NARUTO 称号『全ての闇を背負いし者』獲得RTA   作:加鳴カナ

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episode《サクヤのヒメゴト》

 

 

───私を欲している(くに)があるらしい。

 そのことを知ったのは、私がまだ八歳の頃───

 

 

 

 

 

 少女の世界は屋敷の中で完結していた。周りには身の回りの世話や教育のための侍従が幾人か。家族は遠く離れた屋敷に住んでいて、別々に暮らしている。

 

 家族から疎まれて、なんて事実はない。

 

 現に、少女は愛されている。

 週に一度は兄たちの誰かが顔を見せに来るし、父だって忙しいはずなのに時間を見つけてはやってくる。一時期は少女の元へ行きすぎだと周囲に叱られるほどだった。

 

 寂しくなんてない、そのはずだ・・・・・・満たされている、そのはず・・・・・・・・・。

 それでも少女には心のうちに抱き続けてきた疑問があった。

 

“どうして私は、お兄様たちのように外へ出てはいけないの?”

 

 少女は外の世界を知らない。物心ついた頃より、屋敷の中だけで過ごしてきた。

 知っていることはせいぜい一般的な事柄や、屋敷の庭から見える國を象徴する大木、神樹くらいなもの。

 

 ある日、少女は思い切って心のうちを父に明かした。

 

 父は娘の疑問に、戸惑いと納得を半々にした複雑な表情をして「そうだな」と「でも」を繰り返したのち、冒頭の話しを口にした。

 

 “お前を欲している國がある”

 

 その國は各國(かっこく)が生存戦略として(しのぎ)を削り、血を流す傍らで、我関せずと太古の昔よりそこにあり続けてきた。どの國にも与さず、どの國であろうと対価のもとであればその技術を提供する。

 

 ()の國の恐るべきところは、その技術力だった。今ある大國はどこも彼の國より献上された兵器を用い、その地位を盤石なものにしてきた。

 そんな兵器を小娘一人差し出すだけで、新たに手に入れられるとあって、周囲の人間は諸手を挙げて喜んだ。

 

 少女は産まれながらに特別な存在だった。

 

 人よりもチャクラ量が多い。血継淘汰(けっけいとうた)を有する。勘が異常に鋭い。

 それらは少女自身も自覚するところ。

 なによりも驚くべきことは、あらゆるものに適合するその特異な体質だった。それにはあの『神ノ因子』も含まれている。

 

 彼の國がほしがるのもムリはない。

 

 父もまた表向きは周囲に同調し、内に秘める激情を隠し通した。

 

 娘がなんであれ、自身の子であることに変わりはない。父は國のためにと、娘を生け贄に捧げることなどできはしなかった。

 

 日が進み、着々と引き渡し日に近づいていく。彼の國へはすでに了解の旨を伝えている。確実に送り届けなければならない。

 

 だが、当時赤子であった少女は亡くなってしまった。

 護送中、何者かの襲撃に遭ったのだ。

 

 主犯は何かと後ろ暗いことをしていると噂の立つ家の当主──────というシナリオを父は裏で進めていた。

 

 娘を守りつつ、責任を己でなく他者に向け、ついでに邪魔な家を粛正する。

 

 もちろんそれは彼の國が相手であったからできたこと。過去一度として、彼の國は他國へ攻め入ったことがない。その恐ろしさを知るのはいつだって、欲に目を眩ませた(バカ)だけだった。

 

 かくして、少女はその身を保護され、屋敷(かご)に隠された。

 

 表向き、少女は赤子の頃に亡くなったはずの存在だ。外に出せば、また身柄を要求されるかもしれない。父は過剰なまでに警戒していた。それ故に、少女は未だ、囲われている。

 

 話しを終えた父を前にして、少女は過去を想起する。

 それはいつだったか。

 お姫さまを題材とした物語の一節に、少女はガツンと脳を殴られた。

 

『わたしはカゴのなかの鳥なのね』

 

 ストンと、心が落ちてくる思いだった。

 なるほど、籠の中の鳥。少女が自分をお姫さまだと嘯くことはないけれど、その言葉にだけは納得してしまった。屋敷が『籠』で、私が『鳥』。

 

 思い返せば、父にも兄たちにも、籠の中の鳥を愛でるように愛されてきた。

 

 将来、自身を閉じ込めた父のことを恨むことはないだろう。

 だって、愛されている事実はとても嬉しくて、こそばゆかったから。

 

 身柄の、もしかしたら命の代わりに鳥となったのなら安いモノ。

 

 いつまでも、その立場に甘えましょう。

 

 

 

 

 けれど、少女が成長するにつれ、事態は急変していった。

 少女の存在が見つかりそうだとか、わがままなお姫さまになっただとか、そんな事実(はなし)ではない。

 

 もっと単純な話し。

 

 國が、少女の故郷が、脅威に晒されている。

 

 終わらない(いくさ)は、兵を湯水のように消費していく。過去より、禁忌の法(・・・・)で水増ししてきたツケが回ったのか、生まれる兵より死する兵が上回ってしまった。それも強者となると一朝一夕で補充できるモノではない。まさに焼け石に水の戦況。

 

 少女の兄たちもひとり、またひとりと戦地へ赴き、ひとり、またひとりと帰らぬ人となって返ってきた。

 

 國中が悲しみに暮れるなか、少女はひとり、葬儀にさえ顔を出せない。

 

 もどかしく、つらい。何もできない己がイヤになる。

 

 だが───少女が何もできないと、何の力もないと誰が言った?

 

 少女がそのことを思い出したのは、父が久々に顔を見せに来たときのことだった。戦況が悪化し、兄たちが亡くなったことで父は随分とやつれていた。

 それでもいつも通りの他愛(たあい)もない会話を少女と父は交わす。誰が見ても変わらぬ光景がそこにはあった。

 

 しかし娘には、父と血の繋がる少女には、父が少女を見て何か恐れを抱いていることを察していた。

 

 

 

 ───ああ、そうか。

 

 

 

 父は恐れていた。

 

 

 

 何に?

 

 

 

 私の力を。

 

 

 

 なぜ?

 

 

 

 娘が見つかれば戦場に駆り出されるやも知れないという恐怖から・・・・・・・・・いいや、違う。

 

 一瞬でも愛娘(まなむすめ)を使えば國を救えるのではないかと、考えてしまったからだ。

 

 人は幾つもの顔を持つ。

 家族の顔、友人の貌、他人の貌、味方の貌、敵の貌。

 

 数あるなかでも二面性にだけ絞ったとき、少女の父は優しい父親としての顔と人を人として見ない冷酷な貌があった。

 

 どちらも父であり、どちらも本性であるその片面が、少女を前にして貌を覗かせたのだ。

 少女は改めて自覚した。

 ───私には力がある。何者をも寄せ付けない万夫不当(圧倒的な才能)の力が。

 

 少女なら、何百、何千という兵の代わりとなれるだろう。

 

 そんな考えに娘が至ってしまったことを父は察したのか、少女を抱き寄せ、すまないすまないと譫言(うわごと)のように繰り返した。

 

 

 

 夜の帳が下り、月が貌を出した頃。

 少女は戦場に立つ己の姿を夢想していた。

 小娘ひとりに何ができるんだと否定的な自分───私ならなんだってできると自身満々な自分───泣き言を漏らして(うずくま)る自分───がいることを、少女は自覚した。

 

 勝気よりも不安が勝る。

 

 もう眠ろう。

 考えを振り切るようにして、少女は頭から布団を被る。暖かな闇は不思議と恐ろしいモノから守ってくれているかのような気がして、すぐに寝息を立て、眠りに落ちていった・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは戦場だった。

 人が人を■している。

 なんら珍しいコトでないかのように血が流れ、傷つけあっていく。

 

 ここは・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 少女は夢心地で、()たコトもない景色をただぼんやりと視つめる。ただ、そこに満ちる悪意を感じとったのか、身を強張らせた。

 

 ■の匂いが、大気を汚染していく。怒号が、絶叫が、悲鳴が、木霊する。

 

 そのなかであっても不思議と少女の体は動いていた。淀みのない、慣れた動き。少女の意思で動いているのではない。夢の───戦場に立つ私が走っている。

 

 それは迷子の子供のように、首を回し顔を巡らす、親を探すような動きだった。

 

 戦場で迷子の子供がいたら、どうなるのか。答えは明白だ。白刃が少女を捉える。

 一瞬の合間、そこには蒼く澄んだ人型の結晶が生まれ落ちていた。

 

 血継淘汰。

 

 五大性質変化である、火・風・水・雷・土のうち、3つの性質を複合させた強力無比な力。

 

 夢のなかの少女は、何でもないかのようにそれを、■人に用いた。

 戦場に結晶の華が咲く。

 

 何を焦っているのか、戦場を縦横無尽に駆け抜けていく私。

 

 そして、必死になって走り回った末に、横たわる人を見つけた瞬間、時が止まった。

 

 少女は夢遊病を患ったように覚束ない足取りで一歩、また一歩と近づき、その人を見た。胸が規則正しく上下している。

 途端、それまでとは真逆の歓喜に身を震わせた。

 

 よかった、よかったよぅ・・・・・・・・・・・・。

 

 胸中で呟く声を、心を、直接味わわされる夢見る少女は、なぜそれほどまでに少女()は心を動かしているのかと疑問が溢れていく。

 

 それと同時に、焦燥が零れ落ちた。

 眠りについたあの人に凶刃が振り下ろされようとしていた。

 

 先ほどまでの茫然自失といった少女の足取りでは、あの人との距離は縮まっていなかった。

 

 ──────間に合え!!!!

 

 少女がポーチより苦無(クナイ)を取り出すと、すかさず投擲する。弾丸のように飛ぶ暗器(道具)が、下手人のもとへ飛来し、少女は自らの手で■り伏せ、■した。

 

 赤い液体が噴出する。

 

 人が肉袋であることを示すように。柔らかい肉の下に、こんなにも赤い水を隠している。グロテスクな肉塊が水に押し出されて転が(まろびで)る。

 

 夢のなかの少女はそのことに何ら感情を動かした様子もなく、ただあの人へ向けて安堵と呆れを抱いていた。

 

 ああ、これは私ではない。よく似た誰かだ。そう少女は残酷な現実()から眼を逸らす。

 

 その視線の先には、あれだけのことがあってなお呑気に寝ている人。なんだか頭に(イラっと)くる。

 

 しかしそれでも、場にそぐわない穏やかなその顔を見て、ホッとしてしまったのも事実なのであった。

 よく視れば綺麗な顔をしている。ともすれば女性と間違われるんじゃないかというくらいに。黒い髪は土に汚れてさえ、滑らかな静けさを湛える夜のよう。

 

 早く、起こさないと。

 

 少女は何度もその少年の名前を呼び続けた。

 

 幾度かの試みの末、少年が目を覚ます。

 パチリと開かれた瞳は、髪と同じ黒色。()つめていると吸い込まれてしまいそう。

 ただ、綺麗な瞳だとは思った。

 

 少女は少年の手を取り、戦場へと飛び込んだ。

 

 さっきまでとキレが違う。それこそ、翼でも生えたかのように軽やかに、目に映る敵を結晶の華へと変えていく。

 

 なぜだろう、何も怖くない。

 安心さえ、覚えてしまう。

 

 ほら、隠れていた敵に襲いかかられたとしても、あなたなら助けてくれる。

 そして、私があなたを助ける。

 

 そうすれば、敵なんていやしない。命を脅かされることもない。

 

 少女の心を満たす(蝕む)ように、夢の少女と心を通わせていく。

 

 この少年(ひと)となら、どんなことだって!! いっそ、このまま──────

 

 しかし、終わりは唐突にやってくる。

 

 黒い球体が打ち上げられた。

 それは黒色の軌跡を残して君臨するかのように空に佇み、殺し合う人々を睥睨する。

 まるで黒い星だ。

 人など星からすれば矮小な存在でしかないだろう。

 

 皆等しく、塵芥。

 

 そう告げるように、あらゆるものが星に吸い寄せられていく。

 まるで王様のように、地上のあらゆるモノを我が物とし、我が物顔で体に着飾っていく。

 

 敵も味方も関係ない。

 

 人が舞い、追いかけるようにして兵器の残骸(ガラクタ)が舞う。

 例外などあるはずもない。星は道具にすぎず、無差別に吸い込むことを目的として創られた。

 

 あれが夢の終わりだと、少女は予感した。

 

 その直後、地響きに脚を取られ転倒する。少年は・・・・・・よかった。無事に前を走っている。

 

 体が宙に浮いていく───眼覚めの刻は近い。

 

 とっさに腰に手を伸ばすも空を切る。

 ポーチの中身はとっくに空になっていた。

 

 道具は所詮道具でしかない。

 

 意志のないあれらに少女を助ける意思はなく、主人を置いて空へ落ちていく。

 少女は終わりを悟り眼を瞑った。

 抗うだけ無駄なこと。星に敵うものなんていやしない。

 せめて最後に───残した後悔を、願い─────そして、

 

 

 

 

 

 鋭い痛みが腕に走った。

 夢から醒めるほどの熱に眼を()開く。

 はたして、そこには少年がいた。

 逃げることなく、少女を助けるために戻ってきた。

 

「「何やってるの!! このままじゃ、あなたまで!!」」

 

 夢と現実にいる少女の叫びが重なる。境界は曖昧になっていた。今が(現実)なのか現実()なのか分からない。

 ただ、必死にこの手を掴む少年を視て、ただの夢だと切り捨てることを少女は良しとしなかった。

 

 ついに、大地までもが(まく)られていく。

 大地に突き立てた刀を拠り所に堪えていた少年が、勢いよく空へ落ちていく。繋いだ手は衝撃で離してしまった。

 

 世界が広がっていく。地平線が貌を出す。星が今か今かと待ちわびる。

 そんななか、少女は必死に手を伸ばしていた。

 もう一度、少年のモトへ征くために。

 

 あと少し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 あと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、目を覚ました。

 

 額に汗が浮かんでいる。体が熱い。窓から見える空には朝日が昇っていた。

 

 熱に浮かされ、夢の記憶が雪のように溶けては雫となって零れ落ちていく。

 

 残されたのは、身を焦がす衝動。

 少女の碧い瞳が淡く光っている。

 

 少女は心に決めた。

 

 ───やることは既に決まっている。

 

 あとはどう説得するかと、そこまで考えて(かぶり)を振る。御託はいい、正面からぶつかろう。

 

 後日、愛娘の様子を見にきた父親は頭を抱えることになる。

 

 開口一番、

 

「お父様。私、入隊試験を受けることにしました。何を仰ってもこの意志は変わりませんので諦めてください」

 

 これである。

 

 父親の猛反対を、少女は「家を出ていく」と宣い封じてしまった。

 こうなれば娘は頑として意志を曲げないことを父は知っていた。一度決めたことは曲げない。それが少女の誓いであり、己に課した呪いだった。 

 

 父は、折れるしかなかった。危険な道であろうと、もう少女を止めることはできないだろう。

 

 だが、良い機会だとも思う。時間は遺されていない。こんな時代だ、力はあるに越したことはない。ただ、どう隠すかは考えなくてはならない。國は英雄を欲している。全てを救い、積み重なった感情を塗り潰してしまうほどの眼映(まばゆ)い光を。

 

 貌をもたげた片面を押さえ込み、己を納得させ、少女の父は2つの条件を出すことにした。

 

 1つは護衛を付けること。これは宛てがあってのことだ。忠臣の1人に娘と同い年の息子がいる。それも剣の達人ときた。忍術の才には恵まれなかったものの、それは少女がいれば済むこと。娘の秘匿性を加味すれば打ってつけの人材だろう。先方に話しを通したうえで同じ班になるよう仕向けなくては。

 

 もう1つが、血継淘汰をCODE(補助装置)による力として隠すこと。禁ずる、なんて愚かなことはしない。戦場でそんなことをすれば、無事では済まないだろう。幸い、こちらにも伝手がある。あのお方に話しを通し、実験と称してCODEを明け渡したということにしてもらおう。対価が恐ろしいがこの際だ、気にしないことにする。

 

 少女のことを他家は詮索するだろうが、隠し通すことは容易だ。なにせ、あのお方は変人として名が通っている。不可思議な行動をしても怪しまれることはまずないだろう。

 

 かくして、首輪はあれど少女は自由の身となった。

 

 少女らしく期待と不安をない混ぜに、忘れてしまった夢に思いを馳せながら明日を夢見る。

 

 夜。開け放った窓から月明かりが部屋に差し込み、少女を導くように照らしていた。

 

 サクヤは敷いた布団の上で横になり、徐に天井に向けて手を伸ばす。

 

 目を瞑り、思い出すのは零れ落ちた記憶。

 

 あのときの熱はなぜか覚えていた。

 

 幻痛のように、じくじくと腕を蝕んでいく。

 

 その痛みを糧に、記憶のカケラを拾い集め、想いを紡いだ。

 

 それは名も知らぬ誰か、姿も知らぬ遠い人。

 届かないと分かっていても、想わずにはいられない。

 

 夢と幻。現実と虚構の狭間で、

 

 あの手の痛みを、あの手の温もりを、想い起こす。

 

 必死に手を伸ばし、掴んだその手を。少女は忘れないだろう。

 

 だから、還さなくては。

 

 この想いを、微かに灯る火の意志を。

 

 

 

 

 

 ───今度は私にあなたを救わせて、◾️◾️◾️。

 

 

 

 

 

 籠の中の鳥が蒼い空へと飛翔(はばた)いていく。

 

 

 

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