劇場版 仮面ライダーウイニング   作:虎ノ門ブチアナ

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読む入場者特典 仮面ライダーイオニアン

 黒木(くろき) 陽炎(かげろう)、15歳。

 

 謎の戦士が彼の住む世界を救ってから10年近くが経過していた。

 

 戦士の力によって戦いの記憶が人々から消されてもなお、特別な素質によってあの日のことを覚え続けている陽炎は、今なお戦士のことを忘れず、心に刻んで生きてきた。

 

「え~と、漢検1級、英検準1級…全国U15バスケ大会優勝……あと何をやりゃぁ、“恵理(えり)ねぇちゃん”みたいなすげーヒーローになれっかな」

 

 指を折り曲げながら今まで自分が得た功績を数える陽炎。彼が語るのは、かつて戦士の力に選ばれ、世界を救った英雄であり、古くからの友人である凪幸(なぎさち) 恵理(えり)のことであった。

 戦士として戦った彼女からも記憶は消され、今ではアイドルとして活躍している。

 

(恵理ねぇちゃんは覚えてなくても、俺は絶対、忘れないから…あの日ねぇちゃんが守ってくれたこと)

 

 俯きながら歩いていると、後方から徐行してくる真っ黒な乗用車に気付き、慌てて道の端によける。

 すると車の助手席側にある窓が開いて、彼の名を呼んだ。

 

「黒木陽炎君ね」

「まぁそっすけど、俺を誘拐しても金にならんですよ?」

「誘拐じゃなくってね、あ、勧誘でも無い。君に話があって…」

 

 そう言って助手席から顔を出した女性は陽炎に2枚の名刺を渡す。

 1つはボランティア団体の代表、『藤村(ふじむら) 榛名(はるな)』としてのもの。

 もう1つは、書かれている名前は変わらないが、その肩書は全く異なっていた。

 

「“対CD機関”…って書いてあるのは何ですか?」

「かつてこの世界を襲った敵―――それがCD(カンケルデータ)。私達は奴らと戦うための組織なの」

 

 突拍子も無い発言に陽炎は戸惑う。

 だが、今まで誰にも言ったことの無かったかつての敵の存在を知っている彼女の言葉には、少なからず信憑性(しんぴょうせい)があった。

 

「そこまで知ってるなら…この世界に出てきたCDがどんな奴かも分かるんすか?」

「ええ、個体識別、コントロール・ディレクター。我欲のままに少女をトップアイドルに仕立て上げ、楽しんでいた言わば変態ね。その時あるトップアイドルが戦って勝利したこと、貴方が記憶を保持していることも観測しているわ」

 

 全ての情報が正しかった。そのことから陽炎は彼女らと話す気になった。

 陽炎は車の後部に乗車すると、

 

「あなたがたが何者なのかは一旦置いといて、俺に話ってのは?」

「こちらでまとめた質問に答えて欲しいの。貴方―――いいえ、私達が観測してきた別世界の黒木陽炎の実に46%が世界破滅レベルの大悪人だったの」

「サラッとヤバイこと言ってませんか」

「ええ、まさしくヤバイのよ。だから貴方には人格に関するアンケートを受けてもらって、こちらで対処すべきか判断し、場合によっては事件発生前に拘束させてもらうわ」

 

 えぇ、と眉を八の字に曲げる陽炎だったが、アンケートに答えるだけなら、とタブレットを借りる。

 自分の人格や倫理観、社会性を問うそのアンケートは、非常に簡単な質問が並んでいた。

 例えば、“ポイ捨てするか”や“趣味は何か”“大切なものを守るためにすべきこと”“欲しいものはどうやって手に入れるか”など、一般的な常識を答えれば済む話が多かった。

 

「終わりましたよ、まぁ答えを見ての通り俺はふつうの男の子―――」

「人格の虚偽を防いだ二重質問まで完璧に答えてる……彼は、この世界の黒木は…“善良な一般人”!?」

 

 藤村の動揺につられて同乗していた他の人々も驚愕する。

 

「え…平行世界の俺って一般人なだけで驚かれるほどやべーの……?」

 

 陽炎の話をよそに、藤村は座席の下から大きなアタッシュケースを引っ張り出す。

 

「これはスカウトなのだけど、黒木くん。貴方に頼みたい仕事があるの」

 

 そう言うと藤村はアタッシュケースを開けて、陽炎に中身を見せる。

 そこに入っていたのは、機械的な端末が取り付けられたベルトと、透明なプラスチックカードのような板だった。

 

「これは……」

「貴方の世界を救った戦士、『ディヴェルト』をもとに作られた、CDを倒すための強化装備よ」

「まさかこれを使って、俺がCDと戦えと?」

「その通り―――貴方にはこれを使って『ライドエージェント』になってほしいの」

 

 藤村の言葉を聞き、陽炎は押し黙る。

 

「強制する気は無いわ。ただ君にはライドエージェントとなり、世界の平和のために戦える資格があるというだけよ。嫌なら断ってくれても構わないわ」

「いや、俺やりますよ」

 

 簡単に答えた陽炎に藤村は呆気に取られる。

 

「俺の素性を知ってるなら予想はつくでしょ。あれ以来俺は恵理ねぇちゃんみたいな強い人になりたかったんです。だから、その力で誰かを助けられる、間違ってることにダメだと言えるなら…やります!」

「…分かったわ。このベルト型端末『ジェネレートドライバー』は預けておくから、貴方がやりたくなったらいつでもケース内の連絡先に電話して頂戴。報酬は現金を出すけど、基本は志願制。好きな時に戦ってね」

 

 ウス、と気合の入った返事をすると、陽炎を自宅の前まで送って車は走り去った。

 

 夢でも見ていたかのような感覚だったが、手元に残ったジェネレートドライバーが現実の出来事である何よりの証拠だった。

 

「母ちゃーん、俺ボランティアやることにしたー」

 

 藤村が名乗ったカバーストーリーの恩恵を受け、次の日から陽炎の仮面ライダー(ボランティア)活動が始まった。

 仮面ライダーと言うのは、機関がライドエージェントと呼ぶ戦士が別世界でよく呼ばれる名称で、言い得て妙な呼び名ゆえか一部の人間もそう呼んでいた。それを聞いた陽炎も自身のコードネームに仮面ライダーと付けてしまった。

 

 『仮面ライダー影討(かげうち)』と名乗るようになった陽炎は、自身の知略と身体を活かして対CDに大きく貢献した。

 世界を股にかける戦士としての才能はスカウトした藤村が目を見張るほどであり、非凡な能力は奇跡的とすら呼べた。

 

 だが、それから半年が経過し陽炎の心に変化があらわれた。

 

 話には聞いていたが、黒木陽炎という人物が各世界においてどれほどの悪行を働いて来たか、それは影討が世界を東奔西走する中で明らかになった。

 ある世界では政治を牛耳り大飢饉(だいききん)をもたらした。

 またある世界では経済破綻の立役者…他にも戦争犯罪や大量殺人、国家を超え世界にまで大きな悪影響を及ぼす凶悪中の凶悪、それが多くの世界における黒木だった。

 

 ヒーローとして駆け付けたはずの黒木が襲われ、狙われ、殺されかけた。そんなことは一度や二度では無く、平行世界の同一人物がいかに恐ろしい人間であったのかを痛感すると共に、陽炎の心はすり減っていった。

 

 

「…藤村さん。俺、このお仕事を続けていく自信が…無くなりました」

「そう言われると思っていたわ。貴方が今の世界で戦っていくのは、見ず知らずのそっくりさんが犯した罪を全て背負うようなものだもの。こうなることは分かっていたのに、貴方の才能に私達が甘えてしまったわ。ごめんなさい」

 

 謝罪する藤村にちょっと待ってください、と陽炎が声をかける。

 

「ま、まだすぐには辞めませんよ? 次の任務、それには行かせてほしいんです」

「次……と言えば、あの世界ね。分かったわ、でも相手となるCDは非常に手強いと報告を受けているから、気を付けて頂戴」

「任せてください!」

 

――

 

 仮面ライダー影討に課された最後の任務―――それは、カンケルデータとなった黒木陽炎の撃破であった。

 戦いは長期化し、世界の荒廃も進んでおり、ビル片の山が散見される。

 ただこの寂れた世界で戦うのは陽炎だけでは無かった。現地でスカウトされた仮面ライダーと共闘しての任務と通達されたのだ。

 

 そのライダーとは―――。

 

「俺はライドエージェント・イオニアン、黒木陽炎だ」

「顔見りゃ分かると思いますが、俺も…黒木陽炎です」

 

 まさか別世界の自分と共闘することになるとは。

 お互いにそう思いながらも陽炎“たち”は握手を交わす。

 

「とりあえずお互いのことはコードネームで呼び合いましょうか、俺は影討って呼ばれてます」

「分かった、影討。お前は世界を行き来してCDと戦って来たんだよな? 外の世界ってのはどうだった?」

「物珍しかったですけど……生きづらかったです」

 

 陽炎の放った含みのある言葉にイオニアンは首をかしげる。

 

「黒木陽炎ってのは…どうやら俺とあなた以外はほとんどの世界で大悪人らしいぜ。助けに来ても憎まれたり追っかけ回されたり散々でしてね」

 

 冗談めいた言い方をするものの、陽炎の表情は曇っていた。

 その様子からイオニアンは彼がどのような苦痛を味わってきたのかを察した。

 

「影討、お前自分のこと嫌いか?」

「いえ、別に…顔が同じヤツが何してようと、俺は俺です」

 

 それを聞いたイオニアンは口角を上げると、ジェネレートドライバーを取り出す。

 

「早速だがCDが来た。準備はいいか」

「はい、いつでも」

 

 2人が並び立つと、彼らに立ちはだかるようにCDが降り立つ。

 

「知らん間に同じ顔のが増えてるな、イオニアン」

「お前と違って優秀な黒木陽炎だぜ」

 

 イオニアンの軽口にCDは不敵な笑みを浮かべると、その姿を伝承の悪魔が如き姿に変貌させた。

 同時に2人もジェネレートドライバーを腰に取り付け、それぞれの持つカードを装填する。

 

「行くぜ!」

「変身」

 

 イオニアンの呟いた言葉に面食らう陽炎だったが、妙に馴染むその響きにうなづく。

 

「だったら俺も……変身!!」

 

《インジェクト・エージェント・ジェネレート―――フォーム・アット・”シャドウ”》

(くら)く忍び寄れ!》

《インジェクト・エージェント・ジェネレート―――フォーム・アット・”イオニアン”》

悠久(ゆうきゅう)の時を刻め!》

 

 ジェネレートドライバーから発せられる音声と共に、2人の戦士が立つ。

 黒いマフラーの影討と、無限の意匠を持つイオニアン。

 それぞれが戦闘体制を取り、CDへと走る。

 

「バカの一つ覚えか、イオニアン!!」

 

 CDが翼を広げて飛翔すると、体内から大鎌を生成して振るう。

 その斬撃が2人を襲うが、難無くかわすと空高く跳躍する。

 

《インジェクト・エフェクト・ジェネレート―――イクイップメント・”アームド”》

《掴み取れ!》

 

 ジェネレートドライバーの左側スロットに“アームド”のカードを装填したイオニアンのもとに、小型のアーミーナイフが転送される。

 それを握りしめたイオニアンがCDの胸を突き刺す。と、重力に従い落下する勢いを加えて、刺したナイフを引き下ろす。

 

「ッ! と…こんなモン擦り傷にもならないぜ」

 

 CDは一瞬でその傷を治癒すると、落下するイオニアンへと笑みを贈る。

 が、その油断によって、背後にいた影討の存在を忘れていた。

 

 イオニアンと同じく、“アームド”カードを用いて巨腕を装備しCDを殴打する。

 

「ごァッ!!」

 

 地に落とされたCDが頭部に加えられた衝撃でふらついていると、地上にいたイオニアンのナイフが体を切り裂く。

 

「ぐはぁッ!」

「やっと届いたか…“攻撃”が!」

「イオニアン?」

 

 影討が言葉の意味を問うと、イオニアンは少し間を置いてから説明する。

 

「あのCDは驚異的な回復力を持っている…俺のナイフじゃダメージが軽すぎて話にならなかった。だが、俺にはイオニアンのカードから得られる無限のエネルギーがあったから何度でも戦えた……要はトカゲのしっぽ切りだ」

 

 イオニアンが無限に攻撃し、CDが無限に回復する。その繰り返しが続いてきたため互いの決着がつかず、事実上の膠着(こうちゃく)状態となっていたのだ。

 だが、影討の助力によってその悪循環から解放されようとしているのだ。

 

「俺が攻撃して時間を稼ぐ! 影討は隙を見て重い一撃を食らわせろ!」

 

 イオニアンの指示を受け、作戦通りCDを囲んで攻撃を始める。

 

「っしゃらくせェ!!」

 

 CDは全身から鋭利な刃を発生させ反撃に出るが、イオニアンのスピード、影討のパワーに押され、攻勢に出られない。

 回復が追いつかないほどのダメージが蓄積し、ついに膝をついたCDを見て、イオニアンと影討はジェネレートドライバーのスロットを引いてから再度押し込んで、必殺技の体制を取る。

 

《イオニアン! アームド! 最終激破!》

《シャドウ! アームド! 最終激破!》

 

「無限・斬裂刃!」

「影討・羅刹掌!」

 

 2人の息が合った斬撃と殴撃がCDを砕き、打ち倒す。

 

「……勝った」

 

 影討が呟くと、大きくを息を吐いて変身解除する。

 

「よっしゃ! やりましたね、イオニアン!」

 

 嬉々として笑う陽炎にイオニアンも変身を解除して笑顔を返す。

 

「ああ、感謝するよ、影討―――」

 

 

 笑顔を見せていたはずのイオニアンが血を吐いて倒れる。

 心臓が貫かれていた。

 

「バーカ…油断しやがって」

 

 まだ息があったCDの鎌がイオニアンの胸を突いたのだ。

 目の前で起こった状況を処理しきれず、陽炎は頭が真っ白になっていた。

 

「回復には時間がかかるが……まだやれそうだな」

 

 傷だらけのCDが立ち上がると、再び鎌を振り下ろしてイオニアンをめった刺しにする。

 彼の使っていたベルトも、カードも、全て砕かれていく。

 

「…やめろ!」

 

 再変身した影討がCDの頭部を叩き、沈黙させる。

 ようやくCDの消滅を確認した影討が、イオニアンへと駆け寄る。

 幸いまだ生きてはいるが、もう時間は無かった。

 

「仇は討ちましたよ、イオニアン」

「助かる……そうだ、影討。仇ついでに頼まれごとをしてほしい」

 

 息も絶え絶えのイオニアンから告げられる言葉に、陽炎は耳を傾ける。

 

「お前は…いいヤツでいてくれよな」

 

 そう言って笑うと、イオニアンは何も言わなくなる。

 

「ありがとう、黒木陽炎さん。あなたは俺にとってかけがえの無い人だったと思う」

 

 イオニアンを火葬しながら、陽炎は新たな決意に目覚める。

 

「イオニアン…あなたの名前は俺が継ぐ。俺達と同じ名前に生まれたクソ野郎共を1人残らず消し去るまで、俺は永遠に戦う。そして黒木陽炎―――あなたの名前が最高のヒーローの名として永遠に刻まれるように、俺がこの名前を背負っていく」

 

――

 

 一段落し、藤村に事の次第を伝える。

 

「任務お疲れ様、黒木君。これで貴方の活動を終えても大丈夫よ。本当に今までありが―――」

「俺、仮面ライダー辞めません! …戦い続ける意味が、出来たから……!」

「…分かったわ。それじゃあ改めまして…これからもよろしくね、ライドエージェント・影討」

「ちゃいますちゃいます、俺は、“仮面ライダーイオニアン”。そう呼んでください!」

 

 

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