【連載版】ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし戦う使い魔面してみた。   作:御花木 麗

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ヒロイン不在

……数時間前。

 

 

「え、あんたが言ってた、当てって星里さんの事だったのか?」

 

ご主人のおばあちゃん宅の掃除に行った日から日曜をまたぎ、月曜になった今日、僕らは学校にいた。

そりゃあ、学生の本分だから居るのは当たり前なんだけど、あえてそれ以外の理由を上げるとするなら、取られてしまったルシファー召喚の魔導書を取り戻すために、協力者を仰ぐ必要があったからと言えるだろう。

 

 

ルシファーの魔導書を開けるには、天使や悪魔と関わるのに必須な”適性”と魔界の元王を呼び出すのに必要になってくる”強大な欲望”が契約を望む人間に備わっていないとならない。

 

ただでさえ、適性を持っている人間ですらそう居るもんじゃないのに、2つの条件が揃う人間なんて滅多にいない。だからこそ、ルシファーを召喚できた主人公はすごい訳で、そういった理由からバビロンの組織がルシファーを召喚するまでに少しくらいは猶予がある……とは思う。

 

「ご主人も星里さんが、なんで協力者に相応しいかは、なんとなく分かるんじゃないかな?」

 

「…んぁ、なんとなく。この件に協力してもらうには、なるべく天使や悪魔の存在を知っている人間がいいし、あわよくば、バビロンと敵対している人間がいい。

その2つの条件が当てはまってるという事は、前回星里さんが、バビロンの人と戦ってる所を見ててわかっているし……言われてみれば、めっちゃ身近に協力してくれそうな人いたな」

 

 

ご主人は「俺といったらなんでそんな簡単な事も思いつかなかったんだ」とうなだれる。

 

「…なぁ、ヒョウ、それはそれとして…まだ朝ってのに、なんかちょっと疲れてないか。…あんまり寝れてなかったりするのか?」

 

ご主人は、うなだれるのもほどほどに、心配そうな目で僕を見つめる。

 

バレてたか。空元気で今日1日は乗り切ろうと思ったのに。

 

だって仮にも上級悪魔を演じているんだから、上級悪魔が寝不足で元気ないってなんか情けないじゃないか。

 

昨日は1日中、こんな状況から脱するべく最善策を模索するために考えていた。

やっぱり原作ゲームと同じ動きをしないというのは、不安しかない。そんな中でまともに寝れるわけが無いから、精神だけがすり減っていく。

本当は昨日にでも、原作ゲームのヒロインである星里さんに協力を仰ぎたかった。でも昨日は星里さんと会える学校も休みだし、星里さんの家も原作ゲームで未登場だから行こうとしても行けない。それに加えて予定を前倒しにして解決できる案件でもないと思い直した。

 

だから、昨日は一日中、問題解決の為の策を考えていた。という訳で、絶対に今日星里さんを味方につけなきゃならない。

それが出来なかったら最後の頼みの綱は完全に途切れる事になるから。

 

「あははぁ、…ちょっとね」

 

「俺のせいでもあるんだから、あんまり1人で無理はするんじゃ無いぞ。手伝えることはなんでもするし、手伝ってと言ったのはヒョウなんだからな」

 

優しい言葉をかけてくれる。ご主人は、自分がやらかしたと思っての罪悪感からきてるんだと思うけど、これに関して悪いのは本当は僕なんだ。結局のところ、軽はずみな行動を僕がしなければ、ルシファーという原作ゲームにおける希望の星となりうるヒロイン不在のまま、本来あり得ないはずのない、未知の物語が始まることはなかった。

 

そしてこの優しい言葉を向けられる相手は僕じゃなくてヒロイン。

僕に向けられる資格なんてないんだ。

 

こんな状況に、ご主人とヒロインに申し訳なく感じて居心地の悪さを感じていた。

その為にも一刻も早くヒロインと合わせたい。

ご主人には言わないけど、そんな気持ちからの決断でもあった。

 

「言われなくても、きっちり働いてもらうよ。後悔しない事だね」

 

「後悔ばかりの人生だ。大抵の事では後悔しない自信がある」

 

「それ、威張る事でもない気がするんだけど」

 

「言っとけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…とは言ったものの星里さんとなかなか接触して会話まで持ち込む機会が訪れないね。そこにすら達成できないなんて協力を仰ぐ事は、夢のまた夢かも」

 

3時間目の授業が終わり、授業で静かだった教室は一変、賑やかになる。

そんな教室の中で、2人の生徒だけがどんよりとしたオーラを出していた。

 

その1人である僕は机に上半身を預けだらんとする。

もう1人のご主人は、僕の机の端に手を乗せながら言う。

 

「星里さん、なんていうか、ずっと動いてるから、話すタイミングが出来ないんだよな」

 

「そうなんだよなぁ」

 

真面目というか何というか。

ご主人の言う通り、星里さんは休み時間、じっとしてる事が本当にない。

休み時間に入ったら、先生の道具を運ぶのを手伝ったり、他にも休み時間にも関わらず、何かと色々こなしている。

いろんな先生が、手伝いをしてくれる星里さんを気に入り、他の用事も頼む始末。

それを断らない星里さんはどんどん手伝う事が増えていき、結果的に休み時間なのに休んでいない。

だから、今の所僕らが接触するスキさえ生まれてこないのだ。

今さっきも授業が終わってすぐ、僕らが話すスキもなく、星里さんはせっせと、束になったプリントを持って何処かへ行ってしまった。

 

でも、原作ゲームでも星里 美月という人間はこんな感じだったな。

根が優しく、真面目な女の子。

まだ、一年生の学校生活は始まったばかりだというのに、次期生徒会長だと噂されるのも納得である。

 

そういえば、星里さんって原作ゲームで、名前しか出てきてないけど、別クラスにマコって言う友達がいたっけ。

 

ーーー星里 美月は皆んなに愛想良く振る舞うが、何処か一歩引いた立ち振る舞いをする癖がある。その為、皆んな美月さんを嫌うことは決してないが親密になりすぎる事もない。その一定間隔が保たれている状態を全方向で作り続ているので、中学時代、友達と呼べる間柄がいない時期が長く続いていた。そんな星里さんに高校生に入って久しぶりに出来た友達がマコという子だったと思う。

 

 

ん?……あ!

今その事を思い出して、1つピンと来た事がある。

 

ご主人が原作ゲームの主人公だと知る前も、星里さんはヒロインだと分かっていたので、たまに目で追って、バレない程度に観察していた。

そりゃあ、自分がやっていたゲームのキャラが間近にいるんだから、自然と目で追ってしまう。

それで星里さんと一緒に学校に登校して校舎に入ってくる女の子が居た。

原作ゲームでビジュアルは明らかになっていないが、今思えばおそらく、それがマコちゃんだろう。

 

でも星里さんが今日、登校して校舎に入ってきた時、1人だった。

 

厳密には近くに契約している悪魔バティンも居たのだろうけど、僕みたいに生徒になりきる事はなく、どこかに身を潜めているのだと思う。

まぁ、ツノがなくたって赤髪の高身長片眼鏡男なんて、目立って一般生徒になりきる事は不可能だからそれが賢明だろうけど。

 

話が逸れたが、とにかく星里さんの友達であるマコちゃんは、今日は休みの可能性がある。

 

それが、どうしたのかというと、原作ゲームには、ある程度時期は先になるが、主人公が星里 美月と一緒に屋上でご飯を食べるイベントが存在していた。そのイベントの発生条件は星里 美月の友人のマコちゃんが学校を休んだ時だったのだ。

その瞬間を狙うのがいいのかも。

屋上は本来は、立ち入り禁止で入る事すら出来ない為、人が居ない。だから、あまり人に知られたくないこういった悪魔やら天使やらの話もしやすい。

マコちゃんには本当に悪いけど、このチャンスを逃さずには居られない。

 

 

 

 

そうと決まれば、早速別クラスに行って、マコちゃんが今日学校に来ているのか確認しよう。

…でもそもそもマコちゃんってどこのクラスなんだろ。

 

「ねぇ、ご主人マコちゃんっていう生徒どのクラスか分かったりしない?」

 

「ん?いや、ごめんけど分からないな。その生徒がどうかしたか?」

 

「いや、その子は、星里さんの友人なんだけど、今日、学校を休んでるのかもしれないんだ。休んでいるなら、もしかしたら星里さんは、昼休み、屋上でお弁当食べてるかもしれないんだ。その時を狙ったら環境的にも状況的にも話しやすいと思ったんだ」

 

「屋上って立ち入り禁止だよな。それまた何で…。てか、よく知ってたなそんな情報」

 

「まぁね。僕は上級悪魔だからね」

 

僕はあははと笑って誤魔化した。

 

ご主人はそこで話を切り上げてくれたけど、納得はしていなさそうだった。

 

とりあえずマコちゃんのクラスを知らない事には、マコちゃんが今日休んでいるのかも確認できず、行動に移せないので、知っている人を探そうかと思ったその時だった。

僕らに声をかけてきた生徒がいた。

 

 

「なんか、お困りみたいだな。宝生の変態さんが、また本橋さんにご主人呼びさせているのに加えて、悪魔っ子ていう設定まで付与してるみたいだけど、そんな可哀想な本橋さんに免じて僕が青木 真子ちゃんのクラスを教えてあげようじゃないか。

何でクラスを知りたいのか知らないけど」

 

「え、知ってるの!」

 

僕は思わず、机に預けていた体をばっと離して顔を上げる。

その時、その話しかけてきた相手は僕を覗き込むような体勢だったらしく、思いっきり僕の後頭部がその人の顔面にクリティカルヒットする。

 

「いてっ」

 

「あ、ご、ごめん!」

 

僕は気恥ずかしくなりながらも、話しかけてきた相手を見る。

 

話しかけてきたのは、中肉中背の男子。

特徴と言った特徴がなく、平均的な男子生徒を思い浮かべれば頭に浮かぶような外見。

前から薄々気づいてはいたけど、今ので確信した。

原作ゲームで名前とセリフだけの登場ではあったけど、この生徒のおちゃらけた感じ、間違いない友人Aだ。

 

原作ゲームには、主人公とはまた違ったベクトルで名前や姿が明かされないものがいる。

それはいわゆる、物語に直接関わりのない脇役たち。

その中で主人公と親しい友達として出てきたのが、友人Aと友人Bと友人Cな訳だけど、その3人はそれぞれ互いに幼馴染という設定があり、そのうちの1人が友人Aな訳だ。

友人Aがおちゃらけ担当で友人Bが天然ボケ担当、友人Cがそれらのツッコミ兼お世話係と非常にバランスの取れた組み合わせでもある。

 

その生徒は僕に糾弾することも無く、鼻を擦りながら言う。

 

「まぁ、いいさ、今のは俺も悪いしな。

…そういえば、最初にあった皆んなの前での自己紹介以外で、俺は本橋さんの前で、名前名乗ってなかったよな。中島 翔太だ、よろしく!」

 

「あのな、盗み聞きは良くないぞ」

 

「仕方ないだろ偶然聞こえたんだから!俺の耳は超いいんだよ!女の子の声ならいついかなる時も、どんな小さな声でも聞き逃がしたくないからそうゆう風に、出来てんの!お陰で大量の俺に対する陰口が聞こえてくるから毎回落ち込む羽目になるけど!」

 

「それ、あきらかにマイナスにしかなってなくないか…。あと、何度も言ってるが、俺にそんな趣味はない!この際だ、ヒョウからも言ってやれ!」

 

「そうなんだ。僕は宝生くんに無理矢理…」

 

「あんたってやつは…あんたに弁明を任せた俺がバカだった。てか、話が進まない、次に進もう。マコさんがどのクラスか知ってるって?」

 

「あぁ、何せ、俺はこのクラスのほとんどの女子生徒のクラスの把握と名前、生年月日、血液型を把握している男とは俺の事だ!」

 

中島くんはそう自慢げな顔で胸を張って言う。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

 

この時賑やかだった教室が静まり返った。

 

 

 

 

 

 

その後、中島くんにクラスを聞いてそのクラスでマコちゃんの確認を行ったが、僕の予想はあっていたみたいで、どうやら風邪でお休みらしい。

 

僕達は、星里さんが昼休みに屋上に行くと考えて、昼休みに接触を試みる事にした。

 

 

 

 

昼休みになった。

 

「気がついたらもう居なくなってたな」

 

「うん、僕達が声をかけようとした時には既に教室でてたし…でも、屋上には居るはずだから、そこへ僕達も行こう」

 

「あの、さっきから思っていた事ではあるんだけど、屋上にはどうやって星里さん入ってるんだ?あそこ鍵閉まってるけど」

 

「え、そうなの!?」

 

「いや、立ち入り禁止だし普通鍵かかってるんじゃないか?」

 

そうなのか、いやよく考えればそうだ。

 

「なんか、ヒョウ変なところ抜けてるよな」

 

「…そうなると多分屋上へは、契約した悪魔の能力である瞬間移動を使って、屋上の鍵を開けずに侵入したんだと思う」

 

 

「じゃあ、俺達はどうやって入る?ヒョウの氷の能力使ってか?」

 

「あ、確かに…いや、でも氷の能力はこんなに人が密集している学校という場所で使うにははあまりにも目立ちすぎる」

 

「んーなら、先生に言って屋上の鍵を借りるしかないとは思うが」

 

「下手に屋上に行く理由をいえない分、鍵を預けてくれない気がする」

 

「それはそうだな…」

 

「んー」

 

僕は顎に手を乗せ考える。

 

 

「預けてくれないなら、こっそり鍵を借りるしかないかもね」

 

「そんな事可能なのか」

 

 

「やってみないと正直わかんない所はあるけど、先に屋上のドア付近で待ってて取ってくる」

 

「なんか、軽いなぁ」

 

ご主人は呆れた様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

僕は原作ゲームのストーリーに関わっている自覚を持ってから、遊び感覚でいた時よりも普段持ち歩くお助けアイテムの数や種類を増やした。

 

早速その恩恵を受けるとは思ってなかったけど。

 

今回から普段から持ち歩くようにした認識阻害ローブ。

悪魔や天使に対して、このローブの使用者の認識を僅かにしづらくする効果があり、人間に対しては、ほぼ付けている相手が認識されなくなるアイテム。

このローブは動きづらさや、人間の複数の協力戦をする時に使いづらい点などの欠点はあるが、単独で動く、こういった場面では、これほど便利なものはない。

 

僕はそのローブを身に纏い、職員室から先生がドアを開け出てきた瞬間を狙い中に侵入した。

 

中に入っても誰も咎めず、僕に気づく様子はない。

 

注意しないといけないのが、音などがあまりに大きな音だったり、認識を阻害されている相手に対して、阻害している側が大きな衝撃を与えた場合は、阻害効果か反映されない場合がある。なので出来るだけそういったのはないようにしないといけない。

 

僕は忍足で学校中の鍵が置かれている鍵置き場まで、どうにかやってきた。

 

途中、先生にぶつかりそうになったりと危ない場面もあったが、どうにか乗り越えた。

 

上から順に見て屋上の名前が書かれた鍵を探し、僕は屋上の鍵をこっそり借りる事に成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ!ご主人」

 

僕は鍵を見せつけるようにして、鍵についているリングホルダーに指を入れて回す。

 

「マジかよ。どうやって持ってきたんだ。先生を説得させれたのか?」

 

 

「先生は説得してないよ。悪魔的解決策を実行したまでだよ」

 

「なんだそれ」

 

「まぁ、いいの、いいの。それじゃあ屋上のドアを開けるよ」

 

僕は鍵穴に鍵を差し込む。

このドアの先に予想通りなら中級悪魔バティンの能力を使い、鍵を開けずに屋上に侵入した、星里さんとその悪魔がいるだろう。

 

僕は悪魔という設定でご主人と契約している事になっているので、この瞬間、ご主人と星里さんは契約者として会う事になる。

 

前回ご主人は、星里さんの戦闘を見てしまい、星里さんを契約者だと知ってしまってはいるが、星里さんがご主人を契約者だと知るのは今回が初めてのはず。

 

星里さんと主人公は、原作ゲームだと、イベントを経て互いに契約者として認識するのは本当ならあと5日後くらい先の話になる。

だけど僕は契約者としての顔合わせイベントの時期は、そこまでズレているわけではないと思う。

 

それでもその他の要因である取り巻く環境も状況も何もかもが違いすぎるのが現状。

原作ゲームでは、互いに契約者だと知ったのは偶然だった。

悪魔ルシファーを引き連れてちょっとした厄介事に出くわした主人公が、同じく悪魔バティンを連れた同じクラスの生徒である星里 美月も居た事で互いに契約者だと発覚。

その後2人の共闘でその厄介事を解決し2人の交流が始まる。

そもそも原作ゲームでは主人公が星里 美月を最初から仲間にしようと意図は無かったのに対して、今の僕とご主人は仲間にする意図で接触しようとしているし、仲間にした上で、起こるであろうイベントがゲーム序盤にあるイベントにしては規模が大きいのも異なっている。

 

だから、このドアを開ける事で、自分の知らない物語が確実に動き出すと確信していた。

 

それはいい方向にいっているのか、悪い方向にいっているのか、今の僕には分からないけどーーーー。

 

ガチャ。

バン!

屋上のドアが勢いよく開き、壁にぶつかって大きな音が響く。

 

僕が屋上のドアを開けた瞬間、冷たい風が吹き抜け、青空が広がる。ドアの向こうには、呆気に取られている星里さんと、サンドウィッチを食べる手が止まっているバティンが居た。

 

「僕たちに協力をしてくれ!!」

 

 

ーー進むしかないだろう。

 





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