午後16時44分。
バディ本部、駐車場。
帰還した楓がバディ職員やライダー達に迎えられる。
「楓───」
彼の元へ駆ける勇太郎だったが、もう一人彼に駆け寄る人物がいる事に気付いて足を止めた。
「楓さん!」
「薫さん……すいません、僕」
楓が顔を曇らせる。
「どうやってもラフムになれなくて、力も普通で…変身も出来なくて───僕、人間になったらしいです」
自嘲を含めた苦笑いを浮かべる楓に、薫は言葉を失った。
「おかえり楓君、君の状況は概ね把握している。とにかくまずは休みなよ」
長官からの労いを受け、楓は頭を下げる。
「あなたが仮面ライダー、ウイニング…霧島君ね」
聞き覚えのある声に楓が振り向くと、そこには松葉杖を突いた紅子が立っていた。
「仮面ライダーヴェスタ、朱音紅子よ」
「ヴェスタ……」
かつて異なる世界にて自分を救った戦士と同じ名のライダー。
だが、彼女との再会を手放しに喜べる状態ではなかった。
「皆さんの助力がありながら、僕は…」
「敵に挑んでいるのは君だけではない、だから責任を感じるべきではない。が、CDを取り逃してしまい、黒木陽炎の強化を招いてしまった遠因は私の力不足にある。この場を借りて、この世界の人々に、謝罪したい」
深々と頭を下げて謝罪する紅子に、楓も慌ててしまう。
「いや、いいですから! そんな謝られても!」
「…だろ?」
頭を下げたまま紅子は笑う。
と、彼女の話を聞いていた薫が言葉を加える。
「そうです、楓さん。インテグラが奪われた事実はありますが、貴方は生きている。それだけで、私は充分です」
「…生きていたって、勝てなきゃ、戦えなけりゃ…!」
そう吐き捨てると楓は立ち去ってしまう。
楓の力になれなかったと落ち込む薫に、勇太郎が肩を叩く。
「楓が逃げたら追って下さい、アイツの悪い所だから」
「…火島さん」
「アイツの事、頼まれてくれませんか」
薫は強く頷くと楓を追って走る。
「さて、ライダーの皆は改めてミーティングよ、会議室で長官達が待ってるわ」
榛名の指示にライダーズ、そしてライドエージェントの面々も歩き出す。
──────────────────
午後17時06分。
バディ会議室。
そこにはライダー達に加え、何台かのモニターと長官、榛名、記者であろう河森まで集まっていた。
車椅子に乗った信真が職員に運ばれると、モニターも点灯し、全員が集合した。
「よし集まったな、早速状況を整理して今後の対策を立てるぞ」
長官が音頭を取ると、モニターから風露、清瀬総理の声が聞こえる。
まず榛名、河森による被害報告により、黒木、CDの襲撃で芝公園を中心とした半径1キロメートルが壊滅状態と化した事が明らかになった。それによる死者は36名、負傷者は500名を超えていた。
さらに地下鉄と在来線及び新幹線の線路も被害を受け、東京の交通網が混乱してしまった事で各車両の運行停止まで起きている。
また、東京都のシンボルであった東京タワーが被害に巻き込まれ、各部の破損に地盤の歪みで斜めに倒れてしまった。
「ワールドクラスで見れば、強大な敵にしては被害が少なかったとも取れるが、日本の首都、その中心地が壊滅しちまったのは、あまりにもデカイな……」
「あの地域は人も多く、大企業の本社まであった。加えて東京タワーの破壊は、人々に予想以上の恐怖を与えています」
長官と風露の言葉に総理が目頭をつまむ。
「今回あの場所を狙ったのは、言うなれば我々をいたぶるため…黒木ならそういう手口を使うでしょう。“いつでも国を落とせる”と……まさしく宣戦布告ですな」
総理の考えに全員が同意する。
「重要なのは今後どうするか、だ。事態を憂うよりもCDまで取り込んだ黒木陽炎に勝つ方法を探す方法を考えるべきでしょ」
紅子の意見に全員が押し黙る。
「…そうだ! スペインで見つけて来た史料、これがあればCDに関して分かる事があるかも───」
そう言うと勇太郎は持ち込んでいたリュックサックから丁重に保管された手記を取り出した。
「おっ! 俺の探してたヤツだ!」
長官が嬉々としながら手記を受け取ると、早速読み始める。
「長官、そいつぁ一体なんだ? CDと何か関係あんのかよ」
店長の問いに長官は多分、と曖昧な言葉を返す。
「これはスペインの錬金術師が残した人類の進化式を綴った日誌だ。CDの痕跡を辿ってる内に手に入った眉唾モノの都市伝説だったが、勇太郎に頼んで正解だったぜ」
「その進化式を紐解けば、CDの弱点に繋がったり…!」
期待する信真だったが、得意の速読で内容を把握した長官が首を横に振る。
「ここにあるのは“フィリピンのルソン島に渡ったコンキスタドールに保管を依頼した人類の進化式の作り方”だけだ。CDに効果のある内容は見受けられなかった。あってラフムの作り方くらいだな」
「ラフムの作り方!?」
雷電と勇太郎が身を乗り出す。
「ああ、『賢者の石』、今でいうマルドゥック構成素の塊を煮沸しながら、エヌマ・エリシュのインキピットを唱えるだけ…簡単過ぎて怖いな」
「何の何を唱えるって言いました?」
信真の言葉と共に、陽炎や大護も首を傾げていた。
悪い、と一言謝ると長官が簡単な言葉に言い換える。
「昔の神話にエヌマ・エリシュという創世の物語があってな…詳しく話すと長いが俺達の世界の始まりの話だ。これの最初の文章を唱えると、この世界で発見された何にでも変容する万能の物質であるマルドゥック構成素が反応して、人の形を変えてしまうんだとさ」
半分理解出来たかも分からない顔で頷く3人に勇太郎は苦笑いする。
「まあ分からなくて当然だ、原理が謎、条件も謎、これについて追及するのは現実的じゃないからな。これからラフムを生み出すつもりも無いし……とにかく、結果としては黒木を倒す手掛かりナシってところだ」
「俺のスペインでの努力が水泡に帰した……」
長官と勇太郎が背もたれに体をうずめる。
悲嘆する2人だったが、榛名は他にも方法を考えていた。
「では私から…CDへの対策としては微妙ですが、ラフムへの有効な対策手段としてこちらを開発しました」
榛名が全員に資料を配布する。オンラインで参加している風露、清瀬総理にはデータが送られる。
そこには、『対マルドゥック構成素弾』と名付けられた弾丸についての説明がなされていた。
「これはマルドゥック構成素を別の場所へ転送する機構、ライドシステムを応用して、ラフムがその体を構成するために纏っているマルドゥック構成素を転送して一時的に人間の姿に戻す装置です。既存の兵装で射出して使うのが最も効率的なので弾丸としました」
「弾、とは言うがサイズ的にはミサイルランチャーくらいだな……」
榛名の説明に武器のプロである大護が突っ込む。
「現状小型化までは出来ませんでした。ですが、これを黒木に撃ち込めれば彼の能力を著しく落とす事が出来ます」
「…人間の姿に戻すって言ってましたけど、人の姿のヤツを倒すんですかい?」
陽炎の率直な質問に榛名は少し目を泳がせてから答えを返す。
「基本はその瞬間の動揺と共に出来るなら捕縛、再度ラフム化したならば戦闘を続行、相手が困惑している間に攻撃を仕掛ける、といった作戦を構築する予定です」
「俺なら生身の黒木を殺せる。きっと勝つにはそれしか無い…俺にやらせてくれ」
進言する陽炎に、榛名は熟考ののち、頷く。
「マルドゥック構成素弾搭載装備はアイアスに装着し、致命打を放つ要因として陽炎さん、イオニアンを随伴させます」
「分かった、その予定を承認しようにん」
「ダジャレやめろ長官!」
榛名の提案を飲む長官に、店長が指を差してダメ出しする。
「ホラ、みんなを和ませるためにさー!」
「榛名困ってんだろ!?」
「これも兄妹のスキンシップだよ!」
「羨ましいんだよ俺にもさせろ!!」
大人気無く喧嘩を始める2人の頭上をモップの持ち手が叩いた。
「いてっ!」
声が重なる長官、店長。
彼らに制裁を加えたのは、店長のパートナー、ハルカであった。
「ご無沙汰しております、店長。ロムカードの解析が終わり、解放されたので来ました」
「…説明が面倒だから大人しくしてろって言ったのに……」
「彼女は俺達ライドエージェントの補佐をするパートナー…ハルカさんと言います。変身前のライダーを防護する役割もあり、俺達の持つ“アームド”ロムカードに変化して携帯が可能なんです」
そう告げると信真、陽炎がそれぞれのパートナーを現出させる。
その様子に一同は目を丸くするも、対して驚かずに近くのパートナーらと握手を交わす。
「って、割と馴染んでません?」
「怪物だの転送だの神だの万能だのと、世界の驚きギミックに驚かされ慣れちまってな。頼もしい仲間ならさっさと受け入れちまうのさ」
大護が笑うと、ハルカに写真撮影される。
「ナイスバルク…漫画のキャラみたいでクールですね」
「褒められると弱いな…特別だぞ」
だいぶ賑やかになってきた会議室に風露は肩を落とし、総理は笑ってしまう。
「マスコミだから言わせてもらいますぜー、そんで黒木を倒す手立てはあんですかい?」
河森の発言で場が収まり、咳払いしつつ各員が席に戻る。パートナーらは相棒の後ろに立つ。
「現実から言わせてもらうと、まだ決定的なものは無いな…だが、彼は最期にインテグラのインターバルと言ったんだな?」
ライダーズが頷く。
「恐らく明日の16時ごろまで黒木はインテグラの力を使えない。それまでにヤツを倒してしまうのが俺の考えだ」
「インテグラが無い今の戦力で倒すったって…」
「それなら一つ考えが」
紅子が挙手していた。
彼女は提案を説明するために1枚のロムカードを取り出す。
「“グラビティ”…手加減していた訳ではないが結果温存する羽目になった、文字通り私の切り札だ」
「重力操作か? だとしたら黒木にも有効か…」
長官の推測に紅子が強く頷く。
「黒木がインテグラの力を行使出来ない内に朱音君のグラビティで可能な限り捕縛、その間に勇太郎君の炎と雷電君の雷で攻め続けるか」
「奴は大気の減少に効果を示していましたからね」
勇太郎が笑うと、気象情報を確認する。
「以降の天気は晴れ…まぁ雨すら蒸発させる熱を出すつもりですがね」
なんとか黒木に対抗しうる策を練り、長官は息をつく。
「ふぅ…かなり大雑把になってしまったが……これならいける…か?」
「長官が弱気になってどうするんですか」
榛名に励まされ、うむ、と長官が唸る。
「バディは黒木への対抗策として、重力、火炎、電撃の三方による多重攻撃による対象の消耗を狙った戦術を実行する! 主力として仮面ライダーバーン、霹靂、ヴェスタ。加えてエクストラからボマー、ゴズテンノウを選出! 他のライダーはスプリットの力に不利なため支援に回ってほしい!」
「エクストラってなにすか…?」
小声で呟く信真に、雷電が耳打ちする。
「俺達の戦っていたラフムの中には味方もいて、ソイツらがそう呼ばれてる」
「はぁ~頼もしい」
「そうだ、アイアスは砲撃が可能なため火力支援を任せたい。それと今回黒木との決戦に参加しないライダーも気を引き締めて欲しい。恐らく黒木は奪ったコックローチラフムの力で分体を生み出すだろう。元のラフム以上に強化されている可能性が高いので警戒してくれ……とりあえずこちらからは以上だな」
と、ここまで話を聞いていた大護の腹が鳴った。
「あ…すんません」
「ふふ…腹ァ減ったな。ライダー各員は作戦展開に備え休息を取るように!」
長官からの“指令”を受け、ライダー達は頬を緩ませる。
「食事なら俺達のツテで用意させて貰った。基地内のホールに信頼出来るケータリングを呼んでおいたぞ」
河森の計らいに甘え、ライダーらはホールへと向かう。
「長官、一つ気になったんですけど、俺達が食事している間に黒木に動きがあったら……」
「その時はまた連絡するさ。今は新たな仲間と交流を深め、休息するのがお前達の役目だ」
「……“長官”みたいな事言うようになりましたね」
「あの人には敵わねぇさ。まだまだな」
勇太郎の一言に、先代の長官を思い出した
だが、かつての先代を知る総理はいや、と言葉を投げかけた。
「君はとても優秀なバディのリーダーだ。“あの人”をずっと見て来た私が言うんだ、間違いない」
「へへ、総理大臣に褒められるのは小学生の時の自由研究以来だ」
少し照れながら長官は勇太郎の背中を押す。
「さ、行って来い勇太郎」
「ウス!」
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午後16時50分。
バディ本部、大規模研究室。
「楓さん! はぁ…結構追いかけましたよ」
「すみません、薫さん……僕、あそこにいられる自信が無くて」
息が上がる薫に、楓は微笑む。
「ラフムを人に戻す研究…僕にはいらなくなっちゃいましたね」
冗談めかして呟くが、楓の面持ちはどこか寂しそうだった。
「僕が仮面ライダーで無くなってしまったら、何も価値が無いような気がしますね」
「私にとっては、あなたが霧島楓として生きているだけで充分です!」
「それでも、世界は仮面ライダーを求めている。だから僕は戦う…なのに」
楓が涙を流す。
「今の僕は無力だ…力が、無いんです……人並みの力しか無い、こんなんじゃ黒木には勝てない」
「あなたが戦うことだけが勝利する方法じゃありません。皆さんの戦いを支える事だって!」
「僕は、みんなとその場で戦いたかった」
「おかしいんですよ、僕! 戦いたいって、まるで暴力を楽しんでいるみたいじゃないですか!? この気持ちを抑えられないんです! 昔から成長してないんだ僕はッ!!」
薫が楓を抱き締める。
彼女の頬には涙が伝い、体が震えていた。
「私は…あなたに戦ってほしくありません。平穏な日常の中で笑っていてほしい! でも…! …あなたの戦いを肯定します」
「薫さん……どうして」
「あなたがここまで築いてきた勝利が、戦うことで得られる全ての価値が、あなたの戦う理由になっている。それを曲げてしまえば、あなたはきっと挫けてしまう。だから、今だけは……あなたが戦うことで、あなたの自由を取り戻せるなら…」
でも、と続けて薫が懐からネックレスを取り出した。
それは小さなナットを通した、質素な物であった。
「あなたが死なないために私の全てを尽くします。一緒に未来を生きてください」
楓の首にネックレスを下げ、薫が強い眼差しを向ける。
「もしもあなたが人に戻ってから危機が訪れた時でも、人々を、あなた自身を守れるようにと開発していた物があります」
そう告げると、薫は研究室の端に楓を連れて行き、端末を操作する。
すると開発中のボックスから鋼鉄の鎧によって“造られた”ウイニングの鎧とロインクロス、銀色のイートリッジが現れた。
「『仮面ライダーメタルウイニング』。楓さんを守るためのプレゼントです」
「メタルウイニング…」
「私の思う“勝利”とは、敵に勝つ事ではなく、あなたが生きて笑顔を見せてくれる事です。絶対にそれを忘れないでください」
楓が首に下がるナットを持って見つめる。
「薫さん、今度海行きませんか?」
「海?」
「なんとなく、行きたくなって…」
「行きましょう、アイスも食べたいです」
「うん、アイスも」
お互いに微笑むと、薫が楓の手を掴んで、仲間達のいるホールへと連れて行く。
「皆さんでお食事会やってるそうですよ、早く行きましょう!」
「…はい!」