劇場版 仮面ライダーウイニング   作:虎ノ門ブチアナ

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チャプター⑦ 胎動する運命

 午前03時30分。

 東京都港区、東京タワー。

 

 その場に漂う違和感に目を覚ました黒木は、展望台の屋上から灯火の消えた都会を見渡す。

 

「アタマ(いて)ぇ…」

 

 CDの能力や記憶全てと、コックローチの性質を取り込んだ黒木は、脳に流れ込んだ情報を処理するため、今まで休眠していたのだ。

 頭の中に流れる多くの情報、そして経験と感覚がライダーの到着を予感させる。

 

「うわ、来てるな奴ら…だったら分体をっと」

 

 おおよそ500体程のシャドーウイニングの分体を出現させると、ライダーが到来するであろう地点へと飛び立たせる。

 が、遠方にてすぐさま爆発が起こり、瞬く間にその数を減らしていく。

 

「あれが…仮面ライダーの本領ってヤツか」

 

 

「目標地点に到達、10秒後に戦闘開始します!」

「こちらエクストラ、源だ。同じく分体との戦闘を始める」

 

 状況を伝達するバーンとゴズテンノウに榛名が指揮を執る。

 

「タワーを巻き込んでもいい、黒木を倒して!」

 

 その指示に沿い、ライダー達がシャドーウイニングの分体を撃破しながら黒木の元へと到着する。

 一方でエクストラも彼らの周囲に着地し、分体の残りを撃破していく。

 分体が瞬く間に消され、舌打ちをしながら黒木は変身する。

 

《Change・Shadow》

 

「早かったじゃねぇか、どいつもよぉ」

「さっさとお前を倒したくてな…!」

 

 バーンが拳から火球を放ち、シャドーウイニングを迎撃する。

 可変した状態のライドサイクロンが自律稼働し、シャドーウイニングの砲撃を防ぐ。

 

 

「楓さん、メタルウイニングの稼働状況を伝えてください」

「はい、良好です! これなら黒木の分体を倒し切れます…みんなの力になれる!」

 

 シャドーウイニングの分体を倒しながら、オイオノスがアイアス部隊と通信を繋ぐ。

 

「ハルカ、ユカリ、カナタ、そっちは平気か!?」

「はい、このアイアス…敵を倒すだけじゃなくて、装着者を守る…そういうシステムだと感じます」

「これなら一騎当千でござる~!」

「ユカリちゃん、慢心は危険(フラグ)…気は抜けない」

「その調子ならまだ大丈夫そうだな!」

 

 シャドーウイニング分体が各ライダーにより撃破され、ヴェスタ、霹靂の進路を切り開く。

 その間にバーンがシャドーウイニングの気を引いていた。

 

「時間稼ぎ完了だ! お前ら!!」

 

 激しい撃ち合いの煙幕から出て来たバーンが叫ぶと、ライドサイクロンにまたがった霹靂、ヴェスタがシャドーウイニングの背後に現れた。

 

「虎の子、使わせて貰うよッ」

 

《インジェクト・エフェクト・ジェネレート───イクイップメント・”グラビティ”》

 

「───!?」

 

 ヴェスタが起動した“グラビティ”ロムカードがシャドーウイニングを押し潰す。

 彼の力であっても抗えない重みに、体が軋む。

 

 東京タワーにまでかけられた高重力圏は、時間経過と共に強さを増し、シャドーウイニングがうつ伏せに横たわる展望台を破壊し、地に打ち付けた。

 

 地上150メートルから急速に落下したシャドーウイニングは全身の骨が破砕する音をかき鳴らす。

 痛々しい光景にライダー達は顔をしかめるが、榛名の指示で重力攻撃が継続される。

 

 

「がッ…こんちきしょォッ!!」

 

 悶え苦しむシャドーウイニングだったが、彼はうつ伏せの状態で腕を支えに体を持ち上げる。

 それにより生まれた大地とベルトとの隙間に右腕をうずめた。

 彼のその様子に勇太郎は(いぶか)しんだ。

 

(ベルトを操作する挙動…させるかよ!)

 

《Change・Burn・Voltex》

《AddChange・Winning! Transcendence・Elemental!》

 

 バーン・エレメンタルフォームへと変身し、その炎を高重力圏に放つ。

 同様にゴズテンノウ、ボマー両ラフムの電撃と爆撃がシャドーウイニングを攻め続ける。

 重力の歪みと合わせて酸素を奪い、シャドーウイニングの動きを抑える。

 が、無呼吸状態でシャドーウイニングは、自分にしか聞こえない筈の言葉を呟いた。

 

「最終…変身───」

 

 

「“グラビティ”の高重力圏の…力が弱まっている!?」

 

 榛名がモニターから重力のレベルを確認すると、シャドーウイニングを中心に重力が安定化し始めていた。

 

「聞こえるか? 藤村榛名」

 

 黒木の声だった。

 指揮車両の回線を傍受し、通信して来たのだ。

 

「重力が弱まったってのは半分正解…厳密には俺が中和した」

「…黒木陽炎、こちらと通信しているなら答えて頂戴───何をしたのッ!?」

 

 焦る榛名にシャドーウイニングは笑う。

 否、彼はシャドーウイニングではなかった。

 

「折角なら仮面ライダー全員に聞こえるように言ってやるよ」

 

 破壊された都市に残ったスピーカーから黒木の声が聞こえる。

 

「なんだよコレ…?」

「アイツの能力にこんなモノは無かった…なら一体」

 

 慌てる面々だったが、楓はその力に心当たりがあった。

 

「この不条理な能力は、まさか…!」

「霧島楓クンは分かったかな、そのまさかだぜ───インテグラの能力だ」

 

 全員がシャドーウイニングのいた地上を見つめると、そこから虹色の光が漏れる。

 

《F───INAL・Change》

《I.N.T.E.G.R.A!!》

 

 光と共に現れた黒木の姿は、禍々しいスプリットラフムの意匠が突き出た形の、まさしく仮面ライダーインテグラであった。

 

「格好も違えば名前も変えてやるか……そうだな、分裂と統合の矛盾と衝突───仮面ライダー? 違うな…俺は新たなCD(カンケルデータ)っつー事で『コンフリクト・ディスライダー』。そう名乗らせて貰うぜ」

「そんな…インテグラの変身にはインターバルがあった筈じゃ…!」

 

 狼狽えるヴェスタを、コンフリクトが蹴り飛ばし、地上に落下させる。

 

「インターバルを“分裂”した。お前らが予測していた隙なんてのは、全部間違いだったんだよ」

 

 コンフリクトが今度はバーン、霹靂を攻撃する。

 一撃一撃にスプリットの力が込められ、変身解除を余儀無くされる。

 

 ライドサイクロンの飛行でなんとか全員を抱えて着地するメタルウイニングだったが、コンフリクトには手も足も出ない事は分かっていた。

 

「聞こえるか楓くん! 君は退避しろ! 生きろ───」

 

 通信してくれた店長もコンフリクトに殴打され、高層ビルに叩き付けられてしまう。

 

「店長!」

 

 次々と撃破されていく仲間を目の当たりにしてメタルウイニングの心拍が異様に上昇する。

 

「エクストラは全員撤退! 装甲を持たない貴方達の場合ダメージは更に増すわ!」

 

 榛名の命令にエクストラ達は歯を食いしばりながら後退、分体の対処をしながら戦闘の中心から離れる。

 

「やめろ黒木! 人を殺して罪を重ねる事の何が面白いんだ!」

「安心しろ楓クぅン、殺しちゃいないさ、面白くないからね」

 

 耳元まで接近したコンフリクトが囁く。メタルウイニングが振り向くが、既に姿を消していた。

 

「黒木ッ! どこだ!?」

「探したって無駄だ、俺は今楽しんでる。誰も殺さず、必要以上に傷付けない。適当に絶望させて、飽きたら世界ごとブッ壊すつもりなんだよ」

 

 そう言ってメタルウイニングの肩を撫でると、コンフリクトはアイアスらへと回し蹴りを繰り返し、大回転しながらライダーの数を減らしていく。

 

「黒木陽炎ッ!」

「効かないってんだよ」

 

 イオニアンが叫び、サイクロンの銃撃を浴びせる。

 が、インテグラの性質で全ての弾丸が融解し、弾ける。

 

「お前は、どうしてこんな事をするんだよ!?」

 

 決死の覚悟でコンフリクトに組み付いたイオニアンが叫ぶ。

 だがコンフリクトは彼の力を分裂させず、耳を傾ける。

 

「どうしてって、別に理由なんか無いけど。家族も友人も普通にいたし、好きな芸能人だって割といるし、俺は悪になる境遇なんて無い。強いて言うならそういう運命だったのかもな」

「運命だと…? そんなの決めつけだ、悪い事をするのにそんな屁理屈あるかよ!」

「あるんだよ、今ここに。お前も黒木陽炎と言う存在なら、分かってくれると少し期待したんだけど、そんなこたぁ無かったな」

 

 淡々と告げると、コンフリクトはイオニアンの力を分裂、変身能力を奪うとそのまま陽炎を持ち上げる。

 

「お前には、この廃墟が、真っ黒な都市が、命を感じさせない静かなこの場所が、綺麗に感じないんだよな?」

「ああ…俺が好きなのは、デパートと、秋葉原と、バスケ部が占有する体育館だからよ」

「……そうか」

 

 コンフリクトが陽炎を空中から放り投げると、両腕を組んでねじるようにして融合、大砲と化す。

 大気を吸引しながら砲撃の充填を始めると、落下する陽炎をメタルウイニングが抱える。

 

「楓…今すぐ逃げろ! アイツデカイのブッ放す気だ!」

「了解です!」

 

 ライドサイクロンの自律飛行で退避を試みるメタルウイニングだったが、コンフリクトの充填が完了する。

 砲撃の瞬間、陽炎を降ろすとライドサイクロンを可変させ砲撃を防御する。

 

「楓さんッ!!」

 

 超高火力の砲撃が辺りを焦土にし始め、メタルウイニングとの通信が途絶える。

 攻撃による光でメタルウイニングの姿が捉えられなくなり、薫が叫ぶ。

 

「楓!」

「陽ちゃん!」

 

 なんとか砲撃の射線から外れていた勇太郎、信真らは爆心地まで駆け寄り、2人を探す。

 と、煙の中から損傷した陽炎と、鎧が破損したメタルウイニングの姿が見えた。

 

「……薫さん、あなたの造ったライダーは…本当に凄いです」

 

 装甲が破壊され、所々内部インナーが露出し、マスクが割れて楓の素顔が垣間見えるメタルウイニングは、バイク1台と自らを盾に、陽炎を守り切ったのだ。

 

「今の攻撃を凌いだのかよ……バカが、そんな事やったって意味なんかねぇよ、またすぐ死ぬんだからな!」

 

 再びコンフリクトが砲撃の充填を始める。

 今度は防げないと悟り、楓が全員に退避指示を出す。

 

 その瞬間、楓は頭の中に直感が(よぎ)った。

 

「…もう一度僕が止めます」

「待って楓さん! そのダメージでは!」

 

 楓の前進を止める薫だったが、楓にはそうするだけの“確信”があった。

 自分を守り、他者を助け、世界を救う。それだけの力が───来るのだと。

 

「僕はこの胸の内から溢れ出て来る、“可能性”って言葉に賭けます。理由は分からないんですけど、いけます!」

「───なら私は……楓さんの信じる可能性を、信じます」

 

 薫は葛藤の末、声を震わせながらも楓を信頼し見送る。

 彼女の想いが背中を押し、楓を進ませる。

 

「僕も、薫さんのくれた可能性を……大切なモノを、信じる!」

「しゃらくせぇ!」

 

 コンフリクトが再び砲撃を放つ。

 が、今度はその衝撃を全て吸収し、無力化した。

 

「───?」

 

 流石のコンフリクトも驚愕し、開いた口が塞がらない。

 何故、自分の攻撃が消えたのか、見当もつかない…が。

 自分の中にある“CD”は何か勘付いていた。

 

(何だ今の…アレを見て、俺の手が…CDが震えている?)

 

 CDから奪った記憶を辿り、その恐怖の由縁を探る。

 

(かつてのCDが戦った相手? ……コイツか!)

 

 気付けば額から滝のように汗が流れている。それはCDだけではない、記憶に現れた戦士の強さに、黒木自体も恐れをなしているのだ。

 

「CDの動きが止まった…というか、楓君は今の攻撃を防いだの?」

 

 榛名からの通信に、楓ははい、とはっきり答える。

 

「巨悪に立ち向かう意志が、遥か遠い世界(ばしょ)からの可能性を、導いたんです」

 

 意味深な言葉を残す楓に、一同は何も分からず表情を曇らせるが、陽炎だけは言葉の意味を理解していた。

 

「まさか…来るのか! ……恵理ねぇちゃんの力が、人類に残された可能性がッ!」

「陽炎、何か知っているのか!?」

「ああ。あの力は間違いない……“究極の戦士”───!」

 

 楓の瞳が虹色に輝く。それはインテグララフムの力が彼に戻って来た事を明示していた。

 

 それだけではない。彼の腰にはロインクロスではない、金色のベルトが巻かれていた。

 

 

 荘厳な鐘の音が鳴り響く。世界中に轟くそれは、世界の反逆が始まった事を表す。

 

 

「なんだこの音は…何か、とてつもなく、不快だ……いや、恐れているのか!?」

 

 冷や汗を垂らすコンフリクトを、楓が見据える。

 

「そうだ、お前は恐れている。かつてCDを倒した力を、人々の諦めない想いが導く勝利を!!」

 

 人の願、人の責務、人の想い、人の希望、人の愛、人の罪、そして人の可能性。

 それらが統合し、コンフリクトなどでは決して抗えない程の強大な力が、楓に宿っているのだ。

 

「もうお前の好きにはさせない、カンケルデータ───コンフリクト・ディスライダー!」

 

 楓から放たれる覇気に、コンフリクトは狼狽えると共に、逆上する。

 

「お前なんか、お前なんか! 俺のスプリットとコックローチを融合させた今なら、神の力を得た今なら…!」

 

 

 ───無駄。その一言がコンフリクトの脳裏を過る。

 

 楓の、人々の持つ勝利の可能性が、その力に到達してしまった今、もう彼に勝ち目は無い。

 彼の腰に巻かれたベルトがインテグラドライバーへと変容し、中央のパーツが緑色に発光する。

 

「───最終変神」

 

 

 楓の放つ口上と共に、新たなる鎧が生成される。

 神々しく輝く黄金の戦士の姿を一瞬だけ生み出すと、そこにウイニングフォームの増加装甲が合体し、更に姿を変えていく。

 

 

 世界(ディヴェルト)と呼ばれるその力。

 世界の癌に立ち向かう最終戦士。

 その力は、世界を超え、時間を超えてまた別の世界へと舞い降りる。

 

 

《人間賛歌! F───INAL・WONDER!》

《W.I.N.N.I.N.G.───I.N.T.E.G.R.A!!》

 

 

 楓に授けられた、最後の力。

 それは、黄金と虹と緑の色彩を携え、破壊された都市を一瞬で再生した。

 

「勝利の風にライドする、(すべ)てを合わせし最終戦士! …その名もまさしく、『仮面ライダーウイニングインテグラ』」

 

 かつて長良衡壱が名付けた勝利への想い。

 かつて霧島楓が勝ち取った統合の性質。

 人が持つ魂が今、勝利の道標へと統合した。

 

「な……何がインテグラだ! お前の“統合”の性質は俺が奪った筈だ!?」

「ディヴェルトが運んで来てくれたんだ、人の力でインテグラを生み出した世界から、この力を」

「そんなの、アリかよ」

 

 落胆するコンフリクトをよそに、ウイニングインテグラが手をかざす。

 と、その場にいたライダー達の傷が治癒され、それぞれの最終形態へと自動的に変身する。

 

「!? 楓、これ何したッ!?」

「みんなの変身能力をインテグラの力で再生させたよ、あと“分裂”の性質もこちらで抹消しているから、心置きなく戦えるよ!」

 

 人智を超えた力の発露に一同が愕然とするが、それよりも、と戦闘を再開する。

 

「よっしゃァア! みんなであの野郎をぶっ飛ばすぞ!!」

 

 勇太郎の勝鬨(かちどき)に合わせ、それぞれがコンフリクトへと向かう。

 

──────────────────

 

 本来は共に存在し得ないリンドVとヴェスタLが立ち並び、飛翔する。と、そこにウイニングインテグラが合流する。

 

「霧島さん、ありがとうございます! これで紅子さんと一緒に戦えます!」

「ああ、それとライドエージェントのみんなに言葉を伝えたいって人が…僕に力を貸してくれたディヴェルトの思念の中にいるみたい」

 

 そう告げると、ウイニングインテグラの光から人型の粒子が現れる。

 

「…イヤイヤ、ンー……」

「! その口グセ、忘れもしねぇぞクリアー!」

 

 驚くリンドVに粒子が否定するように手を振った。

 

「俺はクリアーから転生した者だ。君達がその愛をぶつけ、悪を打ち倒した事で善良な人として転生し、愛を知る事が出来た」

 

 同時に話を聞いていたオイオノスとイオニアンが何かに気付く。

 

「成程! 倒されたCDが真っ当に生きていくってのはホントだったんだな!」

「そんでそこにいるってこたぁよ、転生したクリアーは───」

愛城 透(あいじょう とおる)。かつてディヴェルトとして戦った男だ。ライドエージェント達……ありがとうな」

 

 粒子が感謝を伝えると、消えていく。

 彼の言葉にライドエージェントの面々はCDを倒すための決意を更に強くする。

 

「俺達のやって来た事は、巡り巡って世界を救ってたらしい! 尚更やる気がみなぎって来るじゃねぇか!」

 

 オイオノスの言葉に3人が頷くと、速度を上げる。

 

──────────────────

 

「俺達の世界をよそ様には任せっきりに出来ねぇぞ! 分かってんな!」

 

 ムンム戦で見せたフルアーマー形態となったアイアスがソレイユバーン、凄天霹靂を連れて空を駆ける。

 彼の熱意に負けじと2人もその力でコンフリクトが再度生み出した分体を殲滅する。

 彼らの元にウイニングインテグラが飛んで来る。

 

「大護さん、雷電君、勇太郎……行こう!」

「ああ!!」

 

 この世界を守るために立ち上がった4人の戦士がその力を昂らせる。

 それぞれの戦う理由となった許されざる敵を倒す事だけを一心に捉え、足を突き出す。

 その体制は即ち、飛び蹴り(ライダーキック)

 ライドエージェントら、フルアーマー形態のサポーターもそこに加わり、11人によるキックがコンフリクト目掛けて飛来する。

 

「さっきまでボロボロだったお前らの力なんてたかが知れてるんだよ!」

「さっき? そんなもの関係ない! 僕らは変わり続けている! 1分1秒前より強く、変身しているんだ!!」

 

 ウイニングインテグラの思いの丈と同時に、ライダー達のキックがコンフリクトの胴を貫き、打破する。

 

 先程とは比較にならない一人一人の力に、コンフリクト───黒木は地に落ち、(たお)れる。

 

「…まだだッ!」

 

 しぶとく再生を図る黒木だが、魂の内より這い出たCDに敗北を囁かれる。

 

「ダメだ、お前は俺と一緒に負けて、死ななきゃあな…悪い事をしたなら(いさぎよ)く報いを受けるまでが、漢だぜ?」

「うる…さいッ! 俺は…まだ……!」

 

 未だ生き残ろうと醜くもがく黒木に、イオニアンが接触する。

 

「お前…誰かを蹴落としてイチバンになった時、独りで泣いてた恵理ねぇちゃんの事知ってるか?」

「オレハ…オレハ……!」

「……だからお前は駄目なんだ」

 

 イオニアンが黒木の肩を押すと、そのまま黒木は消滅する。

 

 戦闘が終了すると、ウイニングインテグラの姿が霧散し、ディヴェルトが外れて鐘の音と共に彼方へ飛び去る。

 と、エクストラとして参戦していた淡路島から連絡が入る。

 

「お疲れさん、霧島…ところであの力がいなくなった途端、俺達のラフムの力が“消えやがった”ぞ」

「…え?」

 

 今度は榛名から全体に通信が送られる。

 

「たった今ラフムだった皆のマルドゥック構成素を計算した所、全員が一般人の規定数で安定しているわ。つまり、もうラフムにはなれないって事よ」

「人に戻ったって事ですか」

 

 楓が問うと、しばらく熟考した後に榛名がええ、と返す。

 驚く以上に考えがまとまらない面々に陽炎がある心当たりを打ち明ける。

 

「それは多分、ディヴェルトの力だ。アイツは世界を救ってくれた変神者の願いを叶えていっちまうんだ。普通なら世界中の人々の記憶も消えるんだが……みんなさっきの戦いを覚えてるだろ?」

「…はい」

「なら、奇跡が起こった」

「ラフムの存在しない世界になったって事…ですか」

 

 楓が息を深く吸って、吐く。

 

「みんな……人間に戻れたんだ」

 

──────────────────

 

 午前04時24分。

 飯倉交差点。

 

 全ての戦いを終わった事を告げるように朝日が昇り始める。

 それを見て、自分達の出る幕は無いとエージェントらがサポーターらをロムカードに変化させ、帰還の準備をする。

 彼らを見送る楓が紅子と握手を交わすと、気になっていた事を思い出した。

 

「…ところで、僕と会った事ありますか?」

「霧島君と? 悪いが知らないんだ。記憶力に自信はあるがね」

「そうですか…以前、別の世界でヴェスタに助けて貰った事がありまして───」

「それはきっと、未来の私だ。ライドエージェントは様々な時空を超える、だから未来の私がその世界を助けに来たのだろう」

 

 それを聞いて、ウイニングの名を知っていた事に合点がいった楓は目を見開く。

 

「じゃあ、朱音さん。また未来で」

「ああ、未来で」

 

──────────────────

 

「ところで紅子さん…黒木(アイツ)も、生まれ変われるんですかね」

「さぁね、それは分からない。けど、クリアー…いや、透の例がある。きっと良いヤツになれるさ」

「そっすね」

 

 信真と紅子が笑い合うと、店長と陽炎に呼ばれ、マシンワールドシフターに(またが)る。

 

「それじゃあ皆さん、さよなら!」

 

 手を振る信真に、勇太郎が駆け寄る。

 

「また遊びに来いよ! 今度は俺達の日本に!」

「ウス、またいつか! 勇太郎さん!!」

 

「ちょっと待って、最後に聞きたいんですけど…みんなが黒木を倒す時に出してたあの力って、ウイニングインテグラから生み出されたモノだけじゃない気がしたんです……あの力について何か知ってますか?」

 

 楓の問いにライドエージェントらが顎に手を当てるが、店長が何かを思い付き人差し指を立てた。

 

「そいつぁ『オリジンオブラブ』が強まったんだろうな」

「…?」

「要するに“愛の力”だ。お前達が誰かを想っていたから勝てたんだよ」

 

 そう言って店長がはにかむと、大護を呼ぶ。

 

「武蔵大護! …“俺の妹”を、大切になっ!」

「…絶対幸せにしますッ!」

 

 面と向かって宣言する大護を勇太郎と雷電が茶化していると、エージェント達はゲートの先へと去っていく。

 

「…行っちゃったな」

「うん、でも寂しくない」

 

 楓と勇太郎が笑うと、自分達も帰還の用意をする。

 

──────────────────

 

 

 9月18日、正午00時。

 バディで保管していたラフムに関する全情報の抹消を確認した後、スペインで発見された日誌が焼却処分された。

 これでもうこの世界にはラフムのいた形跡は残らない。

 だが、人々の記憶には刻まれている。ラフムによる多くの被害と、仮面ライダーの活躍を。

 故に人々は歩み続ける。平和と自由が守られる、希望に満ちた未来を。

 

──────────────────

 

 10月5日、午後15時07分。

 沖縄県、波照間島。

 

「薫さん、激緑(げきみどり)メロンアイス買って来ましたよ」

「溶けないうちに食べましょうか」

 

「…10月のアイスは、少し冷えますね」

 

 1年。短いようで長かったこの時間。

 楓は、当たり前にある日常がようやく戻って来たのだと思った。

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 いつかの時間。

 どこかの場所。

 

 

 当たり前にある日常は、いとも容易く崩れ去る。

 

 続くと思っていた幸せな時間が、世界に蔓延る“癌”に飲み込まれていく。

 

 自宅にて食事を共にしていた筈の家族が、親友が、まるで矮小な虫のように殺害されていく様子を見る事しか出来なかった。

 

 何も出来ない自分が悔しい。いつも一緒に笑いあった家族や友と暮らせなくなるのが嫌だ。

 みんなの幸せを屠るあの怪物が───。

 ───憎い。

 ───だけど。

 

「ディヴェルトが託してくれた、他の世界の力…これで、未来を変えてみせる!」

 

 

 白いマフラーに緑の鎧。

 勇敢な魂とその威厳。

 

 雄々しくそびえ立つ”正義”に、敵はよろめく。

 

「正義を叫びライドする仮面の戦士! その名もまさしく───」

 

 

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