【連載版】ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし戦う使い魔面してみた。   作:御花木 麗

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主人公とメインヒロイン

中級悪魔ヴァレフォルが、何故ご主人が今さっきまで持っていたルシファーの魔導書を気付かれずに奪えたのか。

それは単純で、ヴァレフォルの能力が相手の物を自分の手元に手繰り寄せる略奪の能力を有しているから。

 

「…やられた」

 

この2人は原作ゲームで敵対していた組織に所属していたバビロン側の人間だが、そんな奴らがこの魔導書を狙っていたのは分かっていた事だろう。

 

なのにいつのまにか、天使の事で頭がいっぱいになっていて、バビロンの事について疎かになっていた。

 

ヴァレフォルの能力の欠点として、奪おうとした物に対する所有者の所有欲が高いほど盗みにくくなる。

 

略奪失敗すると、一度ヴァレフォルが盗んでも僕らの方に戻ってくるはずなのだが………。少し戻るのを待ってみる。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

沈黙の30秒。

ヴァレフォルの手元から一向に僕らの所にルシファーの魔導書が戻ることはない。 

 

 

完全に略奪成功されてんじゃん!

 

ルシファー召喚の魔導書を持っていたのはご主人。

つまりご主人のルシファー召喚の魔導書に対する所有欲が、そこまで高くなく、そのまま完全に略奪に成功されたみたいだ。

 

まぁ、これに関してはご主人を責めるべきじゃない。

 

ご主人は必死に頑張ってくれていたし、なによりルシファーの魔導書の詳細を詳しく教えなかった僕に責任がある。

詳しく教えとけば、この魔導書に対して持っとかないとやばい!という所有欲が高まったかもしれないが、何故やばいのかという事は教えない最低限の情報なだけだったため、そこまでの所有欲が芽生えなかったのだろう。

ただ僕が守っといてというだけで、その物に対する所有欲なんてそうそう出てこない。

言われたから守るのであって、その物に対して何か感情を抱くのはなかなか難しいものだ。

 

ちゃんと説明するべきだった。

 

「おーい、なんか喋れよ。つまんねーじゃねぇか」

 

「そう、急かすんじゃないですよ、ヴァレフォル。

やっとの思いで野良の天使達を追い払って守ったはずのその魔導書を、ガイヤである私達に呆気なく取られたんですから。心中お察ししますよ」

 

ぐぬぬ

 

言わせておけばぁ…!

 

僕が歯噛みをしているとご主人が口を開く。

 

「…お察ししてくれるなら、気持ちを汲み取ってそれ返してもらっていいか?」

 

ご主人…。

 

「お察ししますが、だからといって汲み取るかは別の話です。こっちも仕事でやってますから」

 

「人の物盗んどいて、それを仕事だなんて立派な犯罪じゃないか」

 

「悪魔と契約しといて正義面ですか。それはないでしょう」

 

僕はご主人が喋る事で、時間稼ぎと隙をついてくれているのだと分かった。

 

僕はご主人が作ってくれた隙を無駄にはしない。

あの2人から死角になるような所で小型の短剣を形成する。

そして一歩足を踏み出した瞬間だった。

 

シュッ…ガッ。

 

「おっとーー」

 

 

僕の足元の手前に投げナイフが地面に突き刺さった。

 

 

「ーーそうは、させねぇぜ」

 

ヴァレフォルが投げナイフを投げ僕の行動を遮る。

 

いきなりはやめてよ。

すごくびっくりしたじゃないか。

 

 

「さっきから契約した人間にだけ喋らせて自分は喋らないなんていいご身分なこった」

 

 

「そうだよ、いいご身分さ。なんたって僕は上級悪魔だし、僕にご主人はメロメロで骨抜きにされてる」

 

「されてねーよ!!」

 

「ふーん上級悪魔ねぇ」

 

その言葉を聞いた瞬間2人の目つきが鋭くなったのが分かった。

 

……あぁ、別にこのタイミングで虚勢張る必要なかったのに。

余計面倒になった。

本当、僕の悪い癖だ。

 

 

「名は?」

 

「……」

 

「…まぁ、いいでしょう、ここらで引き上げるべきです、ヴァレフォル。今回戦闘より、優先すべき事はこの魔導書を安全に持ち帰る事です。そうでしたよね?」

 

 

「ちっ…なんだよ。もうちょっと遊んであげてもいいじゃねぇか。…丈翔の言うとおりにするけどさぁ」

 

ちょっ…これって逃げられるパターンじゃ。

 

「逃すか!」

 

僕は足元手前に突き刺さった投げナイフを抜いて、ヴァレフォルに向かって投げつける。

 

だが、投げたナイフはヴァレフォルに向かっていく途中で消え、その数秒後にはヴァレフォルの手元にあった。

 

略奪の能力で、投げられたナイフを手元にたぐり寄せたのだろう。

 

「おぉ、忘れる所だったぜ。また投げナイフを置きっぱなしにして怒られる所だった。どうせ経費で落としてくれんなら、それでいいのにな」

 

「無駄口ですよ」

 

「はいはい、じゃあなお前ら」

 

「……ッ」

 

 

ヴァレフォルがその言葉を言い終えると同時に、視界が白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ…やられた。もうおしまいだぁ」

 

僕が居るのはご主人のおばあちゃん宅。

そのリビングのテーブルにて現在進行形で突っ伏していた。

 

光玉を使って視覚を潰されているうちに逃れてしまったのだ。

 

なんたる不覚。

 

光玉は命中率を下げる用途で使うんだぞ!!

目眩し目的として使うんじゃないよ!!

 

僕も悪魔になりきる時にご主人に目眩し目的で使ったけども!!

 

 

僕らはヴァレフォルと丈翔が去った後、周りを2時間ほど捜索したが2人は見つからなかった。 

 

建物も少ないこの周辺でよくも僕らに見つからず、完全に逃げきられた。

 

僕らもあそこまで逃げるのが上手ければ、天使とあんな事しなくても良かったのかもしれないけど、どっちにせよ過ぎた話だろう。

 

ご主人と僕は元々大掃除を終えたら帰る予定だったので、探索を切り上げしぶしぶ家に帰る事にした。

掃除も中途半端な所で終わってはいるが、もう僕らに続きをやる気力や体力は残ってない。

だけど僕らが捜索している間に、あの時2時間後にくる予定だったバスは通り過ぎたので、さらに2時間も待たなきゃいけない。

 

その間、どうしようもないと判断して、一度ご主人のおばあちゃん宅に戻ったのだ。

 

 

おばあちゃんの安否をご主人が戻ってすぐに確認したが、傷一つ付いておらず、部屋も荒らされた様子は無かったそうだ。

 

どうやら僕らがこの場からすぐに離れた事には、意味があったらしい。

 

ついてない事ばかりのこの頃。

不幸中の幸いと言える。

 

ご主人は、自分のせいでルシファーの魔導書が盗られたと結構落ち込んでいた。

そんなご主人に取り返せば大丈夫だよと励ましたけど、

正直、僕は焦りに焦っている。

 

そんな僕とは対照的にご主人は、僕がなだめて落ち着きを取り戻していた。

 

 

「ごめん、お待たせ。ここの冷蔵庫にある物で作ったから、簡単な物しか作れなかったけど豚肉とピーマンの炒めとご飯に味噌汁」

 

エプロンを身につけたご主人が、お盆にご飯とおかずをのせて僕が突っ伏しているテーブルまでやってくる

 

 

僕はその美味しそうな匂いに釣られて顔を上げる。

 

「……おぉ、美味しそう!わざわざありがとね。ご主人」

 

「あぁ、まぁ気にするな。俺らさっきまで、走りっぱなしだったからお腹すいただろ?まだバスが来るまで余裕があるし、今のうちに食べておこう。それと…」

 

 

「うん、分かってるよ、ちゃんと説明する……だからその前にまず一口食べさせて」

 

 

 

口からよだれが出そうになるのを我慢して僕はご主人にお願いする。

今日は僕にとって激動の1日だった。

精神的にもぐだぐだで身体的にもぐだぐだだ。

お腹もそりゃあー空いている。

そんな所に美味しそうなご飯。

目の前に餌があるのに待てをさせられている犬の気分だ。

 

「あぁ、そうだな、食べるか。…あ、先に食べててくれ、ばあちゃん起きたから、ばあちゃんにもご飯渡しとかないとだった」

 

「流石にそれくらいは待つよ」

 

「了解、あーそれと手土産喜んでたぞ、掃除もありがとうだってさ。こんな田舎だけど、気軽においでとも言ってたな。会うのは、恥ずかしいからって部屋から出てこなかったけど。…ばあちゃんがシャイだとは知っていたけどここまでとはな」

 

どうりで原作ゲームで、主人公のおばあちゃん宅が結構な頻度で出てくるのにも拘らず、おばあちゃん自体が描写されないわけだ。

部屋に引きこもっているなら納得である。

 

こういったジャンルのゲーム主人公などにありがちな、両親が海外主張で一人暮らし状態になる、代替案として考えられた設定だったりするのだろうか。

 

まぁ、そんな原作ゲームへのメタ思考は無粋か。

今は現実なのだから。

 

 

そうこうしているうちにご主人は戻ってきて、料理がのったテーブルを囲む。

 

「じゃあ食べるか」

 

「うん」

 

「いただきます」

 

「いただきまーす!」

 

さぁ。いよいよご主人のご飯を食べる時が来た。

 

ご主人がご飯を作ってくれると聞いて結構楽しみにしていたのだ。

 

なにせ主人公が作ってくれたご飯!!

これも少年主人公などにありがちだが、やたらと家事スキルが高く料理を作るのが上手かったりする。

その特性を原作ゲームの主人公もしっかり持っているという事は、ご主人も料理を作るのが上手という事でもあるのだ。上級悪魔ルシファーの胃袋を掴んで離さなかった料理を実際に食べれるのだ。

 

じゃあまず一口。

 

僕はお箸で具材をつかみ口の中に入れ、舌で味わう。

 

「…んー!美味しい!美味しいよ、ご主人!」

 

今日は、本当の本当に激動の1日だったけど、美味しい物を食べて、少しだけ心が安らいだ気がした。

 

 

「それは、良かった。ヒョウの口に合うか心配だったから」

 

 

まぁ、これからもっと忙しくなるけど…。

 

 

 

 

 

 

僕は伏せる部分は伏せて話せる範囲で今回の件に関連する話をした。

 

伏せた部分とはこの世界のメタ的な要素(ご主人が主人公など)やまだ話さなくても良い、現時点では余計な情報になりかねない部分などである。

 

話した部分は、野良の天使の詳細やバビロンという組織の詳細、ルシファーやルシファーの魔導書についてと、ルシファーの魔導書をそれぞれに渡してはいけない理由など。

 

「…天使や悪魔と契約して好き勝手やってるっていう、そのバビロンって組織が、表では俺も聞いた事があるような超有名な大企業とかもやってるだなんて、信じ難いな」

 

「まぁ、そうだろうね。ここ最近でニュースになっている不可解な事件や行方不明なんかは、この組織が関わっている事が多かったりする。まぁ、ほとんどの場合、世間に出回る前に揉み消されるから、出回るのはほんの搾りカスみたいなもんだけど。そんな組織に、上級悪魔のルシファーが召喚できるアイテムが渡ってしまったと…」

 

「すごくやばいな…それ」

 

「そうなんだよ…上級悪魔を悪用でもされたら、たまったもんじゃないんだ」

 

「本当にごめんな…そんな物がうちのばあちゃんの家にあったのも驚きなんだけど、俺のせいでそんな物を盗まれちゃって…」

 

僕は苦笑いをして言う。

 

「言ってるじゃないか、取り返せば何も問題ないって」

 

本当はこの世界は正規ルートを進んでない時点で問題しかないんだけどね。けど、こんな事は言っても仕方ないし、これ以上ご主人には、あんまり思い詰めて欲しくない。

 

「でもそれを取り返すために僕1人ではどうにもならない…だから手伝ってくれないかい?ご主人」

 

 

「あぁ…!もちろんだ!俺に出来ることはなんでもする。言われれば、鼻でスパゲッティーでも食べてやらぁ!」

 

「それ何処ぞの猫型ロボットの所の少年思いだすなぁ」

 

僕は心に留めておかないとならない。

もう原作からはほど遠い未知の領域に突入した事を。

原作ゲームでは最初にルシファーを主人公が召喚するから、こういったルシファーを召喚できる魔導書の取り合いが大事に発展する事なんてない。

 

 

それでも起きてしまったからには、できる限りいい方向に導かなければ。

 

 

 

 

ーーーーそれが僕の責任だから。

 

 

 

「なぁ、ヒョウ。それはそれとして好き嫌いはダメだぞ」

 

ギクッ

 

 

「さっきから分かってるんだぞ。話の腰を折りたくなかったから言わなかったけど、ピーマンを避けて豚肉しか食べてないよな?」

 

「な、なんのことかなご主人。そんな言いがかりはよそうよ」

 

「ピーマンも一緒に食わないと、それただの豚肉炒めだろ」

 

「え、そこ!?」

 

「ほれほれ、取り皿にピーマン移してやるからさ」

 

「やめてよ。ご主人、本当にピーマンだけは昔から無理なんだ」

 

好きな板チョコと違ってピーマンは転生前から無理なのだ。

つまり筋金入りのピーマン嫌い!

 

僕は取り皿にピーマンが入れられないように、取り皿を取り下げようとするが、その腕をガチッと掴まれ離さない。

 

「よーしもう逃さない。大人しくピーマンも食べるんだな」

 

「嫌だあぁぁぁ!やめてくれぇぇ」

 

 

強制的に僕の皿にどんどん盛られるピーマンを見ながら僕はそう叫ぶしかなかった。

 

 

 

 

 

俺、宝生 稔とヒョウは俺たちの住む地域に帰るべく、夜中のバスに乗っていた。

 

夜中のバスは、静寂とともに走り続けていた。車内にはわずかな乗客が座り、それぞれが自分の世界に閉じこもっている。一人の若い人がヘッドフォンから漏れる音楽に耳を傾けながら、スマホをいじっていたり、後部座席には、疲れ果てたサラリーマンが深い眠りに落ちていたりする。

 

俺は隣に座るヒョウの話を聞いていた。

ヒョウは周りにうるさくならないよう、声のボリュームを下げて喋っていた。

 

「ーーという事だから、あの魔導書を取り返すには、ちゃんとした計画を立てるべきなのと、協力者がいると思うんだ」

 

 

「協力者?」

 

「うん、流石に僕たち2人であの組織に立ち向かうのは心細いからね」

 

「でも、当てとかあるのかよ、それ」

 

「んーまぁ…」

 

ヒョウが話している途中、声が次第に小さくなり、ついには俺の肩に頭を預けて眠りに落ちてしまった。

随分疲れが溜まっていたのだろう。

 

華奢な体が、俺の肩に寄りかかるのを見て、俺は思う。

こんな小さな体で俺をあんな脅威達から守り抜いた。

契約通りに。

いくら悪魔だろうとそれは変わらない事実。

 

「…本当によくやるよ、あんたは。だからこそ俺はとことん重りにしかなってないんだよな」

 

俺はそのまま、彼女の寝顔を見つめながら、これからの事ついて思いを巡らせていた。

 

その間もバスは静かに夜の闇を切り裂きながら、走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァレフォルと丈翔は、魔導書を手に入れた後支部に戻っていた。

彼らを待ち受けていたのは厳格な顔をした50代くらいの男性だった。

深い皺が刻まれた顔には、長年の経験が滲み出ている。鋭い目つきと引き締まった口元は、威厳と冷徹さを感じさせる。

白髪混じりの髪と痩せこけた体からは、年齢以上に老けて見える風格が漂っていた。

彼は白衣をまとい、白衣のポケットからは、いくつかのペンとメモ帳が覗いていた。

 

 

「魔導書は見つかったのか?」とここの支部長でもあるシゲルは冷たく問いかけた。

 

「最初はあなたからこの話を持ちかけられた時、半信半疑でしたが、実際に野良の天使達を気づかれないように、尾行していたら手に入れちゃいましたよ、ほらこれ。まさかまさかですよ」

 

 

丈翔はそう言いながら魔導書をカバンから取り出す。

しばらくの間それをシゲルはじっと見つめた後、深く息を吐き言う。

 

「よくやった」

 

「そうそうそれと、リーダーから正式に、それを使った召喚実験を行っていいと許可を頂きましたよ。あなたがどうしても自分の手でルシファーの召喚実験をしたいと言っていましたからね。

普通はこんな特大物は、即本部行きですが、あなたが掴んだ、野良の天使達の情報からこの魔導書が手に入ったとの事で、少しくらいの融通は効かせるとの事です。ただしーー」

 

「ただし、なんだ?」

 

「一ヶ月以内にルシファー召喚の兆しが見えなければ、本部に召喚実験の引き継ぎを行うそうです。なんでも、ルシファーを召喚できそうな適性者を既に何人か探して、目星をつけたらしいので。上級悪魔の中の上級悪魔召喚とあってリーダーも張り切ってますからね」

 

「分かった、それでいい。一ヶ月もあれば充分だ」

 

「ジィさんもよくやるぜ。そんなに上級悪魔と契約したいかねぇ」

 

「ふん、小悪魔には分からん事だ」

 

「誰が小悪魔だっつーの!中級悪魔を小悪魔呼ばわりとはいい度胸してんじゃねぇか。殺すぞ」

 

「落ち着いてくださいヴァレフォル、そしてあなたも挑発するような事をヴァレフォルに言わないでください」

 

そう言って丈翔はシゲルにルシファー召喚の魔導書を渡した。

ヴァレフォルと丈翔は、渡して部屋を後にしようとしたが、その時、丈翔はふと立ち止まり、出口の前で振り返った。

 

「シゲルさん、一つだけ忠告しておきます」

 

丈翔の声には、いつもの軽妙さとは違う、真剣な響きがあった。

シゲルは眉をひそめ、丈翔を見つめた。

 

「分かっているとは思いますが、組織の方針から大幅に外れた、天使や悪魔、またはそれら関連の私的利用は、組織の規約で禁止されています。

ルシファーの魔導書を私的に利用すれば、組織側から物理的にクビが飛びますよ。これは冗談ではありません。組織はそこら辺に対して非常に敏感ですから」

 

「ふん」

 

「まぁ、私らはしばらく、こっちに居ると思うので」

 

そう言い残し、今度こそ2人は部屋を後にした。

 

 

 

残されたシゲルは机の引き出しから古びたある写真を取り出し、静かに眺めていた。

写真には、微笑む妻と娘、そして若かりし頃の自分が写っている。彼の目には、失った者への深い愛情と喪失感が浮かんでいた。

「もう一度、会いたい」とシゲルは小さく呟いた。その声にはただ悲しみだけがそこにあった。

彼はそっと写真に手を伸ばし、指先で優しく撫でた。「ルシファーを召喚して、必ず取り戻してみせる」と決意を新たにし、魔導書に向き直った。

 

 

 

 

私、星里 美月は屋上の片隅に腰を下ろし、風に揺れる髪を抑えながら売店で買ったサンドイッチの袋を開けた。

中学時代、私は私立の中学で、昼ご飯は給食制ではなく選択制だったので、皆んな、仲のいい人とお気に入りの場所でお弁当等を持ちいったりして、食事を楽しんでいた。

 

でも私は友達が居なかったから、一緒に昼ご飯を食べる相手なんて居なかったし、人目を気にして食べる場所さえなかった。

そこでバティンの瞬間移動を使って、普通は入る事も禁止されている鍵のかかった屋上に侵入してバティンと私だけの空間で昼食を取るのが日課だった。

高校に入ってからは1人友達と呼べる別のクラスの女子生徒が出来たので、屋上で昼ご飯をする事は控えていた。

高校でも入っちゃ行けない場所でもあったし、友達と食べるなら行く必要のない場所だったから。

あとなるべく悪魔や天使を知らない一般人の目の前では、バティンの瞬間移動の能力が絡んでくる移動をしたくなかった。

そのため、屋上で食べる昼ご飯は久しぶりだったのだ。

 

「お嬢、今日は久しぶりに屋上で食べるのな」

 

バティンが目を細めて言う。

 

「そうね。高校に入ってからは友達と一緒に食べることが多くなったから」

 

私は少し切なげに微笑む。

 

「今日はその友達が風邪で休んでるんだったか?」

バティンが尋ねる。

 

「うん、そうなの。だから久しぶりに屋上で食べようかなと思って」

 

「いやぁ、今考えても、ひとりぼっち極めてるのかってぐらいのお嬢だったのに、友達ができるなんて俺としちゃあ、感慨深いものがあるぜ」

 

「やめてよね、本当。そんな変な感慨に浸られても困るだけよ」

 

「マコちゃんだっけか。その友達大切にするんだぞ」

 

「言われなくても分かってる」

 

 

私はそう言いながらバティンにサンドイッチを手渡した。

 

「お、サンドイッチか」

 

バティンはサンドイッチを満足そうに一口かじった。

 

その瞬間、普段は閉まっているはずの屋上のドアが突然「ガチャ」と音を立てて回った。

 

この屋上にもバティンの瞬間移動で鍵のかかっているドアを使わずに来た。

 

そのため鍵の閉まっている屋上のドアなんて、滅多に開くこともないし誰もここに来ないと油断していた。

 

屋上の鍵なんて生徒に貸してくれないため、鍵を使って開けることのできるのは先生ぐらい。

先生が入ってきて、立ち入り禁止の場所で昼ご飯なんて食べている私を見たら、どうなるのか大体想像がつく。

 

今から瞬間移動も考えたが、この出来事は一瞬の出来事。間に合うはずなんてない。

 

そんな事を考えているうちにドアは、勢いよく開いた。

 

そして姿を現したのは、私の予想は外れ、先生ではなく同じクラスメイトの宝生くんと本橋さんだった。 

同じクラスメイトというだけであまり関わりのない2人ではあったけど…

 

 

「僕たちに協力をしてくれ!!」

 

 

それがここに来ての本橋さんの第一声だった。

 

 

 

 

 

 

 

ここまで正規ルートから道を踏み外したのなら、あとは僕がどう動こうが、お粗末な事。

だから僕は少しでもより良い未来を探すだけ。

 

 

今のこんな状況を解決できるのは主人公とメインヒロインしかいない。

 

 

でもその内の1人のメインヒロイン(ルシファー)がダメなら、もう1人のメインヒロイン(星里 美月)に頼るしかないのだ。

 

こんな展開ないけど、今更知った事か!

 

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