【連載版】ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし戦う使い魔面してみた。   作:御花木 麗

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人の心があってたまるか!

 

「あの、えっとー。……本橋さんと、宝生くん?どうしたのこんな所に。鍵かかってたでしょ?」

 

星里さんは困った顔をして首を傾げる。悪魔バティンは警戒してか、サンドイッチを置き、大鎌に手をやっている。

 

「待って、そこの悪魔くん。僕らは君たちとやり合うつもりはない。そうだろう?ご主人」

 

「あ、あぁ」

 

星里さんとバティンは、バティンが悪魔だと当てられて、軽く目を見開いた。

 

 

 

「…ッ、てめぇ、俺を悪魔呼びか。それを知ってるって事はお前ら裏社会側の奴らか」

 

バティンにはツノが生えているが、それ以外は人間に見える。

世間的に想像される悪魔とは見た目が全く異なるため、この世界に存在する悪魔を知らない人間からしたらハロウィンでもないのに、中途半端なコスプレをしている変わった人くらいで済む。

 

だが、中途半端なコスプレをしている変わった人と認識するのではなく悪魔と認識するという事は、一般人ではないという証。

裏社会を知っている人間だ。

だけど、僕もご主人も本格的に裏社会と関わりだしたのは数週間前からだし、裏社会の人間かと言われると微妙なところである。

 

 

「いや、それは違うとは思うが…」

 

僕のその気持ちを知ってか知らずか、ご主人は僕の後ろでおずおずとそう言葉を発した。

 

「まぁ、細かい所はいいじゃないか。とりあえず僕らの話を聞いてほしい」

 

「いきなりそんな事言われて納得出来るわけねぇだろうが!お嬢、始末していいか?

得体の知れないこいつら、このままじゃ、お嬢の命も危ないかもしれねぇ」

 

「ダメに決まってるでしょ、……同じ学校の生徒な訳でもあるし。とりあえず話を聞きましょう。色々考えるのはそこからよ」

 

「懸命な判断をしてくれてありがとう、星里さん。その前に確認を含めた“契約者としての自己紹介”の場を設けようじゃないか。

互いに誤解が生じても嫌だし、初めから互いの認識にズレがないようにした上で、今後の話し合いを行いたいからね」

 

僕はご主人に向けてウィンクをする。

それを合図と受け取ったご主人はどこか、緊張した面持ちでコクリと頷き口を開く。

 

「俺は宝生 稔。

つい最近悪魔っていう存在を知ったばかりなんだが、その時から成り行きで契約する事になった。

まだわからない事の方が多いが、星里さんが良ければ協力を結びたいと思っている。

協力内容についてはヒョウが後から説明すると思うから、とりあえず俺から言うべきことはこれくらいだ」

 

「じゃあ次は僕だね。ご主人こと宝生くんがつい最近契約した悪魔が僕だったりするのだけど、現在、僕は人間として偽って活動しているから、本橋 佐柚香と名乗っているよ。でも悪魔としての名前はーーー」

 

僕は一呼吸おき、今まで吐いてきた嘘に重ねるようにまた嘘を吐く。そしてーー

 

「ーーーヒョウ。上級悪魔のヒョウだよ。お見知り置きをってね」

 

星里さんの息を呑む声が聞こえる。

 

「……上級…悪魔、バティンが中級悪魔だからそれより上…」

 

「おいおい、マジかよ。上級悪魔の割にはあんたから魔力を一切感じないが」

 

ーー魔力。原作ゲームでの魔力とはカルト的な物や天使、悪魔に備わっている力の根源的な物であり、天使や悪魔の持つ魔力は某バトル漫画の戦闘力のような扱いを受けていた。魔力の保有量が多いほど強者の証なのである。

そんなモノが人間の、しかも一般人の僕に備わっている訳もなく、上級悪魔だと名乗る僕から魔力を感じず、バティンが不審がるのは当たり前の反応だと思えた。

 

でもそういった力を敢えて見せびらかさずに、実力を隠している者こそ本物の強者だと僕は数々のゲームや漫画から学んだ。

そっちの方が自分の力を隠している強者感が出て実にかっこいいのだ。

だから僕は先人の知恵を借りてそれを真似する。

 

僕は怪しい笑みを浮かべながら言う。

 

「…もしその魔力を隠す事が可能なら?」

 

「う、嘘だろ!自分から溢れ出る魔力を抑え込んで、魔力をまるで持っていないように偽ってるとでも言うのかよ。そんな事出来るはずが…出来たとしても、何のメリットがあるんって言うだよ!」

 

バティンは眉を顰めながら声を荒げる。

 

「落ち着いて、バティン」

 

「お、落ち着けるかよ。お嬢…」

 

「メリットは、そうだね。僕にはその力を隠す理由があるとでも言っとこうかな」

 

「なんだよ…それ。いい加減にしろよ!」

 

バティンはますます警戒心を強めてしまった。

あれれ…こんなはずじゃなかったんだけどなぁ。

アイスブレイクとして自己紹介を入れる事で、話を円滑にしようと思って挟んだ自己紹介なのに。

こんな状況にも拘らず、僕の前世からの厨二病な部分が疼いてつい調子に乗ってしまった。

反省しなきゃだ。

僕はゴホンとわざとらしく、咳払いをして仕切り直しを狙う。

 

「というわけで…僕らの自己紹介も済んだ事だし、次は星里さん達の番だ。

そこの契約している悪魔くんも自己紹介よろしく頼んだよ」

 

「契約ね。………人間の私と悪魔のバティンが2人揃っている時点で契約しているのは一目瞭然よね…まぁ、いいわ。私は星里 美月。中学の時にこの悪魔と契約をして以来、私の契約内容を達成してもらうために働いてもらってるわ」

 

「働いてもらってるか…。それはこの地域にあるバビロン支部の活動を妨害する事かい?」

 

「そこまで知っているのね」

 

星里さんはため息をつく。

 

「…それ自体が、私たちの目的じゃないけどね。他にちゃんと目的があって、それを達成するために、私とバティンはバビロン支部の関係者に接触して情報を集めているの。そうする事でその達成したい目的を確実な物にするために…」

 

「達成したい目的…?」

 

ご主人は眉を顰めた。

 

「そうね。まぁ、ここまで私達のことを知っているならこれを言ってもあまり変わらない事だし言うわ。私達はある男を追っているの」

 

「お嬢、それ以上はむやみに話すのはよせ。まだ、何処の馬の骨かも分からねぇ奴なのは変わらない」

 

バティンがそんな事を言う。でも当然ながら僕は原作ゲームを通して星里さんとバティンの目的もその理由も知り尽くしている。今更隠す事はない。まぁ、メタ発言なので当然本人には言えないけど。

 

「じゃあ、次は悪魔くんの名前を聞こうじゃないか」

 

「チッ、俺は中級悪魔バティンだ。」

 

バティンは腕を組み、そっけなくこたえる。

 

「よし、ありがとう。僕が思っていた通りの2人で安心したよ。じゃあ、いよいよ本題だね」

 

「未だに本橋さんが悪魔だというのは信じがたいわ。人間の学生を偽っている悪魔なんて初めて見たもの…それで、僕たちに協力してくれって言ってたけれど、今からその事を話してくれるって事よね?」

 

「そうだね。あんまり勿体ぶるのも良くないしね。さっさと話すよ……まず、星里さん達はルシファーという大悪魔を知っているかい?」

 

星里さんは、バティンと契約してから3年と僕とご主人なんかよりずっと長い。

だからバティンと関わる上で、そういった知識は持ち合わせていると思うし、メタ的な観点から見ても、ここら辺の時間軸である、原作ゲームの星里さんは既に知っていた。

だけど念のため、僕達が今から話す事に必要な前提知識があるか確かめときたい。

僕がやらかす前から、僕がこの世界に生まれた時点で、この世界は、原作ゲームから少々乖離していたと言えなくもない。だからなんらかの歪みが他にあってもおかしくないのだ。

歪みの影響で知らないなら知らないで、その部分を話さないといけないし。

 

「バティンから色々聞いているからある程度の知識はあるはずよ。ルシファーって…、確か、神に反逆して魔界に落とされた、一番最初に悪魔になった堕天使っていう認識だけど」

 

「合ってるぜ、お嬢」

 

「そう、そしてベルゼブブに王の座を奪われる失踪するつい最近まで、圧倒的な支配力で、その後に誕生した悪魔をまとめ上げ魔界を統治していた。そこまではいいかい?」

 

「ええ、そこも承知しているわ。そしてそのルシファー失踪の件で今、界隈がざわついているのも」

 

「そこまで知っているなら話が早くて助かるよ」

 

前提知識はちゃんとありそうで良かった。話が進めやすい。バビロンの組織の基本的な情報については、前回、星里さんがバビロンと対峙しているのをご主人と見ているので、それを踏まえて知っていると判断し、話を進める事に。

 

「実は…そのルシファーを召喚できる魔導書がご主人のおばあちゃんの蔵にあったんだ」

 

星里さんとバティンは軽く目を見開き驚いた表情をうかべる。

 

「それは…驚いたわね。そんな魔界の大御所と会える魔導書が日本にあったなんて。過去形なのがちょっと気になるけど」

 

「王の座を奪われた今でも、大悪魔ルシファーと契約したい人間は多いからな。召喚出来たとて契約が確実に結べるわけではないが、失踪して誰もルシファーの居場所が分からない今こそ、その魔導書の価値は跳ね上がるってもんだ」

 

「なぁ、星里さんの悪魔、なんかさっきから目がキラキラしてないか」

 

「あぁ、気にしないで。バティンはルシファーの大ファンなの」

 

ご主人の指摘に、星里さんは苦笑しつつ言う。

 

「悪魔の俺でさえ、遠目でしか見た事のない大悪魔だ。昔からずっと憧れてんだよ。今は魔界ではベルゼブブが王になって、ルシファー様の肩を持つ奴が少ねぇが、あいつらは分かっちゃいない。…で、その言い方だとそれだけじゃ終わらねぇって事だよな?」

 

「あぁ、そうさ。バティンくん。……それがなんだけど、その魔導書がバビロンによって盗まれてしまって」

 

星里さんとバティンは絶句する。

 

「おい、おい、おい、何やってんだよ!あの組織に渡ったってマジかよ。信じらんねぇ。あの組織に渡ったら…」

 

バティンは歯噛みし、その続きを星里さんが言う。

 

「悪用されるのは間違い無いわね…」

 

僕はコクリと頷いた。

 

「ルシファーは召喚出来たとしても、簡単に契約できるような相手じゃないけど、可能性が全く無いとは言い切れないんだ。だからーー」

 

僕は深く頭を下げて、誠心誠意で言う。

 

「僕達と協力して、バビロンからルシファーの魔導書を取り返すのに協力して欲しい!」

 

その時、ご主人も僕と一緒に頭を下げてくれる。これは僕の責任だから、頭を下げることは、ご主人には言ってなかったのに…。ご主人…。

 

僕らは頭を下げたまま、返事を待つ。

 

そしてしばらくその状況が続き、口を1番最初に開いたのはバティンだった。

 

「なにが、協力してだ!!なんでお前たちの尻拭いをしなきゃならねぇんだ!!…だいたい本当に上級悪魔ならそんな物、盗まれる事なんて無いだろうがよっ!」

 

「そうだね。その通りだ。僕が頼りないせいで…」

 

こればっかりは、言い訳できないかな。

 

僕がそうバティンに言われても頭を下げ続けていると、ご主人の震えた声が聞こえた。

 

「ヒョウは、悪くない。…悪くないんだ。だからヒョウを責めないでやってくれよ、お願いだ。全部俺なんだ。あの本がそんな大事なもんだってちゃんと理解せず中途半端な気持ちで預かってた俺が悪いんだよ。責めるなら俺を責めてくれよ…」

 

僕は驚いて、顔を上げてご主人を見る。

ご主人は頭を下げていて、顔は見えないがわずかに手も震えていた。

 

それを見て、あの件でよっぽどご主人は思い詰めていた事に気づく。

僕が慰めてから元気になっていたのは、僕と同様の空元気なんだと今になって思い知る。

互いに互いを思い合って互いに空元気の状態で接していたなんてバカみたいだ。

 

それを見た、星里さんは眉をひくつかせながら、拳をバティンの頭に振り落とす。

 

「あがっ」

 

「あんたねぇ…言っていい事と悪い事があるでしょ…!言い過ぎよ、バティン!本当ごめんね。バティンが傷口に塩を塗るような事言って。バティン人の心ないから…」

 

「そりゃあそうだろ…!お嬢!俺に人の心があってたまるか!悪魔だぞ!!」

 

「 …でもね。2人には悪いけど私達は別にバビロンそのものと敵対したいわけじゃないの。

私達が追っている男がバビロンに関係しているから結果的にそんな風に見えるだけで…。

確かにルシファーの魔導書が色々と危険な組織であるバビロンに取られたのは、惜しいわ。でもバビロンからルシファー召喚の魔導書を取り返すなら、交渉は動じないだろうし必ず悪魔や天使を使った戦闘に発展する。…戦闘は命懸けよ。メリットがなくちゃ、命をかけられない」

 

「そうだ、よく言った。お嬢!ルシファー召喚の魔導書がバビロンに渡ったのは正直残念だが、今契約しているお嬢の命には代えられないからな」

 

「そういうわけなの。申し訳ないけど、そこまで私はお人好しになれないわ…」

 

ご主人は目に見えるくらい明らかに落ち込んでいた。だが、星里さん達の言い分も一応納得はしているのだろう。言い返しはしない。

 

 

メリット…ねぇ。メリットじゃなくて、バビロンからルシファーが召喚され契約された場合のデメリットだったらいくらか思いつく。

まず第一に、ルシファーが敵対することの多いバビロン側につく。

第二に、この場合、推測だけどルシファーは主人公と契約したときみたいに、王の座の奪還には至らないだろう。契約した悪魔は契約を結んだ側の言うことを基本的に聞くようになっている。だからその場合、王の座に戻れず、天界、現世、魔界の均衡が完全に崩れるだろう。

 

でも、そういったデメリットを言ったところで、星里美月は動かない。それは原作ゲームをやっていた僕だから知っている。この時期の星里美月は、ある一点、悪魔と契約してまで達成したい目標に関連した事でしか動じない。

 

ーーーだから、まだ確信が持てないから、持てるまで言いたくなかったけど、言うしかないだろう。

 

 

 

 

「僕らは、バビロン支部を狙おうと思う」

 

「……あのね。バビロンについては情報を集めてる私の方が詳しいだろうから言っとくけど、バビロン支部を狙った所で、ルシファーの魔導書は手に入らないわ。ルシファー召喚の魔導書くらい貴重な品なら本部で管理されてるはずよ。当たり前だけど、本部は支部よりも、守りが固く、強い悪魔や天使と契約している契約者も多いから火力も高い。到底敵わないわ」

 

「本部はそうだろうね。だけど先程言ったように僕が狙うのはこの地域にある支部だ。もちろん支部だって攻略は大変だろうけど、僕達の攻略は、君たちの目標達成には最適なんじゃないかい?」

 

原作ゲームと同じ道を辿っていない以上、ルシファーの魔導書が今どこにあるか分からなかった。

なので昨日、原作ゲームから得た知識を使い、僕の知っている登場人物達はどういった行動をするのか。

何度も何度も自分の頭の中でシミュレートし、こういった状況になった場合、ルシファーの魔導書の所在は何処になるのだろうと導き出した答えがこの地域にあるバビロンの支部施設だった。

 

 

 

「お、おいそれはどういう…」

 

バティンが言う。

 

「星里さんが追っている男って支部に居るんでしょ?」

 

「なぜそれを…」

 

「え!?そうなのかよ。じゃあ、あとは居場所を突き止めるだけなのか…」

 

「いや、星里さん達は、居場所も分かっているだろうし、なんなら、支部の施設内の構造もある程度把握している。1年前くらいにはある程度の支部の情報が出揃っている状態なんじゃないかな」

 

「……ッ」

 

「つまり、その男に直接会える状況にあるにもかかわらず、星里さん達はそうはせずに支部施設周囲をうろつき、支部の関係者に接触して情報を集め続けているって事か?…なぜそんな回りくどい事を…」

 

一番大きな理由に思い当たる節があるが、今のご主人の目の前で言っていいのだろうか。

これは、原作ゲームでは、星里さんの地雷だった気がするし。

原作ゲームでは星里さんとご主人でいろんな困難を乗り越えて、仲良くなった時に分かった理由だった。

んー、まだご主人も星里さんと仲良くなったとは言えないし、やめといた方がいいのかも。

 

じゃあ今は、この場で言えるその次くらいの理由をひとまず言っとこうか。

 

「いくら本部より攻略は楽だと言っても、この地域にある支部を、星里さんとバティンだけで突っ込むのはリスクが高いと判断したんじゃないかな?だから少人数の、外に出た支部の関係者に接触しながら、情報を集めてタイミングを伺っていた。そうだろう?」

 

ルシファー召喚の魔導書についての情報などは、反応からするに知らなかったようだし、星里さんが集めていた情報には偏りがあるみたいだけど…。

 

「それでも…やっぱり悪魔との契約者が1人から2人になっただけで、支部に挑む戦力が揃ったようには思えないけど…」

 

星里さんは疑念を抱きながらも、少し考え込むように視線を落とした。

 

場所を星里さんに関係のある支部に絞った事で、星里さんは少し乗り気になったようにも思える。

この調子だ…!あとひと押しな気もする。

 

あとは、皆の前では言わなかった支部に直接乗り込まない一番の大きな理由は僕がカバーするから心配しないでと星里さんに言って説得できれば…。

 

 

でもこれは先程、ご主人にはまだ聞かせない方がいいと判断した。

ご主人には、悪いけどご主人が居ないところで説得を試みる事にする。

その時に、星里さんの使い魔であるバティンには、横槍を入れられそうなので、バティンも外して星里さんと2人で話がしたい。

 

「………星里さん、ちょっといいかい?屋上から校舎に入ったすぐそこの階段でいいから2人で少し話がしたい。キミに言っときたい事があるから」

 

「……」

 

「やめとけ、お嬢!何されるか分からないぞ!」

 

僕の言葉を聞いてしばらく目を瞑り黙っていた星里さんは、静かに目を開けると、決意を固めたように頷く。

 

「……分かったわ」

 

「お嬢…!」

 

僕はご主人に「少し行ってくるよ」とだけ伝えた。ご主人は心配そうな顔をしつつも「あぁ、分かった」とだけ言って見送ってくれた。

僕は屋上の出入り口のドアに向う。

星里さんはその後をついてくる。

 

「マジで…行くのかよ!危ないぞ、なら俺も付いて…」

 

「…バティン、ここにいなさい」

 

「いや、…と言ってもよ…」

 

「いなさい」

 

星里さんの声には、いつもとは違う、鋭い決意が込められていた。バティンはその迫力に圧倒され、しぶしぶその場に留まることにした。

 

「…チッ。分かったよ。俺はお嬢の使い魔だ。言われれば乗り気じゃないがその指示にも従うさ…だが、何かあったらすぐに俺に言えよ」

 

「分かったわ…あと、宝生くんにも謝っときなさいよ。これは命令だからね」

 

「あぁーーー!!はいはい!分かったよ!」

 

ガチャン

 

ドアが閉まり、屋上には宝生とバティンが残された。

 

 

 

 

 

バティンと宝生の間には、しばらく重苦しい沈黙が続いた。昼下がりの陽射しが屋上を照らし、二人の影が静かに伸びていく。気まずい空気が漂い、どちらも口を開くことができないでいた。風が吹き抜ける中、ただ時間だけが過ぎていく。

やがて、バティンが大きくため息をつき、頭をかきながらようやく口を開いた。

 

「…ったく、しょうがねぇな、謝ればいいんだろ。謝れば。あの悪魔には言いすぎたとも思っちゃいねぇが、人間、お前には配慮が欠けていた」

 

宝生は驚いた表情を浮べる。

 

「…あんた謝れるんだな」

 

 

「お前、ずいぶん失礼な奴だな!?」

 

「…それはお互い様じゃないか、まぁ、もういいよ。俺もこの沈黙の時間で落ち着きを取り戻したから」

 

「そりゃあ、良かったぜ」

 

互いに肩の力が抜けたのか、空気が緩くなるのを宝生は感じた。

 

そんな中バティンは目を細めて宝生に言う。

 

 

「…おい、人間。お詫びと言っちゃなんだが、一つだけ警告してやる。」

 

「ん?なんだ」

 

「どんな契約を結んだか、どんな代償を支払ったのかは知らねぇが、あの悪魔とは今すぐ契約を破棄しろ」

 

「え?」

 

 

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