【連載版】ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし戦う使い魔面してみた。 作:御花木 麗
「こんなもんかなぁ」
僕は家の庭で、しゃがみながら色んな形の氷を並べて眺め、そして頷く。
地面に置かれた氷の形は様々で四角柱だったり、球体だったり、それ以外の基本的な立体系の形はもちろん、他にも剣の形をした氷やハンマー、盾など武器や防具になりそうな形のものもある。
ひったくりの騒動から数日が経ち今日は土曜日。
ひったくりの件は僕とバティンの二人でひったくりを捕まえる事で解決したが、警察が来たのは少し面倒だった。
ご主人と悪魔として初邂逅した人気のない公園の時とは違い、あの商店街の中じゃ人もまあまあ居たので、警察から逃げる事を諦め素直に事情聴取された。それに天使や悪魔がらみの事件じゃなかったのも大きい。もしそうだったら、人が僕の事を見てようが見てなかろうが逃げてた。
幸い、ひったくりが女性のバックを奪い取った瞬間を見ている人も多く、目撃情報の一致から結構あっさりした取り調べですぐに終わった。
心配だったのは、僕とバティンが一般的にはあり得ない能力を使った事が警察側にバレて超面倒くさくなる事だったが、ひったくりの言う「いきなり後ろの男が消えて前に現れた」や「地面にさっきまでなかった氷の膜が不自然に出現した」は警察には信じてもらえず、変な事を言うなと叱られていたので、能力の事はバレなさそうだと一安心。
確認されても面倒だからもちろん、路地裏の地面に張った氷の膜は溶かして水にしたけど、変にそこのコンクリートだけ濡れていたしそこを突かれれば危うかったが、その事を警察に聞かれることも無くお礼を言われて帰された。
それで話は戻り、僕は今何をしているかというと、バビロン支部施設に乗り込むにあたって今の僕には必要不可欠になってしまった氷の腕輪の性能をちゃんと理解するべきだと判断してこの腕輪で出来る事を実際に使って細かく調べていた。
ご主人と出会う前、悪魔ごっこを始める際にも一応、ある程度は性能の確認をしていたが、改めて理解しておくべきだと思ったのだ。
だってお遊び感覚でやっていたあの時とは違い、命に狙われるような所に乗り込むんだから、己が使う武器ぐらいそれ以上に理解してなきゃね。
この並べられた色んな形をした氷達も、どこまでこの腕輪の力で形を再現出来るかというのを試していたのだ。
流石にこれを家でやると氷を扱ってるので、部屋がびしょびしょになってしまう。
それを避けるために家の庭で行っていた次第だ。
今日は家に両親も居ないので、この実験を行うには最適な日だ。
それで色んな形を作ってみて分かった事は、自分の想像力がある限り氷でどんなに繊細な形でも作れる事が判明した。
だけど、造形が複雑になればなるほど完成時間も長くなる事も同時に分かった。
観光地にあるどこぞの龍の巻きついた謎の剣のキーホルダーを再現したけど、かなり時間を食った。
あのキーホルダーよくよく考えれば、そこまで要らないのに、何故か吸い付けられるようにそのコーナーに行って買ってしまう。
謎に僕を吸い寄せるオーラがあのドラゴンの巻き付けいたキーホルダーにはある。
あれはいけない、男心をくすぐる見た目をしているせいだ。
それはさておき、次はこの腕輪で作った氷と一般的な氷を色々な方面で比べることにした。
氷なので当然溶ける。
なので溶けて水になるまでの時間を同じ大きさ同じ形の、腕輪の力で作った氷と一般的な氷とで比べた。
これは実験する前からかなり時間を要する事が分かっていたので、氷で色んな形を作る遥かに前、僕が早起きして庭にそれぞれの二つの氷をあらかじめ置いていた。それを見てみると一般的な氷は完全に水になっていたのに対して、腕輪の力で作った氷はまだ形を留めていてそこまで溶けていなかった。
放置してから少なくとも五時間は経っているはずなんだけど恐るべき氷を操れる腕輪。
次に耐久性を調べる。
さっきと同じように腕輪で作った氷と一般的な氷を二つ並べて、市販の金属ハンマーで両方を均一の力で叩けるよう意識して叩く。
「えい!」
一般的な氷は数発で砕け綺麗に破片となって散ったが、氷の腕輪で作った氷は、同じくらい数発叩いても小さなヒビが入った程度。
ヴァレフォルの投げナイフを腕輪で作った氷の盾で、防げてたりしたし、この結果は予想通りだった。
最後にこの腕輪で作った氷は腕輪をつけた方の手で、『溶けろ』と触れて念じると一瞬にして溶けて水になる機能がある。
これを一般的な氷で同じように腕輪をつけた方の手で触れて念じるが溶けない。
どうやらこの溶かす効果は腕輪で作った氷限定らしい。
とはいえ、全体的にこの腕輪の性能は高水準。
こんな住宅が集まった住宅街では目立つからやらないが、恐らく家くらいのどでかい造形や生成も可能だろう。
運営が原作ゲームではシステム的に絶対使われないというのをいい事に、好き勝手やられて作られた腕輪は伊達じゃない。
色々腕輪を試すために、水になる氷をずっといじっていたせいで、服が結構、濡れになってしまった。
腕輪の氷は溶けづらいが、普通の氷も扱ったので。
だいぶTシャツが濡れてしまって、透けてしまっている。
こんな美少女がラッキースケベな状況にあるというのに、肝心な所で居ない主人公であるご主人を哀れに思う。
腕輪を使った実験も区切りがつき、スマホの時計確認してみると、1時半。
いけない、準備しなきゃ!
今日は午後の3時からご主人のおばあちゃんの家でご主人と星里さん、バティン、僕で集まってバビロン支部施設に乗り込むための会議をする予定なのだ。
この会議は本番決行日まで定期的に行う事になっている。
ここからご主人のおばあちゃん宅は、まぁまぁ時間がかかるし、そろそろ行かないと。
◇
僕は、新しい服に着替えて、ご主人の家に行くための準備をしていると、僕が今まで集めてきたアイテムを収納している所にまとめて並ぶ一種類のアイテムが目に入る。
魔力増幅ポーションだ。
強化ポーションは、よく使うが、このポーションは一回も使った事がない。
このポーションは原作ゲームでは『その名の通り、
強化ポーションが身体的なものを向上させてくれるのなら、こちらは悪魔や天使が使う特殊能力の力を向上させてくれる。
だけどそもそも僕は腕輪のアイテム頼りで魔力を使わない戦い方を行っていたから、一度もこのポーションを使う事はなかった。
さて、僕が悪魔を偽ってる上で、最近何かと障害になっている事がある。
それは、僕の魔力ゼロ問題である。
僕が人間である以上魔力が無いのは当然なのだが、上級悪魔面するならそれ相応の魔力が無いと何かと不便だ。
野良の天使達にも舐められたし、その時は結果的にそれをいい方向に持っていけたが、バティンに魔力がゼロだと知られた時はすごく怪しまれた。
そうなのだ。
天使や悪魔の中では、魔力量の多さは一種のステータスだし、それにより威厳が生まれてくる。
上級悪魔を演じるなら、今後ますます魔力はあったに越した事はない。
「使ってみようかな」
僕はバックの中に数本、魔力増幅ポーションを入れる。
自分自身にどれだけの魔力があるのか分からない僕は多分、魔力がポーションのお陰で増えたとしても気付かない。
増えない可能性も全然あるしね。
なぜそう思ったかと言うと、このポーションに書かれていた説明文のせいである。
だって『持っている』魔力を増幅させると説明文には書いてあったが、そもそも魔力ゼロの僕は、魔力を『持っていない』という事なので、持っているのが前提な感じで書かれているこのポーションは一時的にでも僕に魔力を宿らせてくれるのか心配になる。
なにせ、こういったアイテムはゲーム内の戦闘を行ってくれる悪魔や天使を補助するアイテムであって人間が使う事を想定されていない。
そういう事なので、魔力を持っている前提で説明文も書かれている。
強化ポーションと認識阻害ローブは運良く僕にも使えたが、アイテムの全部が全部僕に使いこなせるとは限らないって事だ。
丁度今から行く話し合いに、バティンも居るので、その時にでも僕がこのポーションを飲んでどれくらい増えたかバティンに確認してもらおうと思ったのだ。
この前の件で、僕は魔力を隠している設定が付与されたので、そこら辺の設定が崩れないように気をつけて聞かなきゃだけど。
◇
バスを使って、ご主人のおばあちゃんの家に着いた。
今、その門の前にいる。
僕は中に入る前に魔力増幅ポーションをバックから取り出して一気飲みする。
「美味しくない……」
強化ポーションもだったけど、やっぱり、ポーション系はどれもまずいのだろうか。
苦さが口の中に飲み干した後でも残っていて嫌な感じ。
お口直しにバックから板チョコを取り出して一口かじる。
ンッ……美味しい。
ってか人の家の目の前で何やってるんだ僕。
これじゃまるで、中に入らず、人の家の前で板チョコを食い出すヤバいやつじゃないか。
僕は門にあるチャイムを押す。
しばらくして内側からご主人が門を開ける。
「お、ヒョウも来たか。もう星里さんとその使い魔も来てるぞ」
「こんにちは、ご主人! そうなのかい。僕が最後かぁ」
◇
家の中に入るとご主人の言う通り、星里さんとバティンが既に来ていた。
「星里さんこんにちは! どうだい、くつろげてるかい?」
「こんにちはよ、本橋さん。そうね、こんな広い、和風の古民家は、初めてだから結構新鮮でいいわね」
「ヒョウ、なんであんたの家でもないのに、いかにも自分の家です、みたいな話し方なんだよ……。あんたもここに来たの今日でたった2回じゃないか」
おっといけない。転生前にこの原作ゲームをプレイしている身からすると、ここは主人公の拠点だったから、何度も画面上で見慣れた風景。
この家は第二の実家と言っても過言じゃない。(転生前の実家と転生後の実家を含めたら第三の実家かもだけど。)
実際にこの場に来たのが今日で2回だとしても、そう思えないんだよなぁ。
心情的に。
「つぅーか、わざわざなんでこんな所まで来なきゃなんだよ。別にこの前みたいにカラオケとかで良くないか?」
不満げに壁に寄りかかって立っているバティンがそう言う。
「これから、バビロン支部施設に乗り込むに向けて、話し合いをする場を設ける数も増えてくるだろうし、カラオケとかもタダじゃないからね。高校生には少しの出費でも痛いのさ。分かってないなぁ、バティンくんは」
僕は、肩をすくめてやれやれと言わんばかりの仕草をする。
「行きと帰りのバス代含めたらカラオケ代とそこまで変わらないだろ、アホか!」
「あ、確かに」
「まぁ、それはそうなんだが、俺のばあちゃんの家は自由に使っていいって、本人も言ってたからさ。
ばあちゃんは自分の部屋しか使わないし、この広い家を持て余すくらいならって感じで。だから自分の家みたいにくつろいでもらって構わないし、そっちの方が話し合いも捗ると思ったんだ。
それに、今日みたいに長時間話す予定なら、カラオケじゃフリーにしないといけないし。フリーだったらバス代よりも全然高くなるぞ」
「そうかよ」
バティンも納得したのか壁から背を離し、床に座る。
◇
「ところでバティンくん」
「あぁ、なんだ?」
そんな話がひと段落して、本格的にバビロン支部施設に乗り込む話になりそうだったので、その前に僕は魔力の件をバティンにそれとなく聞いてみる。
「ねぇ、バティンくん。僕を見て、いつもと違うところない?」
「はぁ?」
「いいから、いいから!」
バティンはその問いに不審がりながらも、おずおずと答える。
「……いつもって言うほど、俺ら一緒にいねぇじゃねぇか。俺とあんたが面識を持ったのついこの間だろうが。……まぁ、強いて答えるならアホ度が増したんじゃねぇか?」
「ブップー!違います!ほら、気づかない?」
んー、この感じだと魔力増えてないのかなぁー。
やっぱり僕にあのポーションは使えないって考えの方が正しい気がしてきた。
見せかけの魔力でもあったに越したことないんだけどなぁ。
そう僕が思っているとご主人が口を挟む。
「俺、分かったかもしれない」
「え!?」
ご主人が!?
ご主人は悪魔や天使じゃなくて歴とした人間なはず。
いくら主人公でも、魔力を持っているか判断できる力はなかったと思う。
ご主人はなぜか恥ずかしそうにしながらも口を開く。
「シャンプー変えたよな?」
「……」
……合ってる。確かに最近シャンプー変えた。
僕が欲しい回答ではなかったけど、それどころじゃない。
なんで僕がシャンプー変えたこと知ってんの!?
「ーーごごごごご主人!!? なんでその事知ってるの……ご主人、もしかして僕のストーカーだったりして……」
「は、はぁ!? 何でそうなるんだ、誤解だ!!」
「宝生くん、流石に引くわ」
星里さんが白い目でご主人を見る。
僕が混乱していると、ご主人が慌てて弁明するように言う。
「い、いつもとは違う別のいい匂いが今日ヒョウからしてたからそう思っただけで……俺は断じて別にやましい気持ちも何もないぃぃ!!」
「まさか、冗談で言ってたはずが、本当に変態さんだったとわね……ご主人」
「種族は違っても同じ男としてその気持ちはよ〜く分かる。意地を張ってないで自分に正直になって本当の事を言うんだ。楽になるぞ」
バティンは、ご主人に温かい目でポンポンと肩を優しく叩いてそう言う。
「出会ったばっかだけど、バティン、あんたはそんなキャラじゃなかったはずだぁぁ!俺にそんな目をするんじゃないぃぃ!!!俺は絶対に何も悪くないんだあぁぁぁぁ!!!!!」
ご主人の叫びが虚しく古民家中に響き渡ったのだった。
◇
その後設定を守りつつ、周りに悟られないように僕の魔力の有無を知る事ができた。
結果、一切増えてない事が分かったので、人間である僕にはこのポーションの効果がないと結論付けた。
むぅ、まぁそこまで都合よくはいかないか。
今まで他のアイテムが僕に対して使えてたのをありがたく思わないと。
あぁ、それと、それ以降の話し合いでバビロン支部にいつ襲撃するかが決まった。
――二週間後。
皆で話し合ってそうなった。
この数日間僕らは何もしてなかったわけじゃない。
ルシファー召喚の魔導書が支部施設にあるというのは、僕の原作知識から立てた空想に近い予想だったので、これが事実だという確証が欲しくて、支部関係者の周りを嗅ぎ回っていた。
そして昨日、支部にルシファー召喚の魔導書があると確信できる情報が手に入ったのだ。
本当なら、万全の準備でいくためにもう少し猶予が欲しかったが、そうも言ってられない。
上級悪魔の中でも格上であるルシファーの召喚難易度が高いとはいえ、いつバビロン側がルシファーの召喚に成功するか分からないからだ。
なので、できるだけ早いに越した事はない。
あと、二週間。
それまでに何もかもバッチリにして挑まないと……。