サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
空が赤い。
夕暮れじゃない。空そのものが赤く染まっている。雲の隙間から、まるで傷口から血が滲むような赤い光が漏れていた。
「なんだ、あれ」
俺は空を見上げた。町の上空に、何かが浮かんでいる。いや——浮いているんじゃない。降りてきている。
巨大な影だ。
徐々に輪郭がはっきりしてくる。翼だ。いや、翼に見えるのは背びれか。赤黒い巨体が、ゆっくりと高度を下げていく。重力に従うように。あるいは、自分の重量に任せるように。
「太郎!」
絶花の声が聞こえた。町の郊外から駆けつけてきたのだろう。息が上がっている。アンビーも隣にいた。ヘッドホンを耳にかけ、空を見上げている。
「来たわね」
アンビーの声は淡々としていた。だがその目は鋭い。何かを知っている目だ。
「アンビー、あれは」
「分からない。でも、機関の怪獣じゃない可能性がある」
「機関のじゃない?」
「あれは——」
アンビーの言葉が途切れた。
地面が揺れた。
巨大な影が着地したのだ。
ドォォン!!
衝撃波が走る。俺は足を踏ん張り、絶花とアンビーを庇った。瓦礫が舞い上がり、砂埃が視界を奪う。
砂埃の向こうに、巨体が見えた。
赤黒い身体。全身に走る血管のような脈動。胸の中心には赤い結晶状の器官が埋め込まれ、不気味に明滅している。頭部には鋭利な角。背中には棘の並んだ背びれ。長い尾が地面を這い、その先端が鋭い刃のように空を切る。
そして——その全身から、禍々しい気が漂っていた。
『相棒』
ゼロの声が脳内に響いた。
いつもと違った。
低い。鋭い。そして何より——驚きが混じっていた。
『あれは…』
ゼロの声が途切れた。俺は初めて聞いた。ゼロが言葉を失うのを。
「ゼロ? どうした」
『…まさか、こんな場所で』
「何なんだよ、あれは」
俺は問い詰めた。ゼロの動揺は尋常じゃない。俺たちが共闘してきた中で、これほど動揺したことはなかった。
『ベリアル融合獣だ』
ゼロの声が低く響いた。
「ベリアル融合獣?」
『ベリアルの力を宿した怪獣。ベリアルの細胞と他の怪獣の力を融合させて造られた存在だ。デビルスプリンターの細胞——あの破片と同じものが関与している』
俺の手が無意識にポケットを探った。中には昨日回収した破片が入っている。あの禍々しい細胞の欠片。
「あの破片と同じものが」
『ああ。だが、問題はそこじゃない』
ゼロの声が一層低くなった。
『あの中に融合されている怪獣——一つはアークベリアル。ベリアルの力そのものを宿した存在だ。そしてもう一つは』
ゼロは一拍置いた。
『マガオロチ』
聞いたことがある名前だった。いや——ゼロから聞いたことがある。かつて地球を脅かした災害の怪獣。その名を口にする時のゼロの声は、いつも重かった。
『マガオロチは、その名の通り災害をもたらす力を持つ。それにアークベリアルの力が加わっている。油断すれば——』
ゼロの言葉が途切れた。だが言いたいことは分かった。
油断すれば、やられる。
「つまり、デビルスプリンターの細胞だけでも厄介なのに、それにアークベリアルとマガオロチの力が乗っかってるってことか」
『そういうことだ。さっきのネオメガスとは次元が違う。迂闊に近づけばやられるぞ』
「迂闊に近づけば、か」
俺は目の前の巨体を見上げた。赤黒い身体から立ち昇る禍々しい気配。胸の結晶が明滅するたびに、空気が震える。
(やってやるよ)
俺はウルトライズブレスレットに手を伸ばした。
「太郎!」
絶花が叫んだ。
「待て絶花。俺がやる」
「でも——」
「絶花、お前はアンビーと一緒に避難誘導を頼む。あいつが暴れたら周辺はどうなるか分からない。二人で住民を頼む」
「…分かりました。でも無茶しないでください」
「俺が無茶したことあるか」
「毎回してます」
絶花の声音には少し呆れが混じった。だがその目は真剣だった。
「行きます、アンビー」
「ええ」
二人が駆け出していく。アンビーの背中が小さくなっていくのを見届けてから、俺は前を向き直った。
『相棒』
「ああ。分かってる」
俺はブレスレットからウルトライズアイを取り外した。
「行こうぜ、ゼロ」
『当たり前だ』
ゼロの声に力が戻っていた。驚きは消え、代わりに闘志が宿っていた。
「ベリアル融合獣だろうがマガオロチだろうが——」
俺はウルトライズアイを構えた。
「やることは同じだ」
ウルトラマンゼロへと変身した瞬間、俺は迷わずコスモライズのカードをスキャンした。
「コスモライズ!」
光が弾け、俺の身体が変容する。ゼロの姿から、赤と銀の新たな姿へ——ゼロコスモライズ。
全身に力が満ちていく。コスモレコードの力が俺の中を駆け巡る。
『相棒、次は家臣と共鳴だ』
ゼロの声が脳内に響く。
「分かってる」
俺はすぐにコスモレコードの一つが反応する。
『ジード!ウルトライズ』
アンビーは今、絶花と一緒に避難誘導をしている。だが、あいつの力が必要だ。このベリアル融合獣を倒すには。
「アンビー!」
俺は叫んだ。距離はある。だがコスモライズの力で、声は届く。
「聞こえるかアンビー!」
数秒の沈黙。そして
「聞こえてるわ!」
遠くからアンビーの声が返ってきた。避難誘導の途中で立ち止まったのだろう。
「お前の力を借りる。ジードと共鳴してくれ」
「ジード…」
アンビーの声に迷いがあった。だがすぐに消えた。
「分かったわ。やってみる」
俺はコスモレコードをスキャンした。カードから光が放たれ空へと伸びていく。その光はアンビーへと届き、彼女の身体を包み込む。
「アンビー、ジードの力を受け取れ!」
『行け相棒!』
ゼロの声が背中を押す。
光がアンビーの全身を覆い尽くした。そして
「うわっ!」
アンビーの声が変化した。驚きと共に、力が溢れ出していく。
光が収束していく。そこに現れたのは——
ウルトラマンベリアルの息子にして、運命を乗り越えたウルトラマンジード。
「これが…」
アンビーの声がジードの身体から響いた。戸惑いがあった。だがすぐに消える。
「すごい…力が溢れてくる」
アンビーが拳を握った。ジードは構える。
「アンビー、行くぞ!」
「ええ!」
俺たちはベリアル融合獣へと向かって駆け出した。
次回の王は
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