SCP-████-JP 学園都市キヴォトス   作:サイト8192

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Tale_IF:塗り替えられた世界_3/5

 

 正直、カヤ⸻彼女が自己紹介を改めてしてくれた事を彼は内心強く感謝した。この口ぶりだと恐らく彼に対して彼女は既に昨日の時点で何処かで挨拶を交わしたのだろう。自分が予想以上に動転していた事に改めて気が付いた。

 この調子ではもしかしたら昨日、もっと色々重要な話を聞かされていたかも知れず、それを聞き逃してしまっているのではないかと彼は危機感を覚える。

 

「このコーヒー……とても美味しいですね」

「ええ、そうでしょう。私がブレンドした自信作ですよ」

「それは貴重な物をありがとうございます」

 

 ソファーに互いに腰を掛け、出されたコーヒーに口を付けると、芳醇な非常に美味なコーヒーの香りが口中に一杯に広がった。彼は素直にこれまで彼が飲んできたコーヒーの中でも上位に入る味だと絶賛する。

 彼は談笑を続けながら、彼女を観察した。この未来都市に来てから、よく見る日本のカートゥーンのキャラクターの様な奇妙な生命体の一個体だ。髪はピンク色で、後ろ髪を後頭部で編んで、まとめた髪型で、胸の辺りまで伸びる左右の長いもみあげ(と呼んで良いのだろうか?)が特徴的だ。目の色は薄く閉じられていて良く分からない。頭の後ろには、宗教画の光輪の様な物が浮かんでいる。

 そんな彼女としばらく、コーヒーの雑談でその場は花が咲いたが、そろそろ、仕事の話をしなければならなかった。

 

「さて、それでは本題に移りましょうか。ロイド・マークソン大佐」

「そうですね」

「あなたは私達について何処まで知っていますか?」

「私が知っている事はさほど多くはありません。端的に述べるなら、あなた達が人間ではない事。あなた達はSCP財団と呼ばれる組織であり、長年地球を宇宙から見守り、現在の地球の科学力を凌駕する非常に高度な水準を有している事。そして我が国と協力関係にある事位です」

 

 仕事の話が本格的に始まる。彼はこの執務室に入った時から一切の油断をしていないが、仕事の話が本格始動し始めた事でより気を張り詰めさせる。

 

「ふむ……昨日は私達の姿を見て驚いていらっしゃいましたから、私達の姿を直接見るのも初めてでしたか?」

「はい。あなた達だけでなくロボット達もこの任務が始まってから月面で初めて見ました」

「なるほど。例年通り、情報は殆ど与えられていないと考えて良いですね。前任者からは何か聞いていますか?」

「前任者について私は知らされていないので、その辺は私には分かりかねます。あの、私からも一つ聞いても、よろしいでしょうか?」

「はい。どうぞ何でも聞いてください。もちろん質問内容によっては答えられない内容もありますが」

「ありがとうございます。まず、初めに、この都市は一体何なのですか?私は昨日、宇宙ステーションの中に入り、奇妙なコンクリートの立方体のハッチを越えて、この都市にやってきました。明らかにここは、あの立方体の空間に入りきらない広大な空間ですよね?一体、どうなっているのか、混乱してしまって……それとSCP財団とは何なのですか?あなた方は一体……」

 

 その疑問は彼がずっと抱いていた物だった。この未来都市は一体どうゆう理屈で成り立っているのか。SCP財団とは何なのか。彼女達やロボットの正体は。それら以外にも様々な疑問はあるが、とりあえず、一番の疑問点はそれらだった。

 しかし、口にしてから彼は、やってしまったと後悔する。一つと言いながら質問をこんなに相手に連続で口にするなど、余りよろしくない行為だ。

 この執務室にやって来て完全に仕事モードに入り切れていたと彼は思っていたが、どうやら、仕事モードを一時的に上回って矢継ぎ早に質問を連発してしまう程、存外、彼はこの状況にまだ困惑している様だった。

 

「えっと……ここについての質問は昨日既に教えたと思うのですが……」

 

 カヤの言葉に、彼はより、しまった!という感情が強くなる。どうやら昨日、自分が動転していた時にこの場所に関する説明はされていた様だった。彼の懸念は早々にも的中してしまった。

 彼は昨日の自分がそれだけ、動転していた事をさらに理解すると同時に、二度も同じ説明を求める形になってしまった事に外交上どころかコミュニケーション的に悪印象を持たれかねないと自身の失態を恥じる。

 だが、そんな彼の内心とは裏腹にカヤは特に気にしていない素振りを見せていた。

 

「まぁ、昨日は混乱していたでしょうから仕方ないですね。ああ、気にしないで良いですよ?ここへ来て、あなたの様に混乱する担当官は過去に何人も居ましたからね」

「そう……なんですか?」

「ええ、あなたの様にハッチを越えた段階で自身の見ている光景に驚いて混乱する方もいらっしゃれば、外の宇宙ステーションを見て驚愕の余り混乱する方もいらっしゃいます。ですので余り気にされなくても結構ですよ。慣れていますので。私からすれば三年に一度の見慣れた光景みたいなものですから」

「感謝します」

 

 カヤにとっては彼の醜態は本当に見慣れた光景の様だ。彼は自分が初めての失敗者でない事に喜ぶと同時に、カヤが寛大な反応を示している事に感謝した。

 

「えっと、そうですね、まずは施設について説明させて頂きましょうか。最後の二つの質問に関しては、もともと説明する予定だったので、最初の質問に答えてからに致しましょう」

「よろしくお願いします」

「この都市は私達、SCP財団の事実上の本部施設です。サイト-8192と私達は呼んでいます。ここは、あなたが見た宇宙ステーションである宇宙サイト-76の中に存在しています」

「それでは、この巨大都市はあの宇宙ステーションの中にあるという訳ですか」

「その認識は正しいとも言えますし、間違っているとも言えますね」

「それはどういう……」

「あなたが見たコンクリートの立方体。その中にサイト-8192は存在しているのですよ」

「あのコンクリートの立方体の中に……?それはどういう……あっテレポーテーション用のポータルとかそういった意味でしょうか?確かにあなた方の科学力であれば、そういった技術があっても、おかしくはないと思いますが……」

「いえ、文字通り、コンクリートの立方体の中にこのサイト-8192は存在しています」

 

 彼は意味が分からなかった。彼は昨日見たコンクリートの立方体を思い出す。あのコンクリートの立方体の大きさは、小さなガレージ程の大きさしか無かった。どんなに見積もっても、この巨大都市を収納できるだけの面積は無いはずだ。

 目の前の彼女は彼を謀っているのではないかと一瞬疑ったが、しかし、見れば彼女は断じてその様な素振りは見せておらず、至って真剣に話している。

 

「こちらの資料を」

 

 そう言うと彼女は自身の前に置いていたファイルから一枚の書類を彼に手渡す。

 

「これは?」

「コンクリートの立方体に関する資料です。そこに書いてある通りです。あのコンクリートの立方体の中には外見上の面積に釣り合わない広大な面積の異常空間が存在しています。私達はその異常空間内を採掘し、この都市を築き上げたのです」

 

 彼女が手渡した資料は、幾つかの点が黒塗りにされた物だった。そこにはコンクリートの立方体が持つ "異常性" についての説明が事細かに詳細に書かれていた。

 ここまで説明されれば、彼はそれを信じる他無かった。続いて彼女はさらにファイルから数枚の資料を彼に手渡す。非常に手際のよい説明だ。恐らく、過去にも彼の様に混乱した担当官が居たという話であった為、経験から既に対策してあったのだろうと予測する。

 

「現在、私達、財団は太陽系内に幾つかの施設を運用しています。代表的なのは、あなた方の知っている12基の地球観測衛星、それと月面エリア-32、そして宇宙サイト-76とその中の異常空間内に存在するサイト-8192です。

 地球観測衛星は地球圏の様々な環境データを収集する目的として。月面エリア-32は地球観測衛星の運用と、月面での資源採掘及び物資の生産、それに研究。宇宙サイト-76は主にハブステーションとしての機能を。サイト-8192は本部施設としての主な機能していますね」

「なるほど……つまり、あの宇宙ステーションとこの場所は、全く別の施設……という認識で構いませんね?」

「ええ、その様な認識で構いません」

 

 回答内容や渡された資料の内容を見るに、説明に矛盾は感じられなかった。彼の常識的に照らしても、その運用用途はスケールは彼の常識を覆す程には大きいが、それでも矛盾は感じられない内容だった。

 地球観測衛星が如何なる目的で設置されているのかは不明だが、月面エリア-32がそれらを管理、恐らくは機能を保全、また、そこで財団が必要な物資等も生産を行い、その物資によって宇宙サイト-76やサイト-8192は運用できているのだろうと彼は解釈した。

 

「では、施設の簡単な説明をした所で、本日の本題に移らせて頂きましょう。最後の二つの質問はそこに被っているので、答えられると思います」

「お願いします」

「私達、SCP財団は本来、人間によって運用されていました」

「……それは地球人類……という意味ですか?」

「そうです。私達、財団は地球において超国家的組織として存在しており、その存在を一般社会が知る事は無い秘密組織でしたが、全世界を股に掛けて存在していました。

 私達、財団は確保、保護、収容を理念に掲げて、世間一般から異常な物品、存在、現象を封じ抑え込むことを任務としていました。

 分かりやすい例えで言うなら、映画のメンインブラックみないな組織ですね。もっとも、あれは宇宙人を対象とした物で、財団の場合は宇宙人もそうでしたが、それ以外にも様々な物を対象にしていました」

 

 余りにも非現実的なオカルト染みた話に理解が追い付かずにいると、彼女から彼の元にファイルが手渡される。

 

「その資料には私達の先人がどの様な物を扱ってきたのかが克明に書かれていますので、それを読んで頂ければ、話の外郭は分かると思います。お望みであれば、映像資料も用意しています」

「では……それもお願いします」

 

 俄には信じられない為、彼が書類資料だけでなく映像資料も要求すると、彼女はそれを言葉で返事をする間もなく、タブレットを取り出し彼に手渡した。タブレットの画面には多数の映像記録ファイルの一覧が表示されていた。

 

 彼女はそれらの資料や映像資料を基にSCPオブジェクトと呼ばれる異常な物品、存在、現象に関して具体例を出しながら彼に分かりやすく説明を行った。

 彼は説明を聞いて、また時には映像を見ながら、それをまるで怪奇小説の様な内容に強く感じた。もしも、彼がSCP財団、月面エリア-32、宇宙サイト-76、サイト-8192、そしてロボット達や彼女らの存在を一切知らずに、書類資料だけを見せられていたら、とてもではないが、資料中の物が実在するとは俄には信じられず、鼻で笑っていた事だろう。

 しかし、既に彼はSCP財団、月面エリア-32、宇宙サイト-76、サイト-8192、ロボット達、彼女らといった非日常の沼に完全に漬かり切ってしまっている。資料の内容を信じる土台は充分に出来上がっていた。

 それを抜きにしても資料映像が明らかに合成などの作り物の映像ではなかった事も提示された資料の信憑性を高めていた。

 映像資料の中には不可思議な現象を引き起こした際を撮影した様子の他、彼女曰く、Dクラス職員という死刑囚などの重犯罪者を使い不可思議な現象に巻き込ませて行う人体実験の様子が克明に映像に残されていた。

 また、映像には彼女が先ほど "私達、SCP財団は本来、人間によって運用されていました" と言っていた事を示す様に時折、人間の科学者らしき姿を何度も見る事ができた。

 そして、映像の中にはやはり、実験を行ったのが彼女らである事を示すSCP財団のマークがたまに映っていた。それはDクラス職員と呼ばれる人体実験の被験者が着ているオレンジ色の囚人服の様な作業服にだったり、映像によっては、たまに登場する武装した財団の職員の装備の何処かしらにだったりと様々だった。

 

 彼は軍の仕事を長く続けている為、映像の真偽を調べる事に関してそれなりの自信があった。彼はネリス試験訓練場に配属されて以降、目の前の映像が本物の映像なのか真偽を見極める為の訓練を受けている。だからこその自信だった。

 彼の目には目の前の映像資料の内容がその全てにおいて合成された物には一切見えなかった。もちろん、財団は地球よりも科学技術が明らかに進んでいる自身の目を誤魔化す程の高度な合成技術がある可能性もあったが、彼は直感的にこれは嘘偽りない事実なのだと感じていた。

 

 しばらく、彼は彼女の説明を受けながら、最終的に彼女の語るSCP財団とは、どんな組織であるのか。また、SCPオブジェクトという常識を越えた非常識的な存在が実在するという事を事実であると判断した。

 彼の中で目の前の彼女、引いてはSCP財団に対する信憑性が上昇する。

 

「なるほど……大体分かりました。俄には信じがたい話ですが……事実なのですね?」

「ええ、ご理解していただいた様で嬉しいです。説明した甲斐がありましたね」

「ですが、余計分からなくもなりました。今までの説明を聞けば、あなた方は地球で国家の枠組みを越えて活動していた "人間" の組織だったのですよね?

 ですが、私は人間と同じ様に個性のあるロボット達や、あなた方の姿は見ましたが、財団の施設で一度も人間の職員を見ていません。人間の職員は他の場所に居るんですか?

 それに元々は地球で活動していた人間の組織であると言うのなら、あなた達は一体……。

 それと、なぜ、わざわざ担当官をこんな地球から遠く離れた場所に派遣する必要があるんですか?SCPオブジェクト……でしたか?その収容や確保に関する説明を聞く限り地球にも、あなた達の施設は沢山あるんですよね?」

 

 彼の質問に対し彼女はコーヒーをゆっくりとした動作で優雅に一口嗜むと、コーヒーカップをソーサーに置く。

 

「当然の疑問だと思います」

 

 彼女は静かに彼の疑問に答え始める。

 

「あなたの、その疑問は今の私達、財団の根幹にかかわる重要な話です」

「どういう意味……でしょうか?」

「そのままの意味です。今から説明する内容を聞いて頂ければ自ずとその疑問も全て理解できると思います。ただし、これを話す前に一点だけ注意をさせて頂きます。

 これから、話す内容がどんな内容であろうとも、それは既に過ぎ去った過去の出来事の事。特にあなたが、思い悩んだりする必要はありません。全ては既に終わった話なのですから」

「?はい。分かりました」

 

 何やら良く分からない忠告と捉えるべきか、もしくは注意と捉えるべきか悩む様な意味深な事を言った彼女に対して、彼はその意味を図りかねて、首を横に傾げたい気持ちを抑えつつ、理解もしていないながらも彼女の言葉に同意する。

 彼の心境を知ってか知らずか彼女は話を進める。だが、その前に彼女から新たなファイルが彼に手渡された。SCPオブジェクトについて纏めた資料と同じく、このファイルも何かしらの資料を纏めた物だった。

 

「そのファイルを開く前に、あなたに一つ私から質問をしてもよろしいでしょうか?」

「え?ええ、どうぞ」

 

 彼はてっきり直ぐにでも彼女から、さらなる説明がされると思っていた為、まさか自分に質問が振られるとは思いもよらずに一瞬言いよどむも、直ぐに相手からの質問を了承する。

 

「今は西暦何年ですか?」

「今年ですか?今年は2024年ですが……」

「そうですね。今年は2024年です」

 

 何を当たり前な事を聞くんだろうかと彼は訝しむ。

 

「ところで、なのですが……私達が使用している暦上では今年は2024年ではないんですよ?」

「え?ここでは独自の暦が使われているんですか?」

 

 話を急に、はぐらかそうとでも、しているのかと思ったが、その直後にここでは暦が違うという、これから先、3年間をここで過ごすに当たっては聞き捨てならない発言(生活上の理由から)が飛び出した為に彼はそちらに咄嗟に喰いついてしまう。

 

「ええ。旧暦という暦が使われていています。ここでの暦上の年では今年は2███年になるんですよ。あっ東洋における旧暦とは全くの別物です」

「2███年……3桁も違うのですか。ああ、地球から遠く離れていますからね。その分、暦も変化するという事でしょうか?」

 

 西暦と違う暦を使用しているという事自体は何もおかしくはない。日本の元号や、中華圏の中国暦、タイの仏滅紀元、エチオピア歴など世界には西暦以外の暦が各地に存在している。故にSCP財団においても独自の基準の暦を使用していても何らおかしくはなかった。

 

「今はそういう事にしておきましょう……では、そろそろファイルを開いて本格的に私達についての説明を始めましょうか」

「分かりました」

 

 今の暦の話の流れは一体何だったんだと疑問が過るが、本題が始まると聞いてそちらに集中する事にした。だか、彼は彼女が "今はそういう事にしておきましょう" と言った直後に小声で「後で意味が分かりますよ……」と意味深に小さく呟いたのを確かに聞いたのだった。

 

「全ての始まりは私達の暦の上で202█年██月██日の事でした。今から凡そ███年前の事ですね。この日、財団はそれまでの根底を覆す様な甚大な事件が発生したのです。私達はその事件を事件記録████-1と呼んでいます」

「事件記録████-1?」

「ええ。その事件は何の前触れもなく発生し、また何が起こったのかも一切原因も何もかもが分からない物でした」

「……失礼ですが、それでは事件が起こった事も分からないのではないですか?」

「いえ、事件は間違いなく発生しました。その後の結果が全てを物語っていたのです。端的に言いましょう。私達、財団が守っていた、それまでの世界は何の前触れもなく滅亡したんです」

「……は?」

「地球上に存在するあらゆる国家、あらゆる自然、あらゆる地理……ありとあらゆる物が影響を受けました。影響の範囲は地球を越えて宇宙規模と言っても過言は無いでしょう。この事件によって地球人類は滅亡したのです」

 

 スケールが大きすぎて目の前の彼女が何を言っているのかその意図が理解できなかった。作り話をしているのかと見てみれば、やはり彼女は至って真剣に話をしている。

 しかし、意味不明な話なのは確かだ。その良く分からない事件によって地球人類が滅亡したのであれば、今、居る地球人類はなんなのか。先程、見せられたSCPオブジェクトの資料だって近年作成された資料の様に見えた。話の整合性が合わないではないか。

 彼は彼女の話に幾つもの矛盾点を見出したが、ここは一旦、彼女の話を聞きつづける事を選択した。矛盾点の指摘は後でもできる。一旦このおかしな話を聞いてからでも遅くはない。

 

「ですが私達は運が良かった。事件の寸前、偶然にもこのサイト-8192が作られているSCP-███-JPの中に入っていた財団の警備職員が居たのです。彼がSCP-███-JPに入っていた理由は単に荷物を置きにきていただけで本当に偶然のタイミングでした。

 当時、SCP-███-JPの中には現在程の都市は建設されていませんでした。当時はあくまで、緊急時用の避難シェルターが建設されていたのみに留まり、なおかつ、その用途は実質的には単なる倉庫として扱われていました」

 

 彼女は彼にファイルを開く様にジェスチャーを出す。それに従い渡されたファイルを開くと最初の1ページ目にその当時の避難シェルターの写真や図面が添付資料として載っていた。

 

「そして、彼がこのシェルターの中に入っていたタイミングで事件記録████-1が発生。地球人類は完膚なきまでに文明ごと滅亡したのです。

 元々、財団はその扱っているオブジェクトの性質上、万が一の事態を想定して世界各地に大小様々な避難施設や文明再建を目的とした施設を有していました。

 こうした施設は私達財団がK-クラスシナリオと呼ぶ事態に備えて建設された物でした。SCP-███-JPの中に建設されたシェルターもこの内の一つです。

 もっとも、SCP-███-JPのシェルターに建造されたシェルターに関しては、当時の財団上層部の判断で本格的なシェルターとしての運用が始まる直前に、オブジェクトの性質の不確実性から、正式なシェルターとしての運用は行われずあくまで、非公式の扱いになってしまいましたが」

「K-クラスシナリオ?」

「K-クラスシナリオはSCPオブジェクトの異常性によって引き起こされる可能性のある既存世界の終焉に対して財団が付けていた最悪のシナリオに対する呼称です。世界終焉シナリオとも呼ばれますね」

「SCPオブジェクトにはそんな危険な物もあるんですか……?」

「ええ。かつてSCP財団が収容もしくは把握していたSCPオブジェクトの中にはその様な危険なオブジェクトが数多く存在しました。

 例えばそうですね……紹介できる物とすればこんな物もあります。今タブレットに資料を送りましたので開いてみて下さい」

 

 彼女は自身が持つタブレットを操作すると、彼の持つタブレットに通知が入る。彼は言われた通り、その通知をタップして開いた。

 そして、彼女からその世界終焉シナリオと呼ばれる事象を引き起こす恐れのあると言うSCPオブジェクトについて具体例を数例、交えられながら説明される。

 その中には、確かに文字通りの滅亡だなと思える内容から、言われて見ればそれまでの世界が大きく変わるという意味では世界の終焉とも言えなくはないという曖昧に感じる物まで振れ幅があった。

 

「K-クラスシナリオに分類されるシナリオには幾つか種類があります。

 AK-クラス世界終焉シナリオ。主観的に現実の再構築によって起こる世界終焉のシナリオです。人類の知覚や思考プロセスなどの崩壊による世界の終焉ですね。簡単に言えば全てが狂ってしまったというのがこのシナリオです。

 CK-クラス再構築シナリオ。これは現実が再構築されるシナリオです。 歴史に重大な変化を引き起こす歴史改変や、物理法則を変化させたり、はたまた宇宙の作用を変化させる等、その他、現実の全てか、一部を変化させられた事を意味しています。

 GH-クラス “デッドグリーンハウス” シナリオ。このシナリオは80%以上の生命が死に絶えますが、 地球は存続し、最低限生命を生存できるまでに地球を復旧可能なシナリオです。

 NK-クラス世界終焉シナリオ。これは自己複製する物質によって引き起こされる、 世界終焉のシナリオですね。まぁ、簡単に言えば無限に増殖するナノマシンに地球上が全て覆われるとか、置き換わられるとか、そういった類のシナリオです。

 SK-クラス支配シフトシナリオ。これは地球上の支配種が新たな種にシフトするシナリオです。単純明快ですねこれは。ようは地球の支配者が人間から別の種に移り変わる事を意味しています。

 XK-クラス世界終焉シナリオ。これは、それまでの世界を直接再建することが不可能な絶滅を意味するシナリオです。凶悪な怪物が世界を蹂躙するとか、そもそも地球が消滅したとかそう言ったシナリオですね。

 ZK-クラス現実不全シナリオ。これは現実が停止し宇宙が完全に破壊や抹消されるシナリオです。破壊や抹消でなくても完全に全てが停止しても適応されうるシナリオですね。恐らく最もどうしようもないシナリオでしょう。

 ΩK-クラス死の終焉シナリオ。これは簡単に言えば全人類が完全な不死となるシナリオです。

 LK-クラス ”捲られたヴェール” シナリオ。これは端的に言えば、一般社会に異常な存在が完全に露呈し情報隠蔽も不可能になるシナリオです。異常な存在が露呈すれば、それまでの世界は一変してしまうでしょう。または、財団の存在が露呈してしまった場合もこれに含まれます。

 と、長くなりましたが、とりあえずは主なK-クラスシナリオの種類の説明はこんな感じで良いでしょう」

 

 そこまで言うと彼女は一旦、コーヒーカップを持ち口を付けコーヒーで口を潤した。そして再びコーヒーカップをソーサーの上に置く。

 

「結論から言えば、事件記録████-1はSK-クラス支配シフトシナリオ、CK-クラス再構築シナリオ、XK-クラス世界終焉シナリオの類の可能性が高い事件だったと考えられています。断定しないのは、これが本当にそうであったのかを結局、私達は突き止める事には至らなかったからですね」

「それで、SCP-███-JPの中に偶然入っていた人の話に繋がると言う訳ですか」

「ええ。その通りです。彼がSCP-███-JPの中に居た事で財団は全滅の事態を防ぐ事ができ、事件記録████-1が発生した事も記録できたのです。

 財団は様々な事態を想定して幾重にも防御策を講じてきましたが、残念ながらそれらの試みは事件記録████-1の前では無意味でした。SCP-███-JPの異常性を除いては……。

 先程言った様にSCP-███-JPには異常空間の他に異常な防御性を持つと言う性質がありました。この性質が、事件記録████-1で発生した何らかの事象を防ぐ事に成功したのです。

 SCP-███-JPの外の世界が変容を遂げる中、地球上において恐らくはSCP-███-JPだけが無事に生存したんです。

 事件記録████-1によって、地球は大きく変貌を遂げ、地球人類は消滅し、文明も痕跡を残さず消え去り、地球人類に代わり人類ではない新たな実体群が地球上を支配し、長年人類を悩ましていた多くのSCPオブジェクトも消滅しました。

 そこから先の51ページ分は事件記録████-1後に変貌した世界に関する当時の資料です。財団はこの事件記録████-1後に出現した新たな世界をSCP-████-JPに指定しました」

 

 資料を見ると事件記録████-1によって変貌したという世界の様子に関する資料が写真付きで説明され、タブレットの方の映像資料にはその当時の映像があった。

 彼はそれらを読み進め、見進めながら、その人間に取って代わったという実体が映し出された写真や映像を見て目を見開く。

 

「……これは」

「気づきましたね。そうです。

 SCP-████-JPには大きく分けて、SCP-████-JP-Aに分類される知的生命体。SCP-████-JP-Bに分類される知性を持ったロボット。SCP-████-JP-Cに分類される動物の姿の住民が居ました。

 その内のSCP-████-JP-Aがこのサイト-8192内に居る私達であり、その外に居るロボット達がSCP-████-JP-Bです」

「失礼ですが、その……では、あなた達はエイリアンではないのですか?私は地球外から来たと思っているのですが」

「それについては、分からないと言うのが正解でしょう。資料にもありますが、私達は一体どうやって地球人類に取って代わったのか分からないんですよ。

 現実改変に類する現象によって出現した実体なのか。はたまた自然進化か異常進化か。それとも、エイリアンなのか。財団は現在までにその起源を明らかにする事は出来ていません」

 

 あくまで、彼女は自分達が突然降って湧いた様に出現した存在であると要は語った。しかし、彼はその説明に今の所、全く納得はしていない。何故ならば、今の所、この話には矛盾点が多すぎるからだ。

 中でも地球が滅んだと言うが第一、今、人類は滅んでいないではないか。

 この壮大な矛盾をどう解決するつもりなのか。解決でき信じるに値する情報となるのか、それとも信じるに値しない情報となるのか、彼は話の推移を見極める。

 

「説明を続けましょう。先程、言った事を覚えていますか?事件記録████-1の影響から逃れる事のできた地球上の財団施設はSCP-███-JPの中にあったシェルターだけだったという話を」

「ええ。もちろん」

「確かに施設は事件記録████-1の影響を受けずに生存する事はできました。しかし、残念ながらSCP-███-JPの中であっても、その影響を完全に抑えることは出来なかったんです。

 先程、シェルター内に偶然入っていた職員が居たと言いましたね。確かに彼は幸運でした。それは財団にとっても、その後の人類にとっても。

 しかし、彼も全くの完璧な幸運の持ち主ではありませんでした。事件記録████-1の発生当時、彼はSCP-███-JPのハッチのすぐ側に居た為か、事件記録████-1の影響を受けたのです。

 そして次に彼が全てを思い出した時、彼の肉体は人間からSCP-████-JP-Aの個体へと変わっていました。彼はその時点でSCP-████-JP-AとしてSCP-████-JPで既に何年もの間、生活をしていました。

 つまり、人類は彼の自我を除けば、肉体的には完全に滅亡したという事です。その後、SCP-████-JP-Aとなった事を認識した彼は発見したSCP-███-JP内のシェルターに残された財団の設備を使って財団を復興させる方針をシェルター内にあったAIC⸻人工知能徴募員と一緒に決めました。

 彼は財団の非常事態プロトコルに則り財団の指揮権を継承。SCP-███-JP内のシェルターをサイト-8192として運用する方針。それと同時に彼、AIC、SCP-███-JP内の財団設備が存在している事から彼は、この状況に対して完全なK-クラスシナリオには至っていないと判断。人類文明を復興させる財団の方針が定められました。正直、この状況でK-クラスシナリオに至っていないという判断はかなり無理のある判断だとは思いますがね」

「すごい話……ですね。正直、まだ信じられませんが。どうやって、たった一人の状態で組織を復興させたんですか」

「大丈夫です。もうすぐ分かりますので」

 

 彼女は、にこやかにそう言う。彼からすれば、壮大な作り話を聞かされている様に感じているにも関わらず、彼女の方は、ここから何とかできると自信を持っている様だった。

 一体、この荒唐無稽さから、どうやって話に彼を納得させるだけの信憑性を持たせるつもりなのかと彼は内心でそう思う。

 ただ、映像資料や写真に関して言えば、相変わらず合成の類には見えないのには違いは無いが。

 

「記憶を改竄したんですよ」

「記憶を……改竄……?」

「ええ。そうです。人間がもはや誰一人存在しない以上、正攻法での財団の復興は事実上不可能でした。そこで、財団は遺伝子的に比較的人類と近いSCP-████-JP-Aを捕獲し記憶を改竄して財団職員にしたんです」

「それが……」

「ええ。それが私達、今の財団職員です」

「そうして財団の規模を実質1人の状態から徐々に拡大し、SCP-████-JPの研究を進め、それと同時に人類文明を復興させる方法を模索。そして最終的に私達は地球全体の現実を改変し人類文明を復活させる方法を遂に実行に移しました」

 

 タブレットに地球を望遠カメラで撮影したと見られる映像が流れる。事件記録████-1によって全く違う惑星へと変貌していた地球が突如として、その大陸の中央部を中心として無色透明の薄い膜の様な物が一気に地球全体に広がり包み込んだかと思えば、地球各所に波紋の様な物が広がっていき、大陸が蜃気楼の様に朧げになり、文字通り空間が歪むと、やがて彼の見慣れた地球の大陸群の姿が現れる。

 

 彼はその映像に目を奪われた。

 映像を見て、そして説明をされた事で彼はようやく気がついた。彼女が何を言いたいのかを。

 彼の中でそれまで矛盾の様に感じていた彼女の話がすぅっと一直線に繋がった。つまり、彼女が言いたいのは⸻。

 

「つまり……あなたが言いたいのは……今の地球があなた達が、その……現実を改変させて復興させた……そう仰っしゃりたいという事でしょうか?」

「ご理解が早くて助かります」

 

 彼女は彼の出した結論に対して満足気に薄っすらと貼り付けた様な笑みを浮かべて言った。

 

「信じられないのも無理はありません。しかし、これは事実なんです。と言っても、私の説明だけでは信じられないでしょうから、資料を是非、確認して下さい。全てを読めば、あなたならば、これが真実である事を理解して頂けるでしょう」

 

 彼はそれから無言で、目の前にあるファイルの情報を食い入る様に読み漁り、また、ファイルに挟まれた書類よりも遥かに情報量の多かったタブレットの情報を見漁った。

 どれ程の時間が経ったか、彼女が途中、一度退席し新しいコーヒーを淹れて戻って来る程度には彼は目の前の資料群に没頭した。

 そして、あらかたの情報を見終えると彼は、若干頭痛の様な感覚を覚えながらも、最終的な結論を出す。

 

 この目の前の彼女の語った説明は全て事実なのだ。

 冒頭のSCPオブジェクトの資料は現在の地球で作られた物ではなく、事件記録████-1とかいう現象で滅びる前に作られた物。

 担当官がわざわざ、宇宙空間に出向く理由も地球に財団の施設や人員が居たのは、その事件記録████-1の前の話だから。

 人間の組織だったにも関わらず現在の財団に人間が居ないのは、事件記録████-1で一度組織が壊滅しそこで出現した生命体を雇用したから。

 彼の矛盾に感じていた話が実は全て整合性が取れていると言う事に。

 

「ご理解頂けて何よりです。その後の事を軽く話しましょう。私達、財団の手によって地球上は現実改変され人類文明が再び復活しました。地球上の事件記録████-1後に出現していた異常実体群は全て消滅したんです。

 一方で私達、財団は計画を実行する前に、宇宙空間に残存していた宇宙サイト-76にスペースプレーンを使ってSCP-███-JPごと避難。

 以降は、宇宙空間上から地球上の人類文明が無事に繁栄を続けているか。新たな異常が発生していないかを地球の衛星軌道上に敷設した観測衛星によって随時モニタリングを行っています」

 

 すると、彼女は自身の手元のタブレットを何やら操作する。彼女の手が僅かばかりの間、動くがその動作は直ぐに終わる。

 彼女の手元の動作が終わるのと同時に、執務室の巨大な一枚ガラスに隔壁が音も無く下ろされた。さらに執務室の灯りも徐々に落とされ、部屋が闇に包まれていく。

 

「あ、あの、これは……」

「安心して下さい。この部屋のホログラフィックリウムを起動させただけです」

 

 瞬間、彼は漆黒の宇宙空間に浮かんでいた。

 ただ、執務室が闇に包まれた訳では無い。文字通り、彼の身体は宇宙空間の中にあった。彼と目の前の彼女、そしてソファーセットを除いて。

 まるで自分達が座るソファーセットが宇宙に浮いているかのようだった。

 

 突然の事に彼は困惑するが、直ぐにこれが高度なホログラム映像である事に気が付く。どうやら、執務室全体に非常に精巧な映像を投影している様だった。だが、その精度は最近、地球で流行りのプロジェクションマッピングなんかよりも遥かに高度で、ここが執務室である事を忘れさせる位には非常に立体的だ。

 

「これが当時のまだ現実改変によって復元したばかりの地球を撮影した映像です。そして、あれが、あなた達がブラックナイト-1から12と呼んでいる財団の地球観測衛星、その設置風景です」

 

 彼と彼女は地球の衛星軌道上に居る様だった。地球の姿が大きくよく見える。その衛星軌道上に、あのスペースシャトルによく似たスペースプレーンが数機、浮かんでおり、その格納庫から取り出した地球観測衛星を軌道上にロボットアームや宇宙服を着た飛行士らが設置している。そんな映像が彼の目の前で繰り広げられていた。

 

 だが、その映像を見ていて彼は一つ、違和感を感じる。彼は空軍でパイロットとして長年活動をしてきたその為、戦闘機で成層圏近くを飛行した経験もあれば、軍の偵察衛星の写真で地球を見た事もあるし、なんならここに来る為に地球を飛び立った時には宇宙から地球を見ている。

 その彼からして、この目の前に広がる映像の地球はどこか、自分の普段、見慣れた地球とは何処か違う様に感じた。一体この違和感は何なのかと地球を見ていると、やがてその違和感の正体に気が付く。

 宇宙から地球を見た時にも良く見える都市部や、夜の地域の灯りが彼が普段見ている物よりも格段に小さかったのだ。

 なぜ、この目の前の映像の地球は自分の見慣れた地球と少し違うのか彼は考える。そして不意に脳裏に彼女が唐突にし始めた暦の話を思い出した。

 

 今は西暦何年ですか?

 

 その彼女の言葉を思い出した瞬間、彼は目を見開き理解した。

 旧暦上で今年は2███年。彼女は確かにそう言った。西暦から換算すれば3桁も先を行く暦。最初聞いた時は、宇宙サイト-76が宇宙空間にあるが為に計算方式などが地球と違っているのかと思っていた。だが、恐らくそれは違う。

 この旧暦の話をした直後に彼女は「後で意味が分かりますよ……」と何やら意味深な言葉を呟いた。なぜ、あのタイミングで意味深な言葉を呟いたのか。

 それに、彼女は先程、事件記録████-1は███年前に起こった事だと、はっきりと言った。聞き間違いではない。そして、これまでの彼女の丁寧な説明内容と、それに彼は地球で読んだブラックナイト-1からブラックナイト-12、財団側が地球観測衛星だと称する衛星群に関する資料でアメリカ軍は分析からこれらの衛星が少なくとも███年前には設置されていた可能性があるとの見解を出していた事を思い出した。それらを彼は脳内で加味していくと、最終的に驚愕の事実に行きつく。

 それはつまり、彼を含めて地球上の多くの人類は今年を西暦2024年だと思っているが、実はそれは真実ではないという事だ。

 恐らくは財団側が使用している旧暦と呼ばれる暦。これが真実の地球の暦なのだ。つまり、現在は西暦2024年なのではなく、西暦2███年……。

 彼はそれに気が付くと背筋に冷たい物が走るのを感じたのだった。

 

「財団は地球観測衛星によるモニタリングを進めると同時に、今度は、現実改変によって地球上のSCPオブジェクトが全て消滅した為、太陽系内に残る数少ない異常存在の一つとなってしまった私達自身を収容し完全に封じ込める手順を進めました。

 私達、SCP-████-JP-Aの財団職員は自身をサイト-8192に収容し外部の活動は財団の技術的にも解明され遥かに安全化されたSCP-████-JP-Bの財団職員達に任せる事にしました。これはSCP-████-JP-Aに比べれば、SCP-████-JP-Bの方が運用上遥かに安全だった為です。

 とはいえ、私達、SCP-████-JP-Aの財団職員が何もしなくなったかと言われればそうではありません。

 私達も研究活動や組織運営の他、SCP-███-JPの異常空間内を掘削し都市を建設し、万が一の再びの異常事態に備え、多くの人類を避難させる事ができる準備を進める事にしました。それがこの都市です。

 また、それと同時に財団の理念である確保、保護、収容の理念に則りSCP-████-JP-AやSCP-████-JP-B、サイト-8192内の収容エリア内で収容下にあるSCP-████-JP-Cの個体数保護も行われています」

 

 彼女からホログラフィックリウムと呼ばれた映像投影システムは、巨大宇宙ステーションの宇宙サイト-76の全景と、そして彼が今居るサイト-8192の未来都市を映し出す。

 

「と、ここまでが、私達財団に関する大体の概要情報になりますね。一旦、ここまではよろしいですかね?」

「え、ええ……なんだか疲れましたが、概ねあなた達、財団に関する事は分かりました」

「それは良かったです。では、ここからは、この施設に関するより詳しい情報をお伝えましょう。恐らく、あなたにとって最も重要な情報はこれから3年間、過ごす事になるこの場所に関する情報でしょう」

 

 そう言うと彼女は再びタブレットを操作する。すると、今度はホログラフィックリウムは周囲に肉眼では一切惑星を視認できない漆黒の宇宙空間の中に浮かぶ白い宇宙ステーションを映し出した。

 その宇宙ステーションは見る限り、ISS国際宇宙ステーションを2倍程度の規模にまで大型化したか様な施設だった。大きな宇宙ステーションではあるが、とはいえ、これよりも巨大な宇宙ステーションを目撃した今の彼からすれば、驚きは一切無い。だが、何処か見た事のある外観をしているなと彼は思った。

 また、その宇宙ステーションの全景が映すと同時にソファーセットのガラスのテーブル上にオレンジ色に光る3Dマップらしき物が浮かび上がる。

 

「この3Dマップデータは現在のサイト-8192の全体マップです。サイト-8192を構成する全区画は基本的に9㎢の立方体状に定められています。

 サイト-8192内は大きく分けて2つのエリアに分かれていて居住、経済活動、各種インフラ、農業プラント、人工タンパク質製造プラント、工業生産設備、研究活動、保安設備などなど、必要に応じた多種多様な編成の複合的な733の区画からなる都市区画エリアと、研究や収容活動に全面特化した122の区画からなる収容エリアに分かれ、計855の区画が現在建造中の物も含めて存在しています」

「9㎢の立方体状の区画が855個も……?それでは、この街の面積は一体……」

「サイト-8192はSCP-███-JP内の異常空間内に約10,856㎢の面積で現在は広がっています。ここに立体状に計855の区画が存在し、現在進行形で増築による拡大が行われています」

「い、10,856㎢!?こ、この街は、そんなに大きいんですか!?」

「ふふふ……やはり、驚かれましたか。皆さん、これを知ると驚かれますよ。見ての通り、都市中心部ほど、積み重なった区画の数は多く、横から見ると多少歪ですが、楕円形状になっているのが分かると思います。ちなみに、このニューサンクトゥムは都市の中心部に位置しています」

 

 10,856㎢と言えばマサチューセッツ州よりも若干大きい程の面積である。そこに立体状にみっちりと都市構造が内包された都市区画が多層構造を形成しているという。

 9㎢の立方体状の区画ですら、その中に構造物がみっちりと収まっている事を考えれば、彼からすれば途方もない巨大建築物だが、そんな物がここには855個も連なっているという。

 途方もない規模に彼は唖然とした。もう、ここに来てから何度、唖然としているのか、もう彼には分からない。

 

「現在の人口はSCP-████-JP-A個体が凡そ100万人と、収容エリア内の収容室で収容下にあるSCP-████-JP-C個体が1292体、それに、あなたの国との間の協定により財団に提供して頂いている重犯罪者の人類で構成されるDクラス職員が6832人となっています。

 都市管理に利用されているAMASというロボットのシリーズを含めれば、さらに多くの個体が存在していますが、こちらのロボットは外に居る人型のSCP-████-JP-Bとは違い、完全にただのロボットですので、人口には含められませんね」

「……都市の面積にしては人口が少ないですね。いえ、あなた方の様な存在が100万も存在するというのも驚きではありますが……」

「先程も言った通り、財団はこの異常空間内に万が一の再びの異常事態に備え、多くの人類を避難させる事ができる準備を進めています。

 収容エリアを除けばサイト-8192の既存施設の大半は無人状態です。長期に渡り、まったく運用する目途も立っていないブロック⸻サイト-8192の運用区分上、区画よりも、さらに細分化された小さい単位の区域の事をブロックと呼びますが、その多くは必要な移動経路を除いて気密隔壁が降ろされ、設備の劣化を防止する為に窒素ガスが充填されている所が殆どです。もっとも、窒素ガスを使用する安全上の観点から、一定の人口を抱えるブロックの周囲のブロックは、運用目途が立っていないとしても、万が一、ガス漏れの事態が起こると怖いので、窒素ガスを充填していないブロックも存在しますけどね。

 現在の都市化したサイト-8192の建設経緯としては、現実改変による人類文明の復興が完了した後、財団はサイト-8192の大規模改修作業を開始しました。つまりはこの都市の建設の本格的な開始です。

 都市建造前のサイト-8192の施設は事件記録████-1後に行われた増築により大型物資保管倉庫は計18室、収容エリアも約2倍の規模にまで拡大した状態でしたが、都市の建造決定を受けて、さらなる増築が行われました。

 SCP-███-JP内の異常空間を満たすコンクリート素材を採掘し、切り出したコンクリート素材を宇宙空間へと廃棄する他、財団とSCP-████-JPの科学技術が融合した技術であるコンクリート素材の分解及び分離の技術によって酸素、水、鉄などの成分ごとに分離して資源としても利用しました。この他、月面エリア-32からもサイト-8192に対して物資の供給が行われています。

 正直、このコンクリート素材の成分分離技術だけでも、サイト-8192や宇宙サイト-76の運営と維持には充分過ぎるのですが、自然の天体でしか手に入らない物もありますので。

 また時代が下るごとに、財団は不足する人材を確保する為に、人員を段階的に増強していきました。まずは、SCP-████-JP-Bの財団職員を月面エリア-32にて工業的に増産し、次にSCP-████-JP-Aの財団職員を生物学的手法によって増やしました。

 こうして、サイト-8192はその規模を徐々に拡大。また、外の宇宙サイト-76もサイト-8192の増築に従って増築が繰り返され、最終的には現在の様な姿となっています」

 

 彼女の説明に合わせて執務室内に映像が続々と映し出された。

 コンクリートの塊を綺麗に削り出す二足歩行の重厚な大型ロボットの様な乗り物とそれを輸送する車両。削り出したコンクリートの塊を粉砕し粉状にして、さらに別の巨大な装置に入れていく様子。生産される様々な資材。建設が進む都市。未来的な食物工場。発電所らしき施設。浄水場の様な施設。

 そして、宇宙ステーションの周囲にスペースプレーンが停泊し、ロボットアームや宇宙飛行士が作業をしている光景。だがしかし、その光景は徐々に移り変わり、宇宙ステーションは徐々に増改築を繰り返していき、原型を失っていく。そして最終的には宇宙サイト-76のあの巨大宇宙ステーションの外観へと至る。

 その映像を見ながら、彼は、ああ、先ほどあの宇宙ステーションは宇宙サイト-76が増改築を受ける前の姿だったのかと理解する。

 ホログラフィックリウムで映し出された時には何の宇宙ステーションだか分からなかったが、見覚えを感じたのは、どうやら先ほど見ていた事件記録████-1後の状況を説明する資料の中にこの改築前の宇宙サイト-76の写真も数少ない機能する施設として紹介されていたからだった。ただ、平面上の写真で見る物と立体状に見える物とでは、どうしても同じ物か判断するのに少し時間がかかってしまった様だった。もっと言うと写真とホログラフィックリウムの映像とでは画角のアングルが全然違っていた為、仕方ないと言えた。

 

 彼女に説明された内容はどれも、物理的にとてつもない規模感の物ばかりだが、彼女の説明内容は非常に合理的に彼には見えた。

 月面エリア-32だけでなく、サイト-8192という資源を直ぐに届ける事の出来るいわば建築資材の供給拠点がそもそも宇宙サイト-76の中にはあるというのは巨大建造物を建設するのに、これほど適した条件は無いだろう。さらに言えば、増改築を███年間も続けていれば、宇宙サイト-76があれほどの巨大宇宙ステーションに成長していたのも納得できる。

 サイト-8192にしても、宇宙サイト-76と同じく時間をかけて増改築を繰り返していて、なおかつ、資源の供給を自給自足できるなれば、その科学技術も相まって、これほどの巨大な施設になったのも理屈的には納得できるというものだ。

 それでも、正直言うと、理屈的には納得できても心情的にはやはり中々納得しきれない所もあるにはあるが、それでも目の前に存在する以上、彼には信じる他に選択肢は無かった。

 

 やがて、彼女の説明が終わる。すると、彼女は再びタブレットを操作して、ホログラフィックリウムを解除した。それと同時に部屋の照明が再び点灯し、部屋の窓ガラスを覆っていた隔壁も開かれる。

 

「と、以上が、ここについての説明になります。分からない事がありましたら、あなたには幾つか資料をお渡しするので、それを確認して下さい」

「……ご配慮ありがとうございます」

「いえいえ。私としては当然の事をしているまでの事です。貴国とは出来るだけ、仲良くしておきたいのですよ」

「そうですか……ここについては、理解できました。それで、私はこれから、ここで具体的に何をすればよろしいのでしょうか?」

「うーん……正直、具体的に何をと言われると難しいんですよね」

「は?……あ、いえ、すいません。ですが、私は司令部からここでの任務内容の伝達は財団に一任していると聞いていたのですが、まさか、私達の不手際……でしたでしょうか」

「いえ、そういう訳ではありませんよ?しっかりと協定内容に沿っていますので。ただ、なんと言いますか……基本的に担当官はここに居る事が任務と言えるので」

「それはどういう……」

「担当官は過去には財団と貴国との間のやり取りを受け持つ重要な役割を有していたのですが、ここ数十年は直接的な通信体制が確立して以降は外交的役割に留まっているんですよ」

「……ああ、だから私、一人での派遣なんですね?」

「そういう事です。立場的には大使館の大使館員や駐在武官でしょうか。ですが、大使館員や駐在武官に比べると具体的にするべき仕事量は各段に少ないと言って良いと思います。基本的にはサイト-8192内に駐在している事が主な任務となります。

 ああ、あとは視察とかですかね。サイト-8192内は一部例外を除けば自由に施設を視察して下さって良いですよ?視察の際は視察希望の施設を警護要員に伝えて下さい。それと、帰還した時に提出する日誌を書く事でしょうか」

「自由に施設を視察できるんですか?」

「ええ。もちろんダメな施設もありますが、大抵の施設にはスケジュールが合えば出入りできる筈です」

「それは……かなり破格な対応ですね」

「私達、財団と貴国との協力関係の強靭さの証と受け取って頂いて結構です。合衆国政府は私達、財団にとって重要なパートナーですから」

 

 彼は自分の任務内容を初めて理解し、同時に自分の置かれている状況に納得した。

 彼はこの任務について、なんで特に本格的な外交経験とかも余りないただのパイロットである自分が、たった一人でアメリカ合衆国にとって重要なパートナー組織に出向かされるんだと思っていたが、なるほど、特にやる事が無いのであれば、送り込む人材は最低限で良いというのは納得だ。

 宇宙事故による万が一の犠牲を最小限に抑える為であったり、情報漏洩の防止の為という理由もあるだろうが、真に交渉であったりなどの外交任務を目的としているのであれば、もっとふさわしい人材が居る筈である。そういった人材を使わないのは何故かとずっと彼は考えていたが、この任務に高度な外交性を求めないのであれば納得できる人選だった。

 言外に自身の上官にお前には外交能力は無いと突きつけられている気には彼は勝手になったが、だが、こんな重要なパートナー組織に対する担当官として派遣されている以上、少なくとも宇宙へ行くメンバーに選定されたという観点で見れば、自分のパイロットとしての腕前は評価されているのだろうと勝手に納得する事にした。

 

「それとこれを」

「これは?」

 

 彼女は彼に大きな茶封筒と首掛け紐の付いたIDカードの様な物を手渡す。見ると茶封筒には彼が見慣れたアメリカ軍の機密書類である事を示すスタンプが押されていた。

 

「貴国の政府から正式な命令書です」

「……拝見させて頂きます」

 

 彼は茶封筒が未開封の状態である事を確認すると封を開けて中身を確認する。中には赤いファイルが入っていて数枚の書類が挟まっていた。それを彼は慎重に読み進める。

 

「確かに確認させて頂きました。命令書、頂戴させて頂きます。この任務、正式に受領しました」

「そのIDカードは弁務官室のカードキーですので、無くさない様にお願いします。あとで、あなたの警護要員に歴代の担当官が使用している弁務官室に案内させましょう。

 弁務官室は地球における大使館と同じ様に中は合衆国法によって保護された治外法権エリアです。と言っても、一部、財団と貴国との間で結ばれた協定の内容により、特定の事態が発生した場合には財団の管理権が優先される事もありますので、その点はご容赦を」

「分かりました。何から何まで本当にありがとうございます」

 

 彼は彼女にお礼を言うのと同時に、内心で財団に対する認識を幾つかさらに改める事にした。

 財団に対して合衆国政府が寄せる信頼感は最も親密な同盟国のそれか、またはそれ以上だ。先ほど手渡された命令書は明らかに正規の命令書だった。しかも、命令書の形態は最高レベルの命令書だ。それを第三者組織である財団に預け、渡す役まで任せているというのは、合衆国政府が相当な信頼を寄せている証拠だ。

 彼は担当官として派遣されているものの、言ってしまえば遣い走りの様な存在だ。もちろん、本当の組織の末端ではないものの、それでも精々、中の下の立場と言って良いだろう。彼は合衆国政府と財団との間に如何なる関係が結ばれているのかの詳細を知る術をこれまで一切持たなかった。

 彼が知っている事は極めて表層的なものだ。そんな彼からして一体、財団と合衆国政府との間には、どの様な関係性があり、また合衆国政府がなぜ、ここまで財団を信頼するのか。彼には分からなかった。

 一応、財団から合衆国政府に対する技術の提供とそれに呼応した合衆国政府の財団に対する協力という事は地球で既に聞かされていたが、彼からすると、それだけの理由では、ここまで親密な事に対する答えには完全にはなっていない様に感じた。

 やはり、彼女からの説明にあった通り、今後、地球に何かが起こる事を想定してその対策として、ここまで親密な関係性を築いているのだろうか。あり得そうな話ではある。というか、十中八九それも恐らくは理由に含まれるのだろう。決定権を持つ権力者という物はどんな事をしてでも、何かあった時には自分や家族だけでも生き残ろうとするものだ。

 だが、これだけでも、まだ理由が弱い様に彼は感じていたのだった。果たして自分が、この疑問に対する答えを知る機会はあるのだろうか。機会があるとすれば、この3年間の間の可能性が高そうだ、と彼は内心思ったのだった。

 

 その後、彼と彼女はしばらく、ここでの彼の任務内容や扱い、求められる立ち振る舞いなどを話し合った。

 朝、ここに来て彼女からの丁寧な対応をされて数時間が経過していた。間に飲んだコーヒーをおかわりした回数は数回を数えるまでになり、時が進むのは早く、気づけば時刻はお昼のランチタイムの時間帯に突入していた。

 

「そろそろ、お昼の時間ですね。どうでしょう。大体、大方の事は説明し終えたので、この後、ランチでもご一緒しませんか?幾ら美味しいコーヒーとはいえ、コーヒーだけでは流石にお腹がすいたでしょう」

「もうそんな時間でしたか……時間が過ぎるのは早いですね。それではお言葉に甘えてご一緒させて頂きます。ですが……その、よろしいのですか?O5評議委員という役職は忙しいのではないのでしょうか?」

「確かに忙しいですが、今日は貴国から担当官が来ると言う事で丸一日スケジュールを空けてありますので、気にしなくても大丈夫ですよ」

「それは……私の訪問の為に?」

「先ほども言いましたが、貴国との関係は重要ですから。担当官という役職は確かに現在は象徴的な役職で、たかが象徴にも思えるかもしれませんが、されど象徴です。象徴というのは、中々に軽んじて良い物ではないんですよ」

 

 組織のトップ格の人物がパートナー組織からの一派遣者に対して、忙しい身の時間をここまで割いて懇切丁寧に対応している。効率性で言えば、これは組織のトップがするべき仕事とは言えず、他の部下に任せても良さそうな事であるのに、彼女は彼に対して、丁寧に時間をかけて対応した。

 この今の状況に彼は申し訳なさを感じていた為での、この発言であったが、彼女の言葉を聞いてそれ以上は言わない事にする。ここまで彼女が言っている以上、単なる効率性以上に何か礼儀的な意味合いがこの出迎えはあるのだろうと納得した。

 合衆国にとって財団が重要であり最高レベルの信頼関係があるのと同時に、財団にとっても合衆国が重要な相手であり、非常に重視されている事を彼に改めて認識させる。

 彼は自分の今回の職責の重大性の重みを痛感した。

 

「それでは、行きましょうか。今、支度をするので少し待っていて下さい」

「あの……ランチに行く前に最後に一つだけ聞いてもよろしいでしょうか?」

 

 彼女はソファから立ち上がり、テーブルの彼女側に広げてあったタブレットや資料を軽く片付け始めていたが、彼はそれを見ながら、これまでの一連の説明を聞いていて、ふと、いつごろからか、疑問にずっと抱いていた事を口にする。

 彼が質問を投げかけた事に、彼女の資料を片付ける手がピタッと止まり、彼女は彼の方を見て、それから、再びソファに腰をかける。その表情にそれまでと変わらない薄っすらとした笑みを浮かべて。

 

「良いですよ。なんでしょうか」

「少し前から説明を聞いていて、一つ疑問に思った事があります。その……あなた達はSCP-████-JP-A、つまりはSCP-████-JPの文明で暮らす、ごく一般的な生命体だったのですよね?」

「ええ、そうですね」

「それで、財団はSCP-████-JP-Aを捕獲して記憶を改竄をして職員として雇用したと」

「そうですね」

「これから先の質問は単なる私が抱いた疑問の話ですので、特に深い意味とかは無く、お気を悪くはしてほしくはないのですが……。

 事件記録████-1以前の財団の活動などを聞いて思ったのですが、その上で、事件記録████-1でそれ以前の人類文明は完全に滅亡してしまっている訳ですから、幾ら人類文明を復興させる為とはいえ、無垢で普通の学園生活をしているSCP-████-JP-Aを捕まえて、記憶を改竄して職員として使ってまで、SCP-████-JPの世界を滅ぼすというのは、その……人道上の観点というか、倫理上の観点というか、そう言った視点から正しい事だったのだろうかと」

 

 それは彼が率直に抱いていた疑問だった。

 幾ら人類文明を復活させる事を目的としているとはいえ、普通の学園生活をしているSCP-████-JP-Aを捕獲、酷い表現で言えば拉致誘拐し、その上で記憶を改竄して先兵の様に扱う事は中々に酷な事なのではないかと思った。

 自分達が生まれ育った場所を、ある日突然、誘拐され次の日からは、その場所を滅ぼす事に加担させられるのだ。

 これを酷な事と言わずして何と言うだろうか。

 彼女はこの質問に対してなんと答えるだろうか。少しは悲しがったり、後悔の念だとかはあったりするのだろうか。

 

「正しいですよ」

 

 彼のそんな想像とは裏腹に目の前の彼女は薄っすらと笑みを浮かべた表情のまま、一切意に介さずといった様子で直ぐに答えた。

 余りにもあっさりとした回答に彼は少しだけ意外に思う。なぜならば、自分がかなり難しい質問をしている自覚があったからだ。

 

「だって、財団は人類を守る為の組織であって、アノマリーを優先して守る為の組織ではないんですから。もちろんアノマリーは保護すべきですが、任務の優先順位がどちらが高いかは自明の理でしょう」

「ですが……その守るべき人類は……消滅したんですよね?」

「ええ。完膚なきまでに消滅してしまいましたね。残念ながら」

「それでも、新しい世界の文明を塗り潰してまで、人類を復活させる事を選んだのは何故なんですか。私なんかは諦めて新しい世界を受け入れる事も選択肢の一つではある様に思ってしまいますが……」

「確かにそれも選択肢の一つではあったでしょうね。ですが、それでは完全に "認める事" になってしまうじゃないですか」

「認める……?」

「私達、財団がアノマリーに完全に負けてしまったという事を。だから、私達は "認めない" という選択をしたんです」

「……では、現実を改変してSCP-████-JPの文明を滅ぼす事になった事について、あなた達は何も思っていない、と?」

「何も思っていないかと問われれば嘘になりますね……自分達が生まれ育った場所を滅ぼす事に "積極的" に首謀した訳ですから。ですが、後悔も間違った判断だったとは私も含めて全職員が思っていませんよ。

 何故なら、今こうして、私とあなたが会話をする事ができているのも。地球の人々が異常に怯える事なく繁栄を続けているのを見る事が出来ているのも。地球人類を元に戻さなければ出来なかったでしょう。

 それに、かつては全く収容の目途すら立たなかった私達ですらも今では "完全な収容プロトコル下" に置く事ができているんですから」

 

 そう彼の疑問に答える彼女の薄っすらとした笑みと共に薄く開かれた目には、終始、揺らがない確かな確信と自信がある様に彼には感じられた。

 彼は自身の疑問に対する彼女らの答えを聞けたのと同時に、しかし、そんな彼女の姿を見て、どこか、この場の全て、執務室やニューサンクトゥムどころか、この都市全体を包み込むかの様に得体の知れない巨大な影が射しているかの様な感覚を覚え、背筋に冷たい物が走るのを確かに感じたのだった。




STORYTELLER MESSAGE

都市化したサイト-8192の中のイメージは獣王星のアニメ版に出てくるスペースコロニー・ユノの内部をイメージしています。以下のリンクはYoutube上にある獣王星のOP映像ですが、その31秒から35秒までの間にユノのコロニー内部の様子が出てますので気になる方はご覧ください。リンクから飛ぶと31秒から始まります。
https://youtu.be/ICbhJ9jGe3w?t=31

増加築を繰り返して超巨大宇宙ステーション化した宇宙サイト-76の外観はユノの外観をイメージしてます。以下のリンクは上のリンクと同じYoutubeにあるOP映像へのリンクです。その38秒から40秒までの間にユノの外観が出てきますので気になる方はご覧ください。リンクから飛ぶと38秒から始まります。
https://youtu.be/ICbhJ9jGe3w?t=38

もしも獣王星の本編を見て頂ければ、OP以上にユノの内部は出てきますので、都市化したサイト-8192の内部の様子のイメージがより付きやすくなると思います。ちなみに獣王星は個人的にすごく好きです。


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