒子か?」
「そうだ。宇宙空間に散ったあの粒子と、お前の手にある破片。同じ質感だ」
ゼロの声が低くなった。
「宇宙に散った粒子が、怪獣に取り憑いて凶暴化させる。そういう話を聞いたことがある」
「怪獣を凶暴化させる?」
俺は破片を見下ろした。黒っぽい金属質の表面。微かな光沢。それが微かに脈動しているように見えるのは気のせいか。
「ネオメガスも……そうだったのか?」
「分からねぇ。だが、ありえる話だ」
ゼロは短く答えた。
「宇宙に散った粒子が、地球の怪獣に取り憑いて凶暴化させる。それがもし本当なら——この破片も、同じ力を持ってる可能性がある」
俺の手の中で、破片が微かに光った気がした。
寒気が背筋を走った。
「つまり、こいつは……」
俺は言葉を探した。だが、ゼロが先に答えた。
「そいつはデビルスプリンターベリアルの細胞の欠片だ」
ゼロの言葉が、沈黙を破った。
デビルスプリンター。その名を聞いた瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。聞いたことがある。宇宙に散った粒子。それが怪獣を凶暴化させる。さっきゼロが言っていた話と一致する。
「ベリアル…」
「ああ。奴の力の一部だ。ネオメガスが凶暴化したのは、この細胞のせいかもしれねぇ」
俺は掌の破片を見下ろした。黒っぽい金属質の表面。微かに脈動するような光。ただの破片じゃない。生きている。
「…分かった。絶花、アンビーに伝える」
俺は振り返った。絶花とアンビーが心配そうな顔で立っている。
「どうだった? ゼロ何か言ってた?」
絶花が問いかける。
「この破片、ベリアルの細胞の欠片らしい。宇宙に散った粒子と同じものだって」
「ベリアル…」
絶花の表情が曇った。アンビーは無表情のまま、破片を一瞥しただけだ。
「凶暴化させた原因がこれ、ってことかしら」
「可能性が高いな。だがまだ確証はない」
俺は破片をポケットにしまった。直接触らない方がいいとゼロが言っていた。金属質の冷たさが布越しに伝わってくる。
「アンビー」
俺は彼女を見た。琥珀色の瞳が真っ直ぐに俺を捉えている。
「お前のいたシグルド機関の研究と、これに接点があると思うか?」
アンビーは少し考えた。
「…分からない。でも、機関の研究は違ったと思う」
「違った?」
「ええ。私は剣への適性を調べられた。聖剣と魔剣の両方を扱える素質。それと、電撃の扱い」
アンビーの声は淡々としていた。感情を抑えた、報告のような口調。
「検査は何度もあった。データを取られて、結果を見られて。でも、怪獣の細胞とか、宇宙の粒子とか…そういう話は聞かなかった」
「つまり、機関の研究は人間が対象だったってことか」
「そう。少なくとも、私が知っている範囲では」
アンビーの視線が破片のあった場所へ戻った。
「でも、怪獣に細胞を組み込む研究は別の部署でやっていたかもしれない。私は研究員じゃないから、詳しいことは知らない」
「なるほどな…」
俺は考え込んだ。シグルド機関は人間の研究をしていた。だが今回の怪獣は、ベリアルの細胞が組み込まれている。研究の方向性が違う。
「アンビー、ネオメガスの動きについて何か気づいたことはあるか?」
「あるわ」
アンビーは即答した。
「最初は狙いを絞って動いていた。住宅地へ向かっていた。でも途中で動きが乱れた。無差別に暴れ始めた」
「そうだな。俺も見てた」
俺は頷いた。
「最初は命令に従っていたように見えた。だが途中で制御が外れた。その原因がベリアルの細胞だとしたら…」
「つまり、最初は誰かが指示を出していた。でも途中で細胞が暴走して、制御できなくなった」
絶花が口を挟んだ。鋭い指摘だった。
「その可能性が高いな」
俺はアンビーを見た。
「アンビー、機関でそういう制御の研究を見たことはあるか?」
「見たことはない。でも、可能性はある」
アンビーは少し間を置いた。
「私がいた施設では、人間を制御する研究をしていた。怪獣を制御する研究があったとしても、不思議じゃない」
「人間を制御…」
絶花の表情が強張った。
「詳しいことは言えない。でも、命令に従うように訓練された存在がいた。それは確かよ」
アンビーの声が少しだけ低くなった。その目に何かが浮かんだが、すぐに消えた。
「分かった。少なくとも、怪獣を送り込んだ奴と機関が関係している可能性はある」
俺は結論を出した。
「だが、確証はない。もっと調べる必要がある」
俺たちは互いに顔を見合わせた。手元には、怪獣を送り込んだ人物を特定できる証拠はない。あるのは小さな破片と、推測だけだ。
「アンビー、機関のことは分かるか?」
俺は尋ねた。
アンビーは一瞬考え込んだ。それから、淡々と口を開いた。
* * *
薄暗い研究施設に、電子音だけが響いていた。
独尊次郎は、壁一面に並んだモニターの前に立っていた。手元の端末には、二体の怪獣の戦闘記録が映し出されている。
ネオザルスとネオメガス。
シグルド機関の施設から入手した素材と、独自に準備した怪獣の遺伝子情報を組み合わせて造り上げた二体だ。太郎たちに送り込んだのは、彼らの戦力を測るため。そして、同時に「実験」でもあった。
「まずはネオザルスか」
次郎は映像を再生した。ネオザルスがウルトラマンゼロと交戦するシーン。改造した個体がどこまで戦えるか。どこまで耐えられるか。そのデータを取るためだった。
映像が一瞬止まる。ゼロがゼロスラッガーを放った瞬間だ。次郎はそこで再生を止め、静止画を拡大した。ゼロの動き。スラッガーの軌道。太郎とゼロの連携の速さ。
「…やはり、単体では厳しいか」
次郎は淡々と呟いた。ネオザルスはウルトラマンゼロ一人相手なら拮抗できた。だが太郎と家臣たちが加わると、一気に戦況が傾いた。ゼロコスモライズの力。家臣との共鳴。それが予想以上だった。
「だが、十分なデータは取れた」
次郎は映像を閉じ、次のファイルを開いた。ネオメガスの戦闘記録だ。
ネオメガスは、ネオザルスとは違う目的で送り込んだ。制御のテストだ。外部からの指示にどこまで従うか。そして、デビルスプリンターの細胞を組み込んだ場合、制御がどこで崩れるか。
映像が再生される。ネオメガスが一定の方向へ進むシーン。最初は迷いがなかった。指示通りに動いていた。だが——
映像が止まる。ネオメガスが動きを乱した瞬間だ。頭と足の動きが噛み合わなくなり、無差別に暴れ始めた。
「ここか」
次郎は静止画を凝視した。制御が崩れたタイミング。デビルスプリンターの細胞が活性化し始めたポイント。
「制御信号は限界まで耐えた。だが、細胞の増殖速度が想定を上回ったか」
次郎は端末のデータを確認した。ネオメガスの体内でデビルスプリンターがどの程度増殖したか。制御信号と細胞の干渉率。そのグラフが、ある一点で交差していた。
「ふむ。制御信号の強度を上げれば、もう少し持つはずだが…」
次郎は眉をひそめた。だがすぐに表情を戻す。
「いや、十分だ。ネオメガスのデータで、制御の限界値は分かった。次は——」
次郎は別の映像を呼び出した。ネオメガスとゼロが最後の光線を放つシーン。ゼロがワイドゼロショットを放ち、太郎と家臣たちが力を重ねてネオメガスを撃破する瞬間。
映像が止まる。ゼロの姿が一際鮮明に映った。ウルトラマンゼロ。太郎と一体化し、家臣たちと共鳴する力を持つ戦士。
次郎の目が細くなった。
「ちっ…」
低く呟いた声には、感情が滲んでいた。羨望か。それとも対抗心か。
「お前は仲間と共に力を得た。だが俺は——」
次郎は映像を閉じた。画面が暗転する。薄暗い施設に、再び静寂が戻った。
「俺は、俺の力で答えを出す」
次郎は奥の部屋へ向かった。そこには、巨大な装置が鎮座している。カプセルのような形の中心には、赤黒い光を放つ核が浮かんでいた。デビルスプリンターの細胞を核に、融合獣の力を再現する装置。
「ネオザルスの戦闘データ。ネオメガスの制御データ。そして——ベリアルの力」
次郎は端末を操作し、データを装置へ転送した。
「これらを基に、最強の融合獣を造る。名は——」
次郎の目が、赤く光った。
「禍々アークベリアル」
装置の核が脈動を始めた。赤黒い光が、施設全体を染め上げる。
次郎は操作盤へ手を伸ばした。指先が、冷たい金属に触れる。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王