SCP-████-JP 学園都市キヴォトス   作:サイト8192

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Tale_1:THE_PROLOGUE

 

”ふぅ……ひとまず、落ち着いたね”

 

『ええ、本当にお疲れ様です先生。今回ばかりはもうダメかと思いましたぁ……』

 

 アトラハシースの方舟をめぐる騒動が終息し、その後に防衛室長、不知火カヤが起こした騒動も終息して少しの時が経った頃。

 シャーレのオフィスにて、先生はデスクの椅子に深く座りながら、シッテムの箱のディスプレイに映るアロナと話していた。

 アロナは机に突っ伏して、ぐでーんとした様子を見せる。

 

『先生は休まないんですか?』

 

”あはは……騒動はひとまず終わったけど、書類は沢山残ってるからね”

 

『うぅ……私に出来る事があれば、遠慮なく言って下さいね!出来るだけサポートしますから!』

 

”うん、ありがとうアロナ。頼りにしてるよ”

 

『えっへん!スーパーAIのアロナちゃんに、お任せ下さい!』

 

 アロナはえっへん!と胸を張り自慢げに言う。そんな様子を先生はデスクの上に積み上げられた書類の束を前に笑顔で眺めていた。

 アロナと話す時はシッテムの箱の不可思議な機能の一つである、シッテム内のアロナの居る教室へと行く事が出来る機能を使ってアロナと直接話すか(なお、この機能を使う時、現実世界では先生は周囲からタブレットを持った状態で何もしていない様に見えているらしいが)、ディスプレイ越しに話すかの二択の選択肢があるが、今、この時に関して言えば、先生は書類仕事を早く片づけたいが為に、アロナの居る教室へは行かず、ディスプレイ越しの会話に留めていた。

 

 先生は書類作業を進めながら、頭の片隅でここ最近あった事に思いをはせる。ここ一カ月は本当に大忙しだった。カイザーによる連邦生徒会やシャーレへの攻撃に始まり、キヴォトスが滅亡の淵に立たされたアトラハシースの方舟をめぐる騒動、そして、そんな騒動がようやく終息したかと思ったら起こった防衛室長の不知火カヤがカイザーと組んで起こしたクーデター事件……。気を休める事ができる時がひと時たりとも無かった。

 だが、今はようやく、それが少し落ち着いた雰囲気を見せている。唯一の難点は書類が大量に溜まっている事位だった。

 この目の前の大量の書類の山を如何にして処理しようかと考えていると、そんなタイミングでオフィスの入り口に人影が見えたのだった。

 

「失礼します。先生」

 

”あっリンちゃん”

 

「誰がリンちゃんですか」

 

 シャーレのオフィスに姿を現したのは先生の良く知る生徒の一人、七神リン。連邦生徒会において首席行政官を務め、今は連邦生徒会長代理の任に就いている、その人だった。リンは先生のデスクの近くまで歩んでいく。

 

”それで、リンちゃんどうしたの?遊びに来た……っていう訳じゃなさそうだね”

 

 先生は近づいてくるリンの顔を見るなり、真剣な眼差しをすぐに向ける。

 

「……まだ、何も言っていませんが」

 

”困ってる様な表情をしてたからね”

 

「はぁ……先生には隠し事は出来そうにありませんね。それでは、さっそく本題に入らせて頂こうと思います。少々、気になる問題が起こったので先生にも直接お知らせした方がよろしいかと思いましたので、この度は来訪させて頂きました」

 

”問題……?”

 

 リンの口から問題が起こったと聞いて先生を少し表情を曇らせる。また、何か大きな事件でも起こったのかと思考を巡らせながらも、先生はリンの次の言葉を待った。

 

「実は先ほど、ヴァルキューレから緊急の連絡が連邦生徒会に届きました……本日未明に前連邦生徒会長代行、不知火カヤ防衛室長を移送中の護送車が正体不明の一団に襲撃され、身柄が奪われたとの事です」

 

 リンからの発言に先生は一瞬、驚いたような表情を浮かべると、同時に深刻そうな表情になった。

 

”まさか……カイザー?”

 

「そこまでは……カイザーの可能性はありますが、ただ、今の防衛室長を助けるメリットが今のカイザーにあるかと考えると疑問符が付くかもしれません。もちろん、カイザーが口封じのを企んでいる……という可能性も考えられますが……ここまでの事を今の状況で行うというのは……」

 

”カイザーじゃないとすると……”

 

「連邦生徒会内の不知火カヤ派による奪還や、先の騒動で不利益を被った何かしらの勢力による報復……など考えられます。ただ……」

 

”ただ?”

 

「カイザーではないと仮定すると、この一件、腑に落ちない点があります」

 

”腑に落ちない点……あっ、そう言えば……”

 

「どうやら先生もお気づきになられたようですね」

 

”確かカヤは……もう何日も前に矯正局に送られたんじゃ……それなのに何処に移送しようとしてたの……?”

 

 変な話だった。カヤは既に矯正局に送られ、とっくに収監されている筈なのに、それを今日になって、また何処かへと移送しようとして、その最中に襲撃を受けたと言うのだ。一体なぜ、一度収監していたにも関わらず、また移動させるような事をしたのか。非常に不可解な動きだった。

 

「ヴァルキューレからの報告によると、矯正局にヴァルキューレ本部から収監施設を変更する様に指示が出されていたそうです。しかし……」

 

”その口振りからすると……そんな指示出されていなかったんだね……?”

 

「はい、その通りです。連邦生徒会でも調べてみた所、その指示は電子書類上で行われていた様なのですが、その様な指示を出した人物は誰も確認出来ず……連邦生徒会とヴァルキューレはこの指示はハッキングによって矯正局に出された物だと結論付けました。ですが、ヴァルキューレのサイバーセキュリティ能力は決して簡単に突破出来る様な物ではありません。ミレミアムを除けば、セキュリティを突破して行政文書まで偽造するには、それ相応の力が必要でしょう。そのいずれも、カイザーを除いた他の勢力にあるとは思えない……」

 

”連邦生徒会内のカヤの派閥は?”

 

「現在、防衛室長派の派閥は収監されたのを受けて事実上、空中分解の状態です。殆どが派閥から離脱しています。表立った支持をしている支持者はほぼ消滅状態と言って良いでしょう。この様な状態では連邦生徒会の持つ権限や組織を使ってでの行政文書の偽装はハードルが高すぎると言わざるを得ません。それに加えてその後の襲撃です。ですので、今回の犯行を行える勢力を絞っていくとカイザー位しか思い当たる様な勢力は他には無いのですが……」

 

”……そのカイザーも今、世間の目線が強い中でこんな事件を起こすとも思えない……って事だね?”

 

「はい。その通りです」

 

”襲撃があった時の映像とかはあるかな?”

 

「どうぞこちらです」

 

 先生も考え込みながら状況確認の話を前に進める。リンは先生のその問いに頷くと、自身が持つタブレット端末を先生に手渡した。

 タブレットの画面には一つの動画ファイルがタッチ一つでいつでも再生が出来る状態で準備がしてある。先生は動画ファイルをタッチし再生する。

 

 映像はどうやら、ビルに設置されていた防犯カメラの映像の様で、大通りの様子が見て取れる物だった。未明の出来事とは聞いていたが、暗覗モードで撮影されているのか、映像が白黒で構成されている事を除けば、割としっかりと映っている印象だった。だが、そもそものカメラの性能が低いのか、そこまで高画質な映像ではない。

 再生してすぐに、大通りにヴァルキューレの護送車、三台が通りかかる姿が見て取れた。恐らくは三台内、一台にカヤが乗っており、もう二台はその警護目的の車両だろうと先生は予想する。

 三台の護送車は、そのまま大通りを進むかと思いきや、それは唐突に起こる。

 

 前方を走行していた護送車が突如として爆発して横転。それを受けて後列の二台は緊急停止するが、続けざまに最後方の護送車も爆発。

 だが、今回の爆発はその原因が分かる。防犯カメラの設置されている向きからロケット弾と見られる弾頭が何処からか護送車へと向けて放たれているのが見て取れた。

 恐らく、最初の爆発もこれと同じで、カメラのある方向とは反対側からロケット弾が撃ち込まれたのだろうと推測できる。

 そして残された護送車も操縦席の窓ガラスが突如、砕ける。護送車の窓ガラスは防弾仕様の筈だが、恐らくは、防弾ガラスでも防げない様な強力な銃撃でも受けたのであろう事は容易に想像が付いた。そして、その続けざまに何処からか、数人の黒い人影が表れる。

 その姿は映像の解像度が低くて良く分からないが、その動きは非常に訓練された物であろう事は容易に推察できた。数人は護送車の後部ドアを破壊するとすぐに中から、カヤらしき人物を連れ出す。いや、連れ出すと言うよりかは、先生の目にはまるで誘拐されている様に見えた。何故ならば、まるで荷物の様に乱雑に背負われているからだ。カヤの様子はというと、何かされたのか、酷い体勢だと言うのに身を動かしもしない。

 カヤを連れ出した数人の人影はそのまま、画面外へと撤収していく。この間僅か、三十秒足らずという早業だった。そして映像はそこで終了する。

 

”なんというか……手際が良いね”

 

「はい。明らかに特殊な訓練を受けている者達ではないかと思います。ヴァルキューレ側は一切抵抗する余地なく護送対象を強奪されています」

 

 先生は一旦考え込む。確かに、この様子を見るに、かなり用意周到で訓練された動きをしている。攻撃のタイミングから言って、護送車がここを通る事も全て想定して動いている様に見える。反撃を許さず、かつ速攻で方をつけている。言葉にすると簡単だが、誰にでも出来る事ではない。

 これに加えて行政文書の改竄も合わされば、それは確かにリンの様な見立てが立つのも当然であった。

 

”うーん……もっと詳しい映像が見たいな。ここは街の大通りだから他の視点の防犯カメラもあるよね?”

 

 先生は扱く真っ当な事を言う。現場は大通り。それも、れっきとした市街地のど真ん中だ。それならば、他の防犯カメラの映像も当然あるだろう。今見ているのが不鮮明な映像なら、綺麗な映像が映っている方の動画を見れば良い。これだけの規模の襲撃だ。撮られていないとは考えにくい。

 しかし、それに対してリンは困ったような表情を浮かべる。

 

「先生……申し訳ありませんが、事件の様子を撮影できた防犯カメラはこれだけになります……」

 

”え……?でも、ここ街中だよね?それなのに映像が無いなんて……”

 

「実は……」

 

 リンは意を決した様に口を開く。

 

「この地域一帯の防犯カメラの映像が何者かによりハッキング攻撃を受け、映像が平時を撮影した物に全て差し替えられていました」

 

”それは……”

 

 リンは先生に渡していたタブレットを手に取ると少し操作し再び、先生に渡す。そこには事件現場となった地区の地図が写し出されていたが、そこを見れば、その地区全体が赤色に点滅し、全ての防犯カメラに問題が生じた事が示されていた。

 先生の表情の深刻さの度合いがより強まる。

 

「連邦生徒会のセントラルネットワークやこの地区のある自治区にネットワーク接続されている防犯カメラの映像は全てハッキングにより全滅です」

 

”じゃあ、この映像は……?”

 

「この防犯カメラの映像は、この建物に入っているお店の店主が最近、店にいたずらをしかけてくる人が居る為に犯人を特定しようと、自分で設置した個人設置の監視カメラです。ネットワークに接続されていなかった為にハッキングの影響を受けなかったと思われます」

 

”これは……ここまでの事を起こすとなると……これをやった犯人は結構、大きな組織だね……”

 

 先生は考える。ヴァルキューレへの偽造電子公文書の発行、反撃すらさせない用意周到な攻撃、そして地区規模にも及ぶ防犯カメラへのハッキング……状況はどうやら最初に聞いた時の印象をよりも遥かに深刻な様だった。

 

「はい。現在、この事件への対策を進める為に、ヴァルキューレと協力して捜査を進める準備をしています。連邦生徒会としても、カイザーによるクーデターの一件などもありましたから、事態を深刻に受け止め、捜査に全面的に協力する予定です」

 

”わかった。それじゃあ、私の方でも動いてみるよ”

 

「ありがとうございます。すいません……先生にはご迷惑ばかりをお掛けして……」

 

”大丈夫。リンちゃんのせいじゃないよ”

 

 落ち込んだ様子を見せたリンに先生はフォローを入れる。リンとしてはカイザーやカヤによるクーデターの一件でただでさえ、落ち込んでいただけに、再び起きた、きな臭い事件を防げなかった事に、思う所がある様だった。

 

「ですが、一応お聞きしますが、よろしいのですか?その、先生もお忙しいと思うのですが……」

 

 リンは先生のデスクの上に詰みあがる書類の山を見てそう言った。

 

”あはは……確かに今は結構、片づけなきゃいけない書類仕事は多いけど……カヤもあんな事件を起こしたとはいえ、私の大切な生徒だからね。それが今、危ないかもしれないなら、助ける為に頑張るよ”

 

「やはり先生は先生ですね。分かりました。先生がシャーレに居ない間の書類仕事に関しては私に任せて下さい。連邦生徒会の方でもお手伝いします」

 

”え……でも、リンも連邦生徒会の皆も今は忙しいし……”

 

「遠慮なさらないで下さい。それに、今回の一件はかなり大きな組織が起こしている可能性があります。これが、また先のクーデターの様な件に発展しないとも限りませんので」

 

”……ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて、そうさせてもらうね”

 

 先生はリンの提案に乗る事にする。確かにカヤの捜索もしつつ、今目の前にある膨大な書類の山を処理するのはかなり骨が折れる。生徒に自分の仕事を手伝わさせると言うのは、どうにも気乗りがしないが、ここはその厚意に乗らせてもらう事にした。

 

 そうと決まると、先生はすぐに動き出した。リンに書類仕事の今の状況を伝えると、シッテムの箱と幾つかの私物を持って早速、シャーレのオフィスを後にする。

 リンは事件現場にてカンナと落ち合える様に連絡をしてくれた。先生は事件現場へと向かい、そして、到着すると早速、カンナやカンナと一緒に現場にいたキリノやフブキといったヴァルキューレの面々と合流した。

 現場はヴァルキューレの生徒によって厳重な規制線が引かれており、物々しい雰囲気の中、多くのヴァルキューレ生が現場検証を行っている最中であった。

 

 そんな最中、先生はカンナに現在分かっている範囲内で事件の詳しい情報を共有。

 その結果、護送車の襲撃に際しては、道路の数カ所に使い捨てと見られる遠隔操作式に改造されたRPG-7が設置してあり、襲撃を企てた犯人はこれを使って、護送車の車列を止めた事が明らかになった。これによってこの事件の計画性がより強まった。つまりは、犯人グループは護送車がここを通る事まで事前に知っていたのだ。

 そして、カヤを乗せていた護送車の方であるが、やはり、映像で見た通り、運転席のフロントガラスやサイドガラスが粉々に砕けていた。さらにそれだけではなく、車体も多数の痛々しい銃痕が残っており、カンナによれば、護送車の防弾ガラスでも防ぐ事が出来ない14.5mm口径の機関銃、それも、恐らくはガトリング銃による攻撃で運転席に乗っていたヴァルキューレ生は瞬時に気を失わせられたらしかった。

 また、この弾痕の角度などから、ガトリング銃の発射地点も割り出されており、恐らくは、近くにあるビルの二階から撃たれた事が分かっており、このガトリング銃の設置予想地点からも、護送車がここを通る事を犯人グループが予測していたであろうことは、より強い確信が得られる物だった。

 あまりにも徹底的な計画的犯行。それがヴァルキューレと先生の共通認識だった。

 

 その後、先生はカヤの行方を追う為、近隣の聞き込みや、怪しい勢力の調査、アロナに手伝ってもらって移動の形跡を調べてもらったりして調査を進めた。

 しかし、結果は全滅……。唯一得られた情報は聞き込みによって得られた逃走していく犯人グループを建物の中から見かけたという地元の住民による証言で、それによれば、暗くて服装などはよく見えなかったが、顔にはガスマスクの様なマスクを着けてて、頭にはヘイローが見えたという一つの証言のみだった。

 これによって少なくとも実行犯は何処かの生徒である事は確定した。ガスマスクと聞くとアリウスの生徒が真っ先に先生の頭の中に浮かぶが、それはすぐに、ありえないと、その考えは切り捨てた。

 今のアリウスの子たちは、こんな悪さをする様な子たちではないと自分が良く分かっているからだ。一応、後日に先生はサオリ達に会って、この事を伝え、アリウスが関与していない事の証言を得た。

 

 となると怪しいは、やはりカイザーという事になってしまうが、そのカイザーも結局の所、完全にこの件に関しては白である事が分かった。端的に言えば今のカイザーには、やはり、こんな事件を起こす余裕は何一つ無いからだ。

 カイザーが白であると言う事はリンの予想通りだったと言えるが、しかし、一番怪しいカイザーすらも、否定された事で調査は暗礁に乗り上げてしまった。

 リンが連邦生徒会の元カヤ派だったり今でも隠れてカヤを支持していると思われる生徒達に探りを入れたらしいが、そちらもこの件に関しては関与している形跡が何一つ見られなかった。

 それ所か、カヤを今でも支持していると見られる生徒達はこの事件にかなり動揺していた様だったという。

 

 先生はミレミアムにも赴き、相手がヴァルキューレや防犯カメラをハッキングしたという観点から、ハッキングに詳しいヴェリタスの面々やコユキにも声をかけて協力を募った。

 ヴェリタスの面々とコユキは先生からの要請に快く応じてくれた。そしてヴェリタスとコユキが解析を行ってくれたが、それでも得られた情報はかなり限定的だった。

 ヒマリ曰く、非常に高度なハッキングとの事で、ハッキングされた形跡は僅かに残っている物の、どこからハッキングを仕掛けてきたかなどに関しては一切分からなかったという。

 先生が印象に残ったのは、ヴェリタスの面々やコユキがハッキングの技術に純粋に強い関心を抱いていた事だ。皆は、ここまでのハッキングが出来る人材が、ミレミアム以外にも居るのかと、かなり驚いていた様子だった。

 つまり、相手のハッキング能力はヴェリタスやコユキが感心するレベルで高度なハッキングだったのだ。

 それだけのサイバー戦能力持った相手が自らを特定できる様な痕跡など残している訳が無かった。一応、ヴェリタスは先生に協力を約束してくれて、何か分かったら先生にも伝えると約束してくれた。

 

 事件の発生から幾日もの日付が経った。結論から言えば、先生も含めて連邦生徒会、ヴァルキューレ、ミレミアムも協力したこの事件の捜査だったが、結局、カヤの行方を見つけ出す事は出来なかった。

 

 まるで霧に包まれたかの様に……不知火カヤの足取りは完全に途絶えた。

 

 それからは大変だった。ただでさえ、連邦生徒会は、連邦生徒会長の失踪と、その後の混乱、クーデターと世間からの評価を大きく落としていた為に、クーデターを起こしたカヤを何者かに誘拐されるという今回の事件は、ヴァルキューレと連邦生徒会の三度起こった失態であると世間は見た。

 

 クロノスを始めとして、複数の報道機関は事件を防げなかったヴァルキューレと連邦生徒会の責任を追求する声で溢れ、世間もそれに同調し様々な説が囁かれた。

 曰くカヤが再び権力を奪取する為に行った脱出劇であったり、曰くカヤに恨みを持つ不良が行った襲撃などなど……。事件の一連の状況から、現状あり得る説から、あり得ない説まで様々の説が溢れた。

 先生は事件の経緯を知っている為に、この事件を防げなかった事は無理もない事だと思っていたが、世間の声を止める事等、出来る訳も無かった。

 事件を防げなかったヴァルキューレと連邦生徒会はこの対応に追われる事となった。

 

 そして現在。事件の捜査は今でも完全に暗礁に乗り上げてしまっていた。カヤの行方は未だ分からず、犯人の手掛かりすらない。あれから、襲撃を行った犯人が関与したと見られる事件も報告されてはいなかった。

 しかし、世間という物は流動的な物である。余りにも手がかりも何も無い状況に日夜、様々な事件には事欠かない、ここキヴォトスにおいては、世間のこの事件への関心は他の話題へと直ぐに移ってしまい、余り騒がれなくはなった。その点では、ヴァルキューレと連邦生徒会がこの件について忙殺される様な事にはならず、良かったとはいえるが、先生の気持ちは穏やかでは全くなかった。

 

”カヤ……”

 

 悪い事をしたし、反省もするべきな生徒だったが、彼女も先生にとっては大切な生徒の一人なのには変わりは無かった。

 あの事件がカヤを助け出す為に起こされた事件ならば、カヤの身に危険が及ぶ様な事は無いかもしれないが、先生が一番、懸念しているのはそうでなかった場合だ。

 誰かがカヤの身に危険を与えようとしている可能性……これが先生の考える最も懸念する点だった。

 

 ヴァルキューレも連邦生徒会も引き続き、この事件の捜査を続けているが、ここは日夜、様々な事件が起こる学園都市キヴォトス。政情もまだ不安定だ。

 事件発生当初こそは大勢の人員を投入して事件の捜査を行っていたが、何も状況が進展しない状況が続いて行くと、次第にカヤの件を担当していた人材は他の案件に回さざるを得なくなり、捜査の規模は今では大幅に縮小してしまった。

 それは先生も同じで、対処するべき他の案件が次々と入ってくる為、カヤの事件に集中する事が出来なくなった。

 とはいえ、先生は今でも空いた時間を見つければ、カヤの行方について何か手がかりは無いか調査を継続していた。

 

”はぁ……今日も手がかりは無し……か”

 

 先生は夜の街を練り歩きながら、ため息交じりにそう呟く。内心は心配でいっぱいだ。何か酷い事をされてはいないだろうか。そもそも生きているのかなんていう最悪の想像さえ思い浮かぶ。

 

『うぅ……スーパーAIなのに、こんなにも何も手がかりで出てこないなんて……すいません先生……お役にたてなくて……』

 

 アロナは落ち込んだ様子を見せる。アロナは最も間近で先生が如何にカヤを心配して調査を行っているか知っている為、役に立てない事に心苦しさを感じている様だった。

 先生はそんなアロナが映るシッテムの箱に向かって、アロナを安心させる様に笑みを浮かべる。

 

”そんな事ないよアロナ。アロナは充分に活躍してくれてるよ”

 

『……本当ですか?』

 

”本当だよ。アロナが居なかったら今頃、もっと何も分からなかっただろうからね”

 

『ううぅ……ありがとうございます……よーし!落ち込んでる場合じゃありませんね!スーパーAIアロナちゃん!元気出してもっと頑張ります!』

 

”その意気だよアロナ。でも、余り無理はしないでね?”

 

 アロナは元気を取り戻した様だ。そんなアロナの様子を見て先生は安心する。

 

”今日はそろそろ戻ろうか”

 

『そうですね!もう、遅くなりますし』

 

 アロナとそう話をすると先生はシャーレへと向けて今日は帰る事にする。今日も手掛かりはゼロだった。先生は帰りの帰路の中で無力感に苛まれる。

 先生はここキヴォトスに来て様々な事件を経験したが、ここまで何も事態が進退しない事はこれまでになかった。ここまでくると本当にカヤを見つけ出す事が出来るのだろうかとさえ、マイナスな思考も出てきてしまうが、そんな思考を先生は直ぐに頭から振り払う。

 困っているかもしれない生徒を見捨てる事はできない。自分はとにかくカヤの居所を見つけ出して、助けだす必要があるのなら、大人として何としても助けなければならない。

 再度、その様に硬い決心を固めると先生は夜の街からシャーレへと向けて帰って行ったのだった。

 

 ⸻⸻。

 

「クックック……あの先生がここまで動いているにも関わらず、ここまで尻尾も出さずに隠れ通す事ができているとは……」

 

 先生の帰り姿を何処ともいえぬ空間の中から一人の黒いスーツ姿の人物が観測していた。黒服と名乗るその人物は、興味深そうに先生の帰り姿を見つめながら、デスクの椅子に座っている。

 

「流石は財団というべきでしょうか。異常を世界から隠し通した経験があるからこそ出来る術……この点、私達も彼女達を見習うべきかもしれませんね……しかし」

 

 黒服は顔の前で手を組む。その様子は何処か楽しそうにも見えた。

 

「……今回は流石に派手にやり過ぎましたね。今は隠し通せている様ですが、あの先生が動いている以上、ヴェールが捲られるのも時間の問題かもしれません。それとも財団であれば隠し通す事ができるかもしれませんが。ですが、それも遅いか早いかの違いでしかないでしょう。ここで先生に彼女らの情報を渡せば私の株も上がりそうですが……それは彼女達との約束に反するので止めておきましょう。彼女達との協力は利点も多いですからね」

 

 黒服はデスクの椅子から立ち上がると、手を後ろで組み、背後の闇へと向かって歩き出す。

 

「彼女達がこのままこの舞台に立ち続ける事ができるのか。私はそれを観測するとさせて頂きましょうか。財団のお手並みを拝見させて頂くとしましょう……クックック」

 

 そう言うと黒服は闇へと消えていったのだった。

 

 THE_PROLOGUE_END.

 序章の終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 TIME_MOVES_ON.

 STORIES_MOVE_FORWARD._MAKE_PROGRESS.

 

 時間は進む。

 物語は進む。進んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 EVEN_IF_THAT_MEANS_WHATEVER_ANSWERS_AWAIT_US.

 TIME_MOVES_FORWARD_EQUALLY_FOR_ALL.

 

 それが例えどんな答えが待っているとしても。

 時間は何者にも平等に進むだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捲られたヴェール編

捲られたヴェール編

捲られたヴェール編

Secure Contain Protect

 

 

 

 

 







⸻⸻⸻⸻⸻⸻。
⸻⸻⸻⸻。
⸻⸻。










 STORYTELLER MESSAGE

THE END.


これで本作の本編は全て終了となります。
この後は、数話程度のサイドストーリーや全話を通した答え合わせ的な解説回を投稿する予定です。本作を応援して下さっている読者の皆様方には本当に感謝しかありません。ここまで投稿できたのは偏に様のおかげです!

本作にお気に入り登録、高評価、感想をして下さっている方々、本当にありがとうございます!全部、しっかりと見させて頂いております!前にも書きましたが皆さまのおかげで作者は貴重な制作意欲エネルギーが得られて、とても励まされています!

なんだか、今後が気になる所で終わってしまっていますが、今後の展開については皆さまのご想像にお任せします。果たして今後、この世界では何が起こるのでしょうか……。

ちなみに打ち切りではなく、元々ここまでの予定だったので、予定通りの終わり方となっています。

なお、本作の各種設定につきましては、もしご希望者が居る場合、ご自由に焼くなり煮るなり好きにブルアカとかSCPの二次創作活動に使用して下さって構いません!ご自由に設定改変も可です!いや、むしろ誰か今後どうなるのか教えて(他力本願)

そうでなくとも、ブルアカとSCPのクロス作品が読みたいので、これを読んでブルアカとSCPのクロス作品を少しでも書きたくなった人がいたら、ぜひとも書いてほしいです(懇願)



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