SCP-████-JP 学園都市キヴォトス   作:サイト8192

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Tale_0:2/2_Nothing starts. Magnificently. No one will ever know.

「これを誰かに絶対に届けるんだッ……!」

 

 そう決心を固める少女。しかし、現実は非情なまでに残酷だった。

 決心を固めた直後、少女は強烈な衝撃を頭に受けるのを感じる。そして、そのまま意識を手放しその場に倒れ伏すのだった。

 

『ターゲット、ヘッドショット。右足から崩れ落ちる。そのまま地面に倒れる。頭部立体発光現象の消失を確認』

『回収チーム了解。こちらは予定通り到着する。これよりターゲットの回収作業に移る』

 

 夕闇に沈む街でその様な通信が行われる。その通信の声は何の抑揚も無く非常に冷静に行われていた。

 仮に神の視点を持つ者がこの場にいれば、前者の通信は廃ビルの屋上に俯せで寝そべり、アンチマテリアルライフルのスコープを覗き込む全身黒ずくめのフル装備に身を包んだ狙撃手とその横に居る観測手が、ひと時も目線を逸らさずに路地に倒れる少女を見ながら、観測手が通信を行う光景を。後者の通信は街中を進む自動車の中で、これまた同じく全身黒ずくめのフル装備に身を包んだ数人の中の一人が行っている通信だと分かるだろう。

 その様な通信が行われてから十秒も経たぬ内に、1台の自動車が少女の倒れる路地へと横付けをする。

 そうして、自動車のドアが開かれると中から乗っていた数人の者達が続々と降りてきた。その者達は一人残らず、全員が黒ずくめだ。

 黒い戦闘服、黒い戦闘靴、黒いボディアーマー、黒いタクティカルベスト、黒い手袋、黒いヘルメット、黒いフルフェイス化学防護マスク、自動小銃……本当にそんな全てが全身黒づくめの集団だ。

 逆に黒くない箇所を見つける事の方が簡単そうな程で、その冴えたる例としては各々が付けている化学防護マスクのシールドが光沢が少なめに調整された反射加工がされている点などだろう。反射加工によって、防護マスクのシールドの向こうにある筈の目元は一切見通す事ができない。

 明らかにまともな集団ではない事は明らかだった。そんな、この外見からは性別の他、キヴォトスにおいて、どのタイプに当てはまる者達なのか、つまりは人なのか動物の姿なのかロボットなのか、すらも識別困難なこの集団は、車から降りると、すぐに一部が自動車の警護の動きを見せ、残りは速やかに路地へと入り倒れる少女の元へと迅速に向かった。

 その動きは明らかに訓練されたもので、恐らくは軍事知識が一切無い素人が仮に見ても、この集団の練度が非常に高い事を理解できるであろう程だった。

 

「ターゲットを確認。間違いありません。逃走したD-████-53です。気絶しています」

 

 集団の一人が倒れている少女の側で片膝をついてしゃがむと、少女の様子を確認しつつ、集団の中で一番恐らくは立場的に偉いであろう人物に対して報告をする。

 その人物は報告をした人物に近づくとターゲットと呼ばれた少女を見る。

 

「ディスクは?」

「こちらに」

 

 明らかにこの集団の隊長格のその人物の問いにその恐らくは部下であろう人物は少し、少女の周囲を確認するとすぐに、少女が右手に後生大事そうに握っていたコンパクトデータディスクに気が付きそれを少女の手から奪って隊長格の人物に手渡した。

 部下からコンパクトデータディスクを受け取った隊長格の人物はそのディスクを左腕に着けている何かしらの端末に入れると、ほんの僅かの間、中身を確認する。

 

「……奪取されたディスクに間違いない。コピーされた形跡もない。よし、証拠になりそうな物が無いか周囲を確認。あったら証拠隠滅。全員これより撤収する。ターゲットは拘束して車に乗せて。サイトまで連れ戻す」

「分かりました」

 

 隊長格の指示を受けてすぐに部下達は指示通りの動き出す。倒れている少女の腕を背中で縛り、両足首も縛って拘束し、そのまま自動車の方へと連れ去っていく。他の部下達は周囲の様子を確認する作業を手早く行う。

 

「ふぅ……とりあえず終わった。Lisa」

『お疲れ様でした。[データ削除済み]サイト管理官』

 

 隊長格の人物は通信を始める。隊長格の人物からの呼びかけに対して通信機からは女性の声で労いの返答があった。Lisaと呼ばれた女性の声はさらに続ける。

 

『作戦は無事に完了です。今回の実験により現在のサイト施設の警備上の問題点が洗い出されました』

「それは良かったけど……本当にここまでする必要あった?上手くいったから良かったけど、こっちは冷や冷やしたよ……」

 

 隊長格の人物は疲れた様に言った。

 

『問題ありません。今回の脱走は全て私の予測通りでした。ドローンや監視カメラ、発信機による監視も徹底していましたから、対象の個体が完全な脱走を成功させる可能性は限りなく非常に低い確率に抑えられています』

「まぁ……脱走は良いにしても、機密情報を入れたデータディスクをターゲットに入手させた理由は?見たけど、一般の職員すら見れないデータも中には入ってたけど」

『対象個体の私達から逃げるという意志をより強固な物とする為です。生半可な行為では、現状の財団のDクラス職員に対する脱走防止策を前に、ここまでの脱出意欲を植え付ける事は容易ではありません』

「オブジェクトの実験に何かと立ち合わせてDクラス職員の辿った結末を見せたのもその為?」

『そうです。これにより、対象個体の捕獲以前の経歴上の使命感も合わさり脱走への決意を強固な物にさせました』

「改めてLisaが味方で頼もしいよ」

 

 隊長格の人物は考える。単独ではSCP-████-JP-A-9989には及ばないまでも、匹敵し得る性能を持っているのがLisaだ。SCP-████-JP-A-9989だけでも隊長格の人物からすれば、恐るべき性能を持っているのに、そのSCP-████-JP-A-9989を宇宙サイト-76の性能との合算は必要とはいえ凌駕して完封してみせた。この超高性能AIが敵であった場合など考えるだけでも薄ら寒かった。それに、今のLisaは宇宙サイト-76にもシステムがアップロードされ、その合算された演算能力を駆使している。

 

『当然です。私が居なければ、ここまで財団は機能を回復させてはいないでしょう』

「そうだね。それは本当に感謝してる。もし、私一人だったらどこまで出来てたか……そもそも出来てたかも怪しいし」

『それはご自分を卑下し過ぎでは?私が居なくても、あなたは財団を復興させる為に動いていたでしょう。それに、今の財団があるのは、あなたのお陰です。あなたが私の電源を復旧させなければ私はここに居ませんでしたし、今も財団を取り纏めているのは間違いなく、あなたです。[データ削除済み]サイト管理官』

「やけに褒めるね」

『私は嘘は言いません』

 

 隊長格の人物は化学防護マスクの下で、ふっと笑みを浮かべる。

 

「隊長、撤収の準備完了しました」

 

 僅かな間、通信で話していた隊長格の人物の元に部下が報告に訪れる。それを聞くと隊長格の人物は頷いた。

 

「よし、撤収!」

 

 そう言うと、隊長格の人物も他の人物達も全員が自動車に乗り込むと、すぐに自動車は発進しスピードを挙げてすっかり日の落ち切った街中を走り抜け、街の奥深くへと走り去っていく。

 つい先ほどまで配置されていた狙撃手も観測手も全てが最初からそこに居なかったかの様に、その場から姿を消した。残されたのはただの静寂。

 

 少女は揺られる自動車の中で僅かに意識を取り戻す。朦朧とする意識の中、泡沫の夢の様な感覚の中で自分を取り囲む全身黒づくめの集団を見る。ただただ無力な少女の目は、朧気な意識の中で薄暗い車内に集団を構成している各々の頭の上に光っているヘイローの姿を目にする。

 

「…………せんせ……たすけ……」

 

 誰にも聞こえない、か細い声を漏らし、それを最後に少女はそのまま再び意識を完全に失った。その少女の目には一筋の涙が流れていた。

 

 少女の願いは届かない。

 

 Nothing starts.

 Magnificently.

 No one will ever know.

 

 何も始まらない。

 壮大に。

 誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファイル:実験184-JP-010-日付202█/██/██

 

実験対象:D-████-53

 

任務:防寒装備、レスキュー・パラシュート(模擬訓練を受講済み)、音声通信装置、ボディアーマー、ヘルメット、自動小銃、グレネードランチャー、予備弾薬、携行食料を所持したD-████-53がSCP-184-JPに登り、最上段の足場ボルトに手をかける。また、職員が高所作業用のゴンドラに乗り、D-████-53のすぐ側で待機・観察する。

 

結果:[データ削除済み]後、通信が切断され、それと同時にD-████-53の生命活動が停止した。現在、以降の実験は現状の検証作業が完了するまで一時凍結されています。

 

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