陰の実力者(笑)の相棒にさせられて 番外編 作:嫉妬憤怒強欲
「イオリ緊急事態だ。オレの剣を返せ」
「返せって……どうするつもりなんだよ?」
「あの獣人を助ける」
こうなったら仕方ない。
リニアの幼馴染らしい金色の猫の獣人の少女はなんだか走りにくそうにしているな。獣人族の基本的な身体能力は人間より上。シャドウガーデンのメンバーともなれば上手く魔力で強化できると思ったんだが…………あるいは別の要因か?
「誰かあのトカゲの魔獣がなんなのか知ってるか?」
「ん…多分、私わかる……あれはムシュフシュ、だと思う。
あいつら生息する場所によって姿が違うみたいだから確証はないけど…」
「いや、十分だシロコ」
確か古代メソポタミアの聖獣だったか。
「ムシュフシュの尻尾の棘には猛毒があって、掠っただけでも致命傷になるという話です」
毒か。ひょっとして、あの獣人の様子がおかしいのはそれが原因か。
「よし。作戦は決まった」
「作戦って…正気か!?あんなのとまともにやり合って勝てるわけないって!」
「いいから話を聞け…「ところでシロコ、あの被り物持って来たりは…」
「ん、持って来てる」
「あっ、うん、そうか。少しの間借してくれ」
♢♢
「はぁ…!はぁ……!」
沼地を抜けた獣人の少女は右肩を押さえながら森の中を駆ける。
彼女の後方から、木の枝の上を伝って追いかけてくる大きな3つの影。
(くっ……まさか私が逃げる羽目になるなんて…!)
彼女はアルファやベータ、イプシロンなどのメンバーと共に主の下で戦闘訓練を受けた。
飽きっぽく集中力が持続しないという欠点はあるものの、何事もそつなく熟し、戦闘面においても卓越した才能を持っており、実際数回にわたる教団員との戦闘では苦戦することなく勝利していた。無論、リーダーのアルファから言われている通り油断も慢心もしないように心得ている。
魔獣との戦闘でもそうだったつもりだ。
だが………
(いったいどうなってるの?……あれにあんな能力があるなんて文献になかった……!)
魔獣達が発揮した能力にまるで歯が立たず、怪我を負う始末。形勢不利なため撤退を余儀なくされたが、魔獣たちは自分達のテリトリーに侵入した彼女を獲物として追いかけてきている。
(それになんかおかしい)
向こうが素早いのもあるが、自身の体に違和感があった。
普段と変わりない速度だというのに、足がもつれ転びそうになる。口の中や手足の指先が痺れてきた。
「あっ…」
おぼつかない足が木の根にひっかかってしまい、大地を転げまわった。
すぐに立ち上がろうとするが、手足に上手く力が入らなく魔力も上手く練れない。
「くっ、なん、で……」
猛毒によるものだと気付いた時には、三体の魔獣が木から降りて余裕の態度でゆったりと歩いてきていた。
少女の気のせいでなければ、魔獣達の目には見下すような、あるいは嘲笑うかのような色が見える。完全に遊ばれているようだ。
少女には、尻餅をつきながら後退るという無様しか出来ない。
やがて、魔獣の一頭が少女の目の前で止まった。地べたを這いずる虫けらを見るように見下ろし、大きな口を開く。
(……こんなところで、終わりなのかな……)
絶望が少女を襲う。
その時、一本の矢が口を開いた一頭のこめかみを射抜いた。
♢♢
「…それじゃあ全員作戦通りに動け」
「あ、ああ」
リニアの友人らしい猫の獣人の少女の救出に動くことにしたオレは皆に作戦の内容を伝え、行動に移した。緊急事態ということでイオリから一時的に剣を返却して貰っている。
「……なあ、本当にそんなの被って戦う気か?一人だけ凄く浮いてるぞ」
「なんだか夢に出てきそうです」
「………いいから持ち場につけ」
今オレは顔バレ防止のため、以前シロコが作った兎もどきの被り物を被っている。
本音を言えば被るのは遠慮したいが仕方なかったのだ。
シャドウガーデンのメンバーを助けた後のことを考えると、顔を覚えられることはどうしても避けたい。相手がニワトリ並みの記憶力で言われたことをすぐに忘れてしまうぐらいのアホなら問題ないだろうが、そんなのが都合よくいるとは思えない。今から別の被り物を作る時間もないし。
「まずはアタランテ」
「了解したマスター」
アタランテに指示をし、身を低くして移動する。
アタランテも高く跳躍して木の枝に乗り、距離を取る。狙撃手の優位な点は、相手の攻撃範囲外から攻撃できることだ。
竹製の弓に石の鏃を使った矢を番えて構える。
オレ達も所定の位置につき、タイミングを見計らう。
獣人の少女が木の根に引っかかり転げた。
起き上がろうとしても力が入らない様子から毒で麻痺してるようだ。
動けないのをいいことに、3頭のムシュフシュが木から飛び降りて少女に向かって余裕そうに歩み寄っている。
油断している今がチャンスか。
オレは少し離れた木の上にいるアタランテにハンドサインを送る。
――やれ
オレの合図と共に、彼女の弓から矢が放たれた。
矢を遠くまで飛ばすためには、ただ弦を強く引っ張って放せばいいわけではない。
当然発射時にエネルギーを受け飛び出すわけだが、ただの棒状では風の影響を受けやすい。
矢が綺麗に飛ぶ基本的な仕組みは、弓から受けたエネルギーを重い鏃が一番蓄えて射出される。ただ、それだけでは矢が横を向いて飛ぶことも多く不安定だ。
真っ直ぐ飛ぶための秘密は矢の後端付近に付く羽根にある。(今回はそう都合よく鳥の羽根が落ちていなかったため代わりに葉っぱを使用)
重心の運動が空気中を移動するとき、矢羽は空気抵抗という矢の速度の反対向きの力を受ける。
空気抵抗が大きければ重心の後ろになる後端が後ろ、先端は前方に来る。
進行方向に先端が来れば、矢の方向性を保てるのだ。
さらに、3枚の矢羽を軸に対してわずかに傾けてつければ、飛ぶときは風車と同じ原理で矢が回転する。
近代の拳銃に使われるライフリング加工により発生するジャイロ効果に近い現象により、矢の回転で命中精度がより上がるわけで――――
「キシャアアアア!!?」
空気を切り裂くように矢が飛んでいき、大口を開いたムシュフシュのこめかみを難なく射抜いた。鏃が脳にまで達したようで、白目を剥きながらバタリと地面に倒れる。
「!?」
「!?!?」
突然の狙撃に残り2体が動きを止めている瞬間を狙ってオレ達は動いた。
まず、オレとシロコが真後ろから剣と石斧を振るう。上向きに前へ反り曲がっていた細長い尾がこちらに向くことなく斬り落とせた。
毒という攻撃手段を奪ったところでリニアとプルセナも攻撃を仕掛けた。
「とりゃあ!」
「ニャア!」
リニアとプルセナが棍棒を使って足を狙う。
高い身体能力を持つ二人の獣人は素早く懐に潜り込み、棍棒を力いっぱい振るう。
棍棒は剣術や弓術のような特別な技術的な修得は必要なく、ただ相手を打ち殴りつけるという比較的シンプルな攻撃に使える鈍器だ。
先端に重い石を取り付けることで振り回した際のヘッドスピードが十分に加速され、命中した時には相手を一撃で殺傷できるほどの威力を発揮する。
その鈍器の一撃に獣人特有のの高い身体能力が加わることで、2体の太い前脚を一本ずつ立木の伐倒のようにへし折ってみせた。
「「!?」」
前脚を片方折られて2体がバランスを崩して転倒する。
尻尾による毒攻撃と前脚による引っ掻き攻撃、機動力を奪い、身動きがとれなくなったところでイオリとチナツが出てきて、手に持つクロスボウ(竹製の弓に割れ目と溝を入れた細い竹筒を挿し込み紐で固定させただけの物)をガラ空きになった胴体に向ける。
クロスボウ最大の利点は、素人でも狙える狙いやすさである。
弓は「狙う」という行為ができるまでに弓を引き絞って構えるための筋力と、その状態で狙いをつけて放つための長期間の訓練が必要になる。
弓道やアーチェリーの経験者でない限り、サバイバル環境下ではそれらを省略できるクロスボウを使うのは無難だろう。
あらかじめ弦を引いて竹筒の溝に引っ掛けたところで矢をセット。
あとは狙いを定め、引き金を引いて大きな力で保持されていた弦が溝から離れ、働く力で矢が発射される。
「やった」
「当たった!」
「気を抜くな!まだ生きているぞ!」
アタランテも続いて矢を発射し、全て二つの大きな的に命中。それでもまだどちらも息があったため、オレとシロコが奇声をあげながら暴れる蛇のような頭部目掛けて武器を振るった。
切り落とした頭が地面に地面に転がり、騒がしい奇声がぱたりと止んだ。
「…すげえ。魔剣士が10人挑んで3人しか生き残れない魔獣を、素人7人で3頭倒しちまった」
「10人挑んで3人?10頭相手に?」
「いや1頭って話だ」
………まあいいや。
「やっぱりリリムだニャ!」
「えっ」
安全を確認し、リニアが身動きが取れていない獣人の少女に駆け寄る。
「誰………?」
「ニャ!?マブダチのことを忘れたのかニャ!?ほら、親戚同士で小さい頃よく遊んだ!」
「そのニャーニャーって語尾…………ひょっとして、リニアーナ?」
「思い出したかニャ!」
「えっ、お前リニアじゃなくてリニアーナだったのか」
「ニャ?会った時からそう名乗ってたニャ。でも家族以外よくリニアって間違えるニャ」
「ん……私もリニアって聞こえた」
「語尾にニャーニャーつけば誰だって聞き間違えるの」
オレもそう思う。
知り合いとの再会に喜んでいる本人は特に気にしていないようで、今さら呼び名を変える必要はなさそうだ。
「どうしてこんなところに…?それにこいつらはいったい…なんか兎の頭を被った不審者がいるし」
「あれはあちし達のボスニャ」
「あんなのでも結構強いの」
あんなのは余計だプルセナ。
「ん……被ってるのは兎じゃなくてアルミラージの頭」
シロコはそういうどうでもいいこと修正しなくていいから。
「そう言うリリムもどうしてここにいるニャ?身内同士の争いで死んだって」
リリムという獣人は一瞬、昏い目をした。何か一瞬嫌なことを思い出したようだった。だがなか思い出したかのようにハッと顔を上げる。
「すぐにここから逃げないと…こいつらが動き出す前に!」
「?何言ってるの?ついさっき私達が倒したの」
「そいつら斬っても死な――――」
「マスター、後ろ!」
木の上にいたアタランテの叫びで振り返ると、ムシュフシュ達の死体に変化が起こった。
アタランテが最初に射抜いた1体がむくりと起き上がる。脳に刺さっているはずなのに目はぎょろりと動いており、問題ないかのように前脚で器用にこめかみに突き刺さった矢を引き抜いた。穴の空いた傷口がめきめきと音を立てて塞がっていく。
「なっ」
「噓、だろ……」
オレとシロコ達が仕留めた2体の方は、切断した箇所に魔力が集中しだしたのを感知した束の間、切断面の赤い筋肉組織が溶け出して脱色。表皮のようになって傷口を覆う。
傷口周辺に魔力が集中しながら白い半透明の表皮はもぞもぞと膨みだした。
まるで早送り再生しているかのような速度でそれぞれの切断面で伸びていき、形を変化させていった。
うっすらと表面が透けて内側でめきめきと音を立てて骨が、筋肉が、脳が、失った体の部分の組織や器官が形成されていき、表面にも白い肌が生まれ覆い始める。
やがて切り落とした頭部と尻尾と同じ形になる。
その形成された瞼がばっちりと開かれ、その冷たい金色の眼がオレ達を捉えると、むくりと起き上がった。
リニアとプルセナが折った前脚も治っており、問題なく四本の脚で胴体を支えている。
「再生したのか……?」
問題発生だ。
食い殺さんとする殺意のこもった肉食獣達の視線がオレ達に向いていた。
♢♢
一方、居残り組のカズサ、ジナイーダ、モニカ、テスタロッサの4人は、炉を作った時に余った粘土でプチ陶芸教室を開いていた。
作ろうとしている陶器は皿、カップ、スプーン、鍋、貯蔵用の甕などの食生活に欠かせない器である。
鍋などは樹皮や竹筒で代用できるのだが、陶器の方が文明社会で育ったメンバーには使い慣れているという理由から始まったのだが…
「あっ、少し斜めに傾いちゃってる」
「ジナイーダさんが作っている水差し中々個性的ですわね」
「…これはコップなんだが」
「えっ」
陶芸未経験者の4人は陶器作りに苦戦していた。
「うーん……簡単にできると思ったんだけど、結構難しいな」
「皿は平たくした粘土の外側を少し浮かせる程度の感覚でなんとかなるけど、壺とかだとね……」
職人がどうやって作ってるのか知るわけがなく、とりあえず土器のようにひも状にした粘土を巻くように積み上げていく手法をやっているが、壺の様な大きな器を作るのに時間がかかっていた。
「はぁ……まいったな。この調子だと目標の数作るのに1日じゃ足りないかも」
お皿やお椀が欲しいモニカは頭を搔きながらため息をついた。
「彼が作った旋盤ってのみたいにサクッと作れたらいいのにね」
「旋盤みたいに……」
文句を垂れるカズサの言葉に引っかかるモニカ。
「旋盤みたいにくるくる………」
「ん?どうしたのモニカ?」
「ちょっと試してみたいことがある」
なにか閃いたモニカが倉庫から回転砥石に使う予備の部品をいくつか取り出し、組み立て始めたことにジナイーダとテスタロッサも気付いてモニカの様子を見る。
「これは…」
「2枚の円盤の穴に短い軸棒を挿し込んだだけですわね………」
「いきなり砥石車みたいに複雑なのは作れないよ。まあ見てて」
地面に置いた2枚重ねの円盤の上側を手で回すとくるくる回りだしたのを確認してから、モニカはその上に小さめの粘土を置き、右手を粘土の表面に当てながら左手で円盤をくるくる回し始めると………
「!なんか丸くなってきた!」
「なるほど。その手があったか」
「まるで粘土用旋盤みたいで面白いですわね」
「…うん。硬いところがあるけど水加えればなんとかなりそうだね」
モニカが作ったのは手回し型の
「さて、次はこうかな」
外側が整えば、今度は水で濡らした人差し指と中指で下方と内側に押していくと穴が開く。指の力を外側に向けると穴が拡がっていき、引っ張られるように外径も大きくなっていく。
「すごい……旋盤みたいにスイスイ成形されていく」
「木工と違って大きくしたりできるな」
「まるで粘土が生きているように見えますね」
外径が変わらないよう、親指で外側を押さえながら内径側も押さえていくと上に延びていく。それを利用して軽く厚みを整えながら延ばして高さを作っていけば、数分でコップが出来上がった。
「もうできちゃった……」
「片手に納まるサイズならいけそうだね。大きな壺となると両手が必要だけど」
「でしたら二人一組なって回す人と成形する人で役割分担するのはいかがでしょう」
「…確かにそれなら一人が一つのことに集中できて作業効率が上がるな」
善は急げということで余りの円盤でモニカのと同じものを組み立て、モニカとカズサ、ジナイーダとテスタロッサの二組に分かれて作業を開始する。
「ジナイーダさん、そこは余り力を入れ過ぎない方がよろしいかと」
「ちゃ、ちゃんと抜いている…」
「さっきのコップ作りで大分コツを掴んだから楽勝だね」
少しずつ積み重ねてから厚さを均一にさせたり繋ぎ目を整えるのにかかる時間も、旋盤と同じ要領で指を当てながら粘土を回すというシンプルな作業だけで短縮できてしまい……
「……あれ、ボク凄くない?」
「ジナイーダさんのは鍋に使えそうですわね」
「そ、そうだな」
本人も戸惑ってしまうほど、素早く大型の壺の成形ができてしまった。
なにはともあれ、この調子で今日中にノルマが達成できそうだと彼女達は舞い上がる。
だが、彼女たちは知らなかった。
陶器は成型後、長時間の乾燥、素焼き、本焼きなどの工程があることを。
土器のように乾燥させて焼成という2工程だけやるのもいいが、やはり乾燥させるのにすごい時間がかかることを。
それを知って絶望するのは少し後の事であった。
♢♢
正直言って、オレ達はかなり苦戦していた。イオリとチナツがリリムという獣人の少女に肩を貸して後退していき、オレ達が連中を応戦する。
鞭のようにしなる毒針付きの尻尾に気を付けながら首を飛ばしたり、腹を裂いてやったり、心臓を突き刺したりもした。
しかし、それでも。
「………まだ再生するか」
ムシュフシュ達が死ぬことはない。
「本当になんなんだよこいつら不死身か!?」
「ムシュフシュに再生能力があるなんて話聞いたことがありません」
「ん……ひょっとしたら変異個体なのかも」
「あのアルミラージに続いてなの?しかも三匹も」
「どんだけあちしらツイてないニャ」
「……変異個体なのかどうかは定かでないが、私達が不利なのは確かだ」
アタランテの言う通りだ。
どれだけ斬っても死なず、再生スピードがものすごく速い。五体満足になればすぐに体勢を立て直して攻撃を仕掛けてくる。
向こうの再生能力は無限かもしれないのに対し、こっちは体力が有限で武器の強度や矢の数にもすぐに限界がやってくる。
このまま避難所まで追いかけてくることは絶対に避けたい。
となると、ここで確実に仕留めるしかないわけだが……………情報を整理するか。
そもそも再生能力とは、身体の恒常性を維持するために欠損した部位を取り戻そうと再び作り出す能力のことだ。
再生能力には二つの主要なタイプがある。
失われた部分を完全に元通りにする「完全再生」。
失われた部分の一部を再生する「部分再生」。
オレ達哺乳類は傷にかさぶたができたり、折れた骨が繋がったりして治せるが、腕や内蔵は一度失えば生えてこないため部分再生となる。
前者の能力を持つ動物は、失った部分の見た目を元通りにするだけでなく、機能的にもほぼ同じ状態に戻せる。
この二つのタイプの再生能力でも共通して核となるのが幹細胞だ。
オレ達生物は皆、自分たちの身体の中に、皮膚や血液のように、ひとつひとつの細胞の寿命が短く、絶えず入れ替わり続ける組織を保つために、失われた細胞を再び生み出して補充する能力を持った細胞を持っている。それが「幹細胞」だ。
これが分裂(自己複製能)だけでなく血液系、神経系、皮膚、内臓などのきまった組織や臓器を消えた細胞のかわりを造り出している(分化能)。
ここは異世界だが、生物である以上地球のと同じように幹細胞で構成されているはずだ。
「―――次で仕留める。お前たちは下がれ」
「はぁ!?仕留めるって、死なない魔獣をどうやって!?」
「本当にそうかな?」
たとえ不死身に近い再生能力を持った生物でも、生物である以上殺す方法は必ず存在する。
前に出たオレに向かってムシュフシュは前脚に生えた鋭い爪を振り下ろす。
オレは相手の爪を避け、空振りして隙のできた前脚を斬り裂いた。勢いは殺さずに首を刎ねる。
2頭目の尻尾が迫り、剣で受け止めることなく毒針を剣身を使って滑らせる。攻撃を受け流しながら加速で距離を詰め、上段から兜割りに剣を振り下ろし、その頭を真っ二つに叩き斬った。
すぐに引き抜いたところで3頭目が嚙みついた
だがオレにではなく、オレが使っている剣にだ。
パキィンッ
「そんな――」
強い顎の力により剣身が砕けた。
あの兎もどき同様武器というものを理解している。
オレ達から武器さえ取り上げてしまえば後は簡単だと思ったのだろう。
「―――なんてな」
だがオレには関係ない。
オレは身を屈めて尻尾を避け、そのまま前転。ムシュフシュの真下へと潜り込み、柄に残った刃を奴の胴体に突き立てる。
臓器にまで達していないが問題ない。
オレは空いた左手を傷口に突っ込み、一気に魔力を流し込んだ。
「ギシャアアアア!?」
ムシュフシュがまるで苦しむかのように奇声を上げた。
白い肌が手を突っ込んでいる箇所から徐々に黒く変色しだし、腐りだしていく。
オレがやっているのはシロコ達悪魔憑きを治療した時とはまったく逆の手法だ。
流し込んでいる魔力でムシュフシュの体内を巡る魔力に干渉し、波長を乱す。
こいつらは再生する際何度も傷口に魔力が集中させていた。あの異常な再生スピードが魔力の幹細胞活性化によるものだと仮定するなら、それは強みと同時に弱点にもなりうる。
意図的な魔力暴走を通して細胞そのものを攻撃してしまえば、再生ができないどころか自壊を引き起こせる。
そう考え実行してみると、予想通りに体組織の崩壊が始まった。
「!?!?!?」
もがき苦しむムシュフシュは必死になってオレを引きはがそうと暴れだした。
オレは放すまいと真下から胴体にしがみつきながら魔力暴走を強める。
爪や尻尾をオレに向けて振るおうにも、オレがいるのは胴体の真下なため届かない。
頭部が大きな口を開けてオレに向こうとしたとき、アタランテが矢を放って目を射抜き阻止した。
そして――――
「ギシャアアアア――!!」
やがて腐敗が全身にまで達し、断末魔の叫びを上げたムシュフシュの身体が崩れた。
胴体を支えていた四肢の骨が砕け、折れ曲がった部分から横に倒れ、グチャッと嫌な音を立てる。
腐った肉塊となったそれはピクピクと痙攣していたが動き出す気配はなかった。
「死んだ、のか…?」
「…再生する様子が無いということはそうなんだろう」
再生を終えていた2頭は仲間の無惨な死に様を見て固まっていた。
「まだやるか?」
「「!!!!!」」
――――同じ様に殺してやる。
そう暗に示すために殺気を少し込めて睨んでやると、2頭は一目散に逃げ出した。
「ムシュフシュが逃げた……」
「助かった、のか?」
先程まで切迫した事態が一変し、脅威が去ったことを未だ吞み込めず呆然とするイオリ達。
「意図的に魔力を暴走させる…お前まさか―ぐっ!?」
「!?どうしましたか!?」
なにか口にしたところで、リリムの容態が急変した。ぐったりとしながら激しい息切れをしている。
「まさかムシュフシュの毒に…………」
「ニャ!?」
「診せろ」
リリムを地面に寝かせて診察する。
骨格筋が弛緩していて、発声はできているが言葉になっていない。全身が麻痺しているようだ。呼吸困難を起こしている上に、血圧も著しく低下している。
地球のテトロドトキシンというふぐ毒の症状によく似ているな。
それと同一ならかなりマズい。
「……もしオレの知っている毒なら、解毒方法はない」
「ええっ!?」
テトロドトキシンという神経毒の毒力は青酸カリの約1000倍。加熱や水さらしなど通常の調理方法で無毒化や除去をすることはできない。解毒薬はなく、症状が出た場合は人工呼吸等の対症療法を行って回復を待つしかないが………。
「ガァ……………あっ………」
それまでリリムは保ちそうにない。
このまま症状が進めば意識不明となり、呼吸・心臓が停止して死に至る。
「なんとかできないのかニャ!?このままじゃリリムが死んじゃうニャ!」
「少し待て。今考えている」
なにか良い手はないか。
なにか………。
「…………チナツ。確か採った植物にトリカブトがあったよな?」
「え?はい。ありますけど……」
「持って来てくれ」
「お、おい。何するつもりなんだよ?」
もしリリムを苦しめている毒がオレの知るそれなら、トリカブトでなんとかなるかもしれない。殆ど賭けだが。
「――――毒で毒を中和する」
・変異個体のムシュフシュ3頭出現
不死身に近い再生能力を発揮
追い詰めるも魔力による幹細胞の活性によるものと見破られ、1頭は腐った肉塊となって崩壊。残りは逃走。
・剣が破壊される
魔力伝導率がゴミの安物の剣が壊される。
ファンタジー作品によく出てくるミスリルのネタ元は○輪物語とのこと。
意味は「灰色の輝き」
あの映画シリーズはとても素晴らしかった。今度の新作が楽しみです。