【連載版】ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし戦う使い魔面してみた。   作:御花木 麗

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ピーマン丼特盛

 

一瞬の静寂を切り裂いたのは、鋭く弾けるような鎌同士の激突音だった。

 

跳躍、急停止、金属が擦れ合う音。交差したのは二振りの大鎌——ひとつは瞬間移動に長け、もうひとつは影に潜む術を持つ。互いに不意打ちを得意とし、異なる外見や性格を持ちながらも、どこか似た性質を持つ2人の悪魔。

 

「フルカス、左だ! 斜め上から来るぞ!」

 

男が声を張り上げ、フルカスに警告する。

 

「承知ッ」

 

バティンの振りかざした大鎌を避けるように、フルカスの姿が影の中へと沈んだ。

 

棚や机が落とす影へ器用に潜り込みながら、闇の中を泳ぐかのようにフルカスは移動する。どの影から襲ってくるのか分からない——それがこの能力の恐ろしさだ。

 

しかし、バティンと契約者の星里もただ見ているわけではない。

 

「バティン、斜め後ろ! 物置の影から、一瞬鎌の光が見えた! フルカスがそこから来るかも!」

 

「ああ!」

 

バティンは即座に視線を向け、その影から離れた場所へ瞬間移動。直後、物置の影から飛び出したフルカスが、バティンがいた場所に大鎌を振り下ろす。

 

ほんの数秒の差で、直撃は避けられた。星里の判断がなければ、バティンはやられていたかもしれない。振り下ろされた鎌は床に叩きつけられ、金属の不快な音が室内に響き渡った。

 

「ちぇっ。小賢しいわい」

 

「それはこっちの台詞だッ!」

 

鎌の速度、重さ、角度。その一撃一撃に込められた殺意。互いに隙を見せない攻防は、まさに読み合いの連続。

 

不意打ちに特化した彼らの戦いでは、契約者の援護が不可欠になる。悪魔の死角を補い、広い視野から指示を飛ばす契約者の判断が、戦局を左右する鍵となる。

 

この点において、男と星里——2人の契約者は極めて冷静に判断していた。

 

戦場は刻々と変化する。2人の指示は戦況を次々と塗り替えてゆく。

 

フルカスが影から現れ、鎌を振るうと同時に、また影の中へと消える。

 

「ちぃっ、あの能力……本当に厄介だな」

 

バティンが影を蹴るが、もちろん当たらない。ただ地面を蹴っただけの結果に終わる。影へ潜られている限り、こちらから干渉はできないのだ。フルカスにとって影の中は絶対の安全地帯と言っていい。

 

だが、それでもバティンにはまだ余裕があるように見える。

 

星里たちは事前にヒョウから聞いていた。あの能力の“本質”と、“対策”。

 

――その能力で最も警戒すべきは、「自分の影に潜られること」。

 

常に自分に寄り添い、どこにいてもついてくる影。そこをフルカスにテリトリーとされたなら、首元に常に刃を突きつけられているも同然。

 

だが、対処法はある。

 

フルカスが潜む影に、自分の影を重ねないこと。

 

フルカスは影の中を潜る事で能力を発揮する。もし、A地点の影とB地点の影が離れていれば、そこに繋がりがない限り、影から出て移動しなければならない。しかし、影が繋がっていれば、フルカスは影の中だけで移動できる。これが自分の影に適用された場合、フルカスの潜む影に重ねてしまうと、抵抗できない状態で侵入を許してしまうことになる。

 

そのため、バティンは自分の影の位置やつながりに常に注意を払っていた。

 

そんな矢先——

 

ガッンッ。

 

男が突然、施設内の監視用モニターを蹴飛ばした。

 

とち狂ったのかと、いきなりで意味不明な行動にこればかりは、星里とバティンだけでなく、縛られている職員も唖然とするしかない。

 

 

 配線ごと引きちぎる勢いで宙へ舞い上がったモニターは、思わぬ場所に影を作る。

 

「まさかッ――」

 

「――ッ。にゃあろうッ!」

 

バティンと星里は即座にその意図を理解する。

 

新たに生まれた影は、星里のすぐ傍。

 

当然、星里も自分の影に入られないよう気をつけていた。

 

重ならずとも影と影を潜り、足場にして入られることも懸念して、フルカスとの戦闘になってすぐ、自分の影と他の影の間にある程度の間隔をあけることを考えて立っていたのだ。

 

だが、まさか星里は自分の近くに影に潜むための道中の影がないからって意図的に作り出すとは思っていなかった。

 

このままモニターの影を足場に自分の影に入られてはいけない。

 

 

バティンが咄嗟に星里の前へ瞬間移動し、星里の影に迫り来るフルカスに鎌を降って牽制する事で侵入を阻止。同時に、落下したモニターが地面に叩きつけられ、悲惨な音を立てて壊れた。

 

「惜しかったねぇ」

 

男がつぶやく。

 

「…………」

 

星里は言葉を返さない。ただ、冷や汗が伝い、荒い息が漏れる。

 

人知を超えた能力が飛び交うこの空間で、常に最適な指示を下すということ。それは、想像以上に神経を削る作業だった。

 

(……私、もう限界が来てる)

 

バティンの指揮を続けながら、相手の動きと真意を読み続ける。それを長時間できるとは思えない。

 

「これ以上は……」

 

持久戦に持ち込まれたら、相手に勝てる自信がない。指示役の男は息すら上がっていないのだ。先程みたいな不意打ちもあるかもしれない。私はそれを考慮しながらバティンの指揮を長時間取れるのだろうか。

 

「これ以上は……」

 

 星里が小さく呟く。

 

私の勝ちが薄い持久戦に持っていかれるくらいなら、事前に話していた奥の手の方法で行くしかない。

ヒョウから聞いて半信半疑だったけど、今はこれしかないと思ってる。

 これは本当の意味でギャンブル。

 半々の確率で負けて半々の確率で勝つ。

 だが、持久戦で負けに追いやられる可能性がある以上こっちの選択の方がマシだと。

 

 

「……ねぇ」

 

「わかってる。……あれだな」

 

 視線を交わし、頷き合う。

 

 その行動に、男が違和感を覚える。

 

「どうした……?」

 

 直後、星里がドアへと歩み寄った。

 

 ドアの前に立ち、静かに男を見据える。

 

「ここから先は、決着がつくまで、通さない。」

 

 

 

 

 

 

 

困惑する男。

なぜ少女がこの部屋から誰も出させないようにするのか——その意味を測りかねていた。

 

「バティン!」

 

少女の声が響くと同時に、赤髪の悪魔が動き出す。その姿に、今度は男とフルカスが唖然とする番だった。

赤髪の悪魔は、先ほど男が壊したモニター以上の勢いで部屋中の設備を次々に破壊していく。

 

まさか、自分の真似をしているわけではないだろう。あちらにとって、同じ行動にメリットがあるとは思えない。

 

——だが、次第に“それ”に気づく。

 

壊されているものに共通点があった。

男が蹴り飛ばしたモニターも含め、破壊されていたのはすべて「発光するもの」だった。

モニター、天井照明、……そして最後の照明が砕け散り、白い閃光が数度瞬いた直後——部屋は、完全な暗闇に包まれる。

 

(あぁ……そういう事か)

 

男はその狙いを理解した。

 

拳、脚、鎌——あらゆる手段で“光源”が破壊されていたのだ。

 

影がなくなる。

 

光がなければ、影も存在しない。

それはあまりにも単純で、だからこそ確実な理屈だった。

 

光ひとつない、窓もない、月明かりすら届かない漆黒の空間で、フルカスが唸った。

 

「影を消す……。なるほど、ワシの能力を封じ込めたわけじゃな。……だがな、お前さん達、本末転倒じゃぁないかい?」

 

「その通りだと思う」

 

男は頷き、フルカスの話を引き継ぐ。

 

「キミと契約している悪魔の能力……見えてる範囲にしか瞬間移動できないんじゃないか。視線を向けた場所にしかとんでいなかったから、仕組みはだいたい合ってると思うんだけど。となると、この暗闇じゃ移動先が確認できない。という事で君の悪魔も、瞬間移動が使えない。」

 

「流石ね、敵ながらその観察力はあっぱれよ」

 

そう言った赤髪の悪魔の声には、むしろ楽しげな響きがあった。

 

「能力が使えるかどうかなんて、小せぇ問題だ。純粋な力だけの勝負も面白そうじゃねぇか」

 

その言葉に、フルカスがかっかっかと笑い声を上げる。

 

「戦えればそれでいい、ってか。まったく、笑わせてくれる」

 

男は、ようやく彼女たちの“真の狙い”を理解する。

フルカスの能力を封じること——それは表向きの目的にすぎない。

本当に狙っていたのは、「契約者の指揮を遮断すること」だった。

 

男は今の戦いで、自分の方が少女より指揮能力がやや上だと自負していた。

そして男は悪魔同士の実力が同じ程度な事も見抜いていた。

悪魔同士が互角である以上、最終的に勝敗を決めるのは“契約者による指揮能力”となる。

だからこそ、少女は男のその優位性そのものを無効化した。

 

暗闇で視認できなければ、指示を与えることは難しい。

こうして、この場は契約者の指揮がない完全な“悪魔同士の肉体勝負”となったのだ。

 

本来、男の指揮能力でこちらに傾いていた勝率が、五分五分にまでもっていかれた。

 

だが——それでも、この空間で光を取り戻す手段はあった。

 

赤髪の男が破壊出来ていない光源になりうる物を使い対抗すればいい――。

 

男は縛られている職員の腰から懐中電灯を引き抜こうとする。

 

——しかし。

 

光を灯した瞬間、何かが懐中電灯に向かって勢いよく飛んできた。

ぶつかってきたのは、ガムテープ。投げられた方向は少女の方。

 

懐中電灯を持った瞬間だったので、しっかり持っていたわけではない男の手から、懐中電灯がガムテープとぶつかり弾かれ、地に落ちた。

同時に、赤髪の悪魔がフルカスに対応しながら、こちらに駆け寄ってきて、鎌でその懐中電灯を即座に破壊する。

 

次の手を打とうと別の職員の元へ向おうとする——だが既に、もう一本の懐中電灯は赤髪の悪魔によって砕かれていた。

 

すべては、ほんの十数秒の出来事だった。

 

「面倒なことしてくれたねぇ、本当に」

 

思わずため息と共に、男はそう呟く。

 

「ありがとう。それ、賛辞の言葉として受け取っておくわ」

 

少女の声が、暗闇の中から凛として届く。

彼女はドアの前に立ち塞がり、光を取り込める可能性さえなくしている。

 

「随分、歪んだ解釈で受け取られたもんだ」

 

男は、暗闇の中でかすかに見える少女に目を向ける。

 

男の視線に気づいたのか、少女がわずかに身構える気配があった。

 

一か八かで、少女に立ち向かいドアを開放して光源を取り込むことも考える。

 

 そういえばポケットにタバコのためのライターもあったよな?と男は思う。

 

 それも光源となり得るだろう。

 

そういう考えに至り、自分のズボンのポケットをまさぐる。

 

 さぐって、ポケットにライターが無いことに気づいた。

 

……そういう事かよ。

 

 

「はぁ……、これじゃタバコも吸えやしねぇ」

 

そう言いながら、火のついていないタバコをくわえ、静かに腰を下ろす。

まるで戦意を放棄したかのように。

 

「あら、意外。今から私をどかしてドアを開けに来ると思ったのだけど……」

 

「やめだ、やめ。悪魔たちの決着を見届けさせてもらうよ」

 

男の意外な反応に、少女は困惑していた。

思っていた行動と違う行動をしたため、拍子抜されたのだろう。

 

ヒョウとやらがフルカスの能力を熟知していたように、今回の状況も知っていた可能性はある。

それなら少女は知らされなかったのかと疑問にも思ってしまうが、それとも——。

 

今となっては、どちらでもいい。

 

(俺とフルカスが交わした“契約の条件”が、今果たされようとしているのだから)

 

 

窓もない、完全な密室。

光が失われたその部屋には、ただ“息遣い”だけが残されている。

 

漆黒の空間。

頼れるのは気配、足音、衣擦れ、空気の揺らぎ——そして、わずかな闇の向こうの気配のみ。

 

ここに特殊能力は介在しない。

頼れるのは、身体に染みついた戦闘の勘。

シンプルで、だからこそ恐ろしい肉弾戦。

 

フルカスの斜めの切り上げ。

バティンの下段からの踏み込み。

暗闇に紛れながら、音を頼りに技が交差する。

 

「老人にはなぁ……若造より長年で培った経験ってもんがあるんだわい。そう簡単には負けんて」

 

長い無精髭を揺らしながら、俊敏に立ち回るフルカス。

その声に、どこか楽しげな色が混じる。

 

対するバティンも、自然と口元を緩めていた。

 

「でもよ、ジジィってのは、どこまでいってもジジィなんだよ。衰えってやつからは、逃げらんねぇだろ?」

 

 

敵味方、命を奪い合う場とは思えないほど、2人の掛け合いは緩く軽い。

 

そのやり取りの裏で、第二ラウンドが静かに幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

宝生 稔は呆気に取られた。

 

 

メッセージとともに送られてきた写真には、タクシーに乗り込もうとするバティン、星里さん、ヒョウの3人の姿が写っていたからだ。

 

そのうちの一人――ヒョウが、見覚えのあるバッグを背負っていた。

 

あのバッグは、明日、バビロン支部施設に向かうときに持っていく予定だったものだ。

 

……明日、のはずだ。

 

俺は慌ててカレンダーを確認する。予定は確かに明日。だが、写真は今日のものだ。

 

 

 

てことはつまり、俺だけが日程変更を知らされていなかった……ということだろうか。

 

その事実が、じわじわと胸の奥に広がっていく。

 

まるで、心の中にぽっかりと穴が空いたようだった。

 

知らされていなかった。

 

必要とされていなかった。

 

そのどれもが言葉にならない痛みとなって、胸を締めつける。

 

ヒョウたちは、いやヒョウは、俺がいなくても動ける。むしろ――いない方が動きやすいと判断されたのかもしれない。

 

 

初めてヒョウと出会ったときから、うすうす感じていた。彼女の強さと、自分の無力さ。俺を守ってくれるという契約内容に甘えて、彼女のお荷物にしかなっていなかった事に。

 

それがどうしても自分自身の中で憤りを覚える要因になっていた。

 

 

 だから、当然といえば……当然なのかもしれない……。

 

 

「……」

 

俺は必要とされていない。そう思った瞬間、全身から力が抜けてく。

 

椅子にもたれかかり、天井を見上げる。何も考えたくなかった。何も感じたくなかった。

 

「…………はは」

 

 

 乾いた笑いが出る。

 分かってた事じゃないか……俺。

 

 

「ご飯できたわよー」

 

そのとき、階下から母親の声が響いた。

 

普段夜遅くまで働いている母親と、こうして一緒に食卓を囲んで食べようとするのは久しぶりだった。

 

 重い足取りでリビングに降りると、母親が俺の顔を見て、少しだけ眉をひそめた。

 

「……なにか嫌なことでもあった?」

 

「別に」

 

 母さんが俺の様子の異変にすぐに気づいた事に素直に関心しつつも、母さんは何も悪くないのに、つっけんどんに返してしまう。

 本当に最低なやつだ俺は。

 

「嘘が下手ね……」

 

 おもわず母さんを見つめるが、柔らかい表情のままその表情を崩さない。

 

「……なんで、分かったんだよ。母さん」

 

 

 そういうと、母さんは大袈裟に肩をすくめる。

 

「何年あんたの母親やってると思うの。私のお腹の中にいる時からずっとよ」

 

「…………」

 

俺が口を噤んでいると、母さんはぽつりぽつりと話し始めた。

 

「……あんたさ、小さい頃、“自分っている必要ないのかな”って言ったことあるの、覚えてる?」

 

俺は記憶を辿るが思い出せない。そんなこと、言ったっけ……?

 

「小学校の時、友達とケンカして『稔くんが居なくたって楽しく遊べるもん』って言われたらしくてね。泣きながら帰ってきたのよ。あの時も、今みたいな顔をしてたよ。その時とすっごい重なるの」

 

 

俺は驚くことしか出来なかった。

俺が今悩んでいることと、重なるところがあったから。

それを母さんは見抜いたのだ。

母さんには敵わないと本気で思った。

それに今も昔も結局は俺が悩んでることは一緒なのかという事も。

 

母親は、少し笑って続けた。

 

「もしかして当たってたりする?……まぁ、いいや…………。」

 

しばらく俺を見つめて、俺が何も言わないのを察すると話を続けた。

 

 

「でもね、あんたがいなかったら、私はとっくに折れてたよ。女手一つで頑張れてなかった。仕事も、生活も、全部。あんたがいたから、私は頑張れた。あんたが私の原動力だったのよ。世界の誰もあんたを必要としてなかったとしても安心して。私は何があろうともあなたを必要としてる」

 

言葉が出なかった。

 

「そう言ってもすぐには、飲み込めないでしょうね……。こういう事って本当の意味で理解出来るようになるには、大人になってからだもの。……私もそうだったし。だから、若いうちはとにかく必要とされるように頑張るしかないのかもね。これに関してはとにかく必要とされたい人に必要とされるように一生懸命アピールする事が大切なのだと思う。」

 

母親は一呼吸おく。

 

「それを私は怠った。私はさ、あんたの父さんとすれ違い始めたとき、“きっとそのうち分かってくれる”って思って、何も言わなかった。その結果最初はそれほど目立たないヒビだったものの、徐々に取り返しのつかないヒビになって割れたの。今思えば私だけじゃなく、夫もそれを怠ってたように思う。……だから、あんたには言っておく。必要とされるためならどんな事も惜しまずにやりなさい」

 

母親は、俺の目をまっすぐ見て言った。

 

「……でも、相手が俺を必要としてないなら、俺が頑張っても……無駄じゃ」

 

 

「それなら、相手に思われるように行動するまでよ。結果的にそれが相手に不必要だと思わせる事なら試行錯誤しながら行動を続けるだけ」

 

「それ……相手にすごく迷惑かけてる気が……」

 

「それくらいでいいのよ。自己中心がいきすぎるのは良くないけど、それくらいなら可愛いもんよ」

 

 

 必要とされるよう行動しろ。

 

 この言葉が俺の心の中で反芻する。

 

 

 思えば、俺が日頃行っていた人助けも、この言葉から来ているかもしれない。さっき母さんが言っていた小学生のときの件で同じような事を、今日のように母親に言われたのかもしれない。

 

 そのことは覚えていなくても、体に無意識に染みついてたのだろうか。

 

 俺は首を横に振る。

 

そんなのは今はどうでもいいか。

俺はヒョウと契約したあの日から、生に対する強すぎる執着から解放され、変わったと思っていた。

だが、それほど変われていたわけじゃない。

 

……今から行動しても遅いかもしれないし、必要とされていない可能性の方が高い。ただの重りになりうる事もある。

 

 その時はその時で必要だと思われるようにまた考えればいい。

 

 

 

 

 

 だから今は――

 

 

 

 

「……母さん。今からで、本当に悪いんだけど車で送って欲しい所があるんだ。」

 

母親は、少し驚いたように目を見開いて、それから静かにうなずいた。

 

「いいわよ」

 

 

 それだけだった。

 何も聞かれることはなく、承諾してくれた。

 今はその配慮がありがたかった。

 

「……決めた」

 

 ―― 誰に何と言われようとも必要とされたい俺が、そうなるように好き勝手に動かさせてもらう。

 

 

それはそれとして、どんな理由であれ俺にだけ予定をづらしたこと伝えてないのは、気に食わない。この一件が落ち着いたら、どうせ言い出したのはヒョウだし、ヒョウに絶対ピーマン丼特盛食わす。

 

 

「今から行くからな、待ってろよヒョウ!」




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