SCP-████-JP 学園都市キヴォトス 作:サイト8192
河駒風ラブがその噂を聞いたのはある意味、必然的な事だった。
曰く、最近、ヘルメット団や不良が忽然と姿を消す事が相次いでいる。その理由については一切不明で自発的に辞めたんじゃないかとか、はたまた、裏社会の何者かに潰されたんじゃないかとか、そんな様な噂だ。
不穏な内容の噂をジャブジャブヘルメット団を率いる隊長である河駒風ラブが耳にしない筈がなかった。
ジャブジャブヘルメット団に属する仲間の一人がこの噂話を持ってきたのだ。河駒風ラブはこの噂について気にはしつつも、よくある事とも思っていた。
数あるヘルメット団の中では裏社会で活動をしているグループも少なくない。それが何か格上の相手に目を付けられて報復だったりの理由で痛めつけられるというのは、この世界ではよく聞く話だった。
だが、この噂には特異な点があるとも同時に思っていた。それは、忽然と姿を消しているという点だ。ヘルメット団を辞めたにしても、痛めつけられたにしても、その後にどうなったかどうかは、ある程度は話として普通は出てくるものだ。
しかし、この噂はその後の行方が全く分からないという点において特異な事であり、また、それがヘルメット団の中で噂として広まる理由であった。
河駒風ラブは最初、耳にした時、物騒な噂ね……怖っ!と思ったが、あくまで具体的な情報がある訳でも無い為に、頭の片隅に入れておくだけに留めた。
それがただの噂話ではない事が分かったのは自分達と交流のあったグループと連絡が取れなくなった時だ。
河駒風ラブ率いるジャブジャブヘルメット団は基本的にホバークラフトを家兼移動拠点として利用している為、その活動範囲は海に面した地域である事が多い。その為、内陸部のそれこそDUだとかキヴォトスの中心部のリアルタイム情報が分かりにくい。そこで、河駒風ラブはその地域で活動しているヘルメット団のグループと仲良くなって、定期的に互いの活動地域の情報を共有する関係を作っていた。
その、協力関係にあるグループと連絡が取れなくなったのだ。モモトークで呼びかけても相手の隊長とも副隊長とも連絡が取れず、定期報告の場にしていた激安カフェに顔を出しても居る様子は微塵も無かった。
このグループはブラックマーケットに出入りもしていたから、やばい連中に目を付けられてしまったのだろうかとも思った。
実際、このグループがアジトとして使っていた工事途中で放置された古いビルに足を向けて見ると、中には彼女らが使っていた形跡がそこかしろにあったが、あちこちに銃痕が残されており、中で戦闘があった事がはっきりと分かった。
それから、河駒風ラブはこのグループに何があったのかを調べる為に近隣のヘルメット団にも声をかけてみたが、誰一人としてその行方を知る者は居なかった。それで脳裏に過ったのは仲間から聞いた噂だった。
もしかして、ただの噂話じゃなかったんじゃ……と思った。
そうと思えば河駒風ラブの行動は早かった。自分達も同じヘルメット団なのだ。ヘルメット団である以上、いつ自分達にも同じような事があるかも分からない。そこで、河駒風ラブはジャブジャブヘルメット団内で警戒を強化する方針を示した。
何に警戒をすれば良いのかは分からないが、それでも、物騒な雰囲気を感じ取った河駒風ラブはその得体の知れない脅威があると備えた方が良いと直感的に判断した。
しかし、そんな河駒風ラブの警戒は結論から言えば失敗だったのだ。
「隊長!ヘナヘナヘルメット団にお使いに行ってた子達が帰って来ません!」
そんな報告がいつも通りの日々を送っていたある日、河駒風ラブの元に入って来た。河駒風ラブの方からお使いに出した子達にモモトークで連絡を送ってみるが応答無し、それならばとヘナヘナヘルメット団に連絡を送ってみるがこれも全く応答が無かった。
ヘナヘナヘルメット団はジャブジャブヘルメット団の活動域の一つであるリゾート群島で活動するヘルメット団の一つだ。それなりに協力関係もあり、度々、お使いを出して互いに物の融通をする事があった。
そんなヘナヘナヘルメット団が自分達に手を出してくるとは考えにくい。であるならばと河駒風ラブの脳裏には直ぐに噂の事が頭に過り、仲間達に部隊総出でヘナヘナヘルメット団のアジトに向かうと指示を出すに至った。
しかし……ヘナヘナヘルメット団のアジトに着いた時、そこには誰も居なかった。
アジトは荒らされ、戦闘の痕跡が残っていた。そこまでならば、前回、河駒風ラブがキヴォトスの中心地の方で目撃したのと同じだっただろう。しかし、今回に関しては前回とは明確に違う点が存在していた。それは、アジトに踏みいった際、目や鼻に刺激を感じたのだ。
ただ我慢出ない程ではなかった為、そのままアジトの中を進んだが、それで河駒風ラブはその刺激の正体か直ぐに分かった。間違いなく催涙ガスだった。どうやら使用されて時間が経っている為、催涙ガスはその効果を殆ど失っているが、その匂いがするという事は、ここで催涙ガスが使用された事を意味していた。
河駒風ラブ達が駆けつけた時には既に引き上げていたのだろうが、間違いなく、ついさっきまでここに襲撃犯が居た痕跡だった。河駒風ラブはもっと早く駆け付けられていたらと後悔したが、今はそんな事を考えている時間はないと、とにかく今出来る事を進めた。
仲間達全員で襲撃犯の正体に繋がる様な痕跡が無いかどうか、さらなる徹底的な調査を進めてた。そして、やがて室内で空の催涙ガス弾と発煙弾、また音響弾を発見するに至った。
これらの使用された状況と内部に残された弾痕などから導き出されるのは、どうやらこのアジトを襲撃した何者かは、非常に優れた戦闘能力を持っていて、しかもそれが複数人であったという事だった。
恐らくは一斉に窓などから催涙ガス弾、発煙弾、音響弾を投入しアジト内のヘナヘナヘルメット団の団員達を混乱状態に追い込み、さらにそこに懸垂降下などをしながら、外部から戦闘集団が入ってきて中に居た者達を最小限の戦闘で一網打尽にしたのだろうという結論になった。
そして……ジャブジャブヘルメット団からヘナヘナヘルメット団へと、お使いに出されていた子達はそれに巻き込まれ、一緒に連れ去られてしまったのだろうとも。
アジトの内部の調査と同時並行で一部の仲間達を河駒風ラブは周囲に偵察に行かせて、まだ周辺に襲撃犯が残っている可能性も考慮したが、残念ながら既に襲撃犯は現場から離れた後だった。
「クソっ!」
河駒風ラブは憤った。河駒風ラブにとって、ジャブジャブヘルメット団の団員達は皆、家族も同然だ。これは他の団員達も皆同じ気持ちだろう。そんな大切な仲間が得体の知れない謎の集団に連れ去られたのだ。憤らない理由は無かった。
するべき事は一つだった。攫われた子達を何としても取り戻す。河駒風ラブも他のジャブジャブヘルメット団の団員達も皆、考えは同じだった。
そうと決まれば行動は早かった。河駒風ラブは他のヘルメット団に何か情報はないかを聞き周り、また、周辺で不審な人物が目撃されていないかと聞き込みや、この噂が始まった中心地だと思われるキヴォトスの内陸部への団員総出の調査も行った。
調査は難航したが、それでも、噂の内容は事実である事が朧気ながらも分かってきた。調査を進めていくと、実際にグループが丸ごと姿を消したというヘルメット団が幾つかある事が判明し、さらに消失したヘルメット団に属していたメンバーのその後の足取りも全く分からなくなっている事も分かった。
それだけではない。グループが丸ごと消えたという話以外にも、グループから1人から数人程度の団員がある日忽然と姿を消したと言う様な話まで飛び出した。
殆どのヘルメット団はこれを、この界隈で活動していれば、よくある話程度に思っている様だったが、ジャブジャブヘルメット団は集めた様々な情報を精査していった結果、消えた人物達のその後の足跡を全く把握できないという点において、これが普通の良くある話では無いという結論にたどり着いた。
一連のグループ丸ごとの失踪は手口がよく似ていた。この事から、何者かが、キヴォトスの各地でヘルメット団や不良を狙って組織ぐるみで誘拐を行っている疑惑が出てきた。
何かとんでもない事が起きている気がする……河駒風ラブは直感的にそう思った。ここまで用意周到に誘拐をする理由は一体なんだ?身代金目的?人身売買?様々な考えが河駒風ラブの脳裏に過った。ただ一つだけ確かな事は、これら一連の失踪が本当に組織ぐるみで行われているとするならば、それを行っている連中は間違いなくヤバい連中だという事だ。少なくともヘルメット団やそこらの不良達などとは比べようがない程に。
そんな感じで、情報収集を始めて数週間が経過した時の事だ。事態が大きく動き出した。
河駒風ラブは得られた情報を精査して集められる範囲で集めた消失した各ヘルメット団の団員の写真付きの名簿帳を作成し、それをジャブジャブヘルメット団の各位に配って消失したメンバーが居ないかどうかを総力を決して各自治区で探してみたのだが、探し始めてから凡そ2週間後に、あるヘルメット団から居なくなった子と非常によく似ている子が街に居るのを発見したとの情報が入ったのだ。
その情報をもとに、情報のあった地域を重点的に捜索。こっそりと団員が撮影に成功した写真には、その子の顔が非常によく撮れていた。ただ、名簿の写真と比べると印象はかなり変わった様に見えた。事前に得られた情報によると、人前で素顔を晒すのも難しい恥ずかしがり屋な性格であったとされていたのに、普通に素顔を堂々と晒して街を歩いていた。第一印象からはそれが、同じ人物であるとは分からない程の豹変ぶりだ。
別人である可能性も当然疑ったが、顔の輪郭や目の色、髪の色から間違いなく本人だった。
その子を見つけた団員は密かに尾行を行い、その子がDU等のキヴォトスの中心地から離れた廃墟の多い廃れたかなり、治安の悪い地区に車で何人かと一緒に入っていくのを確認した。
河駒風ラブはこの報告を受けて、この地区に何か重大な手がかりがあるかもしれないと判断。その地区を重点的にかつ慎重に調べる事にした。結論から言って、その地区の出入りを観察しただけでも、なんと消失したヘルメット団のメンバー数名がその地区から出たり入ったりを繰り返している事が分かった。
河駒風ラブは発信機を購入し地区から出入りするのに使っている車にタイミングを見計らって着ける事に成功。何度かの確認の末、車が通るルートは統一性が無いルートをランダムで走るなど、かなり巧妙なルートを走っていたが、それでも、ある特定の場所に立ち寄っているという事を確認。
これをもって河駒風ラブは、その建物にこの消失事件を起こした首謀者のアジトがある!と判断。ジャブジャブヘルメット団は総出で首謀者のアジトと推定される場所へと乗り込む事にした。まだ確固たる証拠は出てきていない為、時期早々の判断であったかもしれないが、もうお使いの子達が居なくなって1ヵ月以上の時間が経過している。早く助けてあげたいという感情が全面に出て、待っていられなかった。
「絶対に助けるわよ!私達の仲間に手を出した事、後悔させるわよ!」
「「おー!!」」
ジャブジャブヘルメット団は総出の決起集会を空き地で行い、武装を整え、盗んで調達したトラックやワゴン車など数台の自動車に乗り込んで、闇夜に乗じて河駒風ラブ達、ジャブジャブヘルメット団一同は治安の悪い地区に乗り込んだ。
河駒風ラブはヘッドライトを照らし地区を駆け抜けるトラックの荷台の上で、風を感じながら、ただ前方を見据える。
「絶対に助けるから待ってて」
そう決意を呟き、河駒風ラブは自身の被るk6-3ヘルメットのバイザーを下ろし、ショットガンを構えるのだった。
⸻。⸻
あれ……ウチ、何やってるんだっけ……。
ぼんやりとした思考の中で、河駒風ラブは周囲を見回す。どんより暗い空。辺りは薄闇に包まれていて、赤く瞬く信号機と、ちらつく街灯の残光。街に灯りは灯っているが、疎らで中には完全に建物の窓が真っ黒な物もある。人の気配は一切無い。風も音もない。まるでこの都市そのものが息を潜めているかの様だと感じた。
河駒風ラブはビルの合間にある交差点の真ん中に立っている。アスファルトの上には色んな物が疎らに散らばり、そこかしこには車が無造作に乗り上げ、ドアが開け放たれたまま放置されている。そのどれもが無人で、まるで皆が一斉に何かから逃げ出したかの様だった。
河駒風ラブは直立不動のまま動けなかった。身体は無事なはずなのに、足が地面に縫い付けられたように動かず、ただ、薄いガラスのような感覚が彼女の意識を包み込んでいた。まるで頭に靄がかかったかの様なそんな感じだった。
「……、……」
「…………隊……長……」
どこか遠くから声が聞こえる。風の音と混じり、誰かが誰かを呼んでいる様な気配だけが残響のように耳の奥で揺れる。河駒風ラブはその声に眉をひそめた。
「……隊長……隊長……」
……誰かの声……これは、誰の声……。知ってる、声……。
「隊長!隊長!!」
ハッと、ラブの心が強く揺れた。目の前の光景がぐらつき、視界が一瞬、チカッと白んだ。
「隊長!隊長!大丈夫ですか隊長!」
──その声で、ようやく河駒風ラブはハッとする。頭にかかった靄が晴れた訳ではない。だが、使命感が溢れ出し、任務を続けなければという義務感によって思考が現実へと戻る。
見ると目の前に立っていたのは、全身に黒い戦闘用化学防護装備を身に纏ったラブが指揮する部隊の隊員の姿だった。フルフェイス型の化学防護マスクのレンズは景色を反射してしまう表面加工が施されている為に、その表情を窺い知る事はできないが、かなり焦った様子を見せてた。
「う、うん……大丈夫……一体何が……」
「ロボット野郎がまだ稼働していたんです。急に襲ってきて隊長と格闘戦に。野郎は隊長が倒しましたが、その時に隊長の化学防護マスクのベルトが外れてしまったみたいです」
「そういえば……」
そうだ。そう言われて見れば、確かにそんな記憶がある。自分は、ここにやって来て、"掃除" を指揮してて、そしたら、通り掛かった場所の足元の地面に倒れ伏して完全に機能停止していると思っていたロボットのサリーマンの一体が、急に動き出して襲いかかってきたのだ。
余りに急な出来事だった為に、この辺りの個体は全て無力化されたと油断してたのも相まって不意を取られた形になった事から事前に防ぐ事はできず、正気を失いホラー映画に出てくる様な動きで状態で襲いかかってきた為、不覚にも取り付かれてしまったのだ。
普通なら常軌を逸した動きをする者との格闘戦など、勝ち目は無いだろうが、河駒風ラブはこれまで身に着けてきた格闘術が如何なく発揮されて、ロボットを取っ組み合いの末に排除する事に成功した。
この組織に入りたての頃は力が無さ過ぎて、ペットボトルの蓋も開けるのに苦労していたが、今の河駒風ラブは完全に見違える変貌っぷりだ。
しかし、その格闘の最中、ロボットの腕が河駒風ラブが着けていた化学防護マスクに当たり、飛んでいってしまった。
拳銃でロボットにとどめを刺し、荒い息を整えながら、立ち上がった時にそれに気が付いた。河駒風ラブの目の前には、化学防護マスクのレンズに施された "フィルター" を介さない景色が広がる。
自分達以外には誰も居ない交差点、静まり返る街、そして、街中の街頭モニターに映る……それを見て……それから…………。
「隊長、本当に大丈夫ですか?……ウイルスの影響は、もうこの辺りでは検知されていませんので、大丈夫だとは思いますが、防護マスクが外れてミーム汚染を受けたんじゃ……」
「対抗ミームは摂取してあるから大丈夫……だと思うけど」
対抗ミーム?何を言っているんだろうウチは……。
「大丈夫なら良いですが……何かあったら、直ぐに言って下さい。医療班を直ぐに手配しますので」
「うん。ありがと」
ラブはそう答えると、飛ばされた科学防護マスクを見つけ拾い上げる。
「……ダメね。ゴムが切れちゃってる」
「直ぐに換えのマスクを持ってきます。トラックに予備があった筈ですので」
「ごめん、よろしくね」
そう言うとその隊員は走っていった。
その場にはラブだけが残される。いや、厳密に言えば視界の中には他にも隊員達の姿が映るが、自身の居る位置からはやや離れ、周囲を警戒している。
すると、先程、トラックの方へと走って行った隊員とは違う隊員が小走りでラブの方へと駆け寄って来た。
「隊長!ポイントωに向かった偵察分隊より報告です!……って、マスクしてないじゃないですか隊長!?」
「さっき、ちょっとね……」
「大丈夫なんですか!?」
「正気って事は多分、大丈夫だと思うわ」
「それなら良いですけど……」
「今、換えのマスクを持って来てもらってるわ。それで、報告は?」
「あ、はい。ポイントωに向かった偵察分隊より報告です。ポイントωに活動中のオブジェクトの反応無し。回収作業はいつでも可能との事です」
「分かったわ。本部に報告しとく。ポイントωはもう良いから、次のポイントに向かう様に指示して」
「了解です!」
「そう言えば、うちらの隣のエリアを担当している機動部隊ボスホート6から何か続報は入った?向こうのポイントΣで残存個体の一団と遭遇したそうだけど」
「現在戦闘中の様です。残存個体の一団はどうやらショッピングモールの地下倉庫に立て籠もってる様です」
「向こうから応援要請は無い?」
「今の所はありません」
「そう。まぁ、呼ばれないという事は大丈夫なんでしょう。でも、一応、チェックは怠らないで。増援要請には直ぐに応えられる様に」
そうだ⸻今、財団はSCP-████-JPを複数のエリアに区分してその一つ一つに機動部隊を派遣している。ボスホート6もその一つで、ラブの指揮している機動部隊の担当エリアと隣接するエリアの担当部隊だ。
数十分前にラブの部隊にも生存個体との遭遇と抗戦を伝達してきた。ボスホート6はラブの部隊と肩を並べる程の実力がある。大抵の状況には対処出来るだろう確信がラブにはある。
でも、相手はSCPオブジェクトであり油断する事は出来ない。ある程度の備えは必要だ。
ん⸻?財団?SCP-████-JP?機動部隊?ボスホート6?SCPオブジェクト?
何を考えているんだろう。何をウチは言っているんだろう……。
「向こうの対応はひとまずこれで良いわ。無力化した個体の回収作業の方はどう?」
「順調です。このエリアの回収作業は目標値の6割方といった所です。ただ、一部は腐乱が酷い為、後に回してる無力化個体もあります。幹線道路上のはほぼ全て片付けましたが」
「まぁ、初期に無力化された個体は、腐乱してて原型を留めてなくても当然だわ」
「はい。ですのでそっちの方は後日、改めて行う事になるかと。腐乱の酷い個体の対処をするとなると、ノルマを達成出来ないかもしれないです」
「そうね。今日中にここと合わせて、あと2つのエリアを終わらせる必要がある事を考えると、それが妥当な所ね」
「はい。他の機動部隊とも動きが連動してますから。そちらの方の兼ね合い的にも」
「良いわ。それで進めて。腐乱の激しい個体の回収は後日、改めて行いましょう。腐乱の酷い個体の場所のマッピングは念入りするのは忘れないで。病原菌の温床に成り得るわ」
「既にマッピングはしています。それと司令部にも後で回収する時用に石灰の手配をしてもらってます」
「流石、ウチの自慢の仲間ね。問題ない手際だわ。そのまま進めてちょうだい」
腐乱した死体は形が崩れ、やがて液状化し流れ出す。それらは土壌を汚染し伝染病の温床に成り得る。だから、回収時には石灰を撒いて除染を行う必要がある。
この手法は今は無きWHOを始めとした保健機関もまたパンデミック時の緊急時の対応として衛生学上、認めていた手法だ。
そして当然、SCPオブジェクトとはいえ、生物由来の無力化個体への対応としても正しい対応手順と言える。
そう、防疫対策としては文句無しに正解な筈だ⸻完璧な筈⸻何ら変な事は無い⸻変な事は⸻本当に?
「はっ!それでは私はこれで!」
「ええ、持ち場に戻っ……いや、ちょっと待って」
「はい、どうかされました?」
「いや、どうって程じゃないけど、連れて来た連中の様子はどう?」
「連れて来た連中って言うと……」
そうだ。きっとウチのこの不快感の理由はきっとこれだ。連中の事が信用出来ないからだ⸻本当に?
「そんなの一つしかないでしょ?」
「ああ、デッリウス」
「そう。そのデッリウス。調子は?」
「問題ありませんよ。特に不満も述べずによく働いてくれてます」
「そう……なら良いわ。ただ、財団の仲間とはいえ、あくまで協力者扱いである事は忘れないで。怪しい動きがあったら直ぐに報告して」
「了解。ところで何でデッリウスって識別名なんです?」
「……今それ聞く?」
「いえ、怒られそうなので聞かなかった事にします」
「はぁ……あとで教えるから、今は任務に集中して。重要任務中よ」
「了解です!それでは私はこれで!」
そう言うと、その隊員は話を切り上げて、駆け足で持ち場へと戻って行く。
ラブはその遠ざかって行く背中を見送ると、小声で全くお調子者なんだからと苦笑混じりに呟いた。
「……デッリウスか」
ふとラブは呟く。
デッリウス、それは財団が編成したある機動部隊に付けられた名前だ。その部隊の語源は人類文明の古代の時代、共和政ローマ末期の内戦中にカッシウス派からアントニウス派へ、アントニウス派からオクタウィアヌス派に陣営を乗り換え日和見主義者の異名で内戦を生き延びた古代ローマの将軍の将軍クィントゥス・デッリウスに由来する。
何故、機動部隊の名に日和見主義の代名詞とも言える名が付けられているのか。それはこの部隊の由来に関係する。
この機動部隊デッリウスは正規の財団職員によって構成されていないのだ。ラブらと同じ様にSCP-████-JP-Aで構成されているのは変わらないが、ラブらが徹底的に財団として訓練も教育も受けているのに対して機動部隊デッリウスを構成する者達は、財団があくまで今回の作戦の為に人手を確保する為に同盟関係を構築した複数の学園が自発的に財団に協力している、と思い込んでいる財団に傀儡下された個体群で構成されている。
ようは前者は財団職員としての忠誠心が有り、後者にはそれが無いという事だ。後者の彼女らにとって財団は、ただの利益共犯者に過ぎない。
そして、ラブの部隊に同行している部隊は機動部隊デッリウス-106だ。
ラブは正直に言って、こんな部隊を使うのには反対だった。どんなにミームや長期に渡る食事に仕込んだ精神薬で財団に牙を抜くリスクは最小に抑えられた上で思考を誘導されているにせよ、損得感情で動いているには違いはない。そんな連中を信じられる訳もない。
とはいえ、彼女らが居なければこの作戦が成立しない事も同時にラブは解っていた。現在の財団の人員だけでは到底、足りない。
別次元と繋がる、もしくは別次元と繋がっている可能性のあるSCPオブジェクトを使って別次元の財団に救援を求めるという計画は全て失敗し、奇跡論を用いた下位創作次元と安定的に繋がるゲートの開発にも失敗。シャンク=スクラントン因果擾乱器の再建も断念された。
あるのはSCP-████-JPに関連する異常実体を使った実験データのみ。
事ここに至っては、財団が勝利出来る方法は限られる。
つまりは、SCP-████-JPの物理的壊滅。
財団はこれを達成する為に、SCP-040-JPの性質と財団のデータベースが有する伝染性、精神作用性、致死性などの性質を有するあらゆるミームを統合した伝染性のある特殊なミームを開発した。
この特殊なミームは対抗ミームの摂取なしに曝露されるとSCP-████-JP-AやSCP-████-JP-Cの様な生物型の実体に対しては精神を崩壊させ廃人化させる性質を有し、SCP-████-JP-Bの様な非生物型の実体には精神崩壊に加えて遅効性で致死性効果を発揮する様に設計されている。そしてどちらにもSCP-040-JPの様な伝染性がある。
これをサイバー攻撃によってSCP-████-JPの街頭テレビから個人のスマホに至るまで緊急速報として流し、それと同時に市中に高致死性のウイルス生物兵器をばら撒いた。一部の場所には数は少ないが戦術核まで設置された。
これにより、ミームで狂って廃人となり餓死するか、それともウイルスに感染して死ぬか、もしくは核によって灰塵に帰すか、という状況を作り上げた。
こうして壊滅させたSCP-████-JPを、安全になったタイミングでサイト-8192やシェルターから出て占領。無数に転がる無力化され屍と化した個体群を衛生上の観点から回収し処分。
そして、サイト-8192で保存されていたSCP-020-JPから採取された遺伝子を使って復元された人間を人工子宮によって増産。文明を再建し再び地球を人類の手に取り戻す、というのが財団が立案した今回の作戦だ。
遺伝子学的に言うのであれば、SCP-020-JPを使って人間の遺伝子を復元するというのはかなりの手間だ。何故ならばSCP-020-JPは人類のDNAを有してはいるが、██%のDNAがタンチョウのDNAで構成されている為、ここから人間のDNAを復元するには██%のタンチョウのDNAを除去し、その欠けた部分の穴を埋めなければならない。
対して一番簡単なのはSCP-020-JPよりも遺伝子的に人間に近い遺伝子を有しているラブ達、SCP-████-JP-Aの遺伝子を使った方が簡単に人間の遺伝子を復元できる。しかし、忘れてはならないのはSCP-████-JP-Aは現実改変能力を持った異常実体であるという事だ。
SCP-020-JPも日本生類総研によって生み出された異常実体であるという事には変わりないが、異常性の度合いが強いのが、どちらなのかは火を見るよりも明らかだ。現実改変能力を持った実体の遺伝子を使うなど何が起こるか分かった物ではない。
だから、手間はかかっても財団は冷凍保存されていたSCP-020-JPの卵を孵化させ、遺伝子のサンプルを摂取し研究に研究を重ね、人間の遺伝子を復元したのだ。
⸻財団?ミーム?SCP-020-JP?日本生類総研?
だが、この計画には大きな問題がある。それが人手。
財団の人員は当初に比べれば格段に間違いなく増えた。しかし、この様な大規模な作戦を遂行するには到底足りなかった。
正規の手順ではどうやっても集めるのに、さらに少なくとも十年以上はかかる。そして人員が増えるという事は必要な予算も増える事を考えれば果たして本当に十年程度で出来るかも分からなかった。
だからこその機動部隊デッリウスだ。財団はいつ集め終えられるか分からない正規の財団職員を集め終えるのを待つのではなく、SCP-████-JP-Aの学園群の中から工作によって同盟勢力を創り出す事によって人員を確保した。
上の判断は正しい。
財団への忠誠心は無いとはいえ、最低限の思考の誘導は出来ている。財団を裏切る可能性も深層心理レベルで除去されている。ラブがまだ彼女らを信用できていないのは財団職員でない者を使う事にまだ納得が出来ていないだけだ。
「はぁ……何考えてんだろ。今は任務に集中、集中……」
ロボットとの取っ組み合いで頭でも打ったのかもしれない。作戦行動中に無駄な思考を巡らせるなんて。今は作戦の事だけ考えていれば良い。無駄な考えは終わってから幾らでも巡らせれば良い。
「これじゃあ、さっきの部下の事を言っていられない。集中しなきゃ」
ラブは両手で自分の両頬をパシッと叩き集中を入れ直す。
そうだ。この不快感の正体はロボットとの取っ組み合いで頭を打ったからに違いない。
「……一旦、指揮車に戻ろう。替えのマスクを頼んだ部下には悪いけど指揮車の方に持ってきてもら……」
そう言いながらラブは自身の機動部隊の隊員が多く居る傾向のある方を振り返る。指揮車もそっちの方だ。
そして視界に入る。ビル群の合間、広い交差点の中央部に部隊が集まっている。
ここに来るまでに路上に乱雑に放置されていた無数の自動車を除去してきたブルドーザー。戦闘指揮車。部隊の移動に使った兵員輸送トラック。無力化した個体を回収する為の兵員輸送トラック。
⸻無力化した個体?
ラブと同じ様に黒い戦闘化学防護服を着たラブの機動部隊員と白い化学防護服に身を包んだ機動部隊デッリウス-106の機動部隊員らが各々の作業をしている。
見える範囲内のラブの機動部隊員は主に部隊の護衛を。機動部隊デッリウス-106の機動部隊員は遺体収納袋に入れた無力化した個体を……次々と乱雑に積み込んでいる。まるでゴミ収集車にゴミを放り込むゴミ回収業者の様だ。
その傍らには路上に山積みにされた……中身の入った遺体収納袋。
⸻無力化した個体?遺体収納袋?
「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」
呼吸が早くなる。心臓がバクバク鳴る。冷や汗があふれ出る。急激な不快感がラブを襲う。
なんだこの不快感は。つい先程までは何もこの作戦に思う所も無かったのに、ラブの心を不快感が支配する。
⸻ウチは何を見ている?トラックに乗せられた死体。山積みにされた死体。
この任務は地球を人類の手に取り戻させる為の重要な作戦。疑問を挟む余地など一切無い。むしろ、この作戦に対してラブは強烈な使命感を抱いている。何としても成功させ、成し遂げなければならない重要な作戦。
ラブは周囲を見る。街が、街並みが広がっている。その街並みはすっかり荒れ果て、窓ガラスは割れ、車は路上の乱雑に放置されている。
そして、そこら中にある街頭モニターには⸻どのモニターにも共通して白い背景に黒で表示された財団のロゴマークが表示されていた。街頭モニターから家電量販店のショーウィンドゥのテレビ、携帯電話ショップのショーウィンドウのスマホに至る全てが全てが一様に同じ物を映している。
ラブは自身の傍らに横たわるつい先程、無力化した狂ったロボットのサラリーマンを見る。壊れた関節部分からはオイルが血液の様に滴り落ちる。
⸻ウチが殺した。
もう一度、自身の部隊を見る。相変わらず続く、トラックに詰め込まれる沢山の死体。路上に山積みにされた死体の山。
⸻あのトラックに乗せられている人達も山積みにされた人達もウチが、ウチらが殺した。この街、いや、キヴォトスの全てを。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
何を考えている?何を思っている?これはウチを含めた財団の悲願に向けた作戦じゃないか。
作戦の決定が伝えられた時、ついにこの時が来たかと、奮起していたのは紛れもなく自分じゃないか。仲間たちと、必ず成功させると意気込んでいたじゃないか。作戦の前には前祝と称して財団主催のパーティーにまで参加していたじゃないか。そして、その意気込みは今も変わらないじゃないか。なのになんだこの不快感は。
呼吸が鼓動が早くなる。戦闘化学防護服の下に着ている下着はとっくに冷や汗でぐしょぐしょだ。やはり、今のウチは変だ。救護班の所に行った方が良いかもしれない。
⸻仲間?
ラブは自身の自慢の機動部隊員達を見る。強固な絆の鍛え抜かれたラブ自慢の機動部隊。周囲を警戒する姿ひとつを取っても自慢の鍛え抜かれた獰猛な財団の猟犬達を。
何が猛烈にラブの脳内に引っかかる。
⸻仲間……仲間……仲間……そうだ。ウチらは得体の知れない連中に連れ去られた仲間を助ける為にカチコミをかける所だったじゃないか。
⸻あいつらは誰だ?いったい誰だ?いや、厳密に知っている。ジャブジャブヘルメット団のメンバーも大勢いる。なんなら、攫われた子も……でも知らない。あの子たちはこんな誰がどう見ても分かる程の特殊部隊なんかじゃないし、人を殺すなんて事、到底出来る様な子達じゃない。ウチだって……。
⸻それがどうして、キヴォトスを積極的に滅ぼそうとしている?大勢の人を殺している?平然と死体を回収している?
⸻自分達は今、何をやっている?何でこんな事をやっている?
確保せよ。収容せよ。保護せよ。
⸻分からない。
人類はこれまでにおよそ25万年もの歴史を歩んできた。しかしその歴史のうち特筆すべきは僅かこの4千年に過ぎない。
我々は25万年に渡って何をしていたのか?そのほとんどを、理解の外にあるものを恐れて、洞窟の中で小さな焚火を囲み身を寄せ合って過ごしていたのだ。太陽が昇る理由の未知よりも、人頭を持つ巨鳥や生命を宿す岩々の神秘こそが恐るべき『理外のもの』であった。そして我々はそれらを『神』と、あるいは『悪魔』と呼び、許しを乞い、救済の祈りを捧げた。
⸻違う…………違う!違う!違う!!……………これはおかしい!何かがおかしい!!ウチもあの子達も、こんな事をする人間じゃない!そりゃ確かに不良かもしれないけど、こんな事する人間なんかじゃ……!!
⸻でも、覚えてる……確かに覚えてる。作戦が始まって時間が経って、サイト-8192から出て。死体を回収して、その道すがら生き残りを見つけだした。生き残ってる人達はミームとウイルスが効かなかった可能性が僅かでもあるから危険って理由で投降も許さなかった。撃った。容赦なく。ウチが……ウチらが…………。
時は流れ、それらは次第に衰え、我々の数は多くに増えた。恐れるものは数を減らし、世界はより理に適ったものへとなり始めた。しかしそれでも、不可解なるものは決して消え去りはしなかった。まるで世界が不条理と不可能を必要としているかのように。
人類は恐怖から逃げ隠れていた時代に逆戻りしてはならない。他に我々を守るものはいない、我々自身が立ち上がらなければならないのだ。
「あ……あ…………ああ…………あっあっ…………ああ…………あっ……いや……ちが…………ああああ……う、ウチは…………ちが……あっ……あああ」
意味にもならない言葉がラブの口から溢れ出てくる。
両手で頭を抱え、それから自分の手を見る。震えたその手を。
人類が健全で正常な世界で生きていけるように、他の人類が光の中で暮らす間、我々は暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない。
⸻分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。
⸻分からない。
その手は土埃以外、何の汚れもついていない、ただの黒い手袋の筈なのに、ラブの目にはべっとりとどす黒い血が付いている様に見えた。
血は手袋からゆっくりと滴り落ち、ラブの足元に広がっていった。
「いや…………あっあっあっ…………ちが…………うち、ウチは…………やって……こんな……あ、ああ…………あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ラブの意識は急激に融解していった。
遠くで「隊長!?」「誰か隊長を取り押さえろ!」「急いで救護を!隊長を救護所へ運べ!急げ!」と声が聞こえた気がした。
「原因は分かりました?」
「いや何も。そもそも、
「でも実際、記憶の発露が起こってますよ?」
「と言っても、現状、ミームの暴露で記憶が戻ったのは彼女だけだろ?当時の環境的な要因とミームが奇跡的な組み合わせがあったのか。それとも彼女個人の資質的なものとしか言えないよ」
「確かに、散布したミームの影響を受けているとするなら、この程度で済んでいるのも変な話ですもんね……再現実験は?」
「今は何処も作戦で手一杯だからね。今すぐには無理だよ。まぁ、中々に危険な事が起こっている訳だから、実験自体は出来ると思うよ?だから当時の状況の現場報告は出来るだけ詳しくしておくように当該部隊には言っておいてくれ。実験に使うDクラスの申請はもうしておいたから」
「分かりました。でも、彼女の方はどうするんです?今は鎮静剤で眠ってますが」
「このままという訳にはいかないよ。記憶処理と、それから念の為、記憶改竄処置は必要になるだろうね。とにもかくにも彼女は機動部隊の隊長だ。今の財団の人的リソースを考えたら、そう簡単に失って良い人材じゃない。打てる手は打とう。また、彼女と同じ事が今後、起きる可能性もあるしね」
⸻。⸻
「作戦内容を説明するわ」
暗いブリーフィングルームで皆の注目が集まる中、ラブがタブレット端末を片手に映写機のスクリーンの前に立っていた。スクリーンには衛星写真と幾つかのマップ情報が映し出されている。
ラブの目の前にはオールインワンチェアに座った自慢の部下達が勢ぞろいしている。その場に居る全員がマルチカム柄の戦闘服を着ていた。
「12時間前、宇宙サイト-76の光学カメラがリゾート群島に複数の残存個体がコロニーを作っているのを確認したわ。財団の見立てでは奇跡的にミームの影響を受けず、さらには孤島故にウイルスが浸透しなかった一団の可能性が考えられるそうよ。もしくは奇跡的に逃げ延びたか。どちらにせよ、今回の私達の任務はその残存個体群の無力化。1時間後にこのポイントA-68に上陸して徒歩でコロニーを目指し、別動隊の機動部隊ボスフォート6と機動部隊SR班と現地合流して同時に襲撃をしかける。ヘイロー破壊爆弾の使用も許可されているわ」
「対象の規模は?」
「宇宙からの熱源探知では少なくとも289の個体の熱源反応が確認できたわ。コロニーは廃コンテナを使って作られた外周の防壁の内側に存在。見張り台、プレハブ小屋、複数のテントで構成されているわ。また、工事用の重機を数台と少なくとも装甲車を1台は保有している事が分かっている。重武装している可能性があるわね」
「宇宙からの支援はどれくらいありそうですか?」
「精々、情報支援が限度といった所ね。宇宙サイト-76からの高出力レーザー照射の支援やスペースプレーンからの爆撃の支援はよっぽどの事でもない限り得られないと思ってくれて構わないわ」
「見る限り、この規模程度の相手なら高出力レーザーの照射があれば一撃で直ぐに解決できそうですが、他の攻撃で今は手一杯でしょうし、仕方ありませんね」
「スペースプレーンもこの作戦前までに製造できたアトランタ型に加えて、月面エリア-32で量産体制が整えられたSu-T4-MS型もあるとはいえ、確か30機も無い。まだまだ数が足らないし致し方ないな」
「そういう事。無い物強請りは出来ないわ。ウチらはウチらで出来る事をしましょう」
「上はどれ位の時間で決着をつける事を望んでいるので?」
「到着後、遅くとも6時間以内といった所ね。[データ削除済み]サイト管理官は出来るだけ早い処理を求めているわ。まぁ、ここ以外にも奇跡的に生き延びた個体群の存在が確認されているから、当然と言えば当然と言えるでしょうね」
「つまり、SCP-████-JPの中心部から遠く離れた、この南国から7時間後には帰還の途につかなければならないという訳ですね」
「そうよ。差し詰め、0泊0日のハードな南国旅行といった所ね」
「それは大変そうですね」
部隊員達から笑い声が挙がる。
それを聞いて、ラブも小さく笑うが、直ぐに気を取り直す。
「いい?やるからには成功させるわよ!残存個体群の数は明らかに減少している。今が財団にとっての踏ん張りどころよ!人類の明日は私達の手にかかっているわ!」
「「はい!」」
「それじゃあ、みんな!上陸準備!上陸準備!」
ラブが手を叩く。するとそれに合わせ、部下達は一斉に動き出した。
足元に置いていた各々の背嚢から装備を取り出し着用を始める。目元ののみが開いた黒い覆面を被り、暗覗ゴーグルを付けたAirFrame Helmet型ヘルメットを被り、マルチカム柄の戦闘服の上に防弾プレートの入ったタクティカルベストを着て、夜間戦闘用の各種デバイスを付けたFN SCAR-Lを手に取り、異常が無いかを最終チェックする。
あっという間に完全フル装備の特殊部隊が出来上がった。
そしてそれはラブも同じであり、同様に準備を進め、他に遅れる事なく、皆と同様の姿が完成していた。
ラブはふと、窓の外を見る。
窓の外は何一つ景色が見えない漆黒の闇が広がっている。それもその筈。現在の時刻はとっくに日の落ちた時間帯であり、それどころか、ラブ達が居るのは一切の光源のない洋上だからだ。
実際、こうしている間にもブリーフィングルームは小刻みに振動している。船のガスタービンエンジンが船体を振動させているのだ。ガスタービンエンジンの産み出す強力な推進力によって船は夜の闇に包まれた洋上の前進を続けていた。
ラブにはこの船が今の財団の姿を示している様に思える。
何も見えない闇を切り裂き自らの目標を果たす為にただひたすらに前へと向けて突き進む。その姿はまさに今の財団に思えた。
ラブは自身のFN SCAR-Lのグリップを強く握る。
必ずや任務を達成する。その使命感から自然と身体に力が入った。今回の任務だけではない。今、財団が進めている作戦全般を必ずや達成しなければならない。
先ほど、自身が皆に言った様に人類の明日は自分達にかかっているのだ。
「隊長。総員、戦闘準備完了しました」
部下の一人がラブにそう報告する。それを聞いてラブは視線を皆に戻した。
全員が準備を完了していた。全員に全くの隙が無い。いつでも戦闘が可能な状態だ。
皆がラブの方を見ている。指示を待っている。
「それじゃあ、上陸に備えて車両甲板に移動するわ!ポモルニク型エアクッション揚陸艦が到着次第、私達は直ぐに上陸を開始する!機動部隊ナイト・ナイン!総員移動!」
「「はい!」」
ラブ率いる機動部隊ナイト・ナインの搭乗する船⸻財団が有する揚陸能力を持つ船の中でも、最大規模かつ、機動部隊ナイト・ナインが主に運用し部隊を象徴する存在でもある、このホバークラフトは一同を乗せて、財団がこの作戦を実行する前は観光産業で華を咲かせSCP-████-JP内でも有数のリゾート地であったリゾート諸島へと向けて夜の海を駆け抜ける。
ラブ達は知らない。このホバークラフトがかつて自分達が拠点として使っていた思い出深いホバークラフトである事も、これから向かう先が、かつて自分達が訪れた事のある思い入れの深い場所である事も。
ラブ達は知ることは無い。これからラブ達が何をしようとも。
自らでは到底、気づく事などできない。
自らで、それに気づくとするならば、それには途方もない奇跡が必要だろう。
[インシデント記録████-1██]
日付202█/██/██、SKR(Shift Dominance Keter Reconstruction)-クラス:支配シフト再建シナリオの第2段階作戦であるクリーンアップ作戦中において、機動部隊ナイト・ナインの指揮官を務めている河駒風ラブ機動部隊員がミームに暴露し、財団職員となる前の記憶が発露する重大インシデントが発生しました。
インシデント発生時、河駒風ラブ機動部隊員指揮下の機動部隊ナイト・ナインは機動部隊デッリウス-106と共にSCP-████-JPの[編集済み]自治区の[編集済み]地区のクリーンアップ作戦に従事しており、主に偵察及び警戒の他、幹線道路の開通作業及び幹線道路沿いの無力化個体の処分作業に従事していました。この際、ミームの影響下にあり錯乱状態ながら未だ可動中の状態であったSCP-████-JP-B個体の奇襲を受け、河駒風ラブ機動部隊員は応戦するも、対ミーム処置が施された化学防護マスクが破損し外れる事態が発生。これにより、現地の街頭モニター及びスピーカーから発せられていたミームに暴露しました。作戦に当たり、全ての機動部隊員には対抗ミームが摂取されており、河駒風ラブ機動部隊員も例外ではありませんでしたが、恐らくは環境的要因もしくは個体差的要因によって記憶処理及び記憶改竄処置に綻びが発生しました。
SKRクラス再建シナリオに投入されたミームは設計上、この様な効果は発生しない筈でしたが、未知の要因(研究チームは当時の現場の環境的要因や個体差的要因が原因である可能性が高いと推測しています)により、この現象が発生したと考えられます。実際、他にも同様に化学防護マスクが破損しミームに暴露してしまった事例は数例報告されていますが、財団職員以前の記憶が発露した例は本インシデントのみです。河駒風ラブ機動部隊員は暴露直後は、周囲の機動部隊員達の証言からも様子に問題は無かったものの、数分後に重度の錯乱状態に陥り、銃を叫びながら銃を乱射する行為に及びました。現場の機動部隊員によって速やかに取り押さえられた後、救護所へと搬送されました。搬送後も錯乱状態は続き暴れる様子が見られたため、直ぐに鎮静剤の投与が行われました。その後の検査によって、財団職員になる前の記憶の一部が発露している事が判明し、一方で財団職員として形成された自己意識及び記憶も引き続き維持している事も分かった事から、これによって重度の錯乱状態に陥ったと結論付けられました。記憶処理された記憶が復元されたメカニズムは分かっていません。
財団は財団職員以前の記憶が発露したという事を受け、本事案を重大なインシデントであると認定しインシデント記録████-1██に認定しました。本インシデント後、全ての財団職員には屋外での活動中に当該ミームに暴露した場合は、本人の体調の如何に関係なく、速やかに暴露者を指定の救護所へと搬送する事が厳命されました。暴露者には速やかにミームの影響を除去する為、対抗ミームの追加摂取の他、クラスD記憶処理と記憶改竄処置が施され、1ヵ月間は要観察となり定期カウンセリングの実施が定められました。
河駒風ラブ機動部隊員の錯乱症状はクラスD記憶処理及び記憶改竄処置によって完治が確認されました。また、発露した記憶の再度抹消の成功も確認しました。現在、河駒風ラブ機動部隊員は治療とカウンセリングを経て任務に復帰。ミルグラム服従度検査の結果も暴露以前の状態に完全に回復した事が確認されています。
[SCPSケファロニア-LCAC-001]
SCPSケファロニアは財団が保有するホバークラフトです。その姿、構造、性能はポモルニク型エアクッション揚陸艦に酷似しています。事件記録████-███において財団を襲撃したジャブジャブヘルメット団が所有していた物を当該ヘルメット団人員の吸収後に20██/██/██に財団が接収しました。接収前の船名は[編集済み]でしたが、財団による接収後に現在のケファロニアに改名されました。SCPSケファロニアは事件記録████-1以後の財団における初の洋上戦力であり、初の揚陸機能を持った艦艇です。初の艦艇であり、かつ、貴重な揚陸能力を要した艦艇であった事から洋上戦力の数が確保されるまで財団の活動を中心戦力として支えました。現在は機動部隊ナイト・ナインが主に運用しています。
SCPSケファロニアのより詳しい運用情報の閲覧にはサイト-8192のサイト管理官の承認が必要です。サイト-8192サイト管理官に申請して下さい。
部隊任務:機動部隊मा-██は特殊部隊訓練を受けたSCP-████-JPA個体の戦闘員によって構成されている部隊です。戦闘任務を主眼としていますが。サイト-8192の人員不足による影響から部隊の活動はフィールドワークから収容活動に至るまで研究活動を除く大半を網羅しています。機動部隊मा-██の人員の大部分は財団に吸収されたジャブジャブヘルメット団を起源に持ちます。
活動報告書:
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● オペレーション・アポロン
オペレーション・アポロンは202█/██/██に実施された事件記録████-1後では初となる月面の財団施設に対する有人調査作戦です。共同宇宙旅行事業としての名目で[編集済み]高等学校と財団のフロント企業が共同で運営している宇宙旅行委員会が有するSCPSアトランタ型スペースプレーンを用いて実施されました。
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● オペレーション・アルテミス
オペレーション・アルテミスは202█/██/██に実施された宇宙サイト-76の復旧を除けば事件記録████-1後では初となる本格的な財団施設の復旧作戦です。月面エリア-32を対象に実施されました。機動部隊मा-██("ナイト・ナイン")、機動部隊मा-██("ボスフォート6")、機動部隊मा-██("ドミニク")及び、技術エンジニア部隊の合同任務として行われました。共同宇宙旅行事業としての名目で[編集済み]高等学校と財団のフロント企業が共同で運営している宇宙旅行委員会が有するSCPSアトランタ型スペースプレーンを用いて月面サイト-32に最小限の作戦人員と機材を搬入。現地の使用可能な残存機材を活用して施設の再稼働作業を行いました。
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● SKR-クラス:支配シフト再建シナリオ
当該メモはSKR(Shift Dominance Keter Reconstruction)-クラス:支配シフト再建シナリオに関連する重要資料です。アクセスするにはレベル5セキュリティクリアランスが必要です。許可なくアクセスした場合、終了処分が科せられる可能性があります。アクセスを継続しますか?
メモ:
※補遺:当該メモはSKR(Shift Dominance Keter Reconstruction)-クラス:支配シフト再建シナリオが実施されるに至った経緯に関連する重要史料群の1つとして登録されている物です。執筆年月日は20██/██/██。SKR-クラス:支配シフト再建シナリオが計画される以前となります。
失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
私達は失敗した。
何も上手く行かなかった。
確実に別次元と繋がっている事が分かっているSCP-035-JPとSCP-379-JPを使って別次元の財団に救援を求めるのも、繋がっているかは怪しいけど別次元と繋がっている可能性も否定できないSCP-184-JPを使って救援を求めるのも、全部上手く行かなかった。何度にも渡る探索で得られたのは良く分からない次元と、SCP-379-JPを伝って私達の次元にまでやって来て財団の収容区画を半壊させたあの化け物だけ。SCP-184-JPに至っては結局、あれが別次元なのかすら特定できなかった。
救援を求められないのならば、自分達で挑むしかない。でも、百鬼夜行連合学院の自治区で確認された事案をベースに財団の奇跡論を組み合わせて下位創作次元からこの次元に人類を召喚する試みも研究したけど、崩壊させずに召喚する方法は結局、編み出せなかった。数ある手段の中で一番、理論上は可能だったシャンク=スクラントン因果擾乱器を再建しようという試みも今の財団の組織力不足が足を引っ張って実現できるかは不透明だった。
結局、分かったのは度重なる実験で蓄積されたSCP-████-JP由来の実体を終了させる方法だけ…。
何も上手くいかない!
なんでこんなにも上手く行かない?時間を浪費しただけだ。やっぱり、私じゃ荷が重かった?役者不足だった?私が人類の未来を取り戻すなんておこがましかった?なんで、ここに居るのがO5じゃないんだ!O5じゃなくても良い!せめてもっと高位の役職の人だったら良かったのに!財団にはもっと適任者が居たのに!ここに居るのが私じゃなかったら。別の人が居たんだったら、もう今頃、とっくに人類は勝利していたんじゃないか?この長い悪夢もとっくに終わってたんじゃないか?
これまでやってきた事の全部が無駄だったとは言わない。間違いなく上手く行った事もあった。財団は少しづつ大きくなってる。最初の頃と比べれば雲泥の差だ。でも、一番成し遂げなければいけない事が全然、上手く行かない!
なんで私なんだ…。なんで生き残ったのが私なんだ。もっと適任は大勢居たじゃないか…。
くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそ!!!!!!!
もう私しかいないんだ…私が皆を引っ張っていくしかないんだ…。
落ち着け。でも、こうなる事も予想して今まで行動してきた。最終手段だけど財団にはまだ打つ手は残されてる。幸い実験で得られたSCP-████-JP由来の実体を終了する方法が役に立つ。現状で一番実証データが取れていいる事を踏まえれば最も確実性にとんだ方法だ。懸念点はSCP-████-JPそのものを何とかする事が出来ない事だけど、この際はやむを得ない。多少強引な手段ではあるけど物理的な滅亡イベントを発生させる。
その為のSCP-020-JPだ。SCP-020-JPの卵をここに保管してくれた担当者には感謝しかない。もしも、SCP-020-JPが無かったら、SCP-████-JP-Aを使わざるを得なかった。そして、SCP-020-JPを作ってくれた日本生類総研にも感謝しかない。まさか日本生類総研に感謝する時が来るなんて。
SCP-020-JPは私達の最後の希望だ。試しに孵化させた個体は順調に成長した。既に遺伝子採取を行って、それを基に人類の遺伝子を復元する作業は完了した。今は復元した遺伝子を基にLisa.AICが作成した人工卵子と人工精子を使っての、人工子宮での培養プロセスに移行している。人工子宮の透明なバイオバッグ越しに見える人工羊水内の胎児の成長は順調そのものだ。あとは量産体制を構築すれば良い。種としての人類の復活はもう目前に迫っている。
でもまだだ。あと少しではあるけど。今試験的に培養している子が無事に産まれた事を確認した上で、量産体制を構築し、一定の数が無事に産まれた事を確認して初めて、物理的な滅亡イベントを計画に移せる要件がクリアされる。多少の時間はかかるだろうけど、それでも他のいつ実現できるかも分からない計画よりは遥かに実現性が高いのは確かだ。
私じゃなかったら、もっと非の打ちどころの無い、やり方を思いつけたかもしれないけど、これが今の私、いや、財団の限界だ。こんな根本原因を解決できない方法しか実現できない状況に自己嫌悪で吐きそうになる。SCP-████-JPの問題を根本的に解決できる訳じゃないから本当はやりたくなかった。でも、手段がこれしか残されていないのなら仕方ない。
私達は絶対に勝利しなければならない。
To:[データ削除済み]サイト管理官
from:不知火カヤ サイト次席管理官
件名:作戦報告
[データ削除済み]サイト管理官。
宇宙サイト-76並びに復旧させた月面の財団施設からの遠距離分析によってSCP-████-JP関連異常実体群の大半の無力化を確認しました。都市部においては完全な無力化の達成に成功。既に制圧地域内における安全は保障されています。残る残存個体群は地方部において幾つかの残存コロニーが存在するのみです。
ここに財団はSCP-████-JPの主要都市部全域を完全に制圧下に置いた事を報告します。
Tale_IF:機動部隊ナイト・ナイン
THE_END.
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