この世界が、前の世界からみたらファンタジー要素が豊富ということを改めて思い知る。
呪いとかそういう物が普通に存在しているし、そもそも、それらを"病気"として扱っている時点で日常にも溶け込んでいる事象ともいえる。
……にしても、なんでそんなものに罹患するかね
ハイエルフのBBAが例の羽を持ち去って数日、平穏な日々を暮らしていた。
一応、「預かっておくよ」という、預かり品としての名目でもっていったが。
なぜに「預かっている」としている理由も「こういうのを"奪った"形にすると、何が起きるかわかったもんじゃねぇ、それこそ呪われちまうわ」という事だった。
たしかに、呪いというのが存在するなら、ありえる話ではあるが……
……あの残念美人にそこまでの知恵が回るのかが疑問なんだがなぁ
とりあえず、貸し一つを作ったことで終わらせたが、その貸しがいつ返されるのかはわからない。
下手をすれば、エルフ感覚で数百年先ということだってありうる。
……実際あるんだろうな
そう思いながらも、チビリチビリと酒と肴を口に運ぶ。
夕刻になる前の空き時間。
今の時間の客層はそんなにいないので、広い部屋の中を少数の人数だけが速い夕食か、間食かと走っているだけである。
何もないのは良いことだ。
何もないことは良いことなんだ……
「という事で、おもてなしをするためのお菓子を工面できませんか?」
「……だからイキナリなんだよ」
いつもの飲み仲間ともいえる神官オークとフォーマル犬野郎が、シレッと対面に座ってきては、そう話しかけてきていた。
「いえいえ、やはり女性に対してはお菓子がよいという話を聞きまして」
「おう、そうだぞ。おめぇの菓子はボスたちにも大うけしたからな間違いねぇぞ」
「……だから何なんだっていってんだよ!」
級に話を振られ、訳を知らないこっちとしては、何を言い出しているのかと問いただす。
「おや、ご存じないのですか?」
「耳ざといコイツが知らんとか何があった?悪いもんでも食ったか?」
「……エルフのBBAと飲み下したあとは、買い出しにしばらく街を離れてただけだ」
酒が切れたから、補充として買い足しに街を離れていたのだが、その間に何かがあったようで……
「今代の聖女さまが巡礼に来られるのですよ」
「そうそう、んで、てんやわんやのお祭りごととなってるの知らんとか」
「……そういや、多少なりとも"にぎやか"になってはいたなと思ってたが」
聖女様ねぇ……
いうなれば、アイドル的な扱いされてる存在だろ?
寄付がどうとか、募金がどうとか、そういうのを募るためっていう奴。
そういや、代が変われば巡礼をして回るというのがあったっけか。
先代はどういう人物かなんて知る由もないが。
「宗派は違えども、歓待の意を表すためには、やはり献上品をという話で」
「お前さんの作る菓子は、女受けはめちゃくちゃよかったからな、ボスも助かったって喜びもしてたもんだ。側室の話をうまくごまかせれたってよ!」
どこがおもしろかったのか、ガハハハハハとバカ笑いしてるフォーマルモノクル獣人。
そういえば、この街を運営してる領主って、たしか今は50前じゃなかったか?
やり手とは聞いてはいるが、そこまで人気だったか?
「という事で、資材はこっちで用意するから、また頼むわ」
「私の方からもお願いします。お手伝いはさせて頂きますので」
「……うーん」
この二人には世話になっているか?と思い返せば世話になっているのは事実。
無下に扱う事もしたくないのも、本心でもあるため、"はぁ……"と、ため息をひとつこぼしてから
「……何か注文はあるか?」
「おお、一番受けの良かったチョコレートって奴でたのむ」
「私はお菓子に関してはよくわかりませんので、無難なところでお願いします」
「私は、ホイップクリーム?というのをふんだんに使った奴がいいな!」
「お茶に合うもので、お茶と一緒でもよろしいのではかと」
「……って、ちょっとまてや!お前らいつのまに!!」
横のテーブル席から、エルフのギルド長とその女史が参戦してきていた。
「……っていうか、なんでお前らがここにいるんだ?」
「それは会合の集まり帰りだからな!」
「この2階の会議室で集まりがありましたから。」
「……こんなとこでやってんのかよ」
「おう、オレも同席してたからな。というか今日最後の仕事だからな、そのまま飲みきただけだぜ?」
「私もですね。ちなみに、議題は歓待に関してでしたけれどね。そんな折、貴方を見かけましたので、お声をかけさせていただきました」
……タイミング悪くね?わし、確実に狙われてるよな?
「という事で!私が材料をあつめよう!」
「リストを頂ければ準備を進めます」
「なら、こっちは資金準備と設営場所だな」
「では、その会場の清掃と浄化を進めておきましょう」
「……お前ら」
もうこの流れは止められないと悟る。
これは、せき止める事すら不可能な流れになってしまっている。
こうなっては、一人だけ反対とか言い出しても、拒否権を行使するなり、無理やりいう事きかせようとしてきたりとしてくる可能性が……
こういう諦めが肝心といえる。
「……わかったよ。こうなりゃ自棄だ。報酬は上等な酒で頼むぞ」
「そこはまかせとけ。ボスからもらってきやるわ」
「私も、神酒は無理でしょうが、聖酒を手配しておきましょう」
「むむむ、ここは他国の酒でも仕入れるか?お前なら珍しい酒の方がよいだろ?」
「では、海の向こうからの清酒というのを……」
こちらの事を他所に、がやがやと煮込み始める小会議が始まったテーブルの片隅で、これ以上は口だす気がなくなったので、「肉煮込み」と「エール」のおかわりを頼んでは、チビリチビリと酒を飲んでいった。