午後17時24分。
バディ本部、ホール。
薫に連れられた楓がその場所で行われている食事会に参加する。
と、勇太郎が真っ先に出迎える。
「楓! どうだ、ちょっと落ち着いたか?」
「うん、薫さんのおかげで」
勇太郎はしみじみと頷くと薫にも笑顔を向ける。
「ダチの笑顔を取り戻してくれてありがとうございます」
「いえ…私は何も」
「謙遜しちゃって~」
と、大護が楓に手を振り、ホールの中心へと招く。
「飯が大量にあんぞ、楓!」
「大護さん! …河森先輩まで!」
「久し振りだな、霧島。今日は俺のツテでケータリングを頼ませてもらったぜ。信頼出来るシェフ達が腕を振るってくれてるから存分に味わってくれ」
ありがとうございます、と楓が深く礼をすると、河森からシェフが紹介される。
「今夜の料理を担当するシェフ達だ。まず中華担当の守条シェフ」
「今日は中華の時間だよ」
「洋食担当の虚シェフ」
「口に合うかは知らねぇが最善は尽くす。期待しねぇで待っとけ」
「和食担当の幻月シェフ」
「て、“天外の
「癖の強い人達ですね…」
「飯は旨いから良いじゃねぇか」
戸惑う楓に勇太郎が皿を渡し、大護が料理を盛り付ける。
「楓先輩!」
妹の響を連れ立って駆け寄る雷電に、楓が声をかける。
「雷電君、さっきは出て行ってごめんね」
「いや、立ち直ってくれたなら良いんすよ」
微笑を向ける雷電に、楓が笑顔を返す。
その姿に響も頬を緩める。
「楓さん。兄の事、本当にありがとうなのです。楓さんがいたから兄はここにいられるから…楓さんもここにいて良いのです」
「雷電君の事は、勇太郎や雷電君自身が頑張った結果だよ、僕の力じゃない。でも…響ちゃんにありがとうって言われる事が出来てて良かった」
「…ところでどうして響ちゃんがバディの基地に?」
「どうやらオペレーターの勉強するらしい…全く、大変だっていうのに」
「兄の力になりたいのです!」
息巻く響に雷電がたじろぐ。
こうして人々が笑い、繋がっていく。
楓は彼らの生き方を見る事で、改めて心が満たされていった。
「…いただきます!」
「おい信真! そのローストチキン最後の一つじゃねぇか!?」
「そうですけど何か?」
「何かじゃねぇぞ、俺食べてねぇんだよソレ!」
信真と店長が料理を巡って言い争いを始める。そこに陽炎が割って入る。
「まぁ待て2人共、ここは譲り合いだぜ? 例えば俺に譲るとかサ」
「は? 何言ってんだオメー、ローストチキンは俺の物だが」
「陽ちゃん自分が欲しいだけッスよね」
「んだと? コイツら俺の素晴らしい精神を無下にしやがって!」
「やんのか!」
「上等ですよ!」
頭に血が昇った3人が拳を振るう。
「あの、朱音さん…彼らは何を?」
「割といつもの事だ…申し訳ない。精神年齢お子様なんだよ……」
食事しながら彼らの問答に目を移す楓に、紅子がただただ面目無さそうに溜め息をつく。
「じゃんけんぽんッ!!」
彼らが拳を振るったのは己が欲を賭けた勝負のためだった。
その結果は、引き分け。
「あいこか…やるな陽炎、信真」
「ジャンケン陽ちゃんの異名は伊達じゃねぇぜ」
「運なら絶対に負けませんよ」
「よ~しじゃあもう一戦───」
最期のローストチキンはハルカが食べていた。
「漁夫の利…争いは当事者を幸せにする事はありません故」
涙を流し硬直する食い意地の張った3人を楓が慰める。
「まぁまぁ…他にも食べ物はありますし、ローストチキンまた作って貰えそうですから」
「ほんと!?」
「は…はい」
喜ぶ3人を尻目に、楓は勇太郎がいない事に気付いた。
(勇太郎…どこだ?)
「楓さん、勇太郎さんお探しですか? それならラフムに変貌していたソフィア・ガルシア氏のいる保護室へ行かれましたよ」
薫から話を聞いて、彼女に感謝すると共に楓は勇太郎を探すのをやめた。
(良く分からないけど、勇太郎にも勇太郎なりの生き方があるんだろうな)
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バディ、保護室。
ラフムの力を失ったソフィアはその場で待機する事になった。
拘束はされていないが、小綺麗だが質素な部屋に連れられ、施錠されている現状は、実質軟禁状態であった。
「
部屋の外から勇太郎の声が聞こえる。
窓越しに彼の姿が見えた。
「…まだ私に構うつもり?」
「へへ、
そう言うと、扉の下側にある小さな扉から菓子を差し入れた。
「そうやってまた慣れないスペイン語を使って……ウザったくて聞いていられないのよ」
「悪いな、すぐ行くから」
「ちょっと待って」
呼び止めるソフィアに勇太郎が足を止める。
「どうした? 気が変わってヨリを戻す感じ?」
「バカね、逆よ。ここでフッておかないと貴方また来る気がして」
勇太郎が少し笑うと、肩を落とす。
「実のところ、別に貴方の事は嫌いじゃないけど、罪悪感があったのよ。私が貴方といるのが、辛かった」
「俺は気にしてなんか───」
「私が気にするのよ。何も分かってないんだから」
「そうか、君が辛いなら…俺はこれ以上関わらない。君との日々も忘れる…事にするよ」
最後に、とソフィアが呟く。
「こんな私だけど、貴方の幸せくらいは、願ってるから」
「……。…ありがとう、さようなら」
勇太郎の足音が遠ざかっていく。
「
──────────────────
「戻りました~、もう料理無くなってる?」
頭を掻いてホールにやって来た勇太郎だったが、先程よりも人数が増えている事に気付き、首を傾げる。
「勇太郎が戻ったし、改めて今後の状況を伝える」
長官が前に出ると、ホールのプロジェクターに東京タワー周辺の地図を表示する。
その中心には黒木を示すアイコンが加えられていた。
「休眠状態と仮定されている黒木が、活動を再開する前に叩く。東京タワー直下、
そう伝えると、プロジェクターにそれぞれの配置図が描かれる。
「恐らく黒木はコックローチの能力で分体を繰り出して来る。楓にも伝えておいたが、黒木に有効な攻撃手段を持つ味方を主力とし、他のライダーは分体の迎撃に当たって貰う」
が、と付け加えると、長官に呼ばれ武蔵博士がスーツケースを持ってやって来る。
「ライドエージェントの諸君、初めまして。大護の父親でありバディの研究者、武蔵じゃ。君達にこれを」
武蔵博士がスーツケースを開くと、エージェント達の分のサイクロンイートリッジとイートリッジホルダーが収納されていた。
「このイートリッジを押せばライダーズの使用していたバイク、ライドサイクロンを呼び出せる。加えてライドサイクロンのメーター下にあるスイッチを押せば変形し、パワードスーツ形態になる。それを用いて主力以外のライダー達にも火力支援を頼みたい」
紅子を除いたエージェント3人は黒木に対して不利であった。だが、このサイクロンを使えば遠距離攻撃が可能となり、彼に一矢報いる可能性が生まれる。
ようやく皆の力になれると考えた信真達は不敵な笑みを浮かべた。
「今回の黒木の撃退、無力化を目的とした戦闘は、作戦名『飯倉決戦』とする。出撃は暫定として午前
長官からの突飛な指令に一同が硬直する。
「え、分からねぇの? まずは体を休めて明日に備えろっつってんの! 仮面ライダーは総員、就寝!」
休めと檄を飛ばす長官にライダー達はまばらに返事を返すと、解散してそれぞれに与えられた休憩室で休む事となった。
「お休み、そして頑張ろうな…みんな」
長官が笑うと、彼は仕事に戻る。
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午後23時08分。
バディ本部、長官執務室。
ライダーや戦闘に参加する人員が眠りに就く中、長官は作戦の調整、確認を続けていた。
すると、扉がノックされる。
「どうぞ〜…って、君らは」
「ライドエージェントのサポーター、ユカリと申します」
「君は何度か会ってるが…他のお2人さんは……」
「ユカリでござる」
「カナタ…」
用件のあるであろう3人に、長官は腰を上げる。
「この夜更けにわざわざ俺んトコ来るって事は何か大事な頼み事あんだろ?」
「流石別世界の店長殿、話が早いでござるね」
「それで、私達からのお願いというのは───」
──────────────────
午前03時19分。
バディ本部付近、射出用車両待機場所。
ライダーが全員集まり、その場での変身となる。
「悪いわね皆、出撃ハッチは定員で、エクストラにそちらを使用して貰い、皆は外で全員変身してからの出撃よ。よろしく頼むわ」
藤村の指示を受けて承諾する一同だったが、店長が周りを見渡してなあ、と声をかける。
「なんでユカリ達までいんだよ、つかベルト付けてんじゃねーか…」
「彼女達きってのお願いでね、一般のバディ機動隊員よりもアイアスシステムの適正が高かったから、任せる事にしたのよ。長官の判断でね」
「ん〜〜、
サポーター3人が力強く頷く。
「お前らの役目はエージェントに捉われない全般的なサポートだな? 危なかったら退くように」
店長からの命令と共にライダー達が円状に集まる。
「おっ、円陣組むんですか!?」
「いや、人数確認しただけだが…」
決戦を控えているというのに浮き足立つ信真に、大護は困惑する。
だが、信真の若い発想に感化された楓と勇太郎が彼を挟むようにして肩を組んだ。
「折角ですから、円陣しますか」
「みんな集まれ!」
失笑する面々だったが、次々と肩を組んでいき、円の形になる。
「全部黒木が悪い!」
「全責任と一緒にぶっ飛ばす!」
「とにかく天誅だ!」
「ブッ潰す!」
「一度陽炎の顔面に拳入れてみたかったんだよな」
「シンプル悪口だろ!?」
口々に思いの丈を述べるライダー達はそれぞれの肩を押すと、ベルトを装着する。
《Account・Wining》《Burn》《Thunder》
《ジェネレートドライバー》
「これより、『飯倉作戦』を開始する!!」
長官の号令によって、ライダーが各々変身していく。
《Change・MetalWining》
《Change・Burn》
《Change・Thunder》
《ネームド・Palladion・アクセプト・エキスパンション》
《インジェクト・エージェント・ジェネレート───フォーム・アット・”ホーネット”》
《激しく刺し
《インジェクト・エージェント・ジェネレート───フォーム・アット・”ドラゴン”》
《激しく
《インジェクト・エージェント・ジェネレート───フォーム・アット・”パンドラ”》
《希望を指し示せ!》
《インジェクト・エージェント・ジェネレート───フォーム・アット・”シャドウ”》
《
《アクセプト・仮面ライダーアイアス。救助を優先し、落ち着いて行動しましょう》
11人のライダーが揃い踏み、射出用車両に乗り込む。
「各員射出準備完了しました」
薫のオペレーションを受け、戦闘指揮を担う榛名が最終確認を終える。
「…仮面ライダー、発進ッ!」
決戦の地へと、ライダーが跳ぶ。