【連載版】ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし戦う使い魔面してみた。   作:御花木 麗

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今回は視点切り替えが多いので一人称が僕の場合はヒョウ、俺の場合は宝生、それ以外は三人称視点です。


契約の代償

急に言われた言葉を飲み込めず、宝生は困惑した顔をする。

 

「急になんだよ、何を言って…………?」

 

そんな宝生にはお構いなしで、バティンは話を続けた。

 

「第一にまず、あの悪魔は怪し過ぎる」

 

「……いや、俺から見たらそもそも、あんたも含めた悪魔だとか天使だとかオカルティックな存在、全部怪しいんだけど」

 

「あの悪魔、自分の事を上級悪魔だと言ったよな?」

 

「俺の話ガン無視かよ……まぁ、言ってたな。俺と最初会った時から言ってる」

 

「で、名前はヒョウだと言ったか」

 

「あぁ」

 

「おかしいんだよ、まずこの時点で。上級悪魔レベルの悪魔になってくると、運だけでのし上がれるような位じゃない。それ相応の実力や実績に伴って名を上げることでようやく、上級悪魔を名乗れる。上級悪魔になった悪魔は上級悪魔になっただけの事をしていて、上級悪魔になったその時には、既にその功績などを含めて名前とともに魔界に知れ渡っているのが通例だ。……だが、あいつが上級悪魔だとしたら、アイツは今までやってきた実績は疎かあいつの名前すら俺は聞いた事が無かった。あまりにも不自然すぎる」

 

「いや、それあんたが無知なだけってことは……?」

 

「ないっつーの!普通は上級悪魔レベルになったら嫌でもそいつの話題が入ってくるくらいだ!」

 

バティンは宝生にガウッと噛みつかれそうな勢いで言う。

 

「なんか、よく分からないけど、ヒョウのやつ、さっき力を隠す必要があるとかどうとか言ってたよな?それに関係があるんじゃないか?」

 

「それも含めて怪しいつってんだよ、俺は。だいたいよくお前は契約している悪魔の素性が、分からない事が多いのに平然と一緒にいられるな。普通の人間は不安にかられると思うんだが」

 

「……え、だってまぁ、俺が関わってきた悪魔の数がそもそも少ないせいで、あれが普通なのかと思ってたし……」

 

バティンはわざとらしく、大きくため息をつく。

 

「確かに悪魔の中には、あまり自分の事を言いたがらない輩もいるが、あいつの場合、他の奴とは根本的になんか違ってるというか、なんというか……なんかこう……」

 

「なんかこう……?」

 

バティンはアンサーを捻り出そうと、顔を顰め唸る。

 

「あぁーー!!しっくりくるのがねぇ!!」

 

バティンは結局思った回答が出なかったのか、頭をかきながら思考を放棄した。

 

 

そんなバティンに対して宝生が何かを言おうとして口を開きかけた瞬間、ガチャっと音を立ててドアが開く。

 

「ーーお待たせご主人!」

 

ヒョウと星里が校舎の中から戻ってきたようだった。

 

戻ってきた星里はバティンに目を合わせると一言。

 

「私、協力する事にしたわ」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

バティンは大袈裟なくらい驚いて見せた。

 

 

 

 

 

 

 

バティンは焦ったように言う。

 

「チッ、まさかこの悪魔の能力が洗脳系だったとはっ!やっぱりお嬢を1人にするべきじゃなかった。」

 

「何言ってるの、バティン。いい加減にしなさい。私は正常よ」

 

星里さんは呆れた調子で言う。

 

「正気ならもっとイカれてるぞ、お嬢!こんな『怪しい』の言葉が擬人化したみたいな奴信じるとかっ」

 

バティンの否定ぶりに思わず、僕は苦笑する。

知り合ったばかりだから仕方ないとはいえ、それにしても信用がなさすぎるな僕。

 

まぁ、それでも星里さんに協力をこぎつけたので、契約者の意向に基本的に逆らえない悪魔は結局僕らと行動を共にする事になるので、時間の問題である。

 

 

僕らは星里さんと2人で話す機会を作り何をしたかと言うと、まず僕が説得を試みるのに必要な、星里さんの情報をいくつかまた開示した。

星里さんがこの活動を行う一番の理由を、僕が知っていると分かった時は、今まで以上に警戒されて、一時期どうなるかと不安だったけど、その後、星里さんの踏み出す一歩を僕がサポートすると必死に説得し、星里さんはこの件に関わる形で自分とバティンだけじゃ解決できていない悩みに蹴りをつけると決意をしてくれた。

つまり協力関係になる事が出来たのだ。

 

僕がご主人の近くに行くと、感心したように言う。

 

「すごいな、ヒョウ協力を取り付けるなんて。俺ちょっと諦めかけてたぞ」

 

「あははは、まぁ、正直僕もそうなりかけたよ」

 

星里さんの方をチラッと見るとバティンにガミガミ言われており、それをはいはいとあしらってるのが見えた。

 

 

僕はご主人に聞く。

 

「ねぇ、バティンに何かされたりしなかった?かなり僕の事警戒してるみたいだから、その矛先がご主人にも向いてないかちょっと心配で…………」

 

「あーー」とご主人は考えるように目を細めたが、それは一瞬で、すぐ答えが返ってきた。

 

 

「何も問題なかったぞ、気にしなくても大丈夫だ」

 

「そうかい、それなら良かった」

 

 

こうして僕らは、星里さん+バティンコンビと一時的な協力をし、星里さん達と僕達はそれぞれ違う目標を達成するべく、同じこの地域にあるバビロン支部に乗り込む事になった。

 

正直に言ってこの数だけで、襲撃してうまく行くのか心配ではある。

だけど、今の時期に協力してもらえそうなのは、星里さん達くらいしか居なかったのでそれで行くしかない。

 

 

 

 

 

 

6時間目の授業を終えて、それぞれの生徒が家に帰ったり部活動に励んだりし始めた時間、僕はご主人と校門前に突っ立っていた。

 

「だぁ〜、疲れたぁ。6時間目の数学本当にだるかったね」

 

僕は全身で疲れた事を表すように体を大きく伸ばす。

 

「いや、あんたほぼ寝てたじゃんかよ」

 

……ギクっ。

 

「他のやつに気づかれてなかったけど、俺の目は誤魔化せないぞ。背筋をピシッと伸ばしていかにも授業を受けてますって感じだったが、目が瞑られていた事に……よくあの体勢をキープしながら寝れるよな」

 

「僕の特技だからね」

 

「履歴書に書けない変な特技だな……」

 

 

あの後、昼休みだけじゃ時間が足りないので、細かい話を放課後どこかに集まって打ち合わせしようという事になった。

しかし放課後、先生の手伝いを急きょ任された星里さんは断る事もできず、それが終わるまで校門で待っている次第だった。

 

しばらく待っていると、学校の校舎の入り口から小走りでこっちに向かってくる人影が見える。

だんだん近くになるにつれて、それが星里さんだと分かった。

「ごめん、お待たせ!!」

 

星里さんは申し訳なさそうな調子で言う。

 

「そこまで待ってないから大丈夫だぞ」

 

「そこはご主人さ、『俺も今来たところだから大丈夫だよ』って言う場面でしょ。分かってないなぁーご主人は」

 

「そもそもあれは、デートとかでやる奴だろ。今回の場合シチュエーションが、違うから微妙に噛み合わなくなる。」

 

「むー!そんなんだから、ご主人には今まで女の子の影が全くないままなんだぞ!」

 

「はぁっ!?ヒョウ、あんた禁句を言ったなぁ?」

 

そんな感じで星里さんを置いてけぼりにして、僕とご主人の言いあいが、ヒートアップしようとしたところで、僕とご主人の間の誰もいない空間に突如として人影が現れた。

……バティンだ。

「ごちゃごちゃ言ってねぇで、とっととする事するぞ」

 

「……おわぁ!?」

「……ひぃ!」

 

 

瞬間移動で急に僕らの間に出てきたので、僕とご主人は飛び上がりそうな勢いで驚く。

 

「ん?なんだその驚きようは」

 

「バティン!!いつも言ってるけど、一般人が沢山いる所では不用意に能力を使わないでって言ってるでしょ!!」

 

「大丈夫だって、お嬢。他の人間が瞬間移動先に目を向けてないのを確認して瞬間移動したから」

 

「……そう言う問題じゃないの!」

星里さんは青筋を浮かべながらバティンの今の行動を嗜める。

 

星里さん、大変そうだなぁ。

……基本的に言う事を聞いてくれない、大型犬みたいなものだもんあれ。

 

 

 

 

 

 

 

「ーー落ち着いて話ができる場所に行くって事だけど、どこにする?」

 

全員が集まり、皆んなが静かになった所でご主人はそう言う。

 

「大前提として、周りを気にせず話せる所がいいと思う。私達が話すことは、バビロン支部に侵入する件についてだし、あまり、私達以外に聞かれていい話じゃない」

 

「それもそうだね、僕もそう思うよ。周りを気にせず話すなら別にここら辺で話してもいいし。落ち着けるかは別として」

 

「じゃあ、ファミレスとか喫茶店は?」

 

「そうだねぇ。落ち着けはするけど、話はどうしても周りに聞こえちゃうと思うんだよね……」

 

僕は顎に手を当てて考える。

 

「…………そうだ!確か、学校の近くの商店街にカラオケあったよね?そこにしない」

 

「カラオケだぁ?俺ら歌うために集まってるわけじゃねぇぞ!自称上級悪魔」

 

「失礼な、カラオケルームは、密室で壁も防音になってるし、よほど大きな声を自ら出さない限り、周りに僕らの話が漏れる事は限りなく低いと思うんだけど」

 

「確かにそう考えれば、カラオケいいかもな。喫茶店とかファミレスよりは聞かれる心配もないし」

 

ご主人の一言で星里さんも納得する。

 

「いいかもね。私もそれで賛成よ」

 

「……」

 

バティンは何か物憂げな顔をしたが、何かそれ以上言う事はなかった。

 

かくして僕らはカラオケに向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

俺、宝生 稔は、カラオケに向かっていた。

ヒョウや星里さん、バティンと一緒に。

カラオケに向かっている道中、ふと思った事を言ってみる。

 

「なんか、こうやって集まってカラオケに行くのって、すごい青春してる感じがする」

 

「まぁ、側からみたらそうかもね。実際は青春のせもない作戦会議なんだけど」

 

「そうなんだよなぁ……。俺の想像してたザ•青春って感じの高校生活が全く送れる気配がないんだけど。悪魔だの天使だの青春らしくない単語がチラホラ出てくるし」

 

「私はそんな事考えた事もなかったわ。……送りたいの青春?」

 

「もちろんだ!高校生活なんてあっという間だぞ!この期間を楽しんどかなきゃ、絶対後から後悔する」

 

「そうだよ!ご主人の言う通り。よほどの事がない限り一生のうちたった3年しかJKという価値あるロールは星里さんに付与されないんだ。そんな時期を楽しまないのは損さ」

 

 

「ロールって……あんた俺もゲーム好きではあるが、やっぱり、それを超えるゲーム脳だな」

 

「俺は今のお嬢のままで全然大丈夫だと思うがな」

 

 

 

そんな感じで道中、話しながら歩いていたが話もひと段落してちょっと気になっていた事を星里さんに何気なく聞いてみる。

 

「星里さん、学校のカバンにつけてるキャラクターってもしかしてミジン子ちゃん?」

 

ミジン子ちゃんとはミジンコに赤いリボンをつけたシンプルなキャラクターでいろんなグッズが作られて、俺の母さんの世代に大流行したキャラクター。

次第にその人気と知名度はなりを潜め、今じゃ俺らと同じ世代くらいの人は知らない人の方が多いキャラクターになってしまった。

そんなキャラクターのグッズを同年代の星里さんが付けているのが珍らしく思ったのだ。

 

 

「え、ミジン子ちゃん知ってるの!?これ知ってる人私たちの世代じゃあんまり知らないから嬉しいかも」

 

「母さんが大好きなんだよな、そのキャラクター。俺の母さん世代くらいに流行ったものらしいんだけど、今でもグッズを母さんが集めてるんだ。……もしかして星里さんも母さんが好きで、その影響だったりするのか?」

 

「……そうかもね、ママの影響かも」

 

 

 

 

カラオケに着いた。

カラオケを歌う以外の用途で、勉強だったり、会議や睡眠などの目的で使う人も居ると聞いた事はあったが、俺が歌う以外で来たのは初めてだった。

 

 

店員に指定された番号の部屋に入った俺は、ソファにどっかりと腰を下ろす。

 

バティンとヒョウは飲み放題のドリンクバーコーナーに向かっていったので、今ここにいるのは俺と星里さんだけになった。

 

 

学校が終わって小腹が空いた俺は、メニューが書いてあるタッチパネルを眺めていた。すると、隣にやって来て星里さんが、タッチパネルを覗き込みながら言う。

 

 

「何か頼むの?」

 

「あーうん。少しお腹すいたなと思って」

 

しばらく沈黙が流れる。

 

気まずい……。ヒョウがいない状況下で星里さんとまともに話す事はなかったからな。

 

だいたいこんなオカルト関連でもなければ、星里さんとは3年間一度も話さずに互いに卒業していた可能性だってあるし。

 

「……星里さんは何かいる?」

 

「そうねぇ、私も少しお腹は空いてるかも」 

 

「何か食べたい物はある?」

 

「んー、そうね。正直、お腹を満たせればなんでも良い感じなのよね」

 

「そっか。ならパーティー用の食べ物をいくつか頼もうかな。そしたらあの2人も食べれるし」

 

「良いわね、それ」

 

という事で、俺はタッチパネルを操作していくつか注文していると、カラオケの部屋のドアが開かれる。

 

「はい、お嬢の分の飲み物だ」

 

「お待たせ!はい、これご主人が言ってたやつ」

 

ドリンクバーコーナーに行っていたヒョウとバティンが部屋に戻って来たようだった。

 

俺はヒョウが注いできてくれたコーラを受け取る。

ヒョウがもう片方の手に持っていた、なみなみに入った黒い液体のコップを見て言う。

 

「ヒョウもコーラにしたのか」

 

「まぁ、部分的にそうだけど違う」

 

「なんだか、ランプの魔人のゲームみたいな答え方だな……。コーラ以外にこんな黒いやつドリンクバーにあったかなぁ」

 

ここのドリンクバーコーナーににどんな飲み物があるかちゃんと見たわけではないが、飲み放題のドリンクバーコーナーには、どこもだいたい同じような飲み物が取り揃えられている事が多い。その中から他に黒っぽい飲み物を考えてみる。

 

「んーー。烏龍茶とかか?」

 

「いや?まぁ、部分的にそうだけど違う」

 

「え、本当なんだそれ」

 

「なんかいろんな飲み物混ぜたやつさ。こんな色になったのも色々混ざってるからだと思う」

 

「………………」

 

俺は深くため息をつく。

 

「……飲み物を粗末にするな」

 

 

意識せずちょっと俺の口調が強くなってしまったせいか、ヒョウは少しショボンとして目を泳がせながら言う。

 

「大丈夫だよ、ご主人。飲んでしまえば一緒だから。……というかバティンくんが悪いのさ。

本当に上級の悪魔なら根性を見せろとか言い出すから。だから根性を見せるためにこれを飲み干そうと思って……」

 

「バティン……?」

 

それに反応して星里さんは凍りつくような低い声でそう言う。

 

その問いでバティンまでもたじたじになる。

 

「い、いや俺は、今後嫌でもあいつと関わるなら、お嬢のためにも、あの悪魔を試しとかないとと思って」

 

 

「「はぁ……」」

 

ヒョウとバティンの話を聞いた俺と星里さんのため息が偶然にも重なり、部屋の中に再び沈黙が訪れたのだった。

 

本当こんな調子で大丈夫なのだろうか。

 

 

 

 

カラオケでの話し合いは意外と円滑に進んだ。

僕達は昼休みに時間が足りず話せなかった補足や互いの情報交換、これからどうバビロンの支部施設に乗り込むかの話も少しした。

もちろん僕は話せない事が沢山あるので話せる範囲で話したけど。

今後、このような話し合いを何度か重ねて、バビロンの支部施設に乗り込むことになる。

僕の持っている原作知識は、未知のルートに入った事で使いづらくなったのは確かだが、完全に使い物にならなくなった訳ではない。原作知識から得た登場人物の情報でキャラクターがどのように動くか予想くらいは出来るからだ。

それで予想したルシファーの魔導書の現在の所在がバビロン支部施設。

だけどいつまでそこにあるのかの予測は流石に出来ない。

そこまで出来たら予測ではなく完全に未来予知だ。

なので出来るだけ早くバビロン支部施設に乗り込まないと本部に移される可能性もある。

本部に移されれば流石に今の僕らの戦力じゃ厳しい。

まぁ、この地域の支部施設にあるのも僕の予想だから確定じゃないのでその調査もしないといけないけど。

 

 

 

 

「痛っ!」

 

俺らの話し合いがある程度進んだ所で、頼んでいたたこ焼きを一つ口の中に入れた星里さんがそう言って口元を押さえる。

 

「どうした、お嬢!」

 

「大丈夫かい!?星里さん!」

 

「え、まじでどうしたんだよ」

 

「いや、大丈夫。いきなりだったから、驚いちゃったけど、少し痛かっただけだし」

 

「たこ焼きに異物でも混入してて、それが舌に当たったのか?……血は出てないか?」

 

「うん、多分そういうのじゃないから平気」

 

俺が試しに残っているたこ焼きを一つ口の中に放り込むが、普通のたこ焼きっぽい。異物も入ってなさそうだし……。

だけど念の為、店員さんに報告しといた方がいいかと思い、カラオケルームに設置されてある電話を取うとする。

 

「いや、いいわ。宝生くん。そこまでしなくても……」

 

「いや、報告だけでもしとくべきだ。もしあっち側の不備なら他にも被害が出るかもだし、そうならない為にも今のうちに言っとくべきだと思う」

 

怒ることはしない、ただ今あったことのありのままを伝えるだけ。

 

そういう事で、俺は店員さんに今起こった事を報告すると、店員さんは確認しますと言ってカラオケルームにある電話が切れた。

 

少しすると店員さんがカラオケルームのドアを開けてすぐ「申し訳ございません!」と言って土下座しそうな勢いで謝って来た。

怒ったつもりもないのにここまで謝られて、俺らが驚いていると店員さんが事情を話しだす。

 

どうやらこのカラオケでは普通のたこ焼きと別に盛り上がるように用意されている、辛いソースが一つだけ練り込まれたロシアンルーレットたこ焼きがあるそうだ。俺らが普通のたこ焼きを頼んだのと同時期にロシアンルーレットたこ焼きを頼んだ所があったらしく、新人のバイト店員が間違えて俺らの所にロシアンルーレットたこ焼きを、普通のたこ焼きをロシアンルーレットたこ焼きを頼んだ所に持っていってしまったらしい。

 

それで星里さんがたまたま辛いソースが練り込まれたたこ焼きを食べてしまったのだろう。

 

 

 

 

「……なんかどっと疲れたわね」

 

そう言ったのは星里さん。

 

「確かになぁ」

 

あのあと店長まで来て、カラオケ代を無料にさせられる所だったが、流石にそこまでしなくていいと星里さんが言い、俺らと店長の押し問答がしばらく続いたのだ。

 

今は、それからやっと解放され、カラオケを出たとこで、商店街を歩いていた。

 

 

 

 

すると突然、前方で女性の悲鳴が聞こえた。

 

「きゃっ!!」

 

俺は反射的に声の方を向くと、若い女性がマスクにサングラス、帽子を被ったいかにもな男に、バッグを奪われて倒れ込んでいるのが見えた。ひったくりはそのまま逃げようとしている。

 

「待て!」

俺は叫びながら、ひったくりを追いかけようとしたがヒョウに肩を掴まれる。この間にもどんどんひったくりとの距離が離れていくのが分かった。

 

「なんだよっ、早く行かないと逃げられてしまう!!」

 

「僕が行くよ。僕が、確実に捕まえる。ご主人は倒された女の人をお願い。……だから僕に命令して」

 

「……」

 

ヒョウのまっすぐな眼差しに負けて俺は言う。

 

「分かった。その代わり絶対に捕まえて欲しい。頼んだ」

 

「もちろん!」

 

「なんか面白そうだなぁ、おい!俺も行って良いかお嬢」

 

「私がダメって行ってもいくでしょ。……まぁ、今回の場合は私からお願いするつもりだったしいいわ」

 

「そうと決まれば俺はもう行くぞ!」

 

「あんまり()()()()()()()では能力は使わないでね」

 

「あぁ」

 

そういうと、バティンはひったくりを追う。

 

「僕も行くね、ご主人」

 

「お願いだ」

 

それを見たヒョウもそれに続くように走り出した。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

俺はバックを盗まれたうえに倒された女性に駆け寄り、優しく声をかけた。

 

星里さんもかけ寄り言う。

 

「立ち上がれそうですか?肩貸しましょうか?」

 

「すいません……ありがとうございます」

 

「バックはきっとあの2人が取り返してくれるでしょうから」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、待てひったくりぃ!」

 

前方ではバティンが好戦的な笑みでひったくりを追いかけているのが分かる。

 

流石に商店街でこの人の多さじゃ瞬間移動の能力は使わないみたいだ。

 

僕もそれに追いつけるように、走りながら身体強化のポーションをバックから取り出し飲む。

 

 

ひったくりは商店街の人混みを巧みにすり抜けて逃げている。

 

ひったくりは追いかけてくる僕らを見て焦りながらも、必死に逃げ続ける。商店街のメインストリートから外れ、狭い路地裏に入り込んだ。路地裏は薄暗く、両側に古びた建物が立ち並んでいる。

まっすぐな一本道だ。そこに人気はない。

 

 

「……人の多いところではダメなんだよなぁ?」

 

バティンの好戦的な笑みが一層強くなるのを後ろにいる僕でも感じ取れた。

 

「まぁ、否定はしないさ。僕も今はそっちの方がいいと思ってるし」

 

 

 

 

 

 

ひったくりは路地裏に入っても追いかけてくる様子のおかしい男女に戸惑いながらも逃げていた。

 

走るのにも持久力にも自信があったひったくりだったが、ひったくり自身、息が上がっているのに対してあの男女は平気な顔して付いてくる。

 

何度か、ひったくりは路地裏にあった自転車や植木鉢を通り道に倒して、追いつかれるのを防ごうとするが2人の追手は徐々に近くなっていく。

 

 

「なんなんだよぉ、こいつら!!」

 

 

だが、まだ完全に追いつかれた訳ではない。

路地裏を抜けた先まであと間近。

最後の力を振り絞って抜け出そうとする。

 

路地裏を抜ければそこからは入り組んだ道になり、土地勘に詳しい自分の方が有利だとひったくりは考えたのだ。

 

だがその抜け出す間近でその希望は絶たれることになる。

 

 

「ーーは?」

 

「そろそろお遊びもここら辺にしようぜ」

 

さっきまで後ろを追いかけていたはずの男が、前に居る。

別の道から回り込んだとかそんな話になるはずがない。

ーーーだって本当に数秒前まで後ろにいたのだから。

一本道で狭い道なため、自分を追い越したならその時に気づくはずとひったくりは考えた。

実際その通りなはずなのに現実はそうはなっていない。

まるでーー

 

「ーーッ。急に現れやがったっ!?」

 

「な訳ないだろ。ビビりすぎて幻覚見てるじゃねぇか」

 

一本道のこの狭い路地裏で、図体が大きいその男を押しのけて進むことは出来ない。

 

諦めて引き返そうとしたがそっちには、先程から男と一緒に追いかけて来た女がいた。

 

挟みうちの絶体絶命な状況。

だが、ひったくりは気づく。

顔の整った少女の方は、今まで走るのに夢中で気づかなかったが、男の自分と比べて華奢で、体当たりすれば突破できそうだと。

前に居る男を押し退けるよりかは現実的だと考えたのだ。

 

「わ、悪いなぁ!嬢ちゃん俺も捕まるわけには行かねぇんだ!!」

 

 

ひったくりは女に向かって体当たりをしようと勢いをつけて女の方に前進するがそれも叶わない。ひったくりが女にぶつかる直前に盛大に転んで倒れたのだ。

 

転んだ原因が何かと男は足元を見る。

ひったくりの男は目を見張った。

 

 

そこには地面に薄い氷の膜が出来ていたのだ。

ずっこけた原因はこれだと一目瞭然だが、あまりにも信じ難い。

 

「お、おかしいだろっ!?なんで、なんで冬でもねぇのに凍ってるだよっ」

 

「さぁ?朝少し寒かったような気もしなくもないし、それじゃない?実際に凍ってるわけだし」

 

 

「雨も最近降ってねぇだろ!!凍る余地がねぇ!そうはならないだろっ!!」

 

 

ヒョウはひったくりが転けた時に、離して落ちたバックを拾い上げながら言う。

 

「でも、なってるじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と星里さんは被害にあった女性に付き添い、ひったくりを追いかけていったヒョウ達を待っていた。

しばらくすると、ヒョウとバティンが帰ってきた。ヒョウの手元には盗まれたバックがあり、バティンは強制的に気絶させられたのか、気絶してしまったのか知らないが、とにかく気絶したひったくりを引きずって戻って来た。

 

 

その後、「ありがとうございます、本当に助かりました!」と女性から涙を浮かべながら感謝の言葉を述られたり、活躍を聞きつけた野次馬に称賛されながら囲まれていた。

警察ももうすぐやってくるらしい。

 

俺と星里さんは、野次馬から逃れるべくそんな2人から少し離れた場所にいた。

 

俺は遠目で2人を見て言う。

 

 

「まるでヒーローだなあいつら。なんか、バティンが満更でもないの意外だな。てっきり悪魔らしくないって不貞腐れると思ってたのに」

 

 

「……そうね、まぁ、バティンは良くも悪くも単純なやつだから」

 

それからまた沈黙。

 

星里さんとは、間が出来やすい。

 

 

俺は星里さんにヒョウとバティンがこの場にいないタイミングで聞きたいことがあった。ちょっとした違和感。

あのカラオケのタイミングで引っかかっていた事。

それを口にする。

 

「星里さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 

「ん、どうかした?」

 

「今から言うことは、あんまりにもノンデリな発言だし、不快になるかもしれないから先に謝っておく。その上で聞きたい。星里さん」

 

俺は少し言いづらそうに視線を落とした。

 

「その……さっきのたこ焼きの件なんだが……」

 

「どうしたの?言いたいことがあるなら言っていいのよ」

 

「あぁ、でも……そうだな。うん言う。

さっきのカラオケの時。ロシアンルーレットたこ焼きの、辛いのが練り込まれたたこ焼きを星里さんは知らずに食べたよな」

 

「食べたわね」

 

「それを食べた時、星里さんは真っ先に『辛い』ではなく、『痛い』と言った。だから俺は最初口の中が怪我したのかと思ったんだ」

 

「あまりにも辛すぎて痛いと言った可能性もあるんじゃない?」

 

 

「それはそうかもな。でもさっきの店長に帰り際、聞いたんだがあそこのカラオケでは、ロシアンルーレットたこ焼きは、楽しさを重視して、みんなが楽しめるくらいの適度な辛さに抑えられているらしんだ」

 

「そうなのね」

 

「一般的な辛さってのは風味と痛みで感じる物らしいから、その風味が感じ取れず、痛みだけが残ってしまって、あの咄嗟の発言が出たのかと……」

 

 

「……鋭いわね」

 

「……洞察力には自信があるんだ」

 

俺の発言に星里さんはかなり驚きを隠せないようだった。

俺は的外れな事を言って傷つけてないようで少しホッとする。

 

「もし、何かあるなら言って欲しい。それを俺が知らないまま、今後星里さんに接してしまったら、知らず知らずのうちに大きな傷をつけてしまいそうで怖いんだ」

 

「……私はそういうの慣れてるから、別にそこまで気にしてる訳でもないけど、宝生くんがそこまで言うんだもん。いいわ、教えてあげる」

 

「……」

 

「私、悪魔のバティンと契約を結んでるじゃない?」

 

「そうだな」

 

「その時に結んだ時の契約の代償が味覚の没収なの」

 

「……ッ」

 

俺は絶句する。

味覚の没収……。

 

「味を感じれないって事か……?」

 

「うん」

 

星里さんは、これからずっといくら美味しいものを食べても、その美味しさを感じれないし、誰かが食べ物の話で盛り上がっていてもそれに本当の意味で混ざれない。

 

そうだ、悪魔との取引とはこういう事なのだ。

自らの一部を捧げる事で悪魔は契約内容を実行する。

何かを無くしてではないと、何かは得られない。

 

そんな覚悟のない奴がこんな世界に踏み込んではいけない。

俺はどこか楽観視していたのかもしれない。

俺はヒョウとの契約の代償は後払いになっているから、何かを無くした実感が得られていなかった。

だから、悪魔は無償で自分の為に動いてくれると勘違いしそうになっていた。

 

……改めて代償を支払う重さを実感する。

 

 

星里さんは困ったように微笑む。

 

「宝生くんの洞察力すごいわね」

 

「……まぁな」

 

「こんな感じであっという間に見抜かれるなら、すぐバレるかもだし、この流れで私から言っちゃうけど、私嘘も一つ、ついちゃってるのよね」

 

「?」

 

嘘?思い当たる節がなさすぎて本当に分からない。

 

「さっき、ミジン子ちゃんを好きになったのは、ママの影響って言ったけどあれは嘘。私のママ小さい頃に亡くなっちゃってて、私が好きになったのはそれから数年後で偶然見つけたの。もしかしたらママも世代だし、好きだったかもしれないけど、そんな話聞いた事ないから、さっきの影響を受けたって話は完全にでまかせ」

 

「……」

 

「ごめんね、もっと空気重くしちゃったわよね。こんな感じに関係ない所で空気を重くしたくなくて」

 

「そう……か。俺の父さんは亡くなってる訳じゃないけど片親だし、そこら辺は気を使って話すべきだった。ごめん」

 

「いいよ、別に。こっちの方こそごめん」

 

 

星里さんはある男の情報を集めていると言っていた。

体の一部が機能しなくなるというデメリットを背負ってまで。

もしかしたらそれは、その亡くなった母親が関係しているかもしれない。

そこで一瞬頭に復讐という単語がよぎった。

俺は頭を振ってその考えを消す。

星里さんもそこまでは詮索してほしくないだろう。

まだ今日話したばかりの俺に。

 

ここら辺で詮索はやめよう。

 

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