読む入場者特典 衡壱とアプス
「―――ここは」
静かな白い砂浜。
そこに
彼は先程まで東京の自宅で眠っていた筈だったが、いつの間にかこの場所に来ていた。
(夢か? それにしては意識がハッキリしているな…)
「客人か、久しいな」
向こうから白髪の若い男が歩いてくる。
その男は衡壱の目を見つめると、渋い顔をする。
「変なコトを聞くが、これは夢か?」
衡壱の問いにその青年は首を横に振る。
「ここは夢では無く……神の力を持った者が至れる、神の世界」
神の世界? 衡壱はそう問おうとしたが、心当たりを思い出して口を閉じた。
「そうだ、貴様は神の力を有している。それは…恐らく“賢者の石”を使った神域の生命…思い当たる節はあるだろう」
「…ああ。―――ラフム、
そう呟くと衡壱は過去の出来事を思い起こす。
謎の男の手によって異形の怪物『ラフム』に変えられ、境遇を共にする弟、平弐はその力で人類の進化を目指し、決別した。
あれから、同じくラフムとなった少女の力を借りながら上京し、力を“商材”にして政府と交渉する道を進み始めた。
「ここは、神の世界と言ったが…アンタは誰なんだ」
「我はアプス。この世界を創り、ある罪によってここへ幽閉された、愚かな神だ」
「神様…神様!?」
大げさに驚く衡壱にアプスはため息をつく。
「そう驚くな。確かに人智を超えた力を有してはいるが、我は……今のところ何もやることも無く、ただ虚無に浸っているだけなのだ。何も持たない、何もなし得ない」
「それでも、俺は何度も死にたくないと神様に願い続けた、それでまだ生きてる、神様には…感謝、してるんです」
「それは貴様自身の運だろう…何にせよ、今の我はただの不貞腐れだ」
そう告げて笑うアプスに、衡壱はある提案をする。
「もし、アプス様が良ければなのですが」
「態度も恭しくして、どうしたのだ」
「俺に、協力してくれませんか」
協力? アプスが問うと衡壱は重くゆっくりとうなづいた。
「俺の弟は、俺と同じラフムの力を得て、同胞を増やそうとしているんです。それを、止めたいんです」
「その力は人にとっては極めて満悦する代物では無いのか? その幸福を他に分配しようとするのを何故止める?」
「そこに、人の自由は無いからです。ラフムになるためには一度死ぬ。それに加えて、大いなる力を持っては人は増長するばかり…この力を正しく使う者もいれば他を傷付けるために使う者もいるでしょう」
衡壱が拳を強く握る。
「人というか弱き命が、力を渡されても混乱を起こすのみです。力が人々を区別し、さらに弱きものが虐げられる。そんな争いと傷付け合いの繰り返しで、本来あるべき人の営みが、幸せが奪われることなど……決してあってはならないのですッ!」
語気を強める衡壱にアプスは押し黙りながらも感心していた。
「分かった、協力しよう」
「!」
「だが1つ条件を飲んでくれ」
「弟を、ラフムを止められるならなんなりと」
アプスがそれを聞くと、少しだけ目を泳がせてから口を開いた。
「友になってくれ」
「かしこまり―――友? …友ですか?」
「ああ、友となり、人の営みを教えてくれ。構わんか?」
恥ずかしそうにするアプスに、衡壱は微笑む。
「いえ。友として、一緒に戦ってください!」
「いいだろう、これからよろしく頼む―――」
「俺は長良衡壱です」
「よろしく頼む、衡壱」
アプスと衡壱が握手を交わすと、波がいつもより大きく打たれた。
人と神、その垣根を超えた信頼が、築かれた瞬間だった。