【連載版】ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし戦う使い魔面してみた。   作:御花木 麗

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迷子の少年 前編

――放課後。

 

授業が終わり帰る支度をしている俺、宝生 稔の肩がポンポンと軽く叩かれる。

叩かれた方を見るとそこには女子生徒が立っていた。

 

 

「星里さん」

 

 同じクラスメイトでもあり、俺と同様に悪魔と契約している女の子。最近、バビロン支部に襲撃するという目的を一緒にすることになった協力者でもある。

 そんな彼女の顔立ちは整っており、男子生徒の間で人気が高い。

 

「授業お疲れ様」

 

「そっちこそお疲れさん」

 

「本橋さんは?」

 

「ヒョウなら授業終わってすぐ、喉乾いたって言って、自販機まで飲み物買いに行ったけど」

 

「そう」

 

「ん、どうかしたか?」

 

「いや、何も。ただ聞いただけ。深い意味はないわ」

 

「ならいいが……」

 

「…………」

 

 気まずい沈黙が生まれる。

 いやビックリするほど、会話が続かない。

 これは女子だと話を続けれなくなる、陰の者(陰キャラ)の悲しい性なのだろうか。

 

 最近初めて話したばかりなのもあるだろうが、これは間違いなく今まで男友達としか、つるんでいなかったのが大きいだろう。

 

 まぁ、この理論で行くと最初からなんだかんだ会話が続くヒョウは男になってしまうが。

 

 ……というかそもそも悪魔や天使に性別はあるのだろうか。

 俺が今まで見てきた人間の外見に近い悪魔や天使は男か女の姿をとっていたが、その姿をしているだけで無性別な可能性もある。

 もっと根本的な話、天使や悪魔ってどうやって誕生するんだ……?

 

 現実逃避として思考の沼に浸ろうとしたところで、星里さんが口を開いた。

 

「………………もうすぐね」

 

 星里さんはどこか不安そうな眼差しで、俺にそう告げる。

 

 もうすぐ……?

 星里さんの言葉に一瞬、何のことか分からなかったが、すぐに理解が追いつく。

 

 バビロン支部に乗り込む件か。

クラスメイトが教室にまだ半分くらい残っているから、ぼかして言ったのだろう。

 

 バビロン支部に乗り込む予定の日はもう数日前に迫っていた。

 

 だが、俺らがやれる事は、やったはずだ。

 バビロン支部の情報は前から星里さんが集めていたため、ある程度は揃っていたが、その他に欲しい情報などを集めたり、それを元に作戦会議を行ったりなどして、着実にその日に向けて備えてきた。

 

 だから――

 星里さんに微笑みかけて、俺は言う。

 

「そうだな……。俺らができる範囲でやれる事はやったさ。だからそんな心配そうな顔しなくても大丈夫だと思うぞ」

 

 自分が不安そうな顔をしていたことに気づいたのか、星里さんは少し表情を和らげた。

 

「ごめんなさい、気を使わせちゃったみたいね。私の方が宝生くんより、先にコッチの世界(天使や悪魔のいる裏側)に足を踏み入れた先輩なんだから、私がしっかりしなきゃならないのに」

 

「大丈夫だって、そっちこそ気を使いすぎだ。せっかく協力する事になったんだから、1人がしっかりする必要はない。ダメなところは補いあっていけばいい」

 

「……ありがとう」

 

「おうよ!」

 

 俺の言葉に、星里さんは微笑みながら、少しだけ肩の力を抜いたように見えた。それ俺は安堵する。

 

 そんな話をしていると、学校のスライド式のドアがガラガラと開けられ、教師がコッチを覗きながら言った。

 

「あのー。お取り込み中のところごめんなさい、星里さんに緊急でちょっと手伝って欲しい事があって」

 

「分かりました、先生」

 

 星里さんは先生から視線を外し僕に向き直ると手を合わせて申し訳無さそうに言う。

 

「ごめんね。呼ばれたから先生の所行ってくるわ」

 

「りょーかい。今日は俺らで集まっての話し合いとかそれ以外での用事だとかはなかったよな?」

 

「そうね」

 

「だよな。なら俺はヒョウが戻ったら学校を出ようかな」

 

「分かったわ、また明日ね。ばいばい」

 

 手を振る星里さんに俺も手を振り返す。

 

「あぁ」

 

 こうして俺と星里さんは教室で別れた。

 しばらくすると飲み物を持ったヒョウが教室に戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ヒョウ。今日帰る前に大型ショッピングモールに寄っていいか?」

 

「ん、何か用事かい?」

 

 買った飲み物を片手に僕が問いかける。

 

「いや、数字の参考書が欲しいなと。あそこの中にある本屋さん、大きいだろ?だからテストも近くなってきたし、自分に合った参考書探すにはうってつけだと思ってな」

 

「げっ、入学してそうそうテストの話かい」

 

「いや早々とは言うがもう5月になったんだぞ。5月は中間テストがあるし、そうも言ってられない」

 

「ご主人は真面目だねぇー」

 

 僕はおどけてみせる。

 

「あんたが不真面目なだけだろ」

 

「失敬な。中学生の時、僕の学内順位は毎回230人中、10位以内に入っていたんだぞ!」

 

「ま、まじかよ。俺は70位くらいが平均だったな…………。でも、確かに俺の記憶の中に、そんな噂があったのを覚えている」

 

 悔しそうな顔をするので、僕はそれを見ながら優越感に浸っていると、ご主人は「あ!」と声をあげる。

 

「騙されかけたっ!そういえば中学の記憶は全部すり替えられた偽物の記憶じゃないか!!」

 

 あーそういえば、僕がご主人に存在しない記憶植え付けてる事になってるんだったけか。

 

 ちえっ。もう少しご主人の悔しそうな顔を眺めて優越感に浸りたかったのに、過去の自分の発言が足かせになってしまった。

 人生2回目とはいえ、僕の学力の結果なんだから、僕だってその優越感に浸る権利はあるはずなのにぃー!

 ……まぁ、いいか。

 

「僕もショッピングモールについていこうかな。色々見て回れるし」

 

「おうよ、ありがとな」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

ショッピングモールに到着すると、活気に満ちた雰囲気がそこにはあった。ガラス張りの天井から降り注ぐ光が、フロア全体を明るく照らしている。

 

「じゃあまず、本屋寄らせてもらうぞ」

 

エスカレーターで二階に上がり、広い本屋に足を踏み入れる。棚には沢山の本が並び、どれを手に取るか迷うほど。

 

「ご主人、こっちに高校数学のコーナーがあるよ」

 

ヒョウが指差した方向へ進むと、目当ての参考書が並んでいた。俺は一冊ずつ手に取り、内容を確認する。

 

「どれがいいかな……解説が詳しくて、例題が多いものがいいんだが」

 

「これなんかどう?図解が多くて分かりやすそうだよ。あと例題もそこそこ」

 

ヒョウが差し出した参考書を手に取る。確かに見やすくて理解しやすそうだ。

 

「お、いいじゃないか。サンキュー、ヒョウ」

 

「どういたしましてさ」

 

会計を済ませ、本屋を出ると、ヒョウが楽しげに言った。

 

「よーし、ご主人が買いたい物は買えたし、いろいろ見て回ろうじゃないか」

 

 ヒョウが楽しそうに言う。

 それを見て俺は思わず苦笑する。

 ルシファーの魔導書を取られて落ち込んでいたヒョウは、ある程度取り返す目処が立って、調子が戻ってきていた。

 これも空元気じゃなきゃいいんだがな……。

 まぁ、俺も人の事言えないけど。

 

「……ん、どうかしたかい、ご主人?」

 

「いや、なんでもない。……そうだな。ちょっとブラブラしていくか」

 

 

 

 

 

 

 俺たちはショッピングモール内を散策して、雑貨店などを見ていく。

 

「ねぇ、見て、これご主人!これとても良くないかい?」

 

「お、久しぶり見たな。それ」

 

 ヒョウが指差す先にあるのは、少し前に一時期流行った魔法陣型のスマホ用のワイヤレス充電器。

 

「しかもこれ七色に光るゲーミング仕様!」

 

「わお。充電器が七色に光る必要あるのか」

 

 最近の物は何でも七色に光らせすぎな気がする。

七色に光るゲーミング箸とかあるくらいだし。

 

「何言ってんのさ。ロマンじゃないか!…………スマホ用の普通のワイヤレス充電器とコードの充電器が家にあるけど買おうかな」

 

「……おい。2つあるなら、十分じゃないか?この充電器、値段まぁまぁするぞ……」

 

「あのねご主人……」

 

「……なんだよ」

 

 ヒョウは水晶玉のような澄んだ目で諭すように言う。

 

「時には利便性とか、買わない方がいい正当な理由があったとしても、それをかなぐり捨ててでも、買うべき時があるのさ。それが今。ロマンを感じた今なんだよ!分かるかい?ご主人」

 

「……」

 

 絶対に普通の充電器で充分だろうが、ヒョウの言い分も分からなくはないのが悔しい。

 

 だって俺もあの充電器を一瞬でもかっこいいと思ってしまったのだから……。

 

 

 

 

 ◇

 

ヒョウが魔法陣型ワイヤレス充電器を買った後も、俺たちはショッピングモール内をあちこち見て回っていた。しばらく経つとあのヒョウがやけに大人しいことに気づく。

こんなに大人しいことは、落ち込んでいた時すらなかったと思う。

 

 俺は不思議に思ってさっきまでヒョウが居た、自分の横を見る。

 

「あれ、ヒョウ?」

 

だがそこにはヒョウの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ――20分前。

 

 

 

 

 「あれ、ご主人?」

 

 周りを見渡すがご主人の姿はない。

 

 

 途中、ゲームショップがあったので、そこに寄って商品を眺めていたが、しばらくしてご主人がいないのに気づいた。

 てっきりゲームショップに僕が入った時に、一緒に付いてきているものだと思ってたけど…………そうじゃなかったらしい。

 

僕はご主人に電話をかけたけど、繋がらないしメッセージにも既読がつかない。

 

「まずったな……」

 

 これ完全にスマホの通知切ってるな……。

 仕方ない……。ご主人を歩き回って探すしかない。

 僕は肩を落とす。

 ……にしても

 

 

「ご主人が――」

「ママが――」

 

「「迷子になるなんて……」」

 

「え」

 

誰かと声が重なる。

軽く驚きつつ、下から声が聞こえた気がしてうつむくと、そこには小さな人影が目に入った。

 

「あれ、お姉ちゃんも、誰か迷子になったの?」

 

 男の子だった。大きな目で僕を見上げている。見た目は幼いが、表情や雰囲気から妙に大人びてると感じさせる子だった。

 なんかどこかで見たことがあるような……。

 少し引っかかる部分がありつつも、どこで引っかかているのかすら分からず、考えるのを諦めた。

 

「いやまぁ、僕の連れがね……。僕が途中にゲームショップに寄ったら居なくなってたのさ」

 

「え、それお姉ちゃんが迷子側じゃない?どっちかというと」

 

「ゴホンッ。それはさておき、迷子かい?君」

 

「ううん、僕じゃなくて、ママが迷子になっちゃったんだ。まぁ、でも、大丈夫だよ。サービスセンターに行って僕のことをアナウンスしてもらおうと思うんだ。そっちの方が僕がママを自力で探すよりもずっと早い」

 

「そうかい、1人じゃ危ないだろうから僕もサービスセンターまで付いていこうじゃないか」

 

「ありがとう、お姉ちゃん。お姉ちゃんも一緒にアナウンスされる?」

 

「…………流石にこの歳で迷子のアナウンスをされるのは、心に来るものがあるから遠慮しとく」

 

 

 こうして僕はこの子を連れてサービスセンターに向かうことになった。

 

 

「にしても君、何歳なのかい?」

 

「ボクは、5歳。年長さんだよ」

 

「すごいね。君くらいの歳なら迷子になって、泣いちゃってもおかしくないくらいの歳なのに。しっかりしてるね」

 

「そりゃあ、そうだよ。ママが頼りない分ボクがしっかりしなきゃなんだ」

 

「……ママ嫌いかい?ママに対してあまり悪く言っちゃいけないよ」

 

「ママは、大好きだけど、頼りないのは本当なんだ。今日なんか靴を履き忘れて、素足で外を出ようとしてたし……」

 

「それは……なかなかだね」

 

 喋りながら2人で歩く。

 今日のショップモールはかなり人が多い。

 そこで僕はこの子に提案する。

 

「手をつなごうか。僕らがはぐれても面倒だし」

 

 そう言って、僕は右手を差し出す。

 だが、なかなか手を握ろうとせず躊躇っている。

 

「ん、どうかしたかい…………ははぁん?もしかして恥ずかしいのかい?お姉さんと手を握るのが」

 

「はっ……ち、違うもん!」

 

 男の子は顔を赤ながら、僕の手を勢いよく握った。

 小さな手だ。

 歳のわりに、しっかりしてる子だとは思ったけど、年相応のこういう可愛らしいところもあるじゃないか。

 

 思わず顔がニヤけてしまう。

 

「お姉ちゃんっ!変な顔しないでっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は迷子の男の子を連れて、サービスエリアを目指して歩いていると、前方に二人組の男女が現れた。年は20代後半から30代前半といったところか。

彼らは安堵したような笑顔を浮かべ、こちらに近づいてくる。

……もしかしてこの子の親御さんたちかな?

 女の方が口を開く。

 

「タケル、心配したのよ!探したんだから」

 

女が少年の名前を呼び、優しい声で話しかける。

 

だが、男の子はその女の方に行こうとはせず、それどころか僕の手を先ほどより強く握ってきた。

 

「……あの、タケルの面倒を見てくださってありがとうございます」

 

男の方が僕に礼を言う。

 

「ほら、行くよ、タケル。……じゃあ失礼しました」

 

 そうして笑みを浮かべたまま、女は男の子を手招きする。

  それでも男の子は2人の元に行く気配はない。

 握っている男の子の手から少し震えを感じる。

 男の子は奥歯を噛み締めるようにして言う。

 

「違う、僕の親じゃない!顔も全然似てないし」

 

「もー、そういう冗談はいいから。ごめんなさいね。うちの子、こういう所があるから」

 

 そう言って女が苦笑しつつ、子供の腕を掴もうとして――

 

 

 パチーンッ!

 

 手が弾かれた音がする。

 

 そりゃあ、そうだ。

 僕が男の子の腕を掴もうとする女の手を弾いたのだから。

でも。思ったより弾いた時の音が大きくてビックリしちゃった。

 弾いた瞬間、驚いた表情を浮かべた女と男は一瞬固る。

なにが起きたのか分からないというような顔だ。

 その様子を僕は冷静な表情で女を見つめる。

 

思い出したのだ。

 なぜこの子に見覚えがあったのか。

 この展開になるまで気づけなかった自分を恥じるべきだろう。十数年前にプレイしていた原作ゲームの記憶が正しければ――

 

 

「――君ら、バビロンの職員だろう?」

 





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