サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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模倣 Part7

朝の光が窓から差し込んでいた。

 

俺は目を覚まし、天井を見つめたまま数秒動かなかった。昨日のことが夢じゃなかったことを、身体の節々の痛みが教えてくれている。ネオメガス戦の余韻。変身の反動。ゼロとの一体化の疲れ。全部が重なって、筋肉が悲鳴を上げていた。

 

「起きたか、太郎」

 

ゼロの声が頭の中に響く。いつもの調子だ。

 

「ああ。なんとかな」

 

俺は体を起こした。リビングの方から、鍋の音と湯気が漂ってくる。絶花か。朝食の準備をしているのだろう。

 

「アンビーは」

 

『まだ寝てるだろ。昨日は相当動いたからな』

 

「そうか」

 

俺は立ち上がり、洗面所へ向かった。顔を洗い、鏡の中の自分を見る。少しだけやつれている。だが目は覚めていた。

 

リビングに戻ると、絶花が食卓に朝食を並べていた。

 

「おはよう、太郎。昨日はお疲れ様」

 

「おう。絶花もな」

 

「はい。少し筋肉痛ですが、問題ありません」

 

絶花は淡々と答えたが、その手つきにはいつもの丁寧さがあった。彼女は動じない。何があっても、基本は変わらない。

 

「アンビーはまだか?」

 

「ええ。起こしてきますか?」

 

「いや、待ってみよう。昨日は遅かったしな」

 

俺は食卓に座り、湯飲みを手に取った。温かい茶が喉を通る。身体が少しずつ目覚めていくのを感じる。

 

*  *  *

 

食事が終わる頃になって、アンビーの部屋のドアが開いた。

 

「おはよう」

 

アンビーがリビングに姿を現した。いつもの緑と黒の服。ヘッドホンは首にかけている。顔色は悪くないが、目の下に少し隈が見えた。

 

「おはよう、アンビー。調子はどうだ?」

 

「大丈夫。少し眠れなかっただけ」

 

アンビーは短く答え、食卓に座った。絶花が既に用意していた朝食の前に座る。

 

「ありがとう、絶花」

 

「どういたしまして」

 

アンビーは黙って食事を始めた。いつもなら少し話しながら食べるのに、今日は静かだ。箸が皿の上を動く音だけが聞こえる。

 

俺はアンビーの様子を観察していた。何かを考えている。それも、あまり愉快ではないことを。

 

*  *  *

 

食事が終わると、アンビーは立ち上がった。

 

「私、少し出てくるわ」

 

「どこへ行くんだ?」

 

「散歩。気分転換」

 

アンビーは玄関へ向かった。その背中に、微かな迷いがあるのを俺は見逃さなかった。

 

「待て、アンビー」

 

俺は立ち上がり、彼女の後を追った。玄関先で、アンビーが足を止める。

 

「何?」

 

「本当はどこへ行くつもりだった?」

 

俺は問い詰めた。アンビーの目が泳いだ。

 

「…散歩よ」

 

「嘘つけ。荷物が少ない。外出用の荷物じゃない。出て行くつもりだろ」

 

アンビーの手には小さなバッグがあった。着替えと最低限の身の回り品。一晩くらいならどこでも泊まれる程度の荷物だ。

 

「…分かったわ」

 

アンビーは観念したように肩を落とした。

 

「やっぱり、迷惑をかけたわ。私のせいで、怪獣が来た。あなたたちを危険な目に遭わせた」

 

「それが理由か?」

 

「当たり前でしょ。私がここにいれば、また怪獣が来るかもしれない。機関が私を追ってきて、あなたたちに危害が及ぶかもしれない」

 

アンビーの声が震えた。感情を押し殺そうとしているのが分かった。

 

「だったら、私がいなくなればいい。そうすれば、あなたたちは安全よ」

 

「それでお前はどうする」

 

「私のことは心配しないで。一人でもなんとかなる」

 

アンビーは背を向け、ドアノブに手をかけた。

 

「待て」

 

俺は彼女の腕を掴んだ。アンビーが振り返る。琥珀色の瞳が揺れていた。

 

「アンビー、お前は俺たちと暮らして何が悪い」

 

「…悪くないけど」

 

「だったら、なぜ出て行こうとする」

 

「危険だからよ。私がいれば、あなたたちが」

 

「危険なのは俺たちの勝手だ」

 

俺は断言した。

 

「俺たちが選んだんだ。お前を助けて、ここに置いて。それは俺たちの意思だ。お前が決めることじゃない」

 

アンビーの目が見開かれた。

 

「でも」

 

「それに、お前一人で行って、どうやって生きるつもりだ。金はあるのか。住む場所は。食事は」

 

「…それは」

 

「ここには全部ある。飯もある。屋根もある。映画だって観られる」

 

アンビーの表情が変わった。映画という言葉に反応したのだ。

 

「映画…」

 

「そうだ。次は来月、宇宙物の続編を観に行く約束したろ。あれは三人で行く約束だ」

 

アンビーは黙った。ポケットの中で、昨日畳んだチラシを握りしめているのが分かった。

 

「俺たちは家族じゃない。けど、仲間だ。お前がここにいたいなら、ここにいろ。嫌なら、出て行け。それはお前が決めることだ」

 

俺はアンビーの腕を離した。

 

「選べ、アンビー。どこへ行くか。ここに残るか」

 

*  *  *

 

沈黙が流れた。

 

アンビーは俯いたまま動かなかった。長い沈黙。だが俺は急かさなかった。彼女の答えを待った。

 

やがて、アンビーが顔を上げた。

 

「…私、ここにいたい」

 

か細い声だった。だが、はっきりと言った。

 

「ここにいたい。太郎たちと一緒に。映画も観たい。ご飯も美味しいし、部屋も温かい」

 

アンビーの目に涙が滲んだ。それを拭おうともせず、言葉を続けた。

 

「でも、本当にいいの? 私がいると、また怪獣が来るかもしれない。あなたたちを危険に」

 

「だから何だ」

 

俺は言った。

 

「危険は俺たちの日常だ。怪獣だって来るし、敵だって現れる。お前がいなくても、それは変わらない」

 

「でも」

 

「お前がいるから、俺たちは強くなる。そうだろ、絶花」

 

俺は振り返った。絶花がリビングの入り口に立っていた。いつから聞いていたのか。だが、その表情は静かだった。

 

「はい。アンビーがいてくれたから、昨日は避難誘導がうまくいきました。アンビーがいなければ、もっと被害が出ていたかもしれません」

 

「絶花…」

 

「アンビー、あなたは仲間です。それは変わらない。だから、ここにいてください」

 

絶花の言葉に、アンビーの涙がこぼれた。

 

「…ありがとう」

 

アンビーは泣きながら笑った。不器用な笑顔だった。だが、俺にはそれが何より嬉しく見えた。

 

「よし。決まりだ」

 

俺はアンビーのバッグを取り上げた。

 

「これは返す。お前の部屋に置いとけ」

 

「…うん」

 

アンビーは頷き、リビングへ戻っていった。俺もその後を追った。

 

「太郎」

 

ゼロの声が頭の中に響いた。

 

「よく言ったな、相棒」

 

「当たり前だろ。仲間を見捨てる趣味はない」

 

『ああ。それがお前だ』

 

俺は小さく笑った。

 

リビングでは、絶花がもう一度お茶を淹れていた。アンビーが席に座り、湯気の立つ湯飲みを両手で包んでいる。

 

「ねえ、太郎」

 

「ん?」

 

「映画、本当に来月行ける?」

 

「行ける。約束だろ」

 

「…うん」

 

アンビーは湯飲みを口に運んだ。その表情は、もう迷っていなかった。

 

「ここにいさせてくれて、ありがとう」

 

「礼はいい。飯を食え」

 

「はい」

 

アンビーは頷き、再び食事を始めた。いつもの静かな食卓が戻ってきた。だが、そこには確かな絆が生まれていた。

 

(これでいい)

 

俺は心の中で呟いた。

 

アンビーはここに残る。俺たちと一緒に。それが、彼女の選んだ答えだ。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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