【連載版】ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし戦う使い魔面してみた。   作:御花木 麗

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閉まっているだって……!?

 

僕がこの高校に入学して早くも二週間が経とうとしていた。授業も本格的に始まりだしたし、そろそろ原作ゲームのメインストーリーも始る頃だとは思うが、今はそれどころじゃ無かった。

 

「僕のオアシスが閉まっているだって……!?」

 

いくら開こうとしても開かないオアシスという名(僕が勝手にそう呼んでるだけ)の空き教室のドアに対し、僕はその場に崩れ落ちる事しか出来なかったのだから。

 

僕は入学してから今日に至るまで、ろくに友達を作る事が出来なかった。

 

今日のご主人以外の人との会話は、前からプリントが回って来た時に

 

『はい、どうぞ』

『ありがとう』

 

それぐらいである。本当に会話という会話すら出来ていない。

 

でも別に僕は人と会話するのが苦手とかそういうわけではない。普通に会話しようと思えば出来るし、前世ではそこそこ仲のいい友人は居た。

じゃあなんで、今世では友達すらろくに作れないかだって?

 

これはTS転生した事が想像以上に効いているのだと思う。

 

前世では僕は男だった。その時に僕の男の人格が形成された。その性自認は男のまま今世で女になってしまったもんだから、女子とは心の距離が出来てしまうし、かと言って男子とは気が合っても、女の子だという事で気を遣われて結果的に微妙に距離を置かれてしまう。

そんな感じにどっちつかずになって、僕は結局どっちとも仲を深める事が出来ないのだ。

 

僕のTS転生に限った話じゃないが、本当にそういうのは難しい。

 

それで言うとご主人は話していて、そんな距離を感じる事がないから、何処か新鮮だった。

ご主人とだけは、今日に至るまで楽しく絡んでこられた。

ご主人もそんな僕に対して、けだるそうにしながらも、なんだかんだ話とかに付き合ってくれる。

まぁ、……それは契約者と使い魔という一般的にあり得ないような関係性を擬似的に再現できているから、成立している関係なだけかもしれないけど。

 

 

話を戻すけど、そんなんだから入学してからずっとお弁当を食べるのもひとり。

ご主人は新しく出来た男友達と楽しそうに数人で囲んで食べているし、使い魔ごっこに勝手に付き合わせている以上、そんな所まで僕が学校生活を邪魔する訳にはいかないと思った。

ご主人はなんだかんだ、僕に学校で構ってくれはするが、お昼の時間くらい、よく分からない自称悪魔とお弁当を共にするより、気の合う友達とお弁当を食べたりしたいだろうし。

 

だからと言って教室で皆んなが数人でグループを作って昼食を取っている中で、僕が1人で食べるのは嫌だし、便所飯ってやつもやりたくない。

 

そんな中僕にとって、オアシスと言ってもおかしくない場所が見つかった。それは、人気のない所にある、現在は使われていない空き教室だった。ここの周辺には人もほぼ立ち寄らず、人目を気にせず1人で食べられるので、僕には絶好のスポットだった訳だ。

 

……それも昨日まで、

……なんとそんな僕の聖地に鍵がかかっていた。

 

「もう……終わりだ」

 

誰だよここを鍵閉めた人……。昨日まで開いてたのに……。

流石にお弁当をここで食べたいからここの教室の鍵を貸してくださいなんて、職員室に行って言えるわけもないし。

 

完全に詰んだ。

 

僕はそのままドアの前で地面にへたり込んだまま、放心する。

 

気づけば時計を見るともうあれから5分が経っていた。

 

昼休みも無限じゃないし、そろそろどうするかの決断をしなければ……。

弁当を食べないと言う選択肢もあるにはあったが、5時間目は体育なので、お腹は満たしときたかった。

僕は渋々教室に戻り、自分の席で1人、お弁当を食べる事にする。 

教室では皆んながそれぞれ、もう出来上がりつつあるグループで和気藹々と楽しそうに会話をしながら昼食をとっている。

……ご主人も男友達と食べられてやっぱり楽しそうだ。

 

 

そんな中、僕だけ1人でお弁当。

なんだか、やっぱりそんな空間で食べると孤立感が半端ない。

僕はお母さんの作ってくれたお弁当を頬張る。

……うん、どんな状況でもやっぱりお母さんの作ってくれたお弁当は美味しい。

とくにこの卵焼きは絶品だ。

ウチの卵焼きは砂糖が多めに入っているので、甘めなのが特徴なのだ。

 

僕が1人で卵焼きを噛み締めているとーーー

 

「超美味しそうに食べるのな。そんなに美味しいのか?それなら俺にも、卵焼き一個くれよ。俺の弁当からも好きなの取っていいからさ」

 

そう言ってご主人が目の前に現れた。

しかも椅子と食べかけの弁当を持って。

 

口に運ぼうとしていた箸が止まる。

 

「どうしたんだ?ヒョウ。そんな驚いた顔して」

 

「……なんでここに?」

 

「それはだって、俺の教室だし……そんな事が聞きたいわけじゃないだろうな……。

いつも昼休みになるとふらっと何処かに消えるあんたが、今日は珍しく教室で食べてるから、一緒に食べようと思ったんだけど」

 

「いや、でもさっきまでご主人、友達と食べてたし、そっちで食べてあげなよ。友達のためにも」

 

「良いんだよ、それは。ほら見たら分かる」

 

そう言ってご主人は先程までご主人がお弁当を食べていた、男友達のグループを指差す。

ご主人が居なくても会話で盛り上がりながら楽しそうに昼食をとっている。

 

「な?俺が居なくても全然大丈夫だろ?だから一緒に食べようぜ?」

 

ご主人は微笑む。

 

 

 

 

ーーーー僕はというと、目頭が熱くなるのが分かった。

 

なんでだろ。

 

「お、おい急にどうしたんだよ。泣きそうな顔して……。お前らしくないぞ」

 

やがて周囲のクラスメイトもその異変に気付いたのか、僕達の事をちらちらと見始めた。

泣きそうな僕とその正面にいるご主人という、明らかに僕に対してご主人が何か良くない事をした風にしか捉えられない絵図が完成してしまったのである。

僕はこの時、心の内に込み上げてくるものがあり、そんな事に気付ける心の余裕なんてこれっぽっちも無かったけど。

 

「ちょっとこれ……まずくないか」

 

それを察したご主人は僕の耳元に口を近づけて小声で言う。

 

「なんか、今変な注目浴びてるし、とりあえず一回教室を出るぞ」

 

僕は現在進行形で込み上げた気持ちでなにも考えられない状態だったので、言われるがままご主人について行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか……?」

 

「……うん」

 

僕達は自分達のクラスから離れた廊下で、窓を開けて佇んでいた。ご主人が外の新鮮な空気を吸ったら落ち着くだろうとの事。

それはその通りで、僕はだいぶ落ち着きを取り戻していた。

 

 

 

「……ありがとう、ご主人」

 

僕は開けた窓から、青い空を眺めてそう言う。

窓から吹き込む風が気持ちいい。

 

「何がだよ……。感謝される事は別に何もしてないけどな」

 

ご主人は、僕とは反対側の廊下側を向いて窓にねんかかりながら、そう返す。

 

しばらくの沈黙。

 

 

「……なんか、嬉しかったんだ僕」

 

「…嬉しいと思わせる様な事も、特段した記憶ないんだがな。

まぁでも、プラスな方で良かったよ。いきなり泣きそうになったあんたを見て俺、あんたに対して何かやらかしたのかと思って、本当にヒヤヒヤしたんだぞ。

心当たり無さすぎたから、自分の弁当の卵焼きを、食べられたく無さすぎて、涙目になったんじゃないかと本気で考えたくらいだ」

 

僕は窓の外を向いていた体をご主人の方に向けて、心配そうな顔を作って言う。

 

「……それは流石にないよ。可哀想なご主人、どこか頭でもうっちゃった?」

 

「……あ、あんたなぁ」

 

 

僕の頬が緩む。

なんだろう、この懐かしい感じ。

久しくしていなかった前世の友人との馴れ合いを思い出す。

 

それに、やっぱりご主人とは話していて距離を感じない。

……感じないが、使い魔ごっこ以外でこれ以上、ご主人に迷惑はかけないと思っていたのに、あっさりご主人に甘えそうになっている自分に嫌気が差す。

……だけど止められそうにない。

――――僕はそれと同時に使い魔として演じきってみせると決めた時からあった罪悪感が少し大きくなった気がした。

そんな罪悪感を少しでも紛らわしたい思ったのか、自分でも分からないけど、気づけば僕はある提案をご主人にしていた。

 

 

「ねぇ、ご主人さ。僕にさっきの事の恩返しを何かさせてよ」

 

 

「……急に何言ってんだ、恩返ししてもらうような事何もしてないんだが」

 

「まぁ、良いじゃないか。僕がしたいと思ったんだから、させてくれよ」

 

「ていっても、危ない時のための護衛を既に、してもらってるしな。それで今は十分なんだが」

 

「それはお礼でもなんでもなくて、使い魔としての契約内容をただ実行してるだけじゃないか。他に何かないのご主人。僕が悪魔だからと言って悪魔関係じゃなくても全然大丈夫だからさ」

 

ご主人は『んー』と唸り少し考えたかと思うと『あ』と声をあげる。

 

「そういや、俺の所のばあちゃんは体を満足に動かせなくてさ。

定期的に俺が行って家事の手伝いをしてるんだけど、今週の日曜に久々にばあちゃん家の大掃除をしようと思っているんだ。

俺だけでやっても問題はないけど、ばあちゃん家って昔ながらの家で結構広くてさ、ヒョウが手伝ってくれれば俺が1人でやるより早く終わるから、助かるが……本当にいいのか?」

 

「もちろんだよ……!僕が見違えるくらい綺麗にしてあげるさ!」

 

「なんかすっかり、調子が戻ったな…………そういえば、今何時だ?まぁまぁの時間、ここでこうしてるけど」

 

そう言われて僕はスマホを見る。

 

「やばいよ。ご主人、昼休みが終わるまであと10分もない!僕らまだお弁当食べ終わってないのに」

 

「ま、まじか。急いで教室に戻って弁当食べるぞ!いつも忙しいのに母さんが作ってくれる弁当なんだ、残す訳にはいかない」

 

「ご、ごめん、ご主人、僕のせいで」

 

「まぁ、気にすんな。俺もずっと喋ってたのもあるし……全部昼休み内に食べ終えれば丸く収まる」

 

 

 

 

僕らは教室に戻って、チャイムになる寸前でお弁当をどうにか食べ終えた。

 

最初にご主人が言ってた具材の交換が時間の関係で出来なかったのが惜しいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土曜日になった。

今日は、ご主人のおばあちゃんの家に行って、掃除を手伝う日である。

ご主人に僕が無理を言って、手伝わせてもらう事になったのだ。

現在、僕とご主人はご主人のおばあちゃんの家に向かうため、バスに乗っていた。

 

「ーーてかヒョウって兄ちゃんが居るのか」

 

「うん、8歳離れたお兄ちゃんで今は一人暮らしをしてるよ」

 

「……仲はいいのか?」

 

「んー、そうだなぁ、別に仲が悪かった訳じゃないと思うけど、互いにあまり会話をする方でも無かったかな」

 

バスの中にいる間、ご主人のおばあちゃんの話から始まり家族の事を互いに話していたのだが、僕が家族の話をするたびに複雑そうな顔をしていたので、不思議に思っていた。

だけど、そういえば僕は赤の他人である一家に記憶の改ざんを施し、僕の事を家族だと思わせるという畜生行為を行った事を、匂わせていたんだった。

設定だけど、これが本当だと思っているご主人からしたら、たとえ人体に悪影響がなくたってそりゃあ、あんな顔にもなってしまう。

 

僕は家族の話題から別の話題に変えて、ご主人と会話をする。

前々から思っていたけど、ご主人との会話で、なんだか既知感を感じる事が多い気がする。

ご主人の事について初めて知る事でも、「なんか聞いた事があるな」みたいな感じになるのだ。

謎だ。

 

 

まぁ、そんな謎はさっさと、迷宮入りさせて、ご主人とゲームの話などをした。

やっぱりゲームの事について身近に話せる人が今世では、今まで居なかったから、そういう存在がいるって素晴らしい。

 

しばらくするとご主人が言う。

 

「そろそろ降りるから、降りる準備をしといてくれ」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

そこは、山間部に位置した所で、バスを降りてしばらく歩いていると、草木が生い生い茂る自然豊かな場所だった。そんな中、周りに建物がなくなりポツンと建っている、そこそこ大きな古民家に辿り着く。

 

その古民家が目に入った瞬間、僕は目を見開く。

 

「あのご主人」

 

「ん?どうした?」

 

「も、もしかしてここが、ご主人のおばあちゃんの家だったりするかい?」

 

「そうだけど」

 

「……そうなんだ」

 

 

 

ーー僕はものすごく動揺していた。

 

実際に訪れたことはないはずなのに、この古民家にはとても見覚えがあったのだ。





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