陰の実力者(笑)の相棒にさせられて 番外編 作:嫉妬憤怒強欲
来年の最終シーズンが待ち遠しいです。
「えぇ……」
「な、なんか凄い戦いを見た気がする…」
「私もそう思います」
「ジナの姐御の攻撃が一撃もボスに届かなかったニャ」
「どうなってるのかよくわからなかったの」
「マスターにはジナイーダの動きが全てわかっているように見えた」
「そもそも二人の動きや握り方が全然違ってたしね。鬼教官のが剣に対し、あっちは……槍かな?」
「剣術のことはよくわかりませんが……ジナイーダさんのが強くて速いのに対し、彼のは巧いという印象でしたわ」
「ん……ボスは棒を使うのが上手」
「立てるか?」
「……ああ、もう大丈夫だ」
肩で息をしながらも、ジナイーダはゆっくりと立ち上がる。ここでオレが手を伸ばすという手があるが、逆に相手のプライドを傷つけてしまう時があるためやらないでおく。
「……お前が使った流派、棒術…いや杖術といったか。いったい何なんだ?こっちが先に仕掛けたはずなのに、いつの間にかカウンターが入れられていた。それにまるで……」
「まるで、なんだ?」
「………まるで、こっちが次にどう仕掛けてくるのかわかっているように感じだ」
いい線いっている。
「文字通り杖ほどの長さの棒を使った武術だ……いや、正確には護身術か」
「護身術?」
「棒だと殺傷性が低いからな。相手を殺さずに無力化するので精一杯だ」
杖術は剣術を中心とした日本武術の中で唯一「剣を破る」といわれる優れた武術であり、一本の棒を操る際には剣・槍・薙刀などのあらゆる武器術の動きを取り入れた千変万化の技法群を有している。
対剣術戦用に特化して攻防の動作が組まれているため、刀の峯を滑らせるように打ち込んだり、切りつけてくる敵の拳を狙うなど剣術の弱点を徹底的に攻める工夫がされ、かつ相手を殺傷することなく捕縛・制圧するのに特化しているため警察機動隊等の逮捕術「警杖術」として導入されていたりする。
「棒は上下左右がなく角一つない。手の内で滑るように扱えるし、どの部分でも瞬時に攻めにも防御にも転じることができる。ジナイーダの言うカウンター攻撃は打った反動、打たれた反動で回転させて前後が入れ替わるのを利用したものだ。前後同じ形だから回転の際混乱しただろ?」
「ああ……反動、か。魔力強化しての近接戦闘をメインにする魔剣士のとは戦い方が違うな。通りで勝てないわけだ」
「並みの奴ならそうだろうが、ジナイーダは序盤以降はかなり粘ったと思うぞ」
「…慰めの言葉をかけてるのか?」
「いいや。オレは事実しか言わない」
噓は言っていない。別にジナイーダが弱いわけじゃない。
ジナイーダのスピードとパワーは魔力なしでも大したものだ。ただ少しばかり、動きが直線的だっただけだ。オレはその隙を突いて横槍を入れただけに過ぎない。
「反応速度も悪くなかったからな。あとは予測する力を伸ばせば今よりもっと強くなれるだろう」
「?予測する力?」
「相手の姿勢や僅かな動作から数秒先の次の動きを予測する力だ。例を挙げるなら目線が下を向いていれば足を狙う、屈みながら足に力を込めていれば地面を蹴って一気に距離を詰める、腕が重心の上にいけば振り下ろしを仕掛ける、という風にだ」
地球の剣道でも相手を『予測・読む』力は重要だった。
『0.1秒』で面を打つ選手がいたとして、全員がそこまで速くないとしても、少なからず速い動きの中で、目で見て判断することには限界がある。目で見て「面に来た!」と思った時には打たれてしまうのだ。
だが「面にくることを予測」していれば、その最速の面にも応じる事ができる。
つまり、パワーやスピードが相手より劣っていたとしても相手に勝てない道理はない。
だがどうもこの世界での魔剣士同士の戦いはパワーのぶつかり合いだけで、魔力総量、速度、威力が高い方が勝つのは当たり前になっている。
大雑把で力任せの脳筋は何手も先を読んだりせず、ただやりたいことをやって終わるだけだ。
「くると分かってさえいれば、必要最小限の動きで回避しつつカウンターを仕掛けることも可能になる。逆にフェイントをかけて相手をこっちが有利になる状況に誘導することもな」
「私の攻撃がお前に通らなかったのもそれを使ったからか。確かに相手にとって脅威だが……斬り合いの間にやるのは難しそうに聞こえるぞ?」
「何事も練習だ。反射的に反応できるよう、戦いながら慣らしていくしかない。他に鍛える方法があるとすればチェスくらいか」
「チェス?貴族が遊びに使うボードゲームのことか?」
「遊びは遊びでも、相手の数手先の手を予測しつつ、互いが勝つための戦略を練り上げていく頭脳ゲームだ。一局一局の「流れ」や「最善手」をしっかり考えることが重要になるから、対局すればするほど頭が鍛えられて自然と深く考える力が身につく」
実際前世のオレはチェスをやって思考力を鍛えてたからな。
「だが今この場にボードも駒もないからな。打ち合いをメインに鍛えていくしかない」
まあ、最適な材料がその辺に転がっていそうだから空いた時間に作れると思うが。
「相手よりも数歩先を行く。そういう意識でやってみるといい。ジナイーダは基本がちゃんとしているからすぐにできるようになる」
勧める時は否定の言葉を多用してああしろこうしろと指図はしない。
心理的リアクタンス、別名カリギュラ効果といって、自分が自由に選択できると思っていることに対して制限や強制をされてしまうと、抵抗や反発感情が生じる。
ダークエルフの心理構造も人間のそれに近いため同じようなことが起きるだろう。
そう考えたオレはそれが働かないよう、可能な限り「興味」を引き出しつつそれを選択する意思決定が彼女にあるように言葉を選んだ。
「ふむ………そうか。やってみよう」
結果は良好だ。
模擬戦の後は、約束通り訓練を戦闘訓練と魔力制御の鍛錬を始めた。
といっても皆初心者なため、戦闘訓練は体力づくりのトレーニングと素振りを、魔力制御は瞑想を通して自身の体内を巡る魔力の感知の感覚をつかませたりと基礎の段階からだ。
リミットは一ヶ月しかないが、皆それぞれの能力を伸ばすには地道に進めていくしかない。
地球のスポーツの世界で、心技体という言葉が使われる。
心(精神)と技(技術)、体(肉体)は密接に繋がっていて、相互に影響を与える。
この3つのバランスを全て整った時、人は最大の力を発揮できるとのことだ。
つまり、手抜きして一つだけに優先してやらせても意味がないと解釈できる。
とはいえ、技術や身体の鍛え方は教えることはできても精神の磨き方は本人次第だが―――
♢♢
side.チナツ
本日の訓練を終え、訓練後の汗ばんだ身を清めるために私達は……
「ああー…いい湯加減ニャぁ」
「ハァ~~~極楽なのぉ……」
「二人共なんかオヤジ臭いよ……まあ、はしゃがれるよりはマシか」
川の端にあった広い水溜りの空間で作られた湯舟に浸かっています。
沸き立つ白い湯気の中で、無数の悩ましい肌色が戯れるというとても賑やかで姦しい空間ができあがりました。
「まさか隠れながらの生活でこんな贅沢ができるとは思いませんでした」
「いい加減川の水じゃ冷たくて風邪引いちまうからちょうどいいな。これもモニカが頼んでくれたおかげだな」
「ああ、うん………確かにボクがお風呂を作って欲しいとは催促したけどさ、大きな木箱を想像してたんだよね」
湯舟の構造は水を閉じ込めるために石を積み、砂利と砂、土などで隙間を塞ぐというシンプルなものです。
傍で起こした焚火で石を沢山焼き、十分に焼けたら安全のために作った空間に投入。水溜りが熱せられて水溜りが即席の露天風呂に大変身。
私達全員の評価は『最高』の一言。勿論全員石鹸を持参です。
「訓練の終わりに星空の下で皆さんと入浴というのも良いですわね」(テスタロッサ)
「ん……ボスはいないけど」(シロコ)
「いや、流石に一緒はまずいでしょ」(モニカ)
「というか、あいつが覗きに来たりしないか心配だな」(イオリ)
「さ、流石にそんなことはしないと思いますよ」(チナツ)
「あの欲望もなにもかも抜け落ちたような感じのマスターからそのような行為を行うとはとても想像できないのだが」(アタランテ)
「いやいや、そうとも限らないニャ」(リニア)
「ボスも雄だから発情すれば飢えた狼さんを露わにするの」(プルセナ)
「そんなことしたらボコってから縛って吊るして火炙りにしてやる」(イオリ)
「お前達言いたい放題だな」(ジナイーダ)
「むむ……やっぱりジナの姐御のが一番大きいニャ」(リニア)
「二つの丸いのがプカプカ浮いているの」(プルセナ)
「それに元軍人だというのにお肌がとても綺麗ですわね」(テスタロッサ)
「おい、いったいどこをまじまじと見ているんだ!?」(ジナイーダ)
た、確かに大きいです。私もあれくらい育つのでしょうか。
訓練後の身体に刻まれた疲労がお湯に流れていく感覚を堪能しながら、私達は会話に華を咲かせていきます。
「………ところでさ、皆は彼のことどう思っているの?」
「お?なんニャカズサ。恋バナかニャ?」
え?
「言っておくけどナンバー2の座は渡さないの」
「いやそういうのじゃなくてさ。人柄とか、信用できるかどうかの話で」
「なんだ。そっちかニャ」
「ん……ボスは優しい人。私達の病気治してくれた」
「ふん、私はあいつのことをまだ信じ切っちゃいないがな」
「もうイオリったら…」
悪魔憑きを発症してからの周囲の変わり様、教会に売られた先で味わった理不尽な仕打ち。激しい苦痛の末に朽ちて死ぬ運命にあったところを彼に救われましたが、イオリのように他人への不信感を完全に拭えていない人もいます。正直、私もどこかで他人を信じられずにいます。
「……でも変わった人ですよね。なんというか、他の人とは考え方……というより価値観やものの見方が違うような気がします」
「チナツの言うことには私も同感だ。その辺に転がっているものから道具を製作してしまう発想力、模擬戦で私に見せた特異な戦法、訓練時のとても理にかなったアドバイス………とても赤ん坊のころから洗脳教育を受けた子供とは思えないな」
「ジナの姐御はボスが噓をついてると思っているのかニャ?」
「ヌーニなの」
「いや、そこまでは言っていない………あのまま苦痛の末に朽ちる運命にあった私達を救ってくれたのは事実だ。その上治したお返しに何かを要求してはこない」
「でもいつも無表情だから何考えてるのかさっぱりわからないんだよね。向こうは今後の方針を考えている最中とは言ってはいたけどさ……」
「…相手のことを理解できていない段階であれやこれや言っても結論なんて出ませんわよ」
「?テスタロッサさん?」
皆の視線がテスタロッサさんに向きました。
「実はこう見えてわたくしは貴族の出でして、他の貴族や商会の方と交流する機会がありましたの」
こう見えてって……まんまですよね?
「当然中には上っ面ばかりだったり、腹に一物抱えた方も混じっていますからね。裏で互いに牽制し合ったり貶めたりとは当たり前でしたの」
「怖っ!貴族間のドロドロした関係怖すぎだろ!」
「まあわたくしにそんなことをしようだなんて考えに至らないよう、やられる前に徹底的にねじ伏せてやりましたが」
「おおっ!なんか凄いニャテスタの姐御!」
「ねじ伏せたってどうやったの?」
「ふふ、それは秘密ですわ」
「「「「「「「………」」」」」」」
リニアさんとプルセナさんはよく分かっていないようですが、私と他の皆はなんとなく理解しました。
うふふと上品と笑うこの白髪の美女をただの気品溢れるいいとこのお嬢様と侮ってはいけないと。舐めてしまえば痛い目を見てしまうかもしれません。
「それでですね。わたくしが関係を築く際は、相手を信じる前に相手のことを理解することから始めることを常に心掛けていました」
「相手のことを理解することから始める…ですか?」
「ええ。言葉だけでなく、相手の表情、行動などから相手の本質を読み解くのです。どんなにコミュニケーション能力が高くても、相手によって態度や接し方を変えたり、言っていることと実際の行動が一致していない人なんて信用できないでしょう?」
「た、確かに…そうですね」
「でも読み解こうにも、彼殆ど表情を変えないよね?」
「実はカズサさんがまだこちらにおられなかった時、皆さんでアルミラージをいただいた際に彼一度だけ年相応の子供のように口元が綻んでいましたのよ」
「えっ」
「そういえばそうだったな。あれには私も驚いた」
「行動といえば、ボク達がボロボロの服を着ていた時に視線が釘付けになっていたね」
「えっ」
「たうわって言ったときなの」
「たうわ?」
「イオリの肘打ちがかなり効いていたみたいだったな」
「あいつがむっつりスケベなのが悪い」
「ボスも結局雄だニャ」
「あ、あはは……」
他の面々が言いたい放題の中、カズサさんは想像できないのでしょう。あの時いなかったのだから仕方ありません。
「意外ですか?」
「あっ、うん。人間らしいところを結構皆に見せてるんだなって」
「まったくの無自覚のご様子でしたので、達観してはいても中身はまだ年相応の子供なのでしょうね」
「子供………」
「………確かに。悪魔憑きを発症してからすべてを失った私達と違い、彼は赤ん坊の頃から表の世界とは無縁の悲惨な人生を送ってきたのだったな。感情が抜け落ちたような感じなのはそのせいかもしれない」
彼もある意味私達と同じ教団の被害者だ。
そう神妙な面持ちをするアタランテさんの言葉に、彼に対し疑念を抱いているイオリが「うっ」とばつが悪そうな顔になりました。
「なにも疑うなとは言いません。頭ごなしにではなく、彼のことを理解していくうえで信用できるかどうか決めていけばよろしいかと。まあ、あくまでわたくし一個人の意見ですが」
「う、うん……難しそうだけどやってみる」
「イオリさんは?」
「わ、わかったよ」
イオリが前向きに検討してくれるようで良かったです。
だって、一ヶ月共に過ごすなら私達との間の溝がずっと埋まらないままなのはなんというか……その…寂しい気がしますし。
ってあれ?なんで寂しいと思ったんでしょう?
自問自答している間に、気づけば話題が変わっていました。
「ん……そういえば、カズサが出くわした魔獣ってどんなのだったの?」
「あー……あれか。なんて名前だったかな。ほら、体が熊で頭が梟みたいなの……」
♢♢
日が沈み暗闇の包まれた薄暗い森の中を一人の獣人が探るように歩き回っていた。
「………この跡、荷車かなにか動かしてできたものかな」
金色の毛にネコ科特有の耳に細い尻尾を生やし、黒いぴっちりとしたスーツを着たその少女の視線が地面に向いている。夜目の効く視力を持っているため灯りを必要としていない。
「珍しくアルファ様の読みが外れたな。でも拠点を脱出した後本部かどこかに私達のことを報告せずになんで森の中を?」
獣人特有の鋭い嗅覚で地面の匂いをクンクンと嗅ぐが、
「微かに匂いは残っている……でもなんだろう?草?灰?色々な匂いが混じっててわかりにくい。こいつはいったいなにがしたいんだ?」
他に人がいないにもかかわらず独り言を呟きながら、匂いを辿って森の中を進んで行くと………。
「おかしい。跡が途中で消えてる……なんで?」
ガサガサ
「ん?」
近くの木の上でなにかが動いた。
獣人の少女は武器を構えてゆっくりと音がした方へと近付く。
あと一歩のところまで距離を詰めたところで再びガサガサと音がして、木の枝の間からそれが出てきた。
「ホッ、ホッ、ホッ、ホッ…」
「なんだ梟か………ん?」
平たいお面のような顔で、頭は丸くて大きい白い鳥のように見えるが、違和感に少女は気付いた。
足の形状が鳥特有の木の枝を掴むための細い三本ではなく、足幅が大きい四本の鉤状の爪を生やした太いもの。
羽の部分はよく見たら後肢より長く太い前肢に羽毛が生えているようで、四本の鉤状の爪で木の枝に掴まっていた。
「アウルベアの子供!?子供がいるってことは、親もすぐ近くに――――」
それがなんなのか気付いた時には、視界の端で二メートル以上はある巨大な影が少女に向かって突進してきていたのだった。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
・初期訓練
基本は大事
地道に土台を固めていく
・露天風呂作成
大きな水溜りに熱した石を投入して大変身
竹などで覆いを設置することも検討されたが、魔獣が生息する環境で視界が塞がれてしまうのはまずいというジナイーダの意見の元断念
はしゃいで石を崩したら水が流れてきて台無しになるので注意
マナーとして、先に石鹼で洗い流してから入る
・回転砥石鋭意製作中
重いものを支えれるように材料や構造から見直し
・追跡者の災難
黒いぴっちりスーツを着た猫の獣人娘が夜中に痕跡を辿って、森の中を進んで行くも魔獣に遭遇してしまう。
ファンタジー世界のモンスター「アウルベア」別名オウルベアが最後に登場