劇場版 仮面ライダーウイニング   作:虎ノ門ブチアナ

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劇場版 本編
チャプター① 運命の邂逅


 9月17日、午後14時15分。

 バディ本部、大規模研究室。

 

 大きなカプセル状の装置を前に、薫はパソコンを操作しながら険しい顔をする。

 と、彼女の手元にコーヒーが置かれる。

 

「お疲れ様、薫さん」

「! 楓さん、今日は大学では…」

「日曜日ですよ、今日」

「そうでした」

 

 笑顔で隣に腰掛ける楓に薫も思わず笑みがこぼれる。

 

「……“ラフムを人に戻す研究”ですが、他の作業と同時進行になり、まだ結果が出なくて」

 

 ゆっくりと口を開いた薫からの弱音に楓も言葉を詰まらせる。

 目の前の装置はラフムからマルドゥック構成素を抽出し、ラフムに変貌する能力を消すためのものであった。

 ウイニングカタルシスの必殺技を応用した研究であったが、どうにも前に進まないのだ。

 

「すみません、僕が、“ラフムを人に戻したい”なんて言い始めたから…」

「いえ。人に戻りたいというラフムの方も多いですから、楓さんは気に病まなくて良いんですよ」

 

「───僕も、早く人に戻りたいです」

 

 不意に楓の口から漏れた一言に薫は視線を彼に向ける。

 彼女と目が合い、楓は思わず俯いてしまう。

 

「いえ…僕は……CDとの決着がつくまでは、ラフムとして戦うつもりですから! 戦うのが嫌な訳じゃ…」

 

 不自然な弁明を放つ楓に、薫は心配そうな表情で押し黙っていた。

 

「……薫さんのそんな顔を見ていると、何も隠し事が出来ない気がします」

「あの…人に戻りたいのは当然の願いじゃありませんか?」

 

 薫の言葉を受けて呆気に取られた楓は少し言葉を失ったのち、少し笑った。

 そうですよね、と気の無い返事をしてから、楓はその場にあったコーヒーをすする。

 

「それ私の…」

「あっそうだった! すみません!」

 

 慌てふためく楓の姿に薫も笑顔を取り戻す。

 

「ふふ、とにかく…楓さんはラフムであっても楓さんですから」

 

 薫が楓の両手を握る。

 

「私の命の恩人で、心の拠り所。だから変わろうとする事を焦らなくても大丈夫です」

「か、薫さん…」

 

 

 と、安らぎのひと時を壊すようにサイレンが響き渡る。

 

「東京都新宿区、新宿御苑内にバディデータベース内要警戒人物の出現を確認!」

「人物照合───黒木陽炎です!!」

 

 オペレーターの口から出たその名前に、楓は絶句した。

 

「黒木…陽炎…」

 

──────────────────

 

 バディ本部、地下出撃ハッチ。

 かつて御剣邸内に格納されていた特殊車両を用いたライダーの射出システムが強化され、車両を介さずに直接射出が可能となった新型設備に、楓、そして雷電と大護が集まる。

 

「聞いたか、黒木が出たって話」

「はい、アイツはウインドとの交戦以来姿をくらましていましたが、まさかここで出て来るなんて…」

「あのクズ、何を企んでんのかボコボコにして聞き出してやる」

 

 3人がライドサイクロンに搭乗すると、射出用設備が稼働開始する。

 

「発進軸固定、ブースターオン。ライドサイクロン、発進します!」

 

 ライドサイクロンの格納されているカタパルトに電磁力が加えられ、射出される。

 それと同時にカタパルト内に取り付けられた新たなるライドシステムの出力装置により、サイクロンに乗ったままライダーへの変身が開始される。

 

《Account・Winning》

《Account・Thunder》

《アイアスシステム・ブート》

 

「変身!」

 

《Change・Winning》《Thunder》

《ネームド・Palladion・アクセプト・エキスパンション》

 

 3人の斉唱と共にスーツと仮面が転送され、その姿を“仮面ライダー”へと変身させる。

 

 

 

 東京都、新宿御苑。

 休日を満喫する人々で賑わうその場に現れた場に相応しくない外見のバイクにまたがった男───黒木陽炎が辺りを見回している。

 そこへライダーが到着し、サイクロンを変形、着地させる。

 

《Form・ Change・Cyclone》

《ネームド・Cyclone・アクセプト・エキスパンション》

 

 各ライダーのサイクロンフォームが黒木陽炎を囲み、一目で凄まじい高火力を想像させる砲口を突きつける。

 

「黒木陽炎…今度は何のつもりだ」

「どこの世界よりも手厚い歓迎だな今回は……ってそれより! 話! 話を聞いてくれないか!!」

 

 慌てた様子の黒木陽炎に、ウイニングは違和感を覚える。

 

「油断するなみんな、コイツはこの世界で多くの損害を出して来た相手だ!」

 

 霹靂の言葉にウイニング、アイアスも操縦桿を握り直す。

 

「この世界に藤村金剛ってヤツはいませんか!? アイツなら話が分かるハズだ!」

「お(にい)───金剛さんならお前が名前を(かた)って尊厳を踏みにじった相手だろ? 今更アイツに会ってどうするんだよ」

「かーっ! “この世界の俺”そんなコトまでやってたのかよ…後で金剛に笑われるな~」

「お前は笑われる前にブン殴られろよ!」

「そうじゃなくって!!」

 

 嚙み合わない会話にウイニングは痺れを切らし、バディ本部で管制する金剛に連絡する。

 

「金剛さん、黒木の様子が変です。記憶喪失とも言い難い発言をしていますが…」

「俺としても何か引っかかるんだよな。会話が可能ならもう少し情報を聞き出して欲しい」

 

 はい、と簡単に答えると、連絡を切ったウイニングが黒木に話しかける。

 

「お前は以前、人々を先導してライダーに敵対させたり、組織内部の諜報活動、僕達を裏切っての破壊活動…もういいや、数え切れない程の罪を重ねて来た。自覚はあるか?」

「無いんだ! 俺は別の世界から来たその黒木のそっくりさんだ!」

 

 別の世界、そう聞いてウイニングはかつて別世界から来た戦士より告げられた言葉を思い出した。

 

“君が知っている以上にこの世界は広く、そこにも仮面ライダーは存在している”

 

「今こっちの黒木とは違うって証明するから……ホラ! このベルト!」

 

《ジェネレートドライバー》

 

 黒木陽炎が取り出したそのベルトを見て、ウイニングの憶測が確信に変わった。

 

「そのベルト…まさか“ヴェスタ”と同じエージェント!」

「お前、ヴェスタを知ってるのか!?」

 

 見知った名前を聞いて目を見開いた黒木陽炎に、ウイニングもうなづく。

 

「オイ、どういう事だ? この黒木はナニモンなんだよ?」

「大護さん、どうやらアイツは前に楓先輩が出会った別世界のライダーと知り合いらしいです」

 

 霹靂の言葉に状況を飲み込んだアイアスが納得するように息を漏らす。

 

「ヴェスタを知っているならベルトの意味は分かるだろ、俺もライドエージェントだ」

「状況は理解しました。ですが、やはりこの世界における黒木の悪辣さを考慮して特殊な手錠で拘束させていただきます」

 

 快諾した黒木陽炎に向け銃型の射出装置を発射する。と、そこから手錠が飛び出し、ライドシステムによって彼の手首に装着される。

 

「手錠? と言ってもお手手が自由なんだが」

「この手錠は特製で、この世界に存在する異形の怪物“ラフム”が変貌しないための物なんです」

「それが反応しないってこたぁ、コイツは本当に俺達の知ってる黒木じゃないんだな?」

 

 アイアスの問いに変身を解除した楓は強くうなづく。

 

「すると貴方の目的はCD打倒の協力ですね?」

「ご名答、対CD機関から依頼され、この世界のCDを倒しに来た」

 

 やはり、と呟くと楓は陽炎の手を握る。

 

「歓迎します…黒木さん」

(カゲ)ちゃんって呼んでね。太陽の(よう)なのにカゲって倒錯的で良いよな」

 

 彼の突飛な言動に3人は眉をひそめる。

 

 と、彼らの近くにもう一つバイクが転送されて来た。

 

「あの…(カゲ)さん、あの人もまさか……」

「うん、俺とおんなじ」

 

 バイクの主は陽炎と彼を囲むサイクロンフォームを見るなり、走って来る。

 

「待ってくれ! 彼は敵じゃない! 今証明するから…」

 

《ジェネレートドライバー》

 

「あ、もう大丈夫です」

「え? …陽炎が敵じゃないと分かったのか、良かった」

 

 安堵したもう一人のエージェントがヘルメットを外す。

 その顔に楓と雷電、大護は陽炎の時と同様に驚愕した。

 

「金剛さん!?」

 

 叫びが重なる3人に、金剛と同じ顔をしたエージェントは後頭部を搔いてみせた。

 

「やっぱりこの世界にも同一人物がいたか…」

「超ややっこしい者同士だな、金剛」

 

 同情を込めた声色と共に、陽炎が彼の肩を叩く。

 

──────────────────

 

 陽炎と別世界の金剛が乗ってきたバイク“マシンワールドシフター”をヘリにて輸送しつつ、楓らはバディ本部へ戻る。

 と、地下駐車場にて長官の金剛自らが出迎えていた。

 

「おかえりみんな、それにライドエージェントの方々」

 

 手を広げて歓迎の態度を取ると、視線を交わした金剛同士が握手する。

 

「俺の事は『店長』と呼んでくれ」

「じゃあ俺は僭越(せんえつ)ながら『長官』と」

 

 そういうと2人はライダー達の方を向いて不敵に笑う。

 どうやら互いの顔を見て便宜上の通称が必要だと判断したのだろう。

 

「みんなも俺の事は長官、あちらの金剛は店長と呼ぶように」

 

 長官の指示を受けその場の職員、ライダーらが応答する。

 

 

 午後14時56分。

 バディ本部、長官執務室。

 

「それで、君らがこちらへ来たのはこの世界のCDを対処するためだと」

「ああ、機関の調査と推測によれば君らの戦力ではCDに対抗出来ないと聞いている。だから俺と陽炎…他にも仲間が来てくれる手筈になっている」

「仲間っていうと、ヴェスタですか?」

 

 楓が問うと、店長がうなづく。

 

「それともう1人って予定だな」

「さらに来てくれるんですか!」

「それほどに事態が深刻なんだろうな」

 

 店長の指摘にそうか、と楓が呟くと一気に空気が重たくなる。

 これから対峙する事になる相手の強さに一同が息を呑んだ。

 

「ま、俺達には頼もしい楓がついてる! 時間制限があるとはいえインテグラなら善戦出来るハズだ」

 

 大護が呑気に告げると、複雑な表情で楓がはい、と返す。

 

「こら、大護君! 楓君に負担をかけないで頂戴!」

 

 執務室に入るなり怒号を響かせるのは、バディ技術顧問であり、大護の妻である藤村榛名であった。

 ライドエージェントの装備を解析し強化案を策定するために兄である金剛に呼ばれたのだ。

 

「…失礼しました。バディ技術顧問の藤村榛名です」

 

 彼女の姿を見るなり、店長は目を潤ませる。

 

「───榛名」

「別世界の兄さんですね…個人的な興味ですが、そちらの私はどんな人でしたか?」

「……そうさな、君とそっくりで、しっかり者だったな」

 

 そう言ってうつむく金剛に、榛名は何かを察して一礼したのち部屋を後にしようとする。

 

「長官、用は後で良いので」

「待ってくれ榛名」

 

 言葉を発したのは、店長の方だった。

 

「……すまねぇが、少しの間一緒にいてもらっても───」

「勿論です」

「マジにすまねぇ」

 

 店長と長官の謝罪が重なり、お互いに頰を赤らめる。その様子に一同の笑みが溢れた。

 

──────────────────

 

 午後15時15分。

 バディ本部、総合研究室。

 

 店長から受け取ったジェネレートドライバーとライドロムカードを用いて、榛名を主動とした解析と開発が始動する。

 その様子を見ながらライダーらは休憩を取っていた。

 

「この世界の技術力スゲェなぁ〜! 機関のある世界にも引けを取らんぜ」

 

 感嘆する黒木だったが、楓、大護、雷電の視線が刺さる。

 

「…やっぱ俺の事、気になるか」

「そりゃあ…だが、陽さんには関係の無い事ですな。顔がおんなじってだけで勘ぐってすんません」

 

 謝る大護に、黒木は微笑む。

 

「関係あるんだな、実際。例え生まれの違う別人でも俺は俺だ。だから、俺の罪は俺が償う。そして、俺が───仮面ライダーイオニアンがヒーローとして認められる世界を作りたいんだ」

 

 陽炎が真剣に語る覚悟に、大護と雷電、そして楓は胸を打たれる。

 

「陽さん、アンタ漢だぜ…!」

「この世界にいた黒木とは全く違うな」

「よせよせ、こそばゆい」

 

 照れる陽炎の姿は、ライダーらとの(わだかま)りを容易くほどいた。

 

「これから一緒に戦える事が光栄です、陽さん」

 

 楓の言葉に陽炎は満面の笑みでおう、と返す。

 

 

 ───サイレン音。

 今日二度目の非常事態に場がざわつく。

 

「東京都港区三田、東京タワー直下に…黒木陽炎出現!!」

 

 普段よりも慌てた口調で語られる状況に、ライダーらに緊張が走る。

 

「お前ら! 話は聞いたな!」

「店長…さっき言ってたもう1人───」

「違う、ライダーの陽炎はコイツだけだ!!」

 

 それを聞いた瞬間、考えるよりも先に体が動いていた。

 

「って、俺のベルト研究室(あっち)で使ってるじゃんどうすんだ!?」

 

 自身の装備が無い事に気が付いた店長が頭を抱えるが、そこに長官がやって来た。

 

「というと思ってたから俺のウェアラブレスを貸す! 使い方マニュアルこれ!」

「サンキュ! …読んだ! 使える!」

「おっしゃ頼むぞ!」

 

 長官から力を託され、店長を含めたライダーらが現場へ急行する。

 

 

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