SCP-████-JP 学園都市キヴォトス   作:サイト8192

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Εποχή της Κιβωτού
Tale_0:1/2_Nothing starts. Magnificently. No one will ever know.


「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

 どくどくと脈打つ鼓動、荒い呼吸、風を切る音、駆け足の音。ただ、それだけが、その少女の耳の奥に、こびりつく様に聞こえていた。

 その少女は街中を必死に必死に駆けて巡っていた。街中は人気が少なく、酷く荒れている印象だ。たまに見かける人も明らかに、真当な人生を送っていない様子に見える。

 そうした人達からもまるで逃げる様に少女は駆け抜ける。だが、とうのそういう者達は少女に一切興味が無い様だった。

 まるで、この街では日常茶飯事で興味を抱く必用性は無いとでも言いたいかの様だ。

 

 「はぁ……はぁ……!逃げ……れたッ!!……はぁ……はぁ……逃げれ、た!逃げれたッ!!」

 

 少女は歓喜の感情から呼吸の合間にそう叫ぶ。ただ、少女は必死で走り呼吸も酷く乱れている為にその声量は大して多くはない。

 そんな少女の特徴はと言えば、至って平凡の一言だった。髪が目立つ色な訳でもなく、目の色も目立つ訳ではない。体型も、それに然りだ。ただ、そんな平凡な出で立ちの少女ではあったが、何故かその服装は酷く目立つオレンジ色のつなぎ姿だった。

 

「もっと……遠くにッ……早く逃げないとッ!!はぁ……はぁ……!」

 

 少女は何かから逃げている様だった。少女を追いかけているかもしれない、それは、今の少女の必死の様相を見れば恐らくは百人に聞けば百人が、捕まったら、安全な輩ではないと分かるだろう。

 少女はしきりに背後を気にする素振りを見せるが、今の所、少女の目には追手の姿は映らない。

 しかし、追ってきているかもしれないという考えを少女は振り払う事はできない。少女が逃げ出した事に連中が気づくのは時間の問題であるし、それに連中が逃げ出した者を放っておくとは、少女の経験上、全く思えなかったからだ。

 だが、ずっと走っていたからか、そろそろ流石に少女の体力の限界が近づいてくる。少女はやむを得ず、一旦、休息を入れる為に、近くの路地へと入った。そこで少女は壁に背を付き、ずり滑る様に地面に座り込む。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 荒くなった呼吸を少女はなんとか整えようと胸に手を当てながら呼吸をする。そんな少女の肌には汗が滲んでいた。もうどれ程走ったか、少女は分からなかった。

 ただ数十分は連続して走った気がした。気がしただけで正確な所は分からない。実際には十分とかその程度という事も充分にあり得た。こんな事ならもっと体力をつけるべきだったと少女は遅い後悔をする。

 

「それにしても……ここは何処なの?キヴォトスの何処かなのは間違いないだろうけど……」

 

 呼吸を整えた少女は周囲を見渡して呟いた。ここは酷く街が入り組んだ構造をしていて、それでいて治安が悪い地域であろうことは、これまで走りながら見てきた光景から想像が付く。

 ただ、少女がこれまで訪れた事のある場所でここまで治安が悪そうな、場所は訪れた事は無い為に少女は自分が今、何処に居るのか全く見当もつかない。

 少女の中で治安が悪い場所と言えば中退、休学、退学等々……様々な理由で学校に居られなくなった生徒達が群れを成してるブラックマーケットだが、少女の居る場所は明らかにブラックマーケットよりも荒んでいる様に見えた。本当に同じキヴォトスなのかと疑いたくなる光景だったが、空を見れば巨大なヘイローが夕日の中で薄っすらと光っている。

 キヴォトスはとても広い。つまり、少女は少女が普段は全く出入りもしない様な場所に連れ込まれてしまったのだろう事が想像ついた。

 

「よし……」

 

 もう十分に休んだ。少女は再び重い腰を上げて立ち上がると、その場から早く脱出するべく再び走り始める。早くこの街から出て助けを求めなければ……その事で少女の頭の中は一杯だった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 少女は走る。とにかく走った。

 どうしてこうなったのだろうか。ふと、少女はそんな事を思い浮かべる。自分は確かヴァルキューレ警察学校公安部所属に所属していて、本来ならば今頃、自分の何処に居てもあまり目立たない平凡な容姿を生かして、最近、色々とキヴォトスを騒がせているという、とあるヘルメット団に団員を装って潜入して捜査に奔走していた筈だ。

 それがどうだろう。今、少女はまるで映画に出てくる様なオレンジ色の囚人服の様な格好で逃げ回っている。本当にどうしてこんな事になってしまったのか。

 少女の正体がヘルメット団にバレたのか?それとも少女はよくドラマで有りがちな警察組織の陰謀に巻き込まれて潜入捜査官なのにも関わらず、警察に追われる身になってしまったのだろうか?。

 全て違う。あぁ……そうであってくれたなら、どれだけ良かったことかと少女は天を仰ぐ。

 

 少女はいつも通り潜入捜査官として任務に励んでいた。ヘルメット団の動向を記録して定期的に公安部に送っていた。しかし、それは突然、起こったのだ。

 ある夜。突然、何の前触れもなく、少女が潜伏していたヘルメット団の本拠地に襲撃があった。最初はよくある敵対組織、不良とか別のヘルメット団が襲撃を仕掛けてきたのかと思った。しかし、その考えはすぐに少女の頭の中から消える事になる。

 あまりに綿密に計画された襲撃で、襲撃者達は非常に訓練された動きをしていた。明らかに、そこらの不良やヘルメット団、もしくは傭兵にできる動きではなかった。

 何処からともなく、閃光手榴弾、催涙ガス、発煙弾がヘルメット団を襲い、視界と聴力を奪われた所に全身黒づくめでガスマスク姿のフル装備の連中が混乱するヘルメット団の団員達を次々と無力化していった。

 少女は最初、不良やヘルメット団による襲撃でないのなら、この襲撃は自分の仲間達による襲撃でないかとも思った。しかし、そうであるのならば、攻撃前に潜入している少女に対して何か連絡の一つでもある筈。つまり、これから導きだされる結論は……この結論が出る前に少女も黒づくめの集団に意識をはぎ取られたのだった。

 

 気が付くと少女は今のこのオレンジ色の繋ぎを着させられて得体の知れない場所に連れ去られていた。少女は得体の知れない集団によって誘拐されたのだ。少女は全く想定さえしていない別の犯罪に巻き込まれたのだと理解した。

 そこが巨大な倉庫の様な場所の一角に作られた簡易的な独房であると気づいたのは誘拐されてから数日後の事だった。独房から別の場所へと移動させられる時に自分が今、何処に居るのかを見る事ができたのだ。

 少女の入れられていた独房は倉庫の様な場所の一角に組み立てられたコンテナの様な完全密閉式の独房の様で、見れば、他の独房の中には見覚えのあるヘルメット団員の顔がチラチラと見えた。この時点で少女は自分だけでなくあの時、本部に居た恐らく全員が誘拐されたであろう事に気づいた。

 そんな独房の置かれた一角を高さ数メートルのポールに張られた白い幕が四方に設置されて取り囲んでおり、独房側からの視界を完全に遮っていた。

 だが、移動の為には幕の外に出なければならない。それでようやく少女は、自分が今どの様な場所に居るのかを知った。

 そこは確かに巨大な倉庫だった。あちこちに様々な物が置かれて、荷物の間を円滑に移動為であろう、荷物が置かれていない道が規則正しく張り巡らされていた。

 だが、そこは少女の目から見て必ずしも倉庫には見えなかった。確かに倉庫ではある様に見えるが、少女のイメージする薄暗く少し薄汚い感じの倉庫とは違い、床も天井も真っ白な清潔感溢れる色と質感をしていて天井を見れば真四角の大きな照明が等間隔で規則正しく並んでいて、まるで何かの研究施設にでも入り込んだかの様な感覚を少女は覚えた。

 それだけでも、少女からすれば、かなり異様だったが、それよりも異様だったのは、その倉庫があまりにも大きすぎるという事だ。並の港湾倉庫の比では到底なかった。少女は独房から移動させられた訳だが、その時の移動手段に至っては6人乗りの電動カートである。電動カートで移動する必要がある程までにその倉庫は広かった。しかも見れば少女が乗った電動カートだけで無く、倉庫の中には他にも電動カートを含めて複数の車両が移動や作業等に使われている様だった。

 そして、忘れもしない倉庫の壁にデカデカとSCP Foundationという英語と共に描かれた何かのロゴマーク……。

 少女の目にはこの異様なこの誘拐案件は明らかに、ただの不良やヘルメット団程度の範疇で収まる事件ではない様に映った。

 

 少女はその倉庫内において独房から出る時は常に電流を流す機能が付いているという首輪を付けられた上で、常に武装した者による監視を受けた状態で過ごした。

 少女は一体全体、少女を含めてヘルメット団の団員を誘拐した、この謎の得体の知れない組織が何の目的でここまで大がかりな誘拐を働いたのか、最初の内は訳が分からなかったが、その理由はそこで過ごす内に、自ずと理解する事になった。

 少女がやらされたのは主に雑用に近い仕事だった。広大な施設内の内、指定され場所の掃除や、定期的に運び込まれてくる食料や水といった当たり障りのない物資の運び込み作業の手伝いをやらされた。大体はこれである。

 奴隷の様にこき使われる……様な事は無く、働かされる時間は決まっていて、休日も三食のしっかりとした食事も提供された。

 とはいえ、誘拐され無理やり働かされている状況に違いは無く、最初の時は暴れて逃げ出そうとする同じく誘拐されてきた者も居たが、その時は首輪の電流の威力を思い知る事になった。その為、無駄な抵抗は意味がないと少女を含めて覚り、ある程度の時間が経つ頃には誰も表立った反発はしなくなった。

 中には、この状況に慣れて簡単な雑用をするだけで三食暖かい食事が出てくる状況を喜ぶ者も出てきた。確かに中退、休学、退学等の理由で学校に居られなくなった生徒の生活は大変になる。その状況に比べれば暖かい三食の食事が提供されるというのは良いと思えるのかもしれないと少女は思った。

 だが、すぐに少女を含め誘拐された全員が今自分達が置かれている状況がどれだけ危険で恐ろしい物かを理解する事になった。

 少女達は時折、明らかに何かの実験に付き合わされた。その実験は少女達の身体をくまなく調べたり、何か得体の知れない薬を投与したり、得体の知れない装置を付けさせられたり……。そして、腕がトリニティの生徒みたいな翼の何処か寂しげな少女の世話をさせられたり、良く分からない書類や、何の変哲もない本を読まされたり……そして、フラフープを回させられたり、電柱を登らされたり……。

 少女自体は良く分からない書類を読まさせられたり、フラフープを回させられたり、電柱には登らされていないが、偶然にも別の人がやらされている光景を見る機会があった。その時の光景や、その他にも色々あった出来事を思い出すと少女の心の中は恐怖の感情しか浮かばない。

 

 そして偶然見れた資料の中の写真に写っていた、まるで標本動物みたいに明らかにバラバラにされた……。

 

「ッ……!!」

 

 あんな事がこのキヴォトスであって良い訳が無い。少女はその恐怖から逃げるべく走って走って、とにかく走る。

 何処かの路地で少女は再び一旦、身を隠すと、顔だけを建物の壁から慎重に出して周囲に追手が居ないかを確認する。

 

「はぁ……はぁ……早くこの事を誰かに伝えないとッ……!カンナ局長……連邦生徒会?いや、こんな荒唐無稽な話、信じてくれるか分からない……でもでも、とにかく絶対に動いてくれる人に言わないとッ……!早く!でも、誰に言ったら良いの……?誰か……こんな荒唐無稽な話を信じてくれて、すぐに動いてくれそうな人は………………シャーレ……そうだ!シャーレの先生なら、きっと!」

 

 少女は呼吸を整えならが、何かを必死に考えながらそう独り言を呟く。そしてふと、少女はつなぎのポケットに入れてある、ある物を取り出して、それを見た。

 

「これを誰かに絶対に届けるんだッ……!」

 

 そう決心を固める少女の手には透明な四角い樹脂製の容器に入った1枚のコンパクトデータディスクが握られていた。

 

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