【連載版】ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし戦う使い魔面してみた。   作:御花木 麗

19 / 23
特大スクープ

 

 

「よっしゃぁぁぁ!!やっと塾終わったぁぁ」

 

「だねぇ」

 

「ちょっと、翔太声でけえわ。周りに迷惑だろ」

 

「メンゴ、メンゴ……にしてもシャバの空気はうめぇなぁ。最高!」

 

「それはまるで塾が刑務所や留置所のような場所みたいな言い方だな……」

 

「翔太の言い分も分かるよ、俺」

 

 

 昔から互いに幼馴染である男子達で、おちゃらけキャラである中島、天然キャラの上山、それらのまとめ役である下崎の3人は、同じ塾に通っており、やっとその勉学にも解放され、帰宅している途中だった。

 

 3人は塾が終わった開放感を感じながら、夜道を歩いていると、少し離れた所でタクシーを拾おうとしている3人の人影をみかけた。

 

 その内の2人の少女に、この3人組の誰もが見覚えがあった。

 

「あれって……同じクラスの星里さんと本橋さんじゃない?こんな所で会うなんて奇遇だよね。おーい、ふたりともー!」

 

「ばっかお前ッ!」

「マジ何やってんだよッ」

 

 上山が手を振って2人の少女を呼び止めようとするのを、中島と下崎で慌てて口を塞ぎ建物の物陰に隠れた。

 

「なんだよ。2人とも酷いじゃないか」

 

 膨れる上山に下崎が小声でひそひそと言う。

 

「よく見ろよ。もう1人居るが、あれ男だぞ。男1人と女2人がこんな夜に3人でタクシーに乗ろうとしてんだ。察しろって話だよ。こんな状況で話しかけたら絶対気まずくなるに決まってる」

 

 それに続くように不満げな中島が言う。

 

「ウチの学校でもトップクラスの美少女をはべられせてるあの赤髪高身長男なんなんだよ。ハーレムかよッ。羨ましい!リア充滅びろっ!ってか、本橋さんは宝生の変態さんが居るだろうにどうして……」

 

 

 3人の男は物陰からチラッと顔を覗かせ、学校を大騒ぎにしてしまうような特大スクープに遭遇してしまったのだと確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく夜道を歩き続け、タクシーが拾いやすそうな広い通りに出た。周囲には人影もまばらで、ポツポツと立つ街灯だけが頼りの光だ。

今からタクシーに乗る。

目的地の近くまではタクシーで行くことになっているからだ。

タクシーで、まぁまぁ離れた所まで行くから値段が怖いが、仕方ない……。

やがて、星里さんが手を挙げて広い通りに一台のタクシーが止まった。

 

その時、不意に遠くから声をかけられた気がした。

 

「……?」

 

思わず振り返るが、暗闇の中に人影は見当たらない。耳を澄ましてみたが、微かに風が鳴る音が聞こえるだけだった。

 

「どうかした?」

 

星里さんが首を傾げる。

 

「いや……なんでもないよ。多分風の音を人の声と勘違いしたんだと思う」

 

気にしないふりをして再び前を向く。違和感を抱きながらも、今はそれを深掘りしている余裕はない。

 

運転手が窓を開けてこちらを見た。

 

「どちらまで?」

 

星里さんが先んじて答えた。

 

「清影トンネル付近まで頼むわ」

 

運転手は一瞬だけ顔を曇らせたように見えたが、何も言わずにドアを開けてくれた。僕たちはそれに乗り込み目的地に向かう。

 

清影トンネルは、かつて物流路として利用される予定だったトンネルで、建設途中に地盤の脆弱性が発覚して崩落事故を懸念し、閉鎖されたと言われているトンネルだ。そのまま放置されたことにより、この地域の心霊スポットとしてそこそこ知名度がある。

そんな所に若い僕達がこんな夜中に向かおうとしているのだ。まぁ、良い顔をされないのは分かっていた。

 

車内は妙に静かで、星里さんは窓の外をじっと見つめ、バティンは目を閉じたまま腕を組んでいる。運転手が時折ルームミラー越しにこちらをうかがう視線を感じた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 タクシーを降りてしばらく歩くと、薄暗い街灯の光の中に、柵で封鎖されたトンネルが姿を現した。トンネルの入り口は鉄柵で覆われており、周囲には「立入禁止」の看板がいくつも掲げられている。

 

「ついに来たわね」

 

 星里さん達が掴んでいた情報と僕の原作知識を合わせた事で、この先にこの地域のバビロン支部施設がある事はほぼ確実。

 まさか誰もこんな使われていないトンネルの先にそんな施設があるとは思わない。

 ここ最近で2回も立ち入り禁止の場所に入ることになるとはね。

 僕はコートを脱ぎながらそう思った。

目立たないように、一度外していたドミノマスクやツノもこの時、付け直した。時着脱可能なただのコスプレ用のツノだと2人には悟られないように丁度僕をみていないタイミングを見計らってだ。着脱可能なツノだとご主人にはバレてしまっているけど、悪魔を演じるならなるべくバレない方が都合がいいからね。(この事を知ってもご主人は僕を悪魔だと信じちゃってるけど……)

 

とにかくこれで、さも戦いに向けて、本来の姿である悪魔のツノを生やしたのだと認識させる事が出来たのではないだろうか。

 

原作ゲーム内の悪魔や天使は、ツノや輪っかを任意で見えないように隠せる設定があったから不自然ではないと思う。

 

 

 

「お嬢と氷の悪魔、前決めた通り俺の瞬間移動でこの柵を越えて中に入るぞ。準備はいいか?」

 

 

バティンの能力は見える範囲を瞬時に移動できる能力。

バティンの体に接触している相手も一緒に瞬間移動できるのが特徴だ。

 

「良いわよ」

 

そう言って星里さんはバティンの肩を掴む。

僕もそれに倣ってバティンの腕を掴んだ。

じゃあ瞬間移動するぞという所で星里さんが口を挟む。

 

「あ、そうそう本橋さんってバティンの能力で瞬間移動するの初めてよね?」

 

「あ、うん。そうだね」

 

「慣れてないうちは、酷い時の乗り物酔いみたいな状態になるからそこだけは覚悟しといてね」

 

「え、何それ。初耳なんだけど、まだその覚悟僕出来てな――」

 

「ほらよっと!」

 

 言葉を言い終える間もなく、バティンの能力が行使された。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ぐうぇぇ。気持ち悪いよぉ〜。吐き気がする」

 

何とも言えない不快な気持ち悪さが体に残り続けたまま、そこそこ長いトンネルをカンツカツンと足跡をたてながら進んでいく。

 

「大丈夫?あなたのただでさえ白い肌が死人のようにもっと白くなってるけど……少し休む?」

 

 ゾンビのようなヨロヨロとした動きで歩く僕の背中を手でさすさすと心配そうに星里さんがなでてくれる。

 

「ありがとう、星里さん。僕に気を遣ってくれて。でも大丈夫だよ。そこまでしなくても」

 

「なんだよ。上級悪魔くらいならあれくらい耐えろよ。へばっちぃーな」

 

僕の前を進むバティンは片眉を上げてあっけらかんとそう言う。

 

というかバティン大鎌担いでるけど、いつの間に担いだのだろうか。さっきまであの大きさの鎌は持ってなかったはずだけど……。

だって最初から持っていたらそもそもタクシーに乗れなかっただろうし。なんなら即通報されてた。

 

「お、外に出たっぽいな」

 

気持ち悪くて下を向いていた頭をバティンの言葉で前に向ける。

 

トンネルを抜けた先は、視界を覆う白い霧が辺り一面を包み込んでいた。月明かりすら霧に遮られ、足元がかろうじて見える程だった。

 

手に持っているライトの光も遮ってるなこれ。

トンネルを抜けたらあと少しだと言うのに、このままじゃまともに、施設まで進めないだろう。

 

この霧は自然発生した霧じゃない。

バビロンが自分達の施設を覆い隠すために発生させている人工的な霧だ。

人工的とは言ったものの悪魔的と言う方が正しいのかもしれない。

 

 ……まぁ、つまりこれは人ならざるものの力が働いているという事だ。

 

「ねぇ、バティンくんは分かるかい?」

 

「あぁ、周りはこの霧で見えねぇが、何かの気配は感じる。俺らの周りを飛んでる悪魔の気配が」

 

 これは恐らく原作ゲームにもいたオンボノという下級の悪魔で間違いないだろう。

 この悪魔は濃ゆい霧を発生させる能力を持っていた。

霧で視界不良にさせ人を迷わし困らせる。

星野さん達の持っていた情報とも一致するから合っているだろう。

 

「ただ、俺は視界に移動先が見えていないと瞬間移動を行使できない。この視界じゃ俺らの周りを飛んでる悪魔を仕留める事はできねぇ」

 

「そこで僕の出番って事だね。僕は場所が分からないから、バティンから場所を聞いて僕が仕留める」

 

僕がそう言うとバティンは顔を顰めた。

 

「なんでお前そんな嬉しそうなんだよ」

 

「え?だってこれっていわゆる共闘ってやつじゃん。興奮しないわけないじゃないか」

 

「何言ってんだよっ!俺はお前と共闘してるつもりはねぇ!あんたが何処の馬の骨かもわからないのは変わらないんだからな」

 

「バティン、今そんなくだらない事言ってる暇ないでしょ。本橋さんに場所を教えてあげなさい」

 

「ったく分かったよ、お嬢」

 

 バティンは半眼で、その悪魔がいると思われる方向を指差す。

 

原作知識で100mmほどの悪魔だったと思う。

この霧の中じゃ大きい的とも言えない。

霧のせいで照準を定める事はほぼ不可能だから。

 

 

なので最初から照準は定めない。

僕は視界に入りきれないほど沢山のつららのように尖った氷の塊を生成して一気に、バティンが指差す方向へ「ヒュッ」と音をたてて弾丸のごときスピードで放つ。

 

これで確実にやれるかは厳しい。

それは最初から期待していない。

悪魔は当然だが動く。恐らく今の攻撃も避けようとしただろう。だが、流石にあの広範囲攻撃を無傷では避けられまい。

 

霧の向こうから微かに「ギィッ……」という音とともに、氷と擦れあう音がした。

 

「多分、今のは擦り傷程度ですんだようだけど……それが命取りだよ」

 

 

その音の発信源で、悪魔の居場所を詳細に絞れた。ぼくは音が聞こえた瞬間に間髪入れず氷の槍を生成して渾身の一撃を力一杯に霧の中へと投じた。

すると「ギウィィッ!!!」という悪魔の断末魔がしたかと思うと、ドスッと何かに刺さる音がした。

それと同時に霧が晴れていく。

 

霧が晴れると、そこには氷の槍に射抜かれた悪魔ごと、槍が木にささっていた。

固定された、悪魔はうなだれた状態で動かない。

コウモリのような姿をしているが、尻尾が体と同じくらい大きし、一本のツノが生えている。

 

時間差でその悪魔は消滅して跡形もなく消え、残ったのは木に刺さる氷の槍だけとなった。

 

そう言えばさっきから2人の反応がない。

心配になり、恐る恐る後ろを見てみると……驚いた表情で固まっている星里さんと複雑そうな顔をしたバティンの姿があった。

 

「本橋さんあなたすごいわね……。あなたが能力使うところ初めて見たけど思っていた以上ね……」

 

「ありがとう。星里さん、僕、そんな事言われたら照れちゃうよ」

 

「ふんッ。俺が能力使ってるので見た事あるのは氷の膜張っているところだけだったからな。今のは少しはやるじゃねぇか。本当に上級悪魔なのかはまだ認めてねぇがな」

 

「バティンったら素直じゃないんだから」

 

 そう星里さんに言われふんっとバティンは、そっぽをむいた。

 

「まぁ、何にせよ。邪魔な霧は晴れたよ。あとは進んで施設に侵入するだけになった訳だ」

 

侵入してからが大変なんだろうけどね。

 

 それにしても流石最高レア度の強化ポーションだ。

今の反応速度はこれがないと出せなかったかように思う。

いざという時のためのとっておき。

ここで全部使い切るのは、今後もなにかあるかもしれない以上勿体無い。

 だからほんのちょびっとだけ、ここに来る前に口に含んだけど明らかに体の軽さが違うし、感覚も研ぎ澄まされている。

 

 これなら精一杯頑張れそうだ。

 ちなみに味は最高レア度なだけあって、過去一不味かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

 そこは、無機質な蛍光灯が天井から明るすぎない光を放つ中、壁際に並んだ書類棚や、デスク上に雑然と積まれた資料が置かれている部屋だった。

そんな場所でパソコンと睨めっこしていた1人の男が、小さく声を漏らした。その言葉には驚きとも戸惑いとも取れる感情がにじみ出ている。

 

その部屋の一角にまたもう1人、部屋の片隅に置かれた簡素なソファの上で男がだらしなく横たわっていた。顔には新聞を広げ、片脚は肘掛けから垂れ下がっている。

 

そんな男が、パソコンと睨めっこしている男に、新聞を顔に広げたまま呑気な調子で問いかけた。

 

「んー?どうしたの後輩くん。そんな素っ頓狂な声上げてさ」

 

「今、僕との契約が切れました」

 

「なんのー?」

 

「なんのって、僕らは悪魔との契約者なんだから、一択じゃないですか。悪魔との契約ですよ!」

 

「あぁ、そうなの。代償払ってまで契約してたのにそれは残念だったね」

 

「めちゃくちゃ他人事ですね。まぁ、実際先輩からしたら他人事でしょうけど、これは先輩にも関わる問題になるかもなんですよ!

 なぜなら施設を隠すために、支部施設の周りを飛び回らせていたオンボノとの契約が切れたんだ。何者かがこの支部施設の近くまで来ていて、そいつに消滅させられたに違いない……今からちょっと報告してきます」

 

「偉いねぇ」

 

このような状況でも呑気なことを言う先輩に呆れを混ぜた調子で後輩の男が言う。

 

「あのですねぇ。今この支部施設には僕らともう1人の契約者しかいないんですよ?僕はもう契約切れたので過去形ですし……とにかく、それくらい僕らの存在は希少なんです。だから先輩みたいに職場でぐうたらしていても、誰もみんな咎めてこなかったんですよ。全てはこういった時の緊急事態の対処をしてもらうためでもあるんです」

 

「でもさ、君の言うもう1人は今、本部からこの支部施設にやってきてる丈翔さんじゃん。第一線で活躍してる中級悪魔使いさんが来てるんだし、大丈夫でしょ」

 

あくびをしながら男は仕事放棄宣言にも近い事を言ってくる。

 

報告しにいこうとこの部屋から出るためにドアノブに手をかけた後輩の男は先輩からそう言われてドアノブを回す手を止めた。

そして言う。

 

 

 

「あの男、気に食わないですよね、僕。――笑顔の裏で常に見下されてる感じがして」

 

「………………」

 

十分な静寂がこの場を支配した後、先輩の男が口を開く。

 

 

「…………まぁ、分からんでもないな」




 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。