陰の実力者(笑)の相棒にさせられて 番外編 作:嫉妬憤怒強欲
私達『七陰』はいずれきたるディアボロス教団との抗争に備えるべく、シャドウガーデンの力を秘かに高めることを選択した。
この世界のあらゆる場所へと見えない魔手を伸ばす教団に対し、様々な手段で、その強大な影響力へと対抗するために。
いつかは確実に訪れるであろう、シャドウとディアボロス教団との対決。その世界の陰の中で行われる死闘に向けて。
手始めに、シャドウガーデンの組織拡大のために資金源の確保、各地にいる悪魔憑きに罹っている者達の確保を始めた。
そして、ディアボロス教団のアジトの一つである地下施設に悪魔憑きが運び込まれたという情報を得て、私達はすぐに動ける人員で動いた。
地下施設に突入した私達は二手に分かれた。
ベータとデルタはホールで敵の注意を惹きつけ、その隙に私とイプシロンが奥へと進んで悪魔憑きを救出するというシンプルな陽動作戦だったのだけど――――
「………あの檻の中にいるようね」
悪魔憑きが監禁されていると思われる牢屋がいくつもある場所に着いたのだけど、空きの量が多かった。どうやら以前から運び込まれてたようね。
「もうしわけありませんアルファ様。もう少し早く調査できていれば、もっと多くの悪魔憑きを助けられていたのかも――――」
今回アジトを調査していたイプシロンが後悔の念に駆られていた。
「イプシロン……私たちはシャドウに様々な力と叡智を授けられた。だけど世界のすべてを見通せる神になれたわけじゃない。私たちにできることは、今の自分たちがやれることを、未来のために為すことよ。これからも、こういう状況は多くなるけど決して焦らないこと。いいわね?」
「今やれることを、未来のために為す………わかりました!」
イプシロンが立ち直ったところで仕掛けることにした。
教団員も大半がデルタ達に誘い出されたから、手薄になっているここの見張りを片付けるのにそう時間はかからなかった。
「………周辺の状況、確認終わりましたアルファ様。敵の増援の気配ありません」
「ありがとう、イプシロン。陽動含めて倒された人数を考えれば、この施設を死守しようなどとは、考えないでしょうね。逃げた者たちも、デルタとベータが仕留めてくれるはず。あとは――――」
「っ!アルファ達、誰かこっちに来ます!」
その時。
カツ、カツ、と。
来た道から音が響いた。
カツ、カツ、カツ、と。
誰かが階段を降りてくる。
カツ、カツ、カツ、カツ。
そして、音が止まったそこに新手が来た。
「あら、まだ敵がいたようね」
子供…?
教団員と同じ黒いローブ、フードを深く被っていて顔はよく見えないが、背丈がシャドウとそう変わらなかった。
「お前たちが例の侵入者か。何者だ?」
声から少年なのだろう。男性特有の声に高い声が混じっていた。
教団は子供も構成員にしてるというの?
「――――我等はシャドウガーデン。陰に潜み、陰を狩る者。お前たちディアボロス教団を殲滅する者だ」
動揺を隠すため、私は前に出て名乗った。
「シャドウ、ガーデン?訳すと影の庭?まあいいや。ディアボロス教団のこと、どこまで知っているんだ?」
「我々は総てを知っている。魔人ディアボロス、ディアボロスの呪い、英雄の子孫、そして……悪魔憑きの真実」
「………」
反応が薄い。前にシャドウのお姉さんを誘拐した連中の頭目に言ったときはかなり動揺していたというのにこの差……なにかしらの階級があって情報が手下まで伝わっていなさそうね。
「………全てを知ったうえで、教団にたった四人で挑むつもりなのか?」
「「――!」」
なぜ私達が四人で来たことを知ってるの?
「いや、全員で乗り込むほど馬鹿じゃなさそうだ。だが少数精鋭だとしても少なすぎる。それに殲滅するといっていたが、二班にわかれて片方は陽動、もう片方のお前たちは収容区画まで来た」
な、なんなの…。まるでこちらの頭の中を覗かれてるかのように、私達の作戦が全部読まれている。
「そういえば他の奴が最近誰かが検体の護送を邪魔してるって話をしていたが………そうか」
「お前たち、教団を殲滅すると言いながら、まだそれに十分な戦力を持っていないのか。そしてここを襲ったのは、ここにいる悪魔憑きを救出して仲間に引き込むため」
「「―――っ」」
「………図星か」
知られてしまった!準備ができるまで知られるわけにいかなかったシャドウガーデンの方針を!
頭で理解するよりも先に体が動いていた。
スライムスーツを変化させて形成した黒い剣を手に、一気に距離を詰めて斬りかかった。
「おっと」
相手は上半身を仰け反らせることで間一髪で躱し、距離を取りだした。
私はすぐに追撃を仕掛ける。
しかし全て紙一重。無駄な動きは最小限に、完全に太刀筋を見切って避けられていた。
「はぁ!」
強化した身体能力で速度を上げ、連撃を繰り出す。
背後に回り込んで仕掛けたりもした。
フェイントを入れたりもした。
シャドウに教わった通り相手の動きを予測して仕掛けた。
なのに、その総てが避けられ、逸らされ、防がれる。
おかしい。
私達の剣技はシャドウから教わったもの。
とても洗練されていて美しく、そして誰にも負けない剣技。
それが、目の前の相手に届かないなんて――――
「ありえない…!」
首を狙った一閃も容易く受け止められた。
「くッ……!」
剣を押し込もうとするが、相手の剣は微動だにしない。
「どうして…どうしてこうも――」
「どうしてと聞かれても………今回は相手が悪かった、ただそれだけのことだと思うが?」
「っ」
柄にもなく頭に血が上ってしまっていた。それが大きな隙を生んでしまったと気付くのに数秒かかった。
ギャリィッ
「なっ」
相手は鍔競り合いの状態から突きを放ってきた。
やったのは単純。剣身を接触させたまま柄側を私の目線より上まで上げ、私の喉元に剣先が向いた状態でそのまま剣を滑らせてきた。
私は剣先が届きそうな寸でのところで避けようと右側に身体を傾けたところに、
相手の高速の蹴りがきていた。
「ガはッ―――」
鈍痛と共に肺の中の一気に外に吐き出される感覚に襲われる。
対応できずに脇腹に大きな一撃を喰らってしまった私は大きく吹き飛び、地面に打ち付けられた。
「アルファ様!――このっ」
イプシロンが鎌を振って魔力の斬撃を飛ばした。
だけどまるで目の前に飛ぶ蚊をはたくように、魔力を帯びた剣を振るって掻き消された。
「なんだ今のは?衝撃波?いや。音速を超えていなかったし魔力を帯びていた………変わった戦い方をするな」
「そ、そんな―――」
ありえない。
イプシロンは七陰で最も魔力コントロールが緻密だ。通常魔力は身体から離れると制御が難しくなるが、彼女はそれを苦もなく制御し遠距離から斬撃を飛ばすのを得意とする。
初見で防ぐことが難しい技を防がれ、プライドが高い本人はショックを受けていた。
「成程、確かにこれだけの実力なら教団の連中には負けないだろうな。ただし、オレを除いてだが」
「っ…舐めるなぁッ!」
「イプシロン、駄目!」
私の制止を聞かずに、イプシロンは彼へと飛びかかる。
けど、鎌が振り下ろされるよりも先に懐に潜り込まれて首を掴まれ、そのまま地面へと背中を叩きつけられた。
「イプシロン!」
目を見開いたイプシロンは、即座に意識をもがれてピクリとも動かなくなる。
彼女にとどめを刺そうと彼が剣を構えたのを見て、立ち上がった私は痛みに耐えながら駆け、剣に魔力を込めた。
ドクン
「っ!?」
その瞬間、体内の魔力が突然乱れた。魔力の出力を落とし制御しようとするが、それでも暴れ出した魔力は鎮まろうとしない。 制御が乱れて身に纏っていたスライムスーツが崩れ出す。
「くぅッ!」
「――へえ」
全身に懐かしくも忌まわしい痛みが走り、足を止めてしまった。
蹴りを受けた脇腹から、スライムスーツの下の白い肌が黒く変色し、腐りだしていく。
「これは……悪魔憑きの症状!?なんでまた――!?」
国を追われ、全てを失うことになった原因。シャドウの手で治ったというのに。
すぐに魔力制御に集中する。魔力の乱れは多少落ち着き、腐った部分が元の白い肌に戻っていく。その様子を彼は静かに観察していた。
「驚いたな。お前達妙に魔力量が多いからもしかしてと思って試しに少し魔力を流し込んでみたんだが」
「流し込んだ、ですって………」
ひょっとしてさっき蹴りを入れられた時に…
いやそれより、これは意図的な魔力暴走。つまりシャドウとは逆のことをしたというの!?
いったい…何者なの?
「さっきの剣技といいその魔力制御…色々と聞きたいことがあるが、ホールにいる二人が異変に気付いてこっちに来るのも時間の問題だ」
イプシロンに向けていた剣がこっちに向く。
「―――まあ、今回はついてなかったと思え」
回避もガードする暇も与えられず、柄で首筋を強く打たれた。
意識が薄れゆく中、フードの下から無機質な二つの眼が私を見下ろしていた気がした。
♢♢
金髪と水髪ツインテールのエルフの少女達を気絶させた後、オレのことが知られないよう口封じに始末する手があったが色々と役に立つかもしれないと考え、二人を魔封の鎖で拘束してから牢屋に閉じ込めた。
魔力を練れなければただの人も同然。身体能力が高い獣人でない限り、壁や鉄格子を壊すことはまず無理。ホールにいる二人が駆けつけてくるまで足止めされるわけだ。
その間にオレは最後の1人になっていた検体を抱えて、研究室に向かう。
「くそっ、いったいなんだってんだ!?」
検体を隅に置いてから研究室に入ると、ここの研究者が慌てふためきながら、ここに保管されていた薬品や血液サンプル、実験道具、研究資料と思しき大量の紙束を鞄に無理矢理詰め込んでいた。多すぎて鞄がパンパンになっている。
「テスト用の錠剤を作ろうって時に―――」
「逃げる準備ですか?」
「ひぃ!?」
ブツブツ独り言を呟く研究者に声をかけると、ビクッと驚いた様子でこっちを向いた。
「な、なんだお前か、驚かすな」
「すみません」
「し、侵入者の始末はどうなってる?」
「構成員のほとんどが返り討ちに遭ったか、逃げだそうとして狩られています」
ちょうどホールの方で残りの1人がやられた。
「なっ、く、くそっ…使えん連中め!」
「侵入者は四人。二人組に分かれて片方はホールで待ち伏せ、もう片方は検体の収容区画に来たところを片付けました」
殺してはいないがな。
「そ、そうか。でかしたぞ新入り。その調子で残ってる連中も片付けてこい」
「ドクターは?」
「ここはもう使えん。お前が相手している間に裏口から逃げる」
研究者は石畳の壁を探るように触り、隅の部分のレンガを押し込む。すると一部の壁が横にスライドし、奥に通路が現れた。
空気の流れを微かに感じることから外に繋がってるようだ。
「…わかりました。ところで、持ち出す荷物はそれで全部ですか?」
「は?そうだが?」
「そうですか。よかった」
オレは鞘から剣を抜き、研究者の胸を突き刺した。
「ごはぁっ!?」
「悪いな。この通路はオレが使う」
「な、にぃ………」
悲鳴をあげる間もなく研究者は絶命した。身体から剣を引き抜いて付いた血糊をはらった後、壁にかかっていたランプを手に取り、中の油を研究者の亡骸にかけた。
なくなったら研究室にある引火性の高い薬品やアルコールを取り、研究室の隅々まで撒いていく。
「………これくらいでいいか」
空のランプを捨て、残り一つのランプに灯る火を油まみれの研究室に放る。
引火性の高い油に床に散らばっていた書類、薬品、脂肪率の高い人間の遺体。
条件がいくつも揃っていたため、火はいい具合に燃え移って広がりだした。
さてと。
全て燃えカスになるのも時間の問題だ。あとシャドウガーデンとかいうのが異変に気付いてこっちに来るのも。
オレは置いておいた検体とぎゅうぎゅう詰めの鞄を抱え、研究者が使うはずだった隠し通路を進んだ。勿論隠し扉は閉めておいた。
地下道なだけに薄暗く長い通路だった。
しかも埃が積もってたり蜘蛛の巣がそこら中にあったと清掃が行き届いていない。奇襲を受けることを想定していなかったためか存在そのものを忘れ去られていたようだ。
ここに配属されてから施設内の清掃などの雑用をさせられていただけに隈なく綺麗にしたいという衝動には………かられないな。別に好きでやってたわけじゃないし。
「…この辺でいいか」
蜘蛛の巣がない開けた場所で検体を下ろして治療を行う。
人の原型をとどめていなかった腐った肉塊から発されていた魔力の乱れが徐々に収まっていく。
それにしても、オレ以外にも悪魔憑きの治療法を知ってる奴がいたとはな。検体を救出に来ていた様子からもしかしてと思い、試しにアルファというエルフの少女の体内の魔力を暴走させてみたら、予想通り自力で治して見せた。イプシロンという少女が出した魔力でできた斬撃のことも考えると高度な魔力制御をものにしているのだろう。
だが、独学で手にしたとは考えにくい。
そう思う根拠はアルファのあの剣技だ。
この世界の剣技にはいくつかの流派はあるが、魔力での力押しでまず勝ててしまうため前世のホワイトルームで育ったオレからすれば純粋な戦闘技術は精錬されていない。
それに対し、アルファの剣技は地球の剣道の基礎に通ずるところが多くあった。
ということはオレ以外にも転生者がいる可能性が高い。剣技や治療法、魔力制御はそいつが教えたのだろう。
オレ以外の転生者………まさかあいつなわけないよな?
「う、うぅ………」
「おっと」
考え事をしているうちに治療は終わった。
今回は灰色の長髪に褐色の肌、だいたい二十代くらいのダークエルフの女性だった。
今回は服代わりの布を持ってきていないため、オレが着ている教団員用のローブをかける。
「ここ……は?」
「気分はどうだ?」
「お前は?………っ、体が戻っている!?」
意識を取り戻した女性は今の状態が信じれないのか、何度か自分の右腕を触ったり叩いたりしている。
「私は、悪魔憑きになって………なのに…!?」
ハッとオレを見る。
「お前が治したのか?いや、悪魔憑きは、不治のはず――」
「世間ではそう言われてるみたいだな。だが他人が流した噂話や常識がいつも正しいとは限らないだろ?」
既に七人治してるし、シャドウガーデンも治療法を確立しているし。
「じゃあ、悪魔憑きの治療法は存在していたというのか……!?」
「そうなるな」
相当ショックを受けてるな。不治の病なのだから死んでしまうのは仕方ないとどこかで割り切っていたのだろうか。
「だが………そんなことは………もうどうでもいい………」
「ん?」
「私はすべてを失った……地位も、名誉も、この世界に存在する理由さえも……私にはもう、何もない」
彼女の表情はどんどん暗くなっていく。
表では悪魔憑きは聖教に人間ではなく悪魔として処刑されるので存在自体なかったことにされる。
生きる意味、目的、何もかもを失っている状態だ。
だからそこに漬け込む隙ができる。
「惨めだな」
「なに?」
「確かに表でのアンタの人生が病気一つで台無しになってしまったが、今はオレの目の前でこうして生きている。エルフの寿命は人間の倍以上はある筈、なのに一度躓いた程度で終わった気になるのは早すぎると思うが?」
「………が………」
「ん?」
「子供が知ったような口を聞くな!」
激昂した彼女がオレの胸倉を掴む。
「お前にわかるか!?突然体が腐りだした途端に周りの変わり様を!?上にゴミを捨てるような感じで売られ、誰も助けようとする者がいなかった時の絶望を!?痛みに苦しむ中変な連中に尊厳もなく更に苦痛を与えられた屈辱を!?」
胸の内を明かすように呪詛を吐く。
同情はする。
だが、共感はできない。
「ああ。確かにわからないな。オレは生まれてこのかた自由とは無縁な人生を歩んできてるからな」
「え?」
「赤ん坊のころに両親を魔獣に殺され、教会の孤児院で生活すると思いきや魔力適正があるという理由だけで誘拐され洗脳され薬を盛られ戦闘訓練を受けさせられ、陰でお前たちを使って人体実験をしていた連中の捨て駒になることを強いられてきた」
「なっ―――」
オレのこっちでの身の上話を聞いて彼女は怯んだ。
「オレ以外にも孤児や貧しい平民の子が同じように専門の施設で育てられ、生きて施設を卒業できるのは一割にも満たない。といってもそのほとんどが物言わぬ人形になる。多分アンタがいたところでも同じ施設があるんだろう」
「馬鹿な…そんな施設があるなんて話を耳にしたことないぞ」
「情報が外部に漏れないよう徹底しているからな………まあなんにせよ、生まれてから表で生きていないオレにはアンタの苦しみをちゃんとは理解できない。できるとすれば客観的に捉えることくらいだ」
前世でも自由な生活なんて送れていなかったしな。
冷静になったのか、掴んでいたオレの肩から手を放して気まずい感じになる。
「…その、すまない。知らなくて」
「オレのことはいい。今大事なのはこれからのことだ」
「これからのこと、だと?」
「さっきアンタは自分にはもう何もないと言ったな。だが何もない奴が絶望したり激昂したり同情したりするか?」
「あっ…」
「今までの生活は失ったが、これまでアンタが積み上げてきたもの、経験、知識、人格、気力は今もその身体に残っている。失ったものを取り戻せなくとも、それさえあればまた新しく始めることだってできるとオレは思う」
「新しく、始める………」
「せっかく病気が治ったのに命を捨てるなんてもったいないだろ?まあ、どうしたいかはアンタの自由だが」
「私は………」
流石にすぐは答えが出ないか。
「答えを出すのは後でいい。まずはこの薄暗い通路を出るぞ」
あいつらがこの通路のことに気付かずに帰ると限らないしな。
「立てるか?」
「あ、ああ………」
オレが差し伸べた手を、彼女は戸惑いながらも取った。
「そういえばアンタ名前は?」
「私か?」
「ジナイーダだ」
Q:自分が死ぬ原因となった奴も転生していたらあなたはどうする?
Q:成長期真っ只中の子供用のローブを高身長の肉付きのいいダークエルフが裸の上から着るとどうなりますか?