SCP-████-JP 学園都市キヴォトス 作:サイト8192
⸻ああ、またこの "夢" か。
彼女はすぐにそう思った。
彼女は色んな夢を見てきた。その夢らは彼女を無気力な感情に支配させるに充分な、どれも絶望的な夢だった。
キヴォトスの空が赤く染まり、破壊と絶望が全てを覆い尽くす。そんな夢だ。だからこそ、彼女、百合園セイアは昏睡から目覚めなかった。
今までに色々な事を夢で見てきた彼女だが、そんな彼女でも、良く分からない夢があった。
その夢はそれまでの夢に比べて格段に朧気な夢だった。まるで地平線の彼方の蜃気楼の様なそんな朧気な夢。そんな夢を彼女は他のより鮮明な夢を見る合間に稀に見た。これもその夢だ。
彼女の目の前には一面が真っ白な空間が広がっている。いや、厳密に言えば無数の白い色の計器が壁にへばり付いている。まるでミレミアムかどこかの実験室みたいだ。
天井の照明がその室内を照らしている。
⸻いや、部屋ではないな。通路だ。
その通路が奥まで続いていた。彼女はそこを真っ直ぐと進む。すると、不意に窓がある事に気が付き外の様子を見る。
窓の外は一面の漆黒だった。景色は何一つとして見えない。唯一見えるのは彼女が今居るこの建物なのか何なのかの姿だけだ。
窓の外から見る限り、それは幾つもの白い円柱状の構造物が連なって形を成していた。それと太陽光発電パネルの様な物も見える。それが漆黒の空間の中にポツンと浮いている。
彼女がここがキヴォトスではなく、宇宙空間だと気づいたのはつい最近の事だ。宇宙には重力が無いと彼女は聞いた事がある。この謎の構造物はただ漆黒の空間にポツンとある。ここが宇宙空間だとしか彼女には思えなかった。
それにたまに室内でも何か物が浮いているのを目にした事もあった。
彼女は幽遊とその中を移動する。何処へ行っても彼女にとっては代わり映えのしない室内が続く。もう少し、インテリアを置いた方が良いんじゃないかとすら彼女は思う。
それでも、何も全くが変わり映えもしない景色だった訳ではない。移動をしている内に、点々とある窓の外に白と黒の飛行機の様な乗り物らしき物がこの建物とその飛行機の背で繋がっている様子を見る事ができる。
彼女がおもむろに、構造物内の通路を飛行機の方へと向かって進んで行くと、そこには飛行機と繋がっているハッチが開いている。彼女はそのハッチを越えて飛行機の中に入ると、すぐに、この飛行機の格納庫だろうか?広い空間に行き当たる。
灰色の箱だ。その格納庫らしき空間には、灰色の物置の様な大きさの箱があった。箱には重厚な扉がついている。これが何だかは分からない。彼女はしばらくその周りを周ってみる。
⸻やっぱり、中には入れなそうだ。
彼女はそう諦めると、飛行機の前方方向にあるらしい部屋に行く。やはりいつ見てもどう見ても彼女から見れば飛行機だ。座席が二つあって、操縦桿があって他にも何かの計器が沢山ついている。操縦席に彼女はぽとんと座ってみる。
座ってみるが、彼女の身長では背が足りず、前方を見通せなかった為、彼女はしばらくすると、また立ち上がる。目の前にはフロントガラス越しに変わらぬ漆黒の空間が広がる。
この乗り物が果たして何なのかは正確な所は分からないが、彼女の中の飛行機へのイメージ像にこの乗り物は近かった。
⸻ああ、そろそろかな。
彼女はそう思うと、操縦席を後にする。飛行機の中から再び構造物の中へと戻る。彼女は慣れた様子で、その建物の中を進んで行く。
もうこの夢を彼女は何度も見ている。彼女からすれば、自分の庭の様な物だ。だが、恐らく彼女が目覚めれば、ただでさえ、朧気なこの夢の様子はもっと朧気になってしまうだろう。
彼女は構造物の中にある、とある部屋を訪れる。そこには、数人の人物達が居た。
顔は見えない。全身に白い宇宙服を着こんでいるからだ。顔があるであろう場所は鏡の様に周りの景色を反射している。ただ、分かるのはこの白い宇宙服を着ている人間がキヴォトスの生徒だという事だ。
その証拠に全員の頭の上にはヘイローが光っていた。
普通なら部外者である彼女がこんな所に入れる事は出来ないだろう。追い出されるか何かされる筈だ。しかし、そんな彼女に対して宇宙服の人物達は一切顧みる事無く何かの作業を継続している。
当然だ。これはただの夢なのだから。夢の人物はこちらから干渉しなければ、彼女に気づく事は無い。もっとも、この夢では彼女はこの宇宙服の人物達に干渉する事は出来なかった。
いつもなら、やろうと思えば、会話をする事だってできる。相手が会話ができる相手ならば。しかし、この夢は余りにも朧気で、彼女の方からの干渉は出来そうになかった。
彼女は宇宙服の人物達に近づいていく。すると、宇宙服の人物達が話している会話の声が朧気ながらも聞こえてくる。
普通に考えれば、この見るからに重厚な宇宙服を着こんだ人物達の発している声を彼女が聞く事は不可能だろう。分厚いヘルメットに遮られ通信機でも使わなければ、彼女が声を聞く事等、到底できそうもない。
しかし、良くも悪くもここは夢の世界。彼女にとって都合の良い世界だ。彼女の耳がそれを捉えられない筈も無い。
近づいて見れば、宇宙服の人物達以外にも機械から通信で話していると思しき人物の声も聞こえてきていた。とはいえ、この夢と同じくその声も朧気で完全には聞き取る事はできそうにはなかった。
『こちらサイト⸻。本施設は予定通り⸻⸻の宙域への退避を完了。スペースプレーン・SCPSディスカバリーも予定通り、本施設に到着しドッキングベイと接続。既に作戦準備は完了済み。そちらは?』
『こちら連邦生徒会統括室。こちらも既に作戦準備は完了しています。エリア⸻も問題ありません。いつでも作戦を実行可能です。ですが⸻が、こちらの動きに気が付いた様です。一部のSC⸻⸻JPAの部隊が連邦生徒会本部への襲撃を行っており、現在、ヴァルキューレ生で構成される機動部隊が交戦中です』
『こちらサイト⸻。了解。重ねて確認いたしますが、エリア⸻には問題は発生していませんか?』
『こちら連邦生徒会統括室。エリア⸻は問題ありません。⸻⸻は、いつでも起動準備を完了しています。⸻側はまだエリア⸻の存在に気づいてはいない様です』
『こちらサイト⸻。了解しました。エリア⸻の存在に気づかれていないのであれば、問題ありません。引き続き、警戒及び警備活動を厳にして下さい』
『こちら連邦生徒会統括室。了解。それでは何かありましたら直ぐに連絡します。健闘を祈ります』
彼女は会話を聞き込むが、毎度の事ながら、この夢の殆どの会話内容は良く分からない。朧気であるというのあるが、一体、何の話をしているのか分からなかった。
この時点で唯一分かる事と言えば、連邦生徒会やヴァルキューレがこの宇宙服の人物達と関わっている事くらいだろうか。
『エリア⸻との通信状態良好』
『サイト管理官。いつでもいけます』
『サイト⸻の方は?』
『全職員、退避は完了済みです。私達が退避し作戦が発動されれば、いつでも封鎖処置に移行可能です』
『……そう。遂に私達の悲願が』
『管理官』
『サイト管理官』
『管理官!』
準備完了の知らせに一人の宇宙服の人物が何処か感慨深くも聞こえる声を出すと、その周りの宇宙服の人物達もそれに同調する様にその人物の役職名と思わしき言葉を挙げる。
『ここまで長かった……本当に……でも、それもようやく終わる。今日、私達の悲願は叶う……』
感慨に浸る宇宙服の人物は前へと数歩進む。その道を開ける様に他の宇宙服の人物らは少し脇に寄る。
感慨に浸る宇宙服の人物が何かの装置の前へと立つ。そしてその装置の操作をする為と思われる操作盤に手を伸ばす。
その様子を他の宇宙服の人物達がまるで固唾を呑み込んで見守る様に見つめる。
興奮、達成感、緊張。様々な感情がこの場を支配している。それは、この様子を傍から見ている彼女にも伝わってくる。
『シャンク=スクラン⸻⸻擾乱器、起動』
感慨に浸る宇宙服の人物はそう言うと、操作盤のキーボードを操作する。そして、最後にEnterキーを押した瞬間、彼女のその夢はそこで終わった。
夢の世界がプツリと消えて彼女はただの何も無い闇の空間に放り出される。宇宙服の人物達もあの構造物も飛行機もが彼女の前から居なくなる。
気づけば、彼女は夢の合間、合間に見る黒だけの空間に居る。見えるのは薄っすらと光って見える彼女自身の身体だけだ。
⸻ああ、またここで終わった。
彼女は何度目かの落胆を覚える。この夢は他の夢と違って何が起きているのか、彼女は全く理解できなかった。ざっくりと、何か大事が起こっている事だけは分かるが、それが何なのか、夢が朧気すぎて良く分からない。
いつも最後にあの宇宙服の人物が言う言葉にしたってそうだ。何を起動したのか、言葉自体もぼやけているし、辛うじて聞き取れた内容も彼女が意味を理解できる物では無かった。
彼女はこの夢を見る時、なんとか理解を前に進めようとして、必死に宇宙服の人物らの会話などに耳を傾け理解しようとしているが、やはり、何度聞いても分からない。
ただ、一つだけ確かな事がある。この一見、何の害もなさそうなこの夢も、キヴォトスの空が赤く染まり、破壊と絶望が全てを覆い尽くすあの夢と本質は何も変わらないという事だ。
この夢が他の夢とは違うのは朧気な所だ。いつも見る夢がより鮮明にこれから何が起こるかを彼女に示し、頻繁にも見れるのとは対照的にこの夢は鮮明には良く見えず、よく聞こえず、夢自体を見るのも、稀にしかない。
まるで曇りガラスに越した景色を見ているかの様に彼女には感じられた。
そして、この夢が他の夢とは違う最大の特徴が、そもそも夢自体の内容が変わる事だ。それもちょっとした内容の違いではなく大幅な違いだった。
今回は宇宙の何処かで何かをしている夢だった。
でも、前はそうではなく、その時の夢では彼女は日が落ちたキヴォトスの街中に居て、突然、街中のあらゆるモニターや道行く人々のスマホやタブレットの画面が何者かにジャックされ、白い背景をバックに何か黒いマークが映しだされたと思たら、次に映った "何か" を見た瞬間に人々が次第に正気を失っていき、1人また1人と次々と廃人と化し、キヴォトスは狂気に呑まれ、それから幾日が経った後に、静寂に包まれた街中に防護服を着た生徒の集団が何処からともなく表れて、狂気に呑まれ気づけば生命活動すら止め屍と化していた住民だった "物" をトラックで回収し、その後にキヴォトスを作り替えようとする地獄の様な光景の夢だった。
またある時は、どこかの空港で銃撃戦が起こっている夢だった。
空港が謎の生徒達の一団に占拠され、その者達とそれを阻止しようとする生徒達による銃撃戦。阻止しようとする生徒側には宇宙の夢の方では、明らかに宇宙服を着た人物達の味方をしていたヴァルキューレ生の姿も見える。
そこはトリニティやゲヘナ、ミレミアムがあるキヴォトスの中心部からは離れた場所にあるのか、彼女が一度も行った事が無い場所にある空港で、近くには、これまた彼女の知らない学校や工場が併設されていた。
恐らくは工業系と思われる学校の施設だ。ただ、彼女が知らないという事はそこまで有名な学校ではないであろう事は容易に想像ついた。もっとも夢自体が朧気である為、この夢の内容からの場所や学校の特定は不可能に近いが。
滑走路上には、あの宇宙の夢で見たのと同じ飛行機の姿があった。どうやら空港を占拠している生徒達はこの飛行機を発進させようとしている様だった。
近くにはこの飛行機が直前まで入っていたであろう工場と一体になった格納庫が扉を開いた状態で放置されている。
彼女はそこが夢なのをいい事に飛行機の近くへと寄って行くと、飛行機のすぐ側に停車したトラックとクレーン車が、飛行機の大きく開いた格納庫内に灰色の物置の様な大きさの箱を詰め込み数人の生徒が固定作業をしているのが見えた。
固定作業が終わり飛行機の格納庫が閉じられ、準備を終えると飛行機は後ろに点いたロケットブースターを点火させて、轟音と共に滑走路を離陸して空高く打ちあがっていく。
その様子を飛行場を占拠する残された一団は見守ると皆が何かしらの薬を取り出して一斉に注射を始めてその場に倒れ伏す。
一方で空港を奪還しようとしていた生徒達は打ちあがった飛行機を見て慌てて何処に連絡をしようとしている者やその場でただ飛行機を見上げている。
そんな良く分からない夢だ。
変なゲームがキヴォトスのディープなコアな層で流行っている夢を見た。
そのゲームがどういうゲームであったかは朧気で分からない。
ブラウザ上で何の変哲もない街中や建物の中の様子を監視カメラの映像を見てこれが何なのかを考察するゲームと呼ぶには些か議論を呼びそうなカルト的ゲームであった気もするし、仮想現実系のアクションホラーゲームだった様な気もする。
ただのゲームの夢ならば別に問題は無い。だが、ただのゲームの夢ではなさそうだから問題だった。
彼女は誰かが奇妙な会話をしている所を耳にした。例に漏れず、やはり、その会話も朧気であった為に意味は理解出来なかったが、これがただのゲームでない事は理解出来た。
この夢の会話の意味を彼女はやはり何一つ理解する事は出来なかったが、この夢では珍しく、しっかりとした固有名詞を聞く事ができた。
"下位創作次元" "エルマ聖印奇跡論の応用理論" "ポータルによる接続” この三つを彼女は聞いた。もちろん、意味はよく分からない。
他にも幾つもの朧気な夢を彼女は見た。
その殆どが、全く意味も分からなず、その夢ごとに内容も違う夢ばかりだった。
しかし、その殆どに共通して感じたのは、キヴォトスの空が赤く染まり、破壊と絶望が全てを覆い尽くす、あの夢と、これらの夢は本質的には何も変わらないであろうという事だ。
それは彼女の直感か、あるいはこれまで見てきた様々な夢の傾向からの分析からか。彼女はそう判断していた。
これらの朧気な夢は一体何なのだろうかと彼女はよく考えた。
色々と考えた末、彼女は一つの答えに行き着いた。それは、この夢はまだ "確定" した物ではないという事だ。
だからこそ、この夢は蜃気楼の様に朧気で幾つも様々な内容があるのだろうと。
ともすれば、彼女にとって問題はこの朧気な夢々が一体いつ頃、起こり得るのだろうかという所だ。
キヴォトスは空が赤く染まるあの夢で起こった事によって、滅びるだろう。
では、この朧気な夢々はいつ起こるのだろうか。キヴォトスの空が赤く染まるあの夢の後だろうか。
⸻いや、それはないな。
彼女はそう考える。朧気な夢々では明らかにキヴォトスは健在そうに見える。キヴォトスの空が赤く染まるあの夢の先にキヴォトスは存在しない。あるのは破壊の絶望があるだけだ。
であるならば、この朧気な夢々は、その前に起こるかもしれない別の滅びを暗示しているのだろう。
⸻ああ、この世界にはどうして、こんなにも救いようのない事ばかりが多いんだろうか。
彼女の心は無力感に包まれる。キヴォトスの空が赤く染まるあの夢だけでも、凄惨な結末であるというのに、他にも同じ様な事が幾つも起こるかもしれないのか。
運命は変えようが無い。こんな残酷な "夢" ばかりが起こるのであれば、やはり、このまま目覚めぬ方が良いだろう。
そうすれば、彼女にとっては全てはあくまで、夢の中の出来事で終わるのだから……。
「⸻⸻⸻セイアさん、大丈夫ですか?」
「ん?ああ、すまないナギサ。少しぼーっとしていた。それで何だい?」
「何だいではありませんよ。もう下校時間をとっくに過ぎていますよ」
トリニティ総合学園。その中枢であるティーパーティーの執務室に隣接されたテラス席に二人の生徒の姿があった。
周囲は既に完全に日が落ち切り、校舎内の灯りは一部を除いて殆ど灯っていない。それは執務室も同様で夜空に浮かぶ月明りだけが、二人を照らしていた。
一人は桐藤ナギサ。トリニティ総合学園を取り纏める生徒会ティーパーティーのメンバーの一人。そして、そんなナギサが声をかけたのが、同じく生徒会ティーパーティーのメンバーの一人である百合園セイアだった。
セイアはこんな日が完全に落ち切った中、テラス席に座りお茶が注がれたティーカップをテーブルに置いたまま、空をぼーっと眺めていたのだった。だが、そんなセイアに気が付きナギサが声をかけてきた事によってセイアのその時間は終わりを迎えた。
「ああ、もうそんな時間か。教えてくれて、ありがとうナギサ」
「いえ、どういたしまして。それで何かありましたか?セイアさんにしては珍しいですが」
「いや……大した事ではないよ」
「大した事でもないのに、時間を忘れて空を見ていたのですか?」
「本当に大した事じゃないよ。私がちょっと眠っていた間の事をふと思い出してね。それでつい考え込んでしまっていた様だ」
「眠っていた間の事……」
ナギサはエデン条約を巡っての騒ぎを思い出したのか少し表情を歪め表情に影を落とす。セイアはそれに気が付いたが話をややこしくするだけだと、それには触れなかった。
「私は眠っている間に色んな夢を見たんだが、中には何も起きなかった、あやふやな夢もあってね。ちょっとその夢の事を考えていたんだ」
「なるほど。ですから、こんな時間まで残ってらしたんですね」
「ああ、もしかしたら箱舟の騒動が起こるよりも前にあったかもしれない、あやふやな可能性。だから、本当に大した事じゃない。ただ、少しだけ私にとって不思議な夢だったから、ふと思い出してしまっただけだ」
「そうですか……では、一緒に帰りませんか?もうこんな時間ですし」
「そうだね。それじゃあティーセットを片付けるから少しだけ待っててもらえるかい?」
「ええ、もちろん」
セイアはナギサからの申し出を受けると、席から立ち上がって、すっかり冷め切ってしまった紅茶の入ったティーカップを持って片づけに向かう。
そうして片づけを手短に終えると、執務室でソファに座っていたナギサと合流して学校の正門まで一緒に帰宅する事になった。正門から先はお互い迎えの車に乗り込む為、お別れだ。
途中、セイアはあの朧気な夢の内容をナギサにも教えようとも考えたが、起きもせず、それでいて存在自体があやふやなあの夢の内容を語ってもナギサを不安にさせるだけだろうと、言うのを止めた。
それに、どうせ起きもしなかった夢の話だ。起きもしなかった夢など、それはただの夢の話にしか過ぎないし、話すにしても夢から目覚めた今のセイアは、夢を見ている時ですら、朧気だったあの夢の記憶がより朧気となっている為、説明するのも難しい。
二人は軽い雑談をしながら足を進める。
「今日は夜空が綺麗ですね」
「そうだね」
ナギサの言葉にセイアも空をふと見る。空には雲一つなく、綺麗な満天の星空が広がっていた。
こうして満天の星空を見ながらセイアは改めて実感する。本当に運命を変える事が出来たんだなと。先生や皆が力を合わせて、この今を勝ち取った。キヴォトスを色彩が齎すあの滅びの運命から守る事ができた。だからこそ今の平穏があるんだなと。
「そう言えば、ナギサはどうして私に気が付けたんだい?こんな時間なのに」
「そ、それは……あはは……ちょっと書類に目を通していたらこんな時間になってしまって。帰ろうとしてたら向かいの校舎の窓からセイアさんがまだ残ってるのが見えたんです」
「ふっ……それじゃあ、私と同じ様な理由じゃないか」
「ふふ。確かにそうですね」
そうして夜空の下、セイアとナギサは正門まで一緒に下校をした。
正門前で二人が来るのを待っていた黒塗りの高級送迎車の所で二人は手を軽く小さく振って別れると、お互いの家の送迎車に乗り込み二人の今日のトリニティでの一日は終わりを迎えたのだった。
もう少しだけ続きます。
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